2つのExecutive Session; リーダーシップ、イノベーション、女性のパワーについて考えたこと・感じたこと

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最近私は2つのExecutive Sessionに出席する機会がありました。その一つはロンドンで開催された業界トップクラスを誇るグローバルな会社の世界戦略に関する会議です。この会社は最近或る買収合併に成功したばかりです。

この会議のメンバーは全部で10カ国から10人(女性は1人)でしたが、その多くが自国の政治・行政において高い地位にある方々、即ち、大臣、最高裁裁判官、国や地域(EU)の議員であったという点において他の同様な会議とは一線を画していました。

例えば、会議の議長をされたPat Cox氏は欧州議会の議長(2002-04)であられましたし、Chuck Hagel氏は今年1月まで12年間共和党の議員でいらっしゃいました。Hagelさんとは少しお話をしましたが、それだけでも氏が大変思慮深い、人間としても立派な政治家であるということが良く分かりました。彼はブッシュ大統領の対イラン政策を最もはっきりと批判したことでも有名です。年の初めにもブログでご報告しましたが、彼はAtlantic Council というワシントンDCに拠点を置く有力な「シンクタンク」の会長に就任され、そのことは私も知っていました。そして今回彼から直接聞いたのですが、オバマ大統領から外交に関する委員会のメンバーにもなるように頼まれたそうです。大変良いニュースですね。

Pat Cox氏の議事進行は素晴らしかったです。流れるようで暖かく、会社の上層部によるプレゼンからその後の質疑応答、提案まで一切を取り仕切り、各委員や幹部の発言だけでなく席順までメモを取って記録されていました。いつも思うのですが、このように立派な経歴を持つ方々とディスカッションやプライベートな会話を通じて知り合うことができるというのは、大変光栄なことです。実に多くのことを教えられます。ところでついでに申し上げると、この会社の代表者の半分は議長を含め女性でした。

東京に戻ってもう一つのexecutive sessionに出ましたが、こちらは日本のグローバルブランドの会社で、国内での売り上げは年間総売り上げの25%です。CEOを中心とするチームは私たちが議論すべき当日の議題を一生懸命考えてくれました。普段はあまり経験しないような活気に溢れた質疑や討論があって、楽しく会議をすることができました。これは、なぜかというとメンバーがかなり「出る杭」的な人たちだからです。例えばiモードを発明した夏野さん資料1)とか。役員レベルに女性が居ないことはさておいても全15人の会社側出席者のうち、女性は1人だけというのは驚きでした。。

この会社の考えは私から見ると男性の発想であり、且つ男性の考えをターゲットにしています。そこで私からの質問は、日常の買い物をするときや大きな買い物をするときの意思決定は女性がしているという、ニューズウィークの‘The Real Emerging Market’と題する記事でも紹介されている事実に関するものでした。私もニューズウィークの表紙の写真入カラムでこの記事を取り上げていますし、その後の2009年10月26日発行のタイム(米国版)‘What Women Want Now’  (資料1) にも同様な趣旨の記事が出ています。言っておきますが、製品は男性向けであるかもしれませんが、それを買うかどうかの意思決定は想像以上に女性によって行われているのです。

男女共同参画の問題は日本の社会に広く存在する喫緊の課題です。このブログでも繰り返し書いていますし、最近ではジャパンタイムズのインタビューでも述べましたが、女性の活用は日本社会、経済にとって「変革の鍵」となり得るのです。

もう一つこれらの二つのセッションに出て思ったのは、このような大会社の要職におられる方々は、急速にフラット化している世界すなわち‘Open and Demand-driven Innovation’の時代に世の中で何が起きているのかを実感していらっしゃらないのではないかということでした。‘Open and Demand-driven Innovation’はグローバルな現代において、どのビジネス分野にとっても非常に重要な、基本的な考え方となっています。

STS Forum、科学技術担当大臣会合、Young Scientistsとのセッション

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京都で開催されるSTS Forum (Science and Technology in Society Forum) に参加しました。始まりのときから手伝っています(資料)。世界から政治、ビジネス、科学など広い分野の方々が集まって議論、課題を共有しようという大胆な試みです。

今年は、開会のパネルで副総理、科学技術担当大臣の菅 直人さんの挨拶を兼ねた演説がありました。なかなか好評でした。

私の役割は、第1日に、Nature編集長のPhilip Campbellと科学技術担当大臣会議(写真1-4)で基調講演。24カ国(Africaから9カ国)の大臣がご出席。議長は日本の科学技術政務官、民主党の若手のホープの一人、津村啓介さんです。その後、各大臣からの各国の政策、課題などについて活発な発言がありました。

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写真1-4; 会議の参加諸氏と

第2日、「Proposals from Young Scientists」で、TWAS などで大活躍している旧友Mohamed Hassan と共同議長。2時間に及ぶセッションでしたが、8人の若手が自己紹介のあと、4つのテーブルに別れ、各テーブル8-10人ほどの参加者と1時間にわたり議論を展開し、最後にまとめていろいろ提言してくれました。なかなか素晴らしいセッションでした。セッション要旨 も見ることができます。何人かの方から、私は若者のほうに入るね、などとからかわれました。

203f3session 写真;5 参加のYoung Scientistsの皆さんと。前列中央は私、スポンサーとなったJSPS小野さん、Hassanさん。

NYASのPresident and CEOのEllis Rubinsteinは途中から参加するよ、といっていたのですが、よそに参加で動けなくなったようでした。NYASでは私も「Scientists Without Borders」、 に諮問委員として参加しています。

ハノイ、ヤンゴンへ

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久しぶりにハノイに来ました。今回の目的は2つ、本田財団のYES活動(Young Engineers and Scientists)  (資料1)の一部でもあり、もう1つはヴェトナム政府の科学技術政策をめぐる政府関係者との私的懇談です。

私は常日頃から、多層的に展開する若者の活発な国際交流を通じた将来をになう人材育成こそが、さらに進むグロ-バル時代に対して、日本のとるべき教育政策の基本にあるべき、と考え、機会のあるごとに主張し、発言しています。このサイトを訪れる方はよくご存知のことと思いますが、、。この点で本田財団はヴェトナムなどのASEANの国々やインドへの若者支援のプログラムYES を展開しており、お手伝いしているのです。

同行の先発の皆さんがカンボジアから到着する前にホテルで、私が国際腎臓学会の理事、理事長をしていた10数年以前から知己であるご当地の腎臓分野ではリーダーとなっているThang先生、Ann先生の訪問(写真1)を受けました。Annさんは東海大学へも3ヶ月お招きしました。私がハノイに最初に来たのは17,8年前でしょうか、病院も信じられないほどひどい状況でした。

Img_1878 写真1:向かって左から Dr ThangとDr Ann。

政府関係者とは、科学技術担当局のナンバー2でしょうか、「カCa」さんの主催で元大臣お2人も参加され、かなり議論が沸きました。「カ」さんはアジア学術会議で7,8年来、何度もお会いしていますが、どんどん大事な役割になりますね、うれしいことです。

Img_1885_2 写真2:Caさんと。左から本田財団の石原さん、ついでCaさん、私、そして政策研究大学院の角南さん、現地の担当。

Img_1886_3 写真3:町の電線、すごい混みようです。

夜は偶然ですが、Thangさんの娘さんの結婚披露宴で、飛行場へ向かう前に10分ほどお祝いに立ち寄りました。大勢のお客さんが集まっていました。

バンコックで一泊して、翌日はミヤンマーのヤンゴンへ。素朴な風景にかこまれたヤンゴン工科大学資料1)、 を訪問し、学長先生たちと本田財団YESではどんなプログラムが最適なのか、意見交換しました。その後、日本大使館を訪問、野川大使にご挨拶、さらにJICA事務所を訪問、日本留学経験者の会MAJA(Myanmar Association of Japan Alumni、短期研修も含めて800名ほどの会員ということです)を訪問しました。会長のKyaw先生は私と同世代、東京大学医学部脳外科へ研究生として留学、学位を受けられ、清水教授、佐野教授にお世話になったそうです。懐かしいですね。このような関係こそがこれからの日本にはさらにさらに大事ですし、また、日本の若者ももっともっと留学へ、世界へ武者修行に出かけて欲しいのですが、グローバル時代にあっても、何故か海外留学する人は日本からは減っている という精神的に「内向き、引きこもり」という妙な現象が起こっているようです。とくに男性ですね、問題は。

大学の先生たちもしっかりして欲しいですよ、先生本人たちが「内向きの」なのであればそれは致し方ないとしても、将来を担う若者のことを第一に考えてくれなくては、本当に困ったものです。企業でも似たりよったりですけどね。

夕方、ヤンゴンを出発して、帰途に着きました。あわただしい旅でしたが、いろいろ見聞を広げ、いくつもの素敵な出会いがありました。

翌日成田に到着。昼間は、大学へ行き、夕方からBSフジ「Prime News」の収録へ。「ダボス会議と世界の中の日本」をテーマに、今回の菅副総理の率いる内閣戦略会議「事務長」の古川元久さん、ソフィアバンクの藤沢久美さんと出演しました。ご覧になれましたか?

ダボス会議;世界の中の日本

昨日、思いがけなく、BSフジテレビの番組で「ダボス会議;世界の中の日本」というテーマで論じました。ネットhttp://www.bsfuji.tv/primenews/movie/index.htmlで見れますので、ご覧いただけますとうれしいです。

また、World Economic Forumのサイトで、「Close Up 現代」の国谷さんによるKlaus Schwabさんのダボス会議でのインタビューを見ることができます。こちらもご覧ください。

ダボス会議東京事務所開所記念の集まり、そしてニューデリー、台北、サマー・ダボス大連へ

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ダボス会議は世界的に知られているいわゆる「track2」のグローバル社会の対話の場であるといえます。このサイトでも「サーチ」していただければ多くの報告が読めます。今年で39年ということですが、今回東京の事務所を開設しました。世界で4番目ということですが、うれしいですね。なぜでしょうか、日本への期待でしょうか。しっかりしたいものです。

9月4、5日にお広めの会(資料) が東京であり、多くの方が集まってくださり、大変に活気のある会議となりました。ちょうど衆議院選挙が終わり、歴史的ともいえる新政権ができる期待もあり、鳩山民主党党首(ダボス会議議員連です)もご挨拶にこられ、力強いスピーチをされました。その後、私もパネルに参加しました。

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この会議の初日の午後からNew Delhiへ向かいました。Singapore経由で翌朝早く到着、早速9時から「クリーンエネルギー技術のインドと日本」(資料)というテーマです。IPCCのPachauriさん(1年ぶりです)と私の基調講演で始まり、特に日本からいくつも省エネ技術の発表があり、両国の「Win-Win」のpartnershipを築きたいというものです。堂道大使もこられご挨拶、夕方のレセプションにも参加してくださいました。

インドは10億の人口を有する、しかもこれから当分は年6-8%の成長が見込まれるのですが、インド駐在の日本ビジネスの方たちは、全インドでなんとたったの3,300人とか。何か情けないですね。大いに期待できる、お互いに「Win-win」の関係になれるのになのです。これは残念ですね、いつも言っている(資料) ことですが。製造業では中国、韓国企業がどんどん進出しています。日本からの参加者の方々には、日本のこの弱さをはっきり伝えしましたけど。

Img_1815 総督府で。後ろは孫文の胸像

翌日は、台北へ。政策大学院大学の同僚の角南さんたちと合流、ここでも「日本のクリーンエネルギー技術」がテーマなのですが、この強さが世界に広がっていない、世界では目立たないのですね。なぜでしょう。これもお話しました。グローバル時代には、グローバルな課題へ自分たちの強さを生かし、弱さを認識して、コラボレーションですばやく社会へ、世界へ広げる事が大事なのです。これが21世紀のイノベーション、つまり「新しい社会的価値の創造」 です。

ついで台北から上海経由で大連へ来ました。’Summer Davos’とも言われる‘New World Champions’  (このサイトでいろいろ見たり、読むことができます)と言われるダボス会議主催の会議へ参加です。ちょっとばかり忙しい旅ですが、これも外交であり、世界の仲間つくりです。第1回は大連 、第2回は天津で開催されましたが、若手もビジネスの方が多く、なかなか活気があります。初日から3つのセッションに参加です。日本からの方たちも80人ほどの参加があるとかで、なかなか活躍しておられ、嬉しいです。初日からたくさんの友人に会いました。石倉洋子さんの9月9日からのBlogも見てください。前回、前々回と同様に、温家宝首相が出席、このグローバル規模の経済危機に際しての中国のとった政策とその成果と現況、そしてこれからも世界での責任を果たしていきたいという自信に満ちた講演をしました。

夜は、太陽経済の会主催の日本デイナーなどいくつかのレセプションへ参加です。

民主党が衆院選圧勝、そして?

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8月30日の衆院選で民主党は自民党に対して歴史的な地滑り的大勝を収めました。自民党は1955年以来、いわゆる「55体制」と「鉄のトライアングル」による日本株式会社を構築し、政権を担当してきた政党です。(細川首相のときに一時中断しましたが、この政権は一年ともちませんでした。55体制は何も変わりませんでした。)

今回の選挙結果は日本の将来に長期的な影響を及ぼすでしょう。自民党の大敗はメディアが好んであちこちで報道するように、景気悪化、失業率の増加、「格差」の拡大などの責任を国民が自民党に問うた結果ではないと思います。むしろ、国民が「変化」をますます熱望するようになっていること、「55体制」の強い絆で結ばれた「当局」や「関係者」(例えば官僚主導省庁の閉ざされた強い権力、大企業、農家、土木関係、その他利益者集団など)から圧力を受ける自民党は「チェンジ」できないという認識の広がりの表れではないでしょうか?

私のこのような見解は外国の知日派の方々や日本国内で仕事をしてきた外国人の方々など、海外のオピニオンリーダーの見方と重なるように思います。9月7日、New York Timesに村上龍氏のOp-Ed、’Japan Comes of Age’ が掲載されましたが、これもまた日本国民が日本の現状をどのように認識しているかをよく表現しています。

また、例えばEconomistは9月5日版その他で‘The vote that changed Japan’ , ‘Lost in transition’, ‘New bosses’   ‘Banzai; A landslide victory for the DPJ Japan’ など、数ページの記事をいくつも掲載しています。他の外国メディアやプレスも同様な見解を発表しているようです。

Huffingtonpost はリベラルなon-line news とブログのサイトで, オバマ大統領もよく投稿していますが, 私の友人 Dr Sunil Chacko  (資料1)も常連の一人で, 今回の民主党圧勝について‘Japan’s New Era’ と題する記事を書いています。

作家、ジャーナリスト、そして知日派として有名なBill Emmott氏は私の友人ですが、2月にメールで、「先日偶然お目にかかった日の夜にThe Guardianのオンライン版に ‘A silver lining for Japan; The economic suffering here has been harsh and long, but at last political change is coming’ という簡単な記事を掲載しました」と教えてくれました。

その記事を読んだのですが、特に面白かったのは最後の部分(下線)、日本の民主主義に関わる一節で、私も日ごろからいろいろな場面で言ったり書いたりしていること (資料)と重なります。

以下、引用です。

‘It is a country, in other words, that is in desperate need of a change of government, and the election of a party dedicated to repairing broken social services as well as shaking up the economy. No doubt as and when the DPJ wins power, it will bring disappointments and its own occasionally shambolic ministers. No matter. The important thing in a democracy is to punish those who have failed and to bring in a new crowd capable of making new mistakes. Japan has waited far too long for that.

わが国は依然として世界第二の経済大国であることをお忘れなく。したがって ‘The Post-American World’においても日本は世界の諸問題に責任ある態度を取らなければならないし、またそうすることを期待されてもいるのです。実際、日本はグローバルな課題に貢献できる力を充分に持っているにも拘わらずその経済力に見合った積極的なアクションやコミットメントが充分ではありません。少なくとも私の目にはそう映りますね。

教育改革についてDonna Scottさんから寄稿をいただきました

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ブログをはじめ色々な場面で日本や世界の教育改革について意見を述べていますが、それはこれが数ある日本および世界の政策課題の中でも最も重要な問題であるからです。このブログを頻繁に見てくださっている方々は私が教育についてどのような問題意識や見解を持っているか良くご存知のことと思います。

最近、ドナ・スコットさんという方から連絡があり私のブログに寄稿させて欲しいというご依頼がありました。彼女は<onlineschool.net>という新しい教育制度の構築に関わる仕事をしているようです。
http://onlineschool.net/2009/08/11/100-awesome-ways-to-use-duct-tape-in-your-dorm-room/
http://onlineschool.net/2009/08/04/100-best-book-blogs-for-history-buffs/

それで、お受けすることにしました。

日本の衆院選のタイミングに合ったタイムリーなエッセイが届きました。 ‘New Party Could Mean Changes in Educational Testing’. (以下に全文のコピーを掲載しました。英語のみです。タイトル訳は’新政権の誕生により学力テストの変革にも可能性’。)

どのように思われますか?読んで、考えて、あなたも世界にコネクトしてください。

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New Party Could Mean Changes in Educational Testing

The Democratic Party of Japan has stated that if it wins the upcoming election it would make some changes to the current educational system. Announced Monday, the party would drastically scale back the national achievement examinations given to students in their sixth year of elementary school and third year of junior high.

It doesn’t all have to do with education, however, as the concerns are more budgetary than anything else. The party believes that by only have a few sample schools take the exams that the government could save nearly 4 billion Yen each year, a large sum considering current economic difficulties facing leaders.

The tests themselves would also be altered, focusing on a wider variety of subjects rather than just focusing on Japanese and Math. Students from a wider range of grades would also take part in the testing, showing the performance levels of students in more than the two grades currently tested.

The exam is far from being an academic tradition; it was only reinstated in 2007 after leaders felt there had been a marked decrease in the quality of education and the academic abilities of students. As of present, all public schools participate in the testing and over half of private schools submitted their students? results. New regulations would test only a few of these schools as a means to find a balance between the need to gauge academic performance and cut expenses from the budget.

The current ruling party, if it maintains power, has no plans to scale back the testing, citing that students are still having difficulties with the utilization of knowledge as tests from the past few years have shown little change in this respect. It is expected, however, that the DPJ will score a landslide victory in the election, almost guaranteeing changes to the current testing plan, for better or worse.

This year it was the students in Akita and Fukui prefectures who scored the best in exams taken this April. This is their third straight year at the top of the ranks. Overall, the percentage of correct answers rose significantly from last year, but many believe that this is because the overall difficulty of the test was decreased. Problems still remain as there is a large gap between the schools in the top and bottom prefectures, showing that some schools may need additional resources and help to bring their students up to the level of those in other public education systems.

This post was contributed by Donna Scott, who writes about the best online schools. She welcomes your feedback at DonnaScott9929 yahoo.com

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ジャック・アタリの「21世紀の歴史」

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人類の歴史を振り返り、将来を予測する、これはいつも大事なことです。「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」、「Historia Majistra Vitae」 、洋の東西を問わず、同じ言葉が受け継がれています。「人間の知恵」です。このブログでも再三にわたって発信しているメッセージです(参考: 1234)。

前回はFareed Zakariaの著書を紹介しましたが、フランスを代表する現代の知性ともいわれるジャック・アタリによる「21世紀の歴史:未来の人間から見た世界」も大変面白い本です。これは長い歴史から学び取れる「21世紀を読み解くためのキーワード」を抽出し、そこから考察する21世紀の予測です。「歴史の法則、成功の掟は、未来にも通用する。これらを理解することで未来を占うことが可能になる・・・」、ということです。

邦訳に当たって、短いのですが「21世紀、はたして日本は生き残れるのか?」、また最後に「フランスは、21世紀の歴史を生き残れるか?」が追加されています。それにしても、私はフランス語を読めませんが、英語本と読み比べると、邦訳はずいぶんと量が増えるものですね。

この著書を話題に、NHKがジャック・アタリの2時間にもなるインタビューを放映しました。テレビでご覧になった方も大勢おられるかと思います。

この本は6章の構成です:
1.人類が市場を発明するまでの長い歴史
2.資本主義はいかなる歴史を作ってきたのか?
3.アメリカ帝国の終焉
4.帝国を超える「超帝国」の出現 -21世紀に押し寄せる第1波
5.戦争・紛争を超える「超紛争」の発生 -21世紀に押し寄せる第2波
6.民主主義を超える「超民主主義」の出現 -21世紀に押し寄せる第3波

2006年の発行ですが、「アメリカ、終焉の始まり」で、「アメリカの金融システムは増殖し、過剰となり、無制限に活動し始め、制御不能に陥った。このシステムは、産業に対して到底達成不能な資本収益性を要求し、産業を担う企業に対して企業活動に必要になる投資行為よりも、こうした企業が稼ぐマネーを金融市場に放出することをもとめた・・・」、そして「サラリーマンの債務もますます増加した。特に公営企業2社(アメリカ第2位の企業である連邦住宅抵当公庫Fannie Mae、アメリカ第5位の企業である連邦住宅貸付抵当金庫Freddie Mac) は4兆ドルの抵当権を所有ないし保証しており、その債務は10年間で4倍に膨れ上がった・・・」(p.128、129)。2007年夏に始まる金融パニックを起こしたように、ここで「サブプライム問題」を予告していたといえます。

また「中心都市」というコンセプトを提唱し、「これまで市場の秩序は、常に1つの「中心都市」と定めて組織され、そこには「クリエター階級」(海運業者、起業家、商人、技術者、金融業者)が集まり、新しさや発見に対する情熱に溢れていた。この「中心都市」は、経済危機や戦争が勃発することにより他の場所へ移動する。」(p.61)

数多くの「未来への教訓」が示されているが、ここでは、いくつかだけ示そう。例えば、
「知識の継承は進化のための条件である」(p.31)
「新たなコミュニケーション技術の確立は、社会を中央集権化すると思われがちだが、時の権力者には、情け容赦ない障害をもたらす」(p.77、脚注*1)
「専制的な国家は市場を作り出し、次に市場が民主主義を作り出す」(p.98)
「テクノロジーと性の関係は、市場の秩序の活力を構造化する」(p.111)
「多くの革新的な発明とは、公的資金によってまったく異なった研究に従事していた研究者による産物である」(p.120)

註1:いくつかの講演で「Incunabulum, Incunabula」というラテン語を使って、「フラット」な世界での「タテ社会」の脆弱性を指摘しています(参考 123)。

21世紀に現れるいくつかの現象には、サブタイトルが面白い。例えば;
「歴史を変える「ユビキタス・ノマド」の登場」
「地球環境の未来」
「時間 -残された唯一、.本当に希少なもの」
などなど。

そしてここから、第4章が始まる。これから起こるであろう第1波、第2波、第3波。じつに面白いというか、恐ろしいというか、かなり現実となるような予感がします。今もそれらの兆候は見えています。

この本を読んで思い浮かべたのは、J. ダイアモンドの「文明崩壊」でした。

ぜひ、これらの本も「The Post-American World」などとも併せて、読んでみてください。

アメリカ後の世界、The Post-American World

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Fareed Zakaria(1964年生まれ)は新進気鋭な世界でもっとも活躍している“旬”なジャーナリストで、Newsweek International Editionの編集者です。ご自身のサイトもあります。

2008年に「Post-American World」という本を出版。とても興味深く読める、示唆に富む内容の本です。素晴らしい洞察と筆力、広い視野と見識。皆さんに、特に若い人たちにも広く読んで欲しい本の1つです。

章の構成は;
1. 「アメリカ以外のすべての国」の台頭
2. 地球規模の権力シフトが始まった
3. 「非西洋」と「西洋」が混じり合う新しい世界
4. 中国は「非対称な超大国」の道をゆく
5. 民主主義という宿命を背負うインド
6. アメリカはこのまま没落するのか
7. アメリカは自らをグローバル化できるか

彼がインド出身で、18歳までインドで育ったという背景もあり、アメリカと中国を中心とする大きな政治経済という見方ばかりでなく、これからの大国インドの中長期的な視点と課題などを盛り込んだ、大変興味深く、また他の同類のテーマの書籍とは少し違った見方を与えています。

「アメリカ後の世界」というのは、アメリカ一極ではなく、“その他の台頭”ということです。特に中国とインドは、大きな問題を抱えていますが、その人口からも大きく成長し、世界で大きな意味を持つことになるでしょう。その辺りの視点がなかなかのものです。

彼はインドに生まれ、イスラム教徒の家庭で育ちます。小中高教育をムンバイの名門校で学び、Yale Universityに留学。さらに、Harvard大学において政治学でPhDを取得。27歳という若さで「Foreign Affairs」(Council of Foreign Affairsの出版物)の編集長へ大抜擢され、2000年から現職のNewsweekの編集者となりました。

「アメリカは“大きな島国”だ」という彼の認識は、講演などで度々話している私の主張とも合致しています。彼は第2章の最後で次のように書いています。(p. 69-71)

「アメリカの政治家は見境もなく他国のあら探しをしては要求を突きつけ、レッテルを貼り、制裁を加え、非難を浴びせかける。過去15年間に、アメリカは世界人口の半数に対して制裁を発動してきた。世界中の国々のふるまいに毎年毎年、通信簿をつけている国は、アメリカ以外に存在しない。ワシントンDCは独善によって足もとがふらつき、外の世界から浮いた場所になってしまった。」

「2007年度のPew Research Center(アメリカの独立したシンクタンクの一つ=脚注)による世界動態調査によれば、自由貿易、市場開放、民主主義を支持する人々の割合は、世界各地で驚くほど増加した。中国、ドイツ、バングラデッシュ、ナイジェリアなどの国々では、各国間の通商関係が深まるのは好ましいことである、大多数の国民が回答している。調査対象となった47ヵ国のうち自由貿易への支持率が最も低かったのは、何を隠そうアメリカだ。調査が行われた5年間で、その支持率の落ち込み幅が最も大きかったのも、やはりアメリカだ。」

「続いて外国企業に対する態度を見てみよう。ブラジル、ナイジェリア、インド、バングラデシュなどの国々では、外国企業に良い印象があるかとの問いに、大多数の国民が「はい」と答えている。歴史的に見ると、これらの国々は総じて西洋の国際企業に不信感を持ってきた(背景には、南アジアの植民地化がイギリスの1企業、<イギリス東インド会社>によって始められたという事実がある)。しかし現在では、インド国民の75パーセント、バングラデシュ国民の75パーセント、ブラジル国民の70パーセント、ナイジェリア国民の82パーセントが、外国企業に好感を示している。対するアメリカ国民はといえば45パーセント。これは世界の下位5ヵ国に入る数字だ。アメリカ人は、世界じゅうでアメリカ企業が大歓迎されてほしいと望む一方、自国に外国企業が入り込むと、まったく逆の反応を示す。」

「このような矛盾がよりはっきり表れているのが、移民への態度だ。移民問題で世界の手本だったアメリカは、これまでの自国の歩みに逆行し、怒りと萎縮と防御の姿勢をとるようになってしまった。また、かつてのアメリカ人はあらゆる最先端技術の開拓者であろうとしてきたが、今では技術革新からもたらされる変化に戦々恐々としているのだ。」

「皮肉にも、「その他の台頭」を招いたのは、アメリカの理念と行動だった。60年間にわたり、アメリカの政治家と外交官は世界中を訪問して回り、市場の開放や、政治の民主化や、貿易と科学技術の振興を迫ってきた。遠く離れた国々にも、グローバル経済下での競争、通貨の規制撤廃、新しい産業の振興など、さまざまな難題に挑むよう煽りたて、変化を恐れるな、成功の秘訣を学べ、とアドバイスを送りつづけた。この努力は実を結び、世界の人々は資本主義にすっかり適応した。」

「しかし、今日のアメリカ人は、自分たちでさんざん奨励してきたものに疑念を抱くようになっている。この態度の豹変は、ものや人の流れがアメリカへ向きだしてから起こった。つまり、世界が門戸を開いているさなかに、アメリカは門戸を閉ざし始めたわけだ。」

「後世の歴史家たちは、これからの数十年間を、次のように記述するだろう。21世紀初頭、アメリカは世界のグローバル化という歴史的偉業を成し遂げたが、その過程で自国のグローバル化をし忘れたのだ」

脚注:最近では、日本が深くかかわっている国際捕鯨問題の調査も支援し、その会合の一部に私も参加しました。今年の4月にはAsia Societyと共同で「A Roadmap for US-China Coorperation on Energy and Climate Change」を発表。

また、Zakariaは米国の成長産業は「大学教育」と指摘しています。自分の受けてきた教育も「アジア式」であり、「暗記と頻繁な試験を重視するのである・・・毎日大量の知識を頭に詰め込み、試験の前には一夜漬けで暗記をし、翌日にはすっかり忘れさるということを繰り返していた。」

「だが、留学先のアメリカの大学は別世界だった・・・正確性と暗記は殆ど要求されず、人生での成功に必要なこと、すなわち精神機能の開発に重点がおかれていた。他国の制度が試験のための教育を行うのに対し、アメリカの制度は考えるための教育を行うのだ。」(p. 254)

「シンガポールの教育相が自国とアメリカの教育制度の違いを説明してくれる。「両国はともに実力主義を採用している。そちらは才能重視型の実力主義、子こちらは試験重視型の実力主義だ。われわれは生徒に高得点をとらせるノウハウを持っている。アメリカは生徒の才能を開花させるノウハウを持っている。それぞれに長所はあるが、知力には試験で測れない部分が存在する。創造性、興味、冒険心、大志などだ。なによりもアメリカには学びの文化がある。これは伝統的な知恵に、ひいては権威に挑戦することを意味する・・・」(p. 254, 255)

Zakariaさんが若くして世界のオピニオンリーダーの一人となり、羽ばたくことができたのも、アメリカで受けた大学教育の影響が大きいのです。説得力のある議論だと思います。しっかり、日本の大学教育と比べて考えてみてください。

もっとも彼は、「このようなアメリカの優位性は、簡単に消え去ることはないだろう。なぜなら、ヨーロッパと日本の大学―大多数は官僚主義的な国立大学―が構造改革を行う可能性は低いからだ。」と書いています。そしてさらに「インドと中国は大学の新設を進めているが、20~30年で世界レベルの大学を1から作り上げるのは簡単ではない。」(p. 252)と指摘しています。

素敵な計画「Grameen Change Makers Program」

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早稲田大学2年生の3人とそのお仲間達が、去年の暮に訪ねてきました。彼らはバングラデッシュを訪問し、その状況に愕然として、「自分たちで何かできないか、そこから日本を変えたい。僕たちはやりますよ!」と。

彼らは、再度バングラデッシュを訪れて、多くの人たちと知り合い、1人は1年間大学を休学して現地で活動を始めました。この1人とは都合で会えなかったのですが、残りの2人が報告を兼ねて来訪されました(彼等のblogはこちら。写真つきで熱い内容です)。

いろいろと計画を進めていますが、その一つが「Grameen Change Makers Program」です。素晴らしい行動力、構想力、実行力です。現地の体験からの発想と、日本への思いがよく出ている計画です。一橋大学の米倉誠一郎先生にもずいぶんアドバイスを頂いているようです。

ここでのポイントは、「現地での体験が大事」ということです。ここから自分の中にある何かに気がつくのです。それでないと現地に意味のある貢献ができないのです。前に書いたコラムでも指摘したところです。

また、大学を1年休学するということも、とても素敵なことです。私は、多くの学生に、学部生の時に1年間の休学したり、交換留学をすることなどを勧めています。大学も休学する学生からお金を取ることもないでしょうが、むしろ大学も、国も、少々の応援資金を出すぐらいのことを考える時だと思います。企業が奨学金を出すのもいいことだと思います。このような若者の交流こそが、日本の将来を作る人材育成には欠かせない、決定的に大事なことです。

この「Grameen Change Makers Program」へ多くの若者の参加と、皆さんの応援をお願いします。大学も、企業も。

もっともっとこのような活動を広げることにこそ、日本の未来がかかっているのです。