民主党が衆院選圧勝、そして?

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8月30日の衆院選で民主党は自民党に対して歴史的な地滑り的大勝を収めました。自民党は1955年以来、いわゆる「55体制」と「鉄のトライアングル」による日本株式会社を構築し、政権を担当してきた政党です。(細川首相のときに一時中断しましたが、この政権は一年ともちませんでした。55体制は何も変わりませんでした。)

今回の選挙結果は日本の将来に長期的な影響を及ぼすでしょう。自民党の大敗はメディアが好んであちこちで報道するように、景気悪化、失業率の増加、「格差」の拡大などの責任を国民が自民党に問うた結果ではないと思います。むしろ、国民が「変化」をますます熱望するようになっていること、「55体制」の強い絆で結ばれた「当局」や「関係者」(例えば官僚主導省庁の閉ざされた強い権力、大企業、農家、土木関係、その他利益者集団など)から圧力を受ける自民党は「チェンジ」できないという認識の広がりの表れではないでしょうか?

私のこのような見解は外国の知日派の方々や日本国内で仕事をしてきた外国人の方々など、海外のオピニオンリーダーの見方と重なるように思います。9月7日、New York Timesに村上龍氏のOp-Ed、’Japan Comes of Age’ が掲載されましたが、これもまた日本国民が日本の現状をどのように認識しているかをよく表現しています。

また、例えばEconomistは9月5日版その他で‘The vote that changed Japan’ , ‘Lost in transition’, ‘New bosses’   ‘Banzai; A landslide victory for the DPJ Japan’ など、数ページの記事をいくつも掲載しています。他の外国メディアやプレスも同様な見解を発表しているようです。

Huffingtonpost はリベラルなon-line news とブログのサイトで, オバマ大統領もよく投稿していますが, 私の友人 Dr Sunil Chacko  (資料1)も常連の一人で, 今回の民主党圧勝について‘Japan’s New Era’ と題する記事を書いています。

作家、ジャーナリスト、そして知日派として有名なBill Emmott氏は私の友人ですが、2月にメールで、「先日偶然お目にかかった日の夜にThe Guardianのオンライン版に ‘A silver lining for Japan; The economic suffering here has been harsh and long, but at last political change is coming’ という簡単な記事を掲載しました」と教えてくれました。

その記事を読んだのですが、特に面白かったのは最後の部分(下線)、日本の民主主義に関わる一節で、私も日ごろからいろいろな場面で言ったり書いたりしていること (資料)と重なります。

以下、引用です。

‘It is a country, in other words, that is in desperate need of a change of government, and the election of a party dedicated to repairing broken social services as well as shaking up the economy. No doubt as and when the DPJ wins power, it will bring disappointments and its own occasionally shambolic ministers. No matter. The important thing in a democracy is to punish those who have failed and to bring in a new crowd capable of making new mistakes. Japan has waited far too long for that.

わが国は依然として世界第二の経済大国であることをお忘れなく。したがって ‘The Post-American World’においても日本は世界の諸問題に責任ある態度を取らなければならないし、またそうすることを期待されてもいるのです。実際、日本はグローバルな課題に貢献できる力を充分に持っているにも拘わらずその経済力に見合った積極的なアクションやコミットメントが充分ではありません。少なくとも私の目にはそう映りますね。

Asian Innovation Forum

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出井伸之さん は、グローバルに活躍するビジネスリーダーの一人です。わたしとは哲学も時代の認識も共有するところが多く、SONY会長を退任した後はご自分で新たな挑戦である投資ファンド「クオンタムリープ」(資料1)を立ち上げ、周りには素晴らしい若い人たちが集まり、新しいビジネス、起業支援などに力を入れています。ビジネス界の先輩として本当に素敵なことです。

多くの活動の一つとして、2007年にAsian Innovation Forum を立ち上げ、私も微力ながら参加、応援させていただいています。2007年の会は他の予定があって欠席しましたが、去年は参加。大きな盛り上がりを感じることが出きました。

今年は9月14、15日に東京で開催されることになりました。一橋大学経営大学院研究科長、ダボス会議などでよく知られている竹内弘高さんと私はシニアメンバーですが、出井さんのビジョンを共有しつつ、計画も議論も若いメンバーが中心で、なかなか楽しいのです。

私のこのサイトの中でも、「出井」、「竹内」で「Search」していただくと、いくつも「ヒット」します。

最近の日経新聞にも開催広告 が出ましたが、このようなネットワークから新しいビジネス、成長のエンジンが出て欲しいと心底から願っています。

「個」人力を磨き、世界への意識の高い、そしてどんどん広がるネットワークを築く、エネルギーに満ちた素晴らしい若い人たちがどんどん出始めていることを実感します。このような人たちの一人ひとりが、これからの日本にはとても大事だと考え、大いに応援したいのです。

アラブ首長国連邦の大学生たちの来日

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アラブ首長国連邦 (The United Arab Emirates; UAE)  は日本ととても強い関係があります。ドバイ 、アブダビなどがよく話題になります。このサイトの内部でもサーチしてみてください。私も2007年からご縁があって数回にわたって訪問しています。

特にドバイは、その急成長振りで世界中の話題になっていましたが、今は世界経済危機の影響もあって、しばらく様子見でしょうか。

首長国ではアブダビがもっとも大きく、そこが首長国石油の殆どの石油を産出します。ここの石油輸出量の50%は日本へ、日本の石油輸入の25%がアブダビからです。日本とは良い関係が構築されていますし、親日的なことでも知られています。

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写真; Khalifa大学の学生さん、慶応大学の先生、三菱重工の方、波多野大使と。白い服の方たちがUAE国籍の学生さんです。この服はKandura、というようです。

アブダビのKhalifa大学(理工系大学です)の学生さんが15人ほど、2回にわたって1週間ずつほど、来日しました。1回目は女子学生ばかりですが、2回目の男子学生さんたち。この後のグループとお会いする機会がありました。慶応大学や、つくばにある研究所の訪問などの行程で、ずいぶん充実した時間をすごしたようです。

若い人たちの交流は将来へ向かってとても大事なことです。皆さんがグローバル世界のパートナーとなる人たちですから。

学生さんは大部分が首長国連邦の方ですが、一部はSudan,  Palestine,  Lebanon,  Syriaなどからの人たちでした。

ドバイをハブ基地とするEmirates Airline  が有名ですが、来年から成田にアブダビの航空会社 Etihad が就航の予定です。

「製造業ガラパゴス化」からの脱出

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携帯電話を典型例として、ハイテクではあるが世界を目指さない、目指せない日本の製造業について“ガラパゴス化”という表現が使われるようになりました。

「ガラパゴス化」はどこが課題で、どう克服していくか?i-modeの生みの親、夏野剛さんたちが「超ガラパゴス研究会」というのを立ち上げました。私も応援団の一人として参加しています。「ガラパゴス」をどう越えていくのか、これが目的です。初回から熱い議論が行われました(参考12)。

日本の技術を“引きこもり”経営から、世界へ展開して欲しいのです。

夏野さんと言えば、歯に衣を着せない本物のEntrepreneur。“出る杭”、実力派、果敢にチャレンジ、失敗を乗り越える、世界が認めるリーダーの一人です。一緒にいてもとても気分がいい人です。こういう人たちを応援しなくては、と思います。

最近のインタビューをご紹介します。「フム、フム」と納得、わが意をえたり、というところですね。

ジャック・アタリの「21世紀の歴史」

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人類の歴史を振り返り、将来を予測する、これはいつも大事なことです。「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」、「Historia Majistra Vitae」 、洋の東西を問わず、同じ言葉が受け継がれています。「人間の知恵」です。このブログでも再三にわたって発信しているメッセージです(参考: 1234)。

前回はFareed Zakariaの著書を紹介しましたが、フランスを代表する現代の知性ともいわれるジャック・アタリによる「21世紀の歴史:未来の人間から見た世界」も大変面白い本です。これは長い歴史から学び取れる「21世紀を読み解くためのキーワード」を抽出し、そこから考察する21世紀の予測です。「歴史の法則、成功の掟は、未来にも通用する。これらを理解することで未来を占うことが可能になる・・・」、ということです。

邦訳に当たって、短いのですが「21世紀、はたして日本は生き残れるのか?」、また最後に「フランスは、21世紀の歴史を生き残れるか?」が追加されています。それにしても、私はフランス語を読めませんが、英語本と読み比べると、邦訳はずいぶんと量が増えるものですね。

この著書を話題に、NHKがジャック・アタリの2時間にもなるインタビューを放映しました。テレビでご覧になった方も大勢おられるかと思います。

この本は6章の構成です:
1.人類が市場を発明するまでの長い歴史
2.資本主義はいかなる歴史を作ってきたのか?
3.アメリカ帝国の終焉
4.帝国を超える「超帝国」の出現 -21世紀に押し寄せる第1波
5.戦争・紛争を超える「超紛争」の発生 -21世紀に押し寄せる第2波
6.民主主義を超える「超民主主義」の出現 -21世紀に押し寄せる第3波

2006年の発行ですが、「アメリカ、終焉の始まり」で、「アメリカの金融システムは増殖し、過剰となり、無制限に活動し始め、制御不能に陥った。このシステムは、産業に対して到底達成不能な資本収益性を要求し、産業を担う企業に対して企業活動に必要になる投資行為よりも、こうした企業が稼ぐマネーを金融市場に放出することをもとめた・・・」、そして「サラリーマンの債務もますます増加した。特に公営企業2社(アメリカ第2位の企業である連邦住宅抵当公庫Fannie Mae、アメリカ第5位の企業である連邦住宅貸付抵当金庫Freddie Mac) は4兆ドルの抵当権を所有ないし保証しており、その債務は10年間で4倍に膨れ上がった・・・」(p.128、129)。2007年夏に始まる金融パニックを起こしたように、ここで「サブプライム問題」を予告していたといえます。

また「中心都市」というコンセプトを提唱し、「これまで市場の秩序は、常に1つの「中心都市」と定めて組織され、そこには「クリエター階級」(海運業者、起業家、商人、技術者、金融業者)が集まり、新しさや発見に対する情熱に溢れていた。この「中心都市」は、経済危機や戦争が勃発することにより他の場所へ移動する。」(p.61)

数多くの「未来への教訓」が示されているが、ここでは、いくつかだけ示そう。例えば、
「知識の継承は進化のための条件である」(p.31)
「新たなコミュニケーション技術の確立は、社会を中央集権化すると思われがちだが、時の権力者には、情け容赦ない障害をもたらす」(p.77、脚注*1)
「専制的な国家は市場を作り出し、次に市場が民主主義を作り出す」(p.98)
「テクノロジーと性の関係は、市場の秩序の活力を構造化する」(p.111)
「多くの革新的な発明とは、公的資金によってまったく異なった研究に従事していた研究者による産物である」(p.120)

註1:いくつかの講演で「Incunabulum, Incunabula」というラテン語を使って、「フラット」な世界での「タテ社会」の脆弱性を指摘しています(参考 123)。

21世紀に現れるいくつかの現象には、サブタイトルが面白い。例えば;
「歴史を変える「ユビキタス・ノマド」の登場」
「地球環境の未来」
「時間 -残された唯一、.本当に希少なもの」
などなど。

そしてここから、第4章が始まる。これから起こるであろう第1波、第2波、第3波。じつに面白いというか、恐ろしいというか、かなり現実となるような予感がします。今もそれらの兆候は見えています。

この本を読んで思い浮かべたのは、J. ダイアモンドの「文明崩壊」でした。

ぜひ、これらの本も「The Post-American World」などとも併せて、読んでみてください。

アメリカ後の世界、The Post-American World

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Fareed Zakaria(1964年生まれ)は新進気鋭な世界でもっとも活躍している“旬”なジャーナリストで、Newsweek International Editionの編集者です。ご自身のサイトもあります。

2008年に「Post-American World」という本を出版。とても興味深く読める、示唆に富む内容の本です。素晴らしい洞察と筆力、広い視野と見識。皆さんに、特に若い人たちにも広く読んで欲しい本の1つです。

章の構成は;
1. 「アメリカ以外のすべての国」の台頭
2. 地球規模の権力シフトが始まった
3. 「非西洋」と「西洋」が混じり合う新しい世界
4. 中国は「非対称な超大国」の道をゆく
5. 民主主義という宿命を背負うインド
6. アメリカはこのまま没落するのか
7. アメリカは自らをグローバル化できるか

彼がインド出身で、18歳までインドで育ったという背景もあり、アメリカと中国を中心とする大きな政治経済という見方ばかりでなく、これからの大国インドの中長期的な視点と課題などを盛り込んだ、大変興味深く、また他の同類のテーマの書籍とは少し違った見方を与えています。

「アメリカ後の世界」というのは、アメリカ一極ではなく、“その他の台頭”ということです。特に中国とインドは、大きな問題を抱えていますが、その人口からも大きく成長し、世界で大きな意味を持つことになるでしょう。その辺りの視点がなかなかのものです。

彼はインドに生まれ、イスラム教徒の家庭で育ちます。小中高教育をムンバイの名門校で学び、Yale Universityに留学。さらに、Harvard大学において政治学でPhDを取得。27歳という若さで「Foreign Affairs」(Council of Foreign Affairsの出版物)の編集長へ大抜擢され、2000年から現職のNewsweekの編集者となりました。

「アメリカは“大きな島国”だ」という彼の認識は、講演などで度々話している私の主張とも合致しています。彼は第2章の最後で次のように書いています。(p. 69-71)

「アメリカの政治家は見境もなく他国のあら探しをしては要求を突きつけ、レッテルを貼り、制裁を加え、非難を浴びせかける。過去15年間に、アメリカは世界人口の半数に対して制裁を発動してきた。世界中の国々のふるまいに毎年毎年、通信簿をつけている国は、アメリカ以外に存在しない。ワシントンDCは独善によって足もとがふらつき、外の世界から浮いた場所になってしまった。」

「2007年度のPew Research Center(アメリカの独立したシンクタンクの一つ=脚注)による世界動態調査によれば、自由貿易、市場開放、民主主義を支持する人々の割合は、世界各地で驚くほど増加した。中国、ドイツ、バングラデッシュ、ナイジェリアなどの国々では、各国間の通商関係が深まるのは好ましいことである、大多数の国民が回答している。調査対象となった47ヵ国のうち自由貿易への支持率が最も低かったのは、何を隠そうアメリカだ。調査が行われた5年間で、その支持率の落ち込み幅が最も大きかったのも、やはりアメリカだ。」

「続いて外国企業に対する態度を見てみよう。ブラジル、ナイジェリア、インド、バングラデシュなどの国々では、外国企業に良い印象があるかとの問いに、大多数の国民が「はい」と答えている。歴史的に見ると、これらの国々は総じて西洋の国際企業に不信感を持ってきた(背景には、南アジアの植民地化がイギリスの1企業、<イギリス東インド会社>によって始められたという事実がある)。しかし現在では、インド国民の75パーセント、バングラデシュ国民の75パーセント、ブラジル国民の70パーセント、ナイジェリア国民の82パーセントが、外国企業に好感を示している。対するアメリカ国民はといえば45パーセント。これは世界の下位5ヵ国に入る数字だ。アメリカ人は、世界じゅうでアメリカ企業が大歓迎されてほしいと望む一方、自国に外国企業が入り込むと、まったく逆の反応を示す。」

「このような矛盾がよりはっきり表れているのが、移民への態度だ。移民問題で世界の手本だったアメリカは、これまでの自国の歩みに逆行し、怒りと萎縮と防御の姿勢をとるようになってしまった。また、かつてのアメリカ人はあらゆる最先端技術の開拓者であろうとしてきたが、今では技術革新からもたらされる変化に戦々恐々としているのだ。」

「皮肉にも、「その他の台頭」を招いたのは、アメリカの理念と行動だった。60年間にわたり、アメリカの政治家と外交官は世界中を訪問して回り、市場の開放や、政治の民主化や、貿易と科学技術の振興を迫ってきた。遠く離れた国々にも、グローバル経済下での競争、通貨の規制撤廃、新しい産業の振興など、さまざまな難題に挑むよう煽りたて、変化を恐れるな、成功の秘訣を学べ、とアドバイスを送りつづけた。この努力は実を結び、世界の人々は資本主義にすっかり適応した。」

「しかし、今日のアメリカ人は、自分たちでさんざん奨励してきたものに疑念を抱くようになっている。この態度の豹変は、ものや人の流れがアメリカへ向きだしてから起こった。つまり、世界が門戸を開いているさなかに、アメリカは門戸を閉ざし始めたわけだ。」

「後世の歴史家たちは、これからの数十年間を、次のように記述するだろう。21世紀初頭、アメリカは世界のグローバル化という歴史的偉業を成し遂げたが、その過程で自国のグローバル化をし忘れたのだ」

脚注:最近では、日本が深くかかわっている国際捕鯨問題の調査も支援し、その会合の一部に私も参加しました。今年の4月にはAsia Societyと共同で「A Roadmap for US-China Coorperation on Energy and Climate Change」を発表。

また、Zakariaは米国の成長産業は「大学教育」と指摘しています。自分の受けてきた教育も「アジア式」であり、「暗記と頻繁な試験を重視するのである・・・毎日大量の知識を頭に詰め込み、試験の前には一夜漬けで暗記をし、翌日にはすっかり忘れさるということを繰り返していた。」

「だが、留学先のアメリカの大学は別世界だった・・・正確性と暗記は殆ど要求されず、人生での成功に必要なこと、すなわち精神機能の開発に重点がおかれていた。他国の制度が試験のための教育を行うのに対し、アメリカの制度は考えるための教育を行うのだ。」(p. 254)

「シンガポールの教育相が自国とアメリカの教育制度の違いを説明してくれる。「両国はともに実力主義を採用している。そちらは才能重視型の実力主義、子こちらは試験重視型の実力主義だ。われわれは生徒に高得点をとらせるノウハウを持っている。アメリカは生徒の才能を開花させるノウハウを持っている。それぞれに長所はあるが、知力には試験で測れない部分が存在する。創造性、興味、冒険心、大志などだ。なによりもアメリカには学びの文化がある。これは伝統的な知恵に、ひいては権威に挑戦することを意味する・・・」(p. 254, 255)

Zakariaさんが若くして世界のオピニオンリーダーの一人となり、羽ばたくことができたのも、アメリカで受けた大学教育の影響が大きいのです。説得力のある議論だと思います。しっかり、日本の大学教育と比べて考えてみてください。

もっとも彼は、「このようなアメリカの優位性は、簡単に消え去ることはないだろう。なぜなら、ヨーロッパと日本の大学―大多数は官僚主義的な国立大学―が構造改革を行う可能性は低いからだ。」と書いています。そしてさらに「インドと中国は大学の新設を進めているが、20~30年で世界レベルの大学を1から作り上げるのは簡単ではない。」(p. 252)と指摘しています。

ケインズとシュンペーター

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ウォール街に端を発するリーマンショック(2008年9月)から、世界的規模の金融危機、経済の低迷が続いています。各国で公的な支援策が取られ、広い意味で政策競争の様相を呈しています。

そこで出てくるのがケインズ、そして、“イノベーション”を経済学の中心に据えたシュンペーターです。シュンペーターは強烈なケインズの批判者であったそうです。この一見“矛盾”する2人の経済学が、なぜ両方とも必要なのでしょうか?

この20世紀前半の2人の経済学の巨人について書かれた本が出ています。経済学者吉川 洋先生著の、「いまこそ、ケインズとシュンペーターに学べ」です。これは、とても面白いです。吉川先生らしく、きちんと検証が行われ、内容も面白い、経済学者向けに書かれているわけではないので、私でも結構理解できるのです。

このケインズとシュンペーターの2人の巨人は、同じ1883年に4ヶ月ほどの違いでそれぞれ大英帝国のケンブリッジとオーストリア(ハンガリー帝国 モラヴィア・・・今のチェコ東部)のウィーンに生まれ、死ぬのも4年程度の違っただけです(ケインズがブレトンウッズの翌々年1946年、シュンペーターが1950年になくなっています。これについては、谷口智彦さんの「通貨燃ゆ」が面白いです)。それぞれの時代と場所、生まれ育った背景、教育や先生との関係などについてもよく理解できます。

今の日本にとっても、政策的にもなかなか示唆に富む、内容のある読み物です。

特に面白いと思った箇所はいくつもありましたが、例をいくつか:

1.「・・・企業者(脚註)が新結合を行う動機はいったいなんだろうか、彼らは決して経済的利得、金銭を求めて新結合を遂行するのではない。そうシュンペーターは断言する・・・それどころか、「もしこのような願望が現れたとすれば、それは従来の活動線上の停滞ではなく彼の減衰であり、自己の使命の履行ではなく肉体的死滅の徴候である」とすら言っている。・・・企業者の人間類型につきシュンペーターは明確に語っている・・・」(p.56, 57)

脚註:この「企業者」と「起業家」について吉川先生に電話で問い合わせてみたところ、経済学的には「企業者」であって「起業者」とは言わないそうなのです。でも、一般的に読者にとって「起業家」のほうが適切かもしれませんね、とのことでした。以下の「企業者、企業家」については「起業家」と考えて結構です。

2.「シュンペーターの言う企業家、すなわちイノベーションの担い手としてまさに資本主義を資本主義たらしめる主人公は、誰にも備わっているわけではない特別の能力に恵まれた人間だ。「能力」といったが、イノベーションはけっして冷静な計算のみによって生み出されるものではない。むしろイノベーションを起こさないではいられない一種の衝動を持った企業家のみがそれを生み出しうるのである。
ここで想起されるのは哲学者フリードリッヒ・ニーチェ(1844-1900)の処女作「悲劇の誕生(1872年)」だ。古典古代におけるギリシャ悲劇の変遷をニーチェは「アポロン的なもの」と「デイオニュソス的なもの」という二つの対立する概念を用いて論じた。太陽神アポロンはその光によってすべてのものに明確な形をあたえる。理知・理性はアポロン的なものである。一方、酒の神デイオニュソスの本質は陶酔である。シュンペーターの考える「企業家精神」は、ケインズの「アニマル・スピリッツ Animal spirits」と同じように明らかにデイオニュソス的なものだ。」(p.227, 228)

さらに経済と人口減少について、

3.「ケインズはケインズらしく、人口減少と経済の関係についていかにも経済学者然として論じた。これに対してシュンペーターが残した言葉は、はるかに「文明論的」である。」(p.210)

そして、

4.「しかしやがて生身の人間としての企業家自身が、資本主義の発展に伴い自らの「効用」を最大化する「普通の人」に変質してしまう。個人の効用最大化はどのような帰結をもたらすか。子供を生み育てるコストを冷静に計算し始めたとたんに少子化が始まる。シュンペーターは、企業家精神の衰えを示す兆候として少子化の進展を挙げるのである。」(p.229-230)

この2人の巨人は、お互いをどう認識していたのか?これも大変に面白い人間のドラマなのです。

皆さんも、ぜひ読んでみることをお勧めします。温故知新です。

また最近、George A. AkerlofとRobert J. Shillerによる“Animal Spirits: How Human Psychology Drives the Economy, and Why It Matters for Global Capitalism”が出版されました。

この本を読んで、この半年に渡る我が国の政策に対する感想ですが、

スピードも大事ですが、「100年に一度」(グリーンスパン元FRB議長)などといって、検証もせず、いい加減な公的資金の投入では困ります。政局がらみであることもありますが、補正予算などをみていると、ばら撒きに近く、縦割り予算になっている。政治、産業、大学、そして科学者も、リーダーシップにかけると思います。

本当かどうかは別として、「100年に一度」というのであれば、数年先からの大転換を明示したビジョンと政策の導入をしなければなりません。これがないのですね。このブログやいろんなところで繰り返し発言し、指摘しているところですが。(参考: 123456

産業構造もこのままでいいのでしょうか?今の産業界に“イノベーター”が出てくるのか?

社会のどこにでも必要なのは“イノベーター”。つまりは「出る杭」、「進取の気性に溢れる人たち」です。この様な人たちが極めて大事なのです。

素敵な計画「Grameen Change Makers Program」

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早稲田大学2年生の3人とそのお仲間達が、去年の暮に訪ねてきました。彼らはバングラデッシュを訪問し、その状況に愕然として、「自分たちで何かできないか、そこから日本を変えたい。僕たちはやりますよ!」と。

彼らは、再度バングラデッシュを訪れて、多くの人たちと知り合い、1人は1年間大学を休学して現地で活動を始めました。この1人とは都合で会えなかったのですが、残りの2人が報告を兼ねて来訪されました(彼等のblogはこちら。写真つきで熱い内容です)。

いろいろと計画を進めていますが、その一つが「Grameen Change Makers Program」です。素晴らしい行動力、構想力、実行力です。現地の体験からの発想と、日本への思いがよく出ている計画です。一橋大学の米倉誠一郎先生にもずいぶんアドバイスを頂いているようです。

ここでのポイントは、「現地での体験が大事」ということです。ここから自分の中にある何かに気がつくのです。それでないと現地に意味のある貢献ができないのです。前に書いたコラムでも指摘したところです。

また、大学を1年休学するということも、とても素敵なことです。私は、多くの学生に、学部生の時に1年間の休学したり、交換留学をすることなどを勧めています。大学も休学する学生からお金を取ることもないでしょうが、むしろ大学も、国も、少々の応援資金を出すぐらいのことを考える時だと思います。企業が奨学金を出すのもいいことだと思います。このような若者の交流こそが、日本の将来を作る人材育成には欠かせない、決定的に大事なことです。

この「Grameen Change Makers Program」へ多くの若者の参加と、皆さんの応援をお願いします。大学も、企業も。

もっともっとこのような活動を広げることにこそ、日本の未来がかかっているのです。

Stanford大学と日本起業研究

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昨年からStanford大学とStanford Project on Japanese Entrepreneurship (STAJE)という共同研究が行われています。“MOT”で著名な元副学長のWilliam Miller先生たちとはじめたのですが、5月29日に東京大学で公開の発表会がありました。

Dr. Millerと私は挨拶で参加。Miller先生は80歳とちょっとですが、まだまだ現役。また一つ会社を始めたそうです。東大の各務茂夫教授とStanford大学のRobert Eberhartさんが幹事でした。

私は、とにかく開国とイノベーションを催促する黒船“eco-platform”が来ている。つまり、先週はTEDxTokyo、そして来週にはTiEのTokyo Officeが開設されることを話しました。

雨の降る天気でしたが、250名ほどが参加し、皆さん熱心に議論されたようです。途中で退席をしていたので、後で聞いたことですが。この会議の様子はForbesで紹介されています。

日本、そしてSilicon Valleyの良いところを論じているのですが、いずれ報告書が出ると思います。日本には多くの可能性があるのです。しかし、大事なことは実行です。“Think Locally, Act Globally”ですが。工夫しながら、いくつかのパートナーと仕込みたいと考えています。

好機を捉える、大変革のとき。しかし、リーダーはどこに?

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日本の状況はすこぶるよろしくありません。もちろん世界中がよろしくない状況です。変革を起こし、政治、産業、経済、教育等々、将来の展望を皆が模索しているところです。

私の国家ビジョンについては、今年の始めから繰り返し発信していますが、4月25日発売の週刊ダイヤモンドにも「クリーンエネルギー技術を、中国・インドに売り込め!」というインタビュー記事が掲載されました。相変わらず、変われない理由、できない理由を言う人たちばかり。政治家も、産業界でも、リーダーたるものしっかりして欲しいものです。

民主党の党首が鳩山さんになりました。政治はどう動くでしょうか?

日本では公的資金の“投売り的”な補正予算の話ばかりで、もっぱらこれが政局がらみになっています。既得権グループへの“ばら撒き”の様相、または省庁の“つかみ取り”の様相です。将来への展望、ビジョンが示されず、せっかくの大転換のチャンスを捉えていないのです。誰かさんたちの無責任な大笑いが聞こえてきます。

科学技術政策も同じです。降って沸いたような3,000億円の大型補正予算ですが、これを何にどう使うのか?皆さんも良く見ておいてください。オバマ大統領の科学政策とはずいぶん違います。

若者に投資しない国に将来はありません。グローバル時代へ向かう若者たちには、広い世界を見せ、体験させることが大事なのです。若者たちこそが将来の財産なのですから。