所 真理雄教授のコース、英語のメール

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8月24日のpostingでご紹介したSONY CSL所 真理雄さんですが、慶応大学の教授 (もともとそこからSONY CSLへ移ったのですが)もされていて、「イノベーション」のコースを理工系の大学院生を対象に提供しています。

お招きを受けて慶応大学の矢上キャンパスに講義に行きました。学生さん(修士課程、博士課程)は120 人ほどでしょうか、皆熱心で、質問の受け答えなどなど、大変に楽しい90分ほどを過ごしました。

終わりに、いつものことですが、Apple、iTune、iPod、iPhoneなどを作り出したSteve Jobs  の2005年のStanford大学での卒業式の14分のスピーチを見る、理解する、そして、私のサイトから、私にメールで、自分が何を感じたか、考えたか、を知らせるよう伝えました。

その日の夜には4つのメールが来ました。皆に返事を出しました。ところがそれ以後パッタリとメールが来ないのです。

3,4日待った後、ちっともメールが来ないので所さんに電話して、このことを話しました。所さんは「たぶん、黒川さんがそんなことを言っても学生さんは本気にしなかったのでしょうね」というので、「遠慮しないでメールをくれるように、と伝えてください」とお願いしました。数日たって、2日で50通ほどのメールがドドドッと来ました。いくつものメールは英語でした。

2晩ほどかけて、メールを読み、私のそれなりの返事を全員に送り、その旨を所さんにお伝えしました。一部のメールは面白いので所さんにもCCで送りました。半分徹夜の2晩でした。実にいろいろな意見、講義への反応など、とても私にもためになりますし、意見の交換は、また楽しいのです。

1週間ほどして一人の学生さんからメールで、「所先生からがおっしゃったのですが、黒川さんは全員のメールに返事した、ということですね。でも私は受け取っていません」とメールが来ました。あわてて調べてみると、確かにありましたね、返事をしてなかったのが1つだけ。結構の長さで、しっかりしたものでした。私の見過ごしを謝る事から始まる返事をしました。

ところで、いつものことですが、私のメールは殆ど英語です。日本語のメールにも英語で返事するのです。所さんが私を紹介するときに、「黒川さんのメールはいつも英語だよ」と紹介してくれたので、英語でトライした学生も結構多かったです。

ところで、私はなぜメールで英語を使うのか。決してキザでもなんでもないのです。主として4つの理由です。大体、私はblind touchではありませんし、タイプは早くないのです

1.日本語で返事を書くのは、文字変換等に時間がかかること。
2.単語、フレーズでも一つのキーの打ち間違えで、そこを全部やりなおしたり、時間がかかる。
3.英語だと、ちょっとしたスペルの間違いなどあっても、結構、意味が通じるので、キーの打ち間違いをそれほど気にしなくていい。
4.それから、これがもっとも大事なのですが、言葉は文化の背景がありますから、日本語だと、社会の地位などの「タテ」関係で、趣旨に入る前に、結構ながながと挨拶など、「ご無沙汰しておりますが、、、、」等々、かなり丁寧に書かなければならない、ということなのです。したがって、何が趣旨なのか時々よく分からないこともあります。英語では、それなりに丁寧な使い方もあるでしょうが、基本的に個人レベルの関係が「対等」ですから、ストレートに用件に入ってもあまり失礼にならないのでポイントがすぐに分かるのです。特に日本のようなタテ社会では、上下関係、師弟関係等もありますし、私と学生さんをはじめとして、私にしてみれば、私より若い人たちとの交流が大部分ですから、この方があちらも気を使わないでもいいと思うからです。でも、皆さん結構、英語で書くのが苦手のようですね。慣れてしまうことです。

メールに英語を使うと、スペル間違いなどあまり気にしないで、要点をすっきり書けるところに利点があるのです。そして、英語では表現がツイツイ直接的になりがちですね。これはそれなりに、注意する必要のあるときもあります。

天才・異才が飛び出すソニーの不思議な研究所

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これは最近の本のタイトルです。

著者は「所 真理雄、由利伸子」、本の帯(オビ)には「北野宏明  、茂木健一郎高安秀樹暦本純一 らを生んだ「夢のラボ」の秘密、ソニーコンピュータサイエンス研究所」とあります。ここにある「名前をどこかで聞いたことのあるのではないだろうか?」

「北野宏明は、、、ペット犬AIBOの生みの親の一人、、、生物学の新しい領域「システムバイオロジー」を切り拓き、その第一人者、、、茂木健一郎は、「クオリア」、「アハ体験」といった脳の働き、、、斬新な視点と鋭い考察が、もじゃもじゃの髪、おっとりとした童顔、、、出版、テレビ、ゲームと、メデイアの寵児、、、高安秀樹は、、、「フラクタル」はベストセラーに、、、「経済物理学」を起こし、現在この分野の研究は世界に広がっている。暦本純一は、、、実世界とネット世界を自然に融合させる技術を次々と開発し、、、この4人は皆同じ研究所の仲間で、、、(第1章から p. 11)」

これは「ソニーコンピュータサイエンス研究所(SONY CSL)」の生い立ちから今までの20年を、その創設からかかわり、天才、鬼才を輩出した所 真理雄さんを書いた物語です。所さんはご本人も「鬼才、変人」、だけど優れたマネジャー、素敵な方です。「変人」は子供のときからのようで、「トコロ・ヘンジン・マリオプス」といわれていたとか (第1章から p. 78)。

時代を変えるいくつもの新しい分野を開拓し、世界に新しいコンセプトを提示する、これだけの数の「変人」を輩出するこの研究所SONY CSLは、スタッフを入れても30数人という小さな組織。これら5人のほかにもユニークな人たちがいろいろ出ている。

所さん、北野さんとはこの数年いろいろとお付き合い (資料) があります。いつも楽しいけれど真面目な話ですが。お二人を含めて、素晴らしい可能性を持った若者がたくさんいること、それを伸ばす「場」の設定が大事であること、事の本質を見つけ、本物の価値創造と発見の楽しさと厳しさを感じ取ることができる等々、物語が素晴らしく、とても素敵な本です。所さんの科学への哲学とマネージメントの優れているところでしょう。共著の由利さんの物語りと物書きぶり手腕はたいしたものです。

本の章立ては;
1. 一日で書き上げたドラフトから始まった
2. コンピュータサイエンスの最前線をいく
3. 研究マネージメントの真髄とは
4. コンピュータサイエンスからの脱却
5. より広く、より深く
6. 私にとってのソニーCSL
7. 科学の未来とソニーCSL

2章; 「所はいう。「僕の仕事は二つしかない。一つは研究所の向かう方向を決めること。もう一つは人材のマネージメント。ここに合う人を採ること、ここを卒業する人の手助けをすること、そしてここに合わない人には辞めてもらうこと」。」(p.62)

3章; 「何もまして評価されるのは、新しい学術分野を作ること、新しい文化を作ること。これができれば、ソニーのブランド価値を飛躍的に向上させることはもちろんのこと、人類への貢献という意味でも計り知れない」。(p.75)

「所真理雄のマネージメントは「日本標準」からはっきり外れていた、、、「なんと無茶な」と言われることがしばしば、、、だが、「その無茶も長年蓄積してくると黒光りしている、まったくユニークな研究所に仕上げたものだ。こんなことは民間だからできた?いや民間じゃ無理だ、よくやった」。」

「所の素直さ、ストレートさについては定評がある、、、担当した編集者、、にも、「所さんは直球一本」といわれたという。」

4-6章では、所さんと北野さんをはじめとする研究者とのいきさつ、出会い、考え方等々、実に興味深い。皆さん事の本質を見ている。若い研究者、いや研究者でなくともそれぞれの「生き様」の問題として、ぜひ皆さんにもこの本を読んで欲しいところだ。

北野さんは言う、「一見かけ離れた分野間のシナジーは、各々の分野の根幹の概念を理解しないと進まない。しかし、その幅広さが、新しい領域や深い自然理解へと達する唯一の方法だと着たのは思っている、、、「コンピュータの発達で、多くの要素の係わり合いからなる複雑なシステムをいろいろと扱えるようになった。その結果、情報科学、バイオ、社会学、経済学といった分野の壁を越え、横に貫くような視点や方法論が浮かび上がってきて、新しい学問体系が開けつつある」という北野の言葉が、この後に続く七人(脚注1)の研究から実感されるだろう。」(p.119-120)

脚注1; 暦本純一Luc Steels高安秀樹茂木健一郎桜田一洋Franc NielsenFrancois Pachet

陰で支えるスタッフの2人の女性の意見として、「研究員の発表には参加している、、、発想の仕方や着眼点に、すごいと思うことがたびたびある」、「研究者の言葉の端々から、、、刺激を受ける」、「研究員たちは、皆、穏やかで優しい、、、会社や日常の常識にとらわれない面は多々あるが、研究以外のことに対しては本質的にやさしい」と。(p.226-227)

所さんの哲学には、可能性をもつとんでもない「変人」を見つけ、思い切って伸ばしてみる「場」を造ることにあると思う。これは所さんが、若いとき英米でもいくつかの研究所ですごし、一流の人たちの中にいたことにも関係しているように思える。だからこそ、この研究所SONY CSLは「、、、フレッシュPhD、、、新米の研究者でも自分と同等だとして扱い、フェアでオープンだが、手加減もしない、、、こういう雰囲気は、、、一切のごまかしや、なあなあの無い、非常にピュアな精神の表れでもある、、、」、「、、どんな権威のある先生の前でも、その先生に何を言われようとも、ソニーCSLのメンバーは怯まない」といわせる。(p.216-217)

7章で、所さんはこれからの課題へのあり方として「オープンシステムサイエンス」 を考え、今年初めに同じタイトルの本 を20周年記念として出版している。

とにかく、研究に興味がある、何か面白いことに興味がある方たち、そして学生、大学院などの若者たちには、ぜひ読んでもらいたい一冊です。

そして、私がこのサイトでも繰り返し指摘(このサイトで「変人」「出る杭」「常識」「非常識」などで「Search」してください)していることですが、時代の「変人」、「出る杭」、「非常識」こそ、フロンテイアを開拓し、新しい価値を創造し、世界を変えるのです。この本で紹介される何人もの研究者の物語からも、このことを改めて確信しました。

沖縄へ、アジア青年の家、インフルエンザ、そして沖縄科学技術大学院

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8月20日、沖縄に来ました。

去年に始まった「アジア青年の家」(資料1)へ参加です。去年も報告しましたが、アジアと日本の若者たちが、沖縄で約3週間、一緒に過ごそうという計画です。今年の参加者は海外から35人(15カ国)、日本は42人(そのうち沖縄から14人)です。15、16歳が中心です。こういう交流プログラムをもっともっと広げて欲しいです。若いときの同世代との交流の実体験こそが、未来への広い視野をつくり、友人の輪を広げる。特にグロ-バル時代には、人材育成への大事な要件 (資料1)という認識で世界も動いています。

去年、Tutorとして参加してくれたアジア太平洋大学の学生も6人が参加、また琉球大学、沖縄大学の学生さんも参加してくれました。

ところが、沖縄はインフルエンザが急増し、3人の死亡者が出たところでしたので、現地についてみると、はたして発熱で休んでいる参加者もいました。「グローバル時代とイノベーション」が私のテーマでした。今年のプログラムには「水」をテーマにしたセッションが複数あり、参加者たちがグループ別に「水」問題についてそれぞれが違った視点で議論したようです。そこで、まず各グループが「水」についてどんなテーマを取り上げたのかを聞き、「水」を中心に対話形式で討論しました。

皆さん、元気でいいですね、楽しいです。全体のプログラムも盛りだくさんで、セミナー、島への移動、シュノーケリング、ホームステイ等など、もう少しゆとりがあったほうがいいようです。この年頃の若者たちの面倒を見るのは大変でしょうけどね。

去年参加のAPUのAnanda Ivannanto君、(彼は発熱で、私のセミナーには参加できず、残念)などの大学生たちが、自主的にウェッブサイトやFaceBookなどのNetworkを作成したりしているので、このような活動をさらに広げるよう応援したいです。

去年も報告しましたが、日本の参加者は男子生徒と女子生徒 の比が、またまた「1:2」でした。男子生徒の参加希望者が少ないのです。なぜでしょうね。

翌日は、沖縄科学技術研究大学の建築現場へ行きました。立派な建物が立ち上がりつつあり、これからが楽しみです、勿論いろいろ難題はあるでしょうけど。

グローバル時代への教育改革者

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リーマンショックの後、当初の国内の予測と違って、鉄のトライアングルが始まった「55体制」が行きづまったからなのか、日本の経済の調子が予測以上に悪く、産業構造の脆弱さが表面化しています。こうなると定番ですが、「“坂の上の雲”的」な明治人の活躍を懐かしむような「リーダー論」が出てきます、ずいぶん状況も見当も違うと思うのですが。

世界の変化は日本を待ってくれるわけではありません。5、10、20年先のことを考えれば、将来を担う人材の育成こそが国家政策の根幹であることは明白です。このサイト内で「人材育成、人づくり」などで「Search」してください、数多く出てきます。

日本では教育に対する国の予算は先進国で際立って少ないのです。今回の衆議院選挙になって、マニフェストでようやく「子供、教育」などへの予算が出てくる有様です。

しかし、従来の教育予算の増強は大事ですが、グローバル時代をよく見据えながら新しい、将来へ対応する多用な人材を輩出する思い切った施策こそが大事です。このような変革が、大学レベルにさえもあまりにも小さく、オズオズといった感じであるところがわが国の現状でしょう。このことについても、このサイトで何回も指摘(資料)しているところですし、いくつかの思い切った試みはありますが主流になるにはほど遠いというところです。アジア太平洋大学、秋田にある国際教養大学などの活動は国内でさえ殆ど知られていません。一橋大学大学院国際経営戦略コース は世界へ開かれた、世界でも評価の高い画期的なプログラム です。

ところで、多くの英米の大学での改革、さらにネットなどの情報技術を使った教育手法にもまったく新しい可能性が模索され、実践が進んでいます。その点で、先日ご紹介したMITのOpenCourseWare の開発にかかわったMiyagawa宮川さん、新しい可能性を探っている、最近Carnegie Foundation からMITへ移ったIiyoshi 飯吉さんなどの海外の大学で活躍する日本人がいます。

飯吉さんには去年ドバイでお会い(資料) したのですが、最近、Vijay Kumarさんとの編集による「Opening Up Education」 を編集、出版されました。書評もCharles Vest (長年にわたりMIT学長、私のサイト内でも「Search」してください)などによって高い評価を受けています。

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写真: 飯吉さんと私、GRIPSで

最近、飯吉さんとご一緒する機会がありました。世界の教育は「Flat化」する世界でとてつもなく大きな改革の可能性さえ出てきているようです。このグローバル時代へのチャレンジ精神、チェンジ変革へ若者の可能性 をのばし、ビジョンと強い意思とエネルギーでリーダーシップを発揮する政治、企業、大学など、グローバル社会でのリーダーの育成に余念がありません。このような人たちが新しい時代を担い、これからの世界を動かしていくでしょう。宮川さん、飯吉さんの教育改革への情熱と先見性と実行力には素晴らしいものがあります。

宮川さん、飯吉さんたちのような「外」で活躍し、「外」から日本を見ている素晴らしい愛国心(脚注)あふれる教育者の意見を、ぜひ広く聞いて欲しいものです。

脚注:私の考える愛国心は「Patriot」です、「Nationalist」ではありません。日本語での違いはややあいまいですが「愛国心」 vs 「国家主義」でしょうか。

Asian Innovation Forum

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出井伸之さん は、グローバルに活躍するビジネスリーダーの一人です。わたしとは哲学も時代の認識も共有するところが多く、SONY会長を退任した後はご自分で新たな挑戦である投資ファンド「クオンタムリープ」(資料1)を立ち上げ、周りには素晴らしい若い人たちが集まり、新しいビジネス、起業支援などに力を入れています。ビジネス界の先輩として本当に素敵なことです。

多くの活動の一つとして、2007年にAsian Innovation Forum を立ち上げ、私も微力ながら参加、応援させていただいています。2007年の会は他の予定があって欠席しましたが、去年は参加。大きな盛り上がりを感じることが出きました。

今年は9月14、15日に東京で開催されることになりました。一橋大学経営大学院研究科長、ダボス会議などでよく知られている竹内弘高さんと私はシニアメンバーですが、出井さんのビジョンを共有しつつ、計画も議論も若いメンバーが中心で、なかなか楽しいのです。

私のこのサイトの中でも、「出井」、「竹内」で「Search」していただくと、いくつも「ヒット」します。

最近の日経新聞にも開催広告 が出ましたが、このようなネットワークから新しいビジネス、成長のエンジンが出て欲しいと心底から願っています。

「個」人力を磨き、世界への意識の高い、そしてどんどん広がるネットワークを築く、エネルギーに満ちた素晴らしい若い人たちがどんどん出始めていることを実感します。このような人たちの一人ひとりが、これからの日本にはとても大事だと考え、大いに応援したいのです。

アラブ首長国連邦の大学生たちの来日

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アラブ首長国連邦 (The United Arab Emirates; UAE)  は日本ととても強い関係があります。ドバイ 、アブダビなどがよく話題になります。このサイトの内部でもサーチしてみてください。私も2007年からご縁があって数回にわたって訪問しています。

特にドバイは、その急成長振りで世界中の話題になっていましたが、今は世界経済危機の影響もあって、しばらく様子見でしょうか。

首長国ではアブダビがもっとも大きく、そこが首長国石油の殆どの石油を産出します。ここの石油輸出量の50%は日本へ、日本の石油輸入の25%がアブダビからです。日本とは良い関係が構築されていますし、親日的なことでも知られています。

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写真; Khalifa大学の学生さん、慶応大学の先生、三菱重工の方、波多野大使と。白い服の方たちがUAE国籍の学生さんです。この服はKandura、というようです。

アブダビのKhalifa大学(理工系大学です)の学生さんが15人ほど、2回にわたって1週間ずつほど、来日しました。1回目は女子学生ばかりですが、2回目の男子学生さんたち。この後のグループとお会いする機会がありました。慶応大学や、つくばにある研究所の訪問などの行程で、ずいぶん充実した時間をすごしたようです。

若い人たちの交流は将来へ向かってとても大事なことです。皆さんがグローバル世界のパートナーとなる人たちですから。

学生さんは大部分が首長国連邦の方ですが、一部はSudan,  Palestine,  Lebanon,  Syriaなどからの人たちでした。

ドバイをハブ基地とするEmirates Airline  が有名ですが、来年から成田にアブダビの航空会社 Etihad が就航の予定です。

政治の行方、ジャーナリスト清水真人さん

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いよいよ衆議院選挙です。4年前の2005年9月11日、小泉総理の「郵政」解散から自民党が圧勝した衆議院選挙がつい最近のようにも感じられますが、それから小泉、安倍、福田、麻生とそれぞれ約1年ずつ総理を務めた、なんだか「不可解な」時間を過ごしたと、感じる方も多いでしょう。

このような政治の背景や真実は分からないことが多いわけですが、ここにはジャーナリストの使命があるのです。

日経の清水真人さんは、小泉総理による官邸主導の経過と記録、経済財政諮問会議の活動、そして小泉総理以降の3人の総理の交代劇について、わが国の政治の経過の「実録」を出版してくれました。いまでは“3部作”です。

1冊目を読んで大変感心したのですが、さらに2冊をタイムリーなテーマで書いています。

「官邸主導 小泉純一郎の革命」(2005年)
「経済財政戦記」(2007年)
「首相の蹉跌」(2009年)

日本の国家政治に何が起こったのか?誰がいつ、何をし、どう動いたのか、どのような意味があったのか、入念な取材に基づいた記録です。

ニュース、テレビ、週刊誌などの報道は、時間や紙面の制限から私たちには十分に理解できないことだらけです。しかも、これらの報道を私たちが後になって見る、読む、調べるというのはほぼ不可能で、大変なことなのです。

だからこそ、現役の記者が、取材した材料をもとに、多忙の中にもかかわらず、タイムリーに本として出版することはとても大事なことであり、国民にとっても大変ありがたいことです。良い記録にもなります。3冊目の著者の「あとがき」が、さすがにめまぐるしい展開があったこともあり、著者の苦労をよく表しています。

新聞を中心に、ジャーナリストはそれぞれ専門性を持って取材し、勉強し、記事を書くのですが(デスクなど、毎日のニュースの重要性などを考慮した編集の方針があり、多くは紙面に出ないのでしょうが)、新聞の一過性、紙面の限定等で、記事だけでは十分でないことが大部分でしょう。他にも週刊誌、月刊誌などがあります。新聞紙上でのシリーズもあります。かなりの記事はネットで見れるようになって来ましたが、でも、一つにまとめて、加筆したものをノンフィクションとして出版することの意義はとても大きいと思います。

闊達なジャーナリズムを作るかどうか、これは報道関係のメディア関係者、組織の意識と倫理の課題であろうと思います。

メディアは社会に責任ある大きな権力です。あいも変わらずの「記者クラブ」もいい加減にしてほしいです。組織が硬直化し、ジャーナリストがサラリーマン化していては、おしまいです。しかも、世界から広く見られているのです。国内向きの理由だけでは通じません。

「製造業ガラパゴス化」からの脱出

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携帯電話を典型例として、ハイテクではあるが世界を目指さない、目指せない日本の製造業について“ガラパゴス化”という表現が使われるようになりました。

「ガラパゴス化」はどこが課題で、どう克服していくか?i-modeの生みの親、夏野剛さんたちが「超ガラパゴス研究会」というのを立ち上げました。私も応援団の一人として参加しています。「ガラパゴス」をどう越えていくのか、これが目的です。初回から熱い議論が行われました(参考12)。

日本の技術を“引きこもり”経営から、世界へ展開して欲しいのです。

夏野さんと言えば、歯に衣を着せない本物のEntrepreneur。“出る杭”、実力派、果敢にチャレンジ、失敗を乗り越える、世界が認めるリーダーの一人です。一緒にいてもとても気分がいい人です。こういう人たちを応援しなくては、と思います。

最近のインタビューをご紹介します。「フム、フム」と納得、わが意をえたり、というところですね。

ジャック・アタリの「21世紀の歴史」

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人類の歴史を振り返り、将来を予測する、これはいつも大事なことです。「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」、「Historia Majistra Vitae」 、洋の東西を問わず、同じ言葉が受け継がれています。「人間の知恵」です。このブログでも再三にわたって発信しているメッセージです(参考: 1234)。

前回はFareed Zakariaの著書を紹介しましたが、フランスを代表する現代の知性ともいわれるジャック・アタリによる「21世紀の歴史:未来の人間から見た世界」も大変面白い本です。これは長い歴史から学び取れる「21世紀を読み解くためのキーワード」を抽出し、そこから考察する21世紀の予測です。「歴史の法則、成功の掟は、未来にも通用する。これらを理解することで未来を占うことが可能になる・・・」、ということです。

邦訳に当たって、短いのですが「21世紀、はたして日本は生き残れるのか?」、また最後に「フランスは、21世紀の歴史を生き残れるか?」が追加されています。それにしても、私はフランス語を読めませんが、英語本と読み比べると、邦訳はずいぶんと量が増えるものですね。

この著書を話題に、NHKがジャック・アタリの2時間にもなるインタビューを放映しました。テレビでご覧になった方も大勢おられるかと思います。

この本は6章の構成です:
1.人類が市場を発明するまでの長い歴史
2.資本主義はいかなる歴史を作ってきたのか?
3.アメリカ帝国の終焉
4.帝国を超える「超帝国」の出現 -21世紀に押し寄せる第1波
5.戦争・紛争を超える「超紛争」の発生 -21世紀に押し寄せる第2波
6.民主主義を超える「超民主主義」の出現 -21世紀に押し寄せる第3波

2006年の発行ですが、「アメリカ、終焉の始まり」で、「アメリカの金融システムは増殖し、過剰となり、無制限に活動し始め、制御不能に陥った。このシステムは、産業に対して到底達成不能な資本収益性を要求し、産業を担う企業に対して企業活動に必要になる投資行為よりも、こうした企業が稼ぐマネーを金融市場に放出することをもとめた・・・」、そして「サラリーマンの債務もますます増加した。特に公営企業2社(アメリカ第2位の企業である連邦住宅抵当公庫Fannie Mae、アメリカ第5位の企業である連邦住宅貸付抵当金庫Freddie Mac) は4兆ドルの抵当権を所有ないし保証しており、その債務は10年間で4倍に膨れ上がった・・・」(p.128、129)。2007年夏に始まる金融パニックを起こしたように、ここで「サブプライム問題」を予告していたといえます。

また「中心都市」というコンセプトを提唱し、「これまで市場の秩序は、常に1つの「中心都市」と定めて組織され、そこには「クリエター階級」(海運業者、起業家、商人、技術者、金融業者)が集まり、新しさや発見に対する情熱に溢れていた。この「中心都市」は、経済危機や戦争が勃発することにより他の場所へ移動する。」(p.61)

数多くの「未来への教訓」が示されているが、ここでは、いくつかだけ示そう。例えば、
「知識の継承は進化のための条件である」(p.31)
「新たなコミュニケーション技術の確立は、社会を中央集権化すると思われがちだが、時の権力者には、情け容赦ない障害をもたらす」(p.77、脚注*1)
「専制的な国家は市場を作り出し、次に市場が民主主義を作り出す」(p.98)
「テクノロジーと性の関係は、市場の秩序の活力を構造化する」(p.111)
「多くの革新的な発明とは、公的資金によってまったく異なった研究に従事していた研究者による産物である」(p.120)

註1:いくつかの講演で「Incunabulum, Incunabula」というラテン語を使って、「フラット」な世界での「タテ社会」の脆弱性を指摘しています(参考 123)。

21世紀に現れるいくつかの現象には、サブタイトルが面白い。例えば;
「歴史を変える「ユビキタス・ノマド」の登場」
「地球環境の未来」
「時間 -残された唯一、.本当に希少なもの」
などなど。

そしてここから、第4章が始まる。これから起こるであろう第1波、第2波、第3波。じつに面白いというか、恐ろしいというか、かなり現実となるような予感がします。今もそれらの兆候は見えています。

この本を読んで思い浮かべたのは、J. ダイアモンドの「文明崩壊」でした。

ぜひ、これらの本も「The Post-American World」などとも併せて、読んでみてください。