イノベーション・クーリエ事業

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「イノベーション25」の政策を受けて、様々な施策や活動が始まっています。その一つに、私も協力している「イノベーション・クーリエ」という事業がありまして、いろんな事業、講演会、会誌を発行するなどの活動をしています。

今回、横浜で「水」をテーマにした展示会を開催しました。トラック掲載型海水飲料化システムや、バングラデッシュで実用化されている簡単な水浄化装置などが展示されました。いづれも素晴らしいものでした。しかし、アフリカをはじめ、もっともっと現地のニーズにあった装置の開発も必要であることを痛感しました。

日本ではどうしても技術先導で、しかも技術者がより良いものを、より精度を高く、ということに囚われるあまり、現地の人からすると、高価すぎるとか、現実的ではないものになりがちです。また、資金援助も国に頼ってばかりになっているのではないかと感じています。素晴らしいものは多いのですが、一日でも早く現地に届ける、そのための仕掛けや資金のあり方にも、違った視点や工夫が必要と思います。例えば現地での雇用を増やしたり、貧困から少しでも助け出そうという視点も欠けているようにも思えました。それは多くの人に現地での生活感や生活体験が欠けているからではないか?そこが、“Demand-Driven”のイノベーションが大いに有効なグローバル時代にあっての日本の弱さだと思います。

私も講演をしましたが、グラミーン銀行の実例や、KickStartのような素晴らしいNGOの活動にも触れました。これこそがイノベーションによる「新しい価値の創造」です。

地球温暖化へ、日本の目標はどこに?

地球温暖化は、全人類にとって21世紀最大の課題です。対策は遅々として進みません。難しい問題がたくさんあります。でも行動は待ったなしです。100年に一度の経済の低迷とかで、どこかに吹っ飛んでしまったかの様子もないではありませんが、大変なことです。

日本はどうでしょう。国家のビジョンと、国家のリーダーの役割 がこれほど求められているときは歴史的にもそうはありません。

5月24日、官邸で地球温暖化問題に関する懇談会が開催されました。これが最終回だと思いますが、どう国家の決断がされるのでしょうか?この懇談会の様子や資料はネットで見ることができます。私はやはり早口ですね。いつものことですが反省しています。資料ではパブコメと世論調査の大きな違いが目立ちます。なぜでしょうか?

日本は2006年G8サミットで、2050年までに世界全体でCO2排出量を50%削減するという、「CoolEarth 50」という米国も入れた画期的な国家のコミットメントを出しています。また、2008年の洞爺湖サミットでも2050年までに60~80%削減のコミットメントをしています。

では2020年への日本の中期目標はどこなのか?いまは各論ではなくて、従来のコミットメントを実現する道筋としての国家のコミットメントを宣言する時です。すべての可能性と分析はされているのです。できない理由を言っていてもいたし方ありません。やらなくてはいけないのです。今は大転換のときなのです。

「重層的な国際交流」を推進する教育と人材育成を

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わたしは、この20数年にわたって、若者たちに世界との他流試合をさせることの大事さを主張してきました。このブログの太字で示したようなキーワードで検索してみてください。プロスポーツの開国も、1995年の野茂から始まったメジャーリーグ、そしてサッカーのワールドカップやJリーグなどをとおして、日本の若者が目指す目標と価値観が、世界の若者と同じ方向へと変化しているのです。

日本の“国技”である相撲でさえ国際化して、この夏場所の千秋楽、最後の2つの取り組みの力士は皆外国人力士でした。外国人力士は、相撲界全体で約7%、幕内力士では30%、三役では40%、横綱はというと100%です。それでも、このことに怒りを感じているわけでもないと思います。日本人もがんばれと応援する、そして日本文化の価値が世界で知られるようになっている面もあるのです。

そうです、人材育成こそが国家の根幹であり、日本の将来にとってもっとも大事なことなのです。このグローバルな時代に、若者にはもっともっと外の世界に出て行って、違いや多様性と自分の価値を認識し、世界の仲間との連帯を構築することがもっとも大事なのです。これが私の提言です。

「Foreign Affairs」の1・2月号にPrinceton大学国際関係学部長Anne Marie Slaughterの素晴らしい論文が掲載されています。日本の大学との対比で考えると、日本の将来には不安が大いにあります。彼女は1月末から米国国務省の政策局長に就任しました。素敵な人事です。

先日、世界銀行の会議に参加しましたが、私の主張がハイライトされています。「Multilayered Brain Circulation」の重要性です。この主張を皆さんが支持してくれている証拠だと思います。

さて、日本は変わり大相撲化は進むのでしょうか?大学も企業も、内向きの先生や経営者が多くて、なかなか進みませんね。

カナダからの訪問

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このところカナダの話題(参考 123) が多いのですが、日加修好80周年ですから例年より交流が多いのかもしれません。

カナダの国会議員、House of CommonsOlivia Chowさんが、大使館の政治担当一等書記官Christopher Burtonさんを伴って、政策大学院大学(GRIPS)の私のオフィスに来られました。

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写真: Chowさん、Burtonさん、角南さん

時間は短かったですが、私と角南さんはトロントへ行ったばかりでしたし、話題は尽きませんでした。Chowさんは、Ito Peng教授も仲間ですよ、といっておられました。

どこで、誰がどう繋がっているか、分かりませんね。これが楽しいのですけどね。いつでも、どこでも“個人”として評価されて仲間が増えていくのです。

好機を捉える、大変革のとき。しかし、リーダーはどこに?

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日本の状況はすこぶるよろしくありません。もちろん世界中がよろしくない状況です。変革を起こし、政治、産業、経済、教育等々、将来の展望を皆が模索しているところです。

私の国家ビジョンについては、今年の始めから繰り返し発信していますが、4月25日発売の週刊ダイヤモンドにも「クリーンエネルギー技術を、中国・インドに売り込め!」というインタビュー記事が掲載されました。相変わらず、変われない理由、できない理由を言う人たちばかり。政治家も、産業界でも、リーダーたるものしっかりして欲しいものです。

民主党の党首が鳩山さんになりました。政治はどう動くでしょうか?

日本では公的資金の“投売り的”な補正予算の話ばかりで、もっぱらこれが政局がらみになっています。既得権グループへの“ばら撒き”の様相、または省庁の“つかみ取り”の様相です。将来への展望、ビジョンが示されず、せっかくの大転換のチャンスを捉えていないのです。誰かさんたちの無責任な大笑いが聞こえてきます。

科学技術政策も同じです。降って沸いたような3,000億円の大型補正予算ですが、これを何にどう使うのか?皆さんも良く見ておいてください。オバマ大統領の科学政策とはずいぶん違います。

若者に投資しない国に将来はありません。グローバル時代へ向かう若者たちには、広い世界を見せ、体験させることが大事なのです。若者たちこそが将来の財産なのですから。

Torontoから-2

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「豚インフルエンザ」のニュースが飛び交う中、5月2日の午後に再びToronto大学のMassey Collegeに向かいました。ちょうど昨日のMunk Centerの向かいにあります。Gairdner賞の責任者で、旧友のJohn Dirksさんを5年ぶりに尋ねました。Washington DCから、AAAS の会議に参加していた有本氏も合流。Collegeの古めかしく格調高い雰囲気の小ぶりな図書室で1時間ほど過ごしました。

すでにご報告したように、今年はこのGairdner賞の50周年にあたり、山中さんと森さんの2人の日本人が受賞 しましたので、表敬訪問です。今年の10月に行われる授賞式や記念行事などについても話を聞きしました(参考 12 )。

ついでProf. Jun Nogamiとの面談。Nano-Materialsの第1人者で、2月にCanadaのNanotech研究推進視察団として来日さられた折に、東京のCanadian Embassyでもお会いしました。

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写真1: Massey CollegeでDirksさん、有本さんと

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写真2: Nogamiさん、角南さんと

その後、Peter Singerさん(参考 1 )とお会いし、来年Canadaがホスト国となるG8サミットのアジェンダ等について、共通の話題で議論を行いました。

夜はIto Peng教授と彼女の友人、有本さん、そして角南さんと、レストラン“Sotto Sotto”で楽しいデイナー。最後はもちろん“Ice Wine”で。日本が一番のお客様だとか。

Torontoから-1

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写真1: トロント大学Naylor学長と

5月1日、Washington DCからTorontoにやってきました。5年ぶりになります。今回はUniversity of TorontoMunk Center for International Studiesへの訪問が主目的です。

まずは、Le Royal Meridien King Edward Hotel にチェックインし、一息ついて出かけます。

最初の訪問では、DirectorのJanice Steinさん、Vice-President for University Relations のJudith Wolfsonさん、L.J. Edmondsさん、そしてGRIPSの角南さんと、今年の「Japan-Canada修好80周年」計画の打ち合わせ。特に広い意味でのイノベーションに焦点を絞ろうと双方で提案をしました。しかし、向こうの3人は、女性で皆それぞれがPhD、弁護士、政府関係など、多彩なキャリアを持っており、たいしたものです。

ところで、75周年のときは日本学術会議と「Gender Issue」をテーマで会議を開催し、そこから「日本-カナダ女性研究者交流プログラム」 が始まっています。

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写真2: Munk CenterでSteinさん、角南さんと

ちょうど講堂ではMunk Center Asia Institute主催の「Asian Foodprints」が開催されており、ちょっとのぞきました。今回が第1回目ということで、食から知る文化、今年は「China、Hong Kong」がテーマで、とても面白そうでした。

その後、学長との面談。5年前に訪問した時は、現在のUC Berkeleyの学長に就任する直前だったBirgenenauさんと学長室で昼食をとりました。就任間もないDr. David Naylorさん(写真1)ですが、私と同じ医師であり、医学部長だった方です。まだ若いですがなかなかのキャリアがあり、共通の話題も多く話が弾みました。

その晩は、Munk Center Asia Institute主催の「食から知る文化」のdinner。お客様も大勢で、所長のJohn WongIto Peng教授をはじめ、Stein, Wolfson, Edmondsさんも参加、全体がすばらしい企画でした。来年は日本をテーマにするということです。会場では在トロントの山下総領事在トロント国際交流基金 鈴木所長ご夫妻にもお会いしました。

7月には天皇皇后両陛下がカナダをご訪問されます。これも皆さんの話題になっていました。うれしいことです。

ワシントン、その3: 世界銀行から

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2008年1月に世界銀行で講演(参考 12 )をし、また直後の2月には東京でGlobal Health Summitが開催されましたが、これらから双方向で大きな信頼関係を築くことができました。今回のWashington DC訪問にあわせて、30日の朝から4時間にわたって、科学技術政策と特にアフリカの開発について議論する機会がありました

日本では、昨年のTICAD4 (参考 12 )やG8 Summit 関連会議などを通して、アフリカ支援の強化と、さらに「科学技術外交」(この数年主張し続けていることです。参考 12 )を展開しようという政策が、日米その他各国のアカデミーでも策定されるようになり、それぞれが協力体制を作りつつあります。

大きく動く世界の中で、グローバルな課題に対して世界銀行の科学技術政策はどのような役割が果たせるのだろうか?これは大きな課題です。ちょうど、日本の科学技術の視察団がアフリカを訪問し、その報告会が東京で開催されたばかりでしたので、こちらとしても日本の政策の宣伝にもなるいい機会でした。国際投資銀行(JBIC)国際協力機構(JICA)など、日本からの参加もあり、活発な議論が行われました。なかなか好評でした。

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写真1: 世界銀行で、大使館の上田書記官と

以下、世界銀行での朝食会とパネル「Science, Technology and Innovation Capacity Building Partnership Meeting」の様子です。

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写真2: 朝食会

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写真3: Dr. Nina Fedoroff (参考 1)と Dr. Peter McPherson

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写真4: 世界銀行のDr. Alfred Watkins (参考 1)とUNAIDのDr. Andrew Reynolds

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写真5: 左から、Drs Victor Hwang (T2 Venture Capital)Christian DelvoiePhillip Griffiths

世界の日本に対する期待も大きいですし、日本が世界に貢献できることも大きいはずなのですが、何か内向きの国内事情が寂しいです。この「100年に一度」といわれる危機的な世界の状況に対して、なかなか変われない日本を大改革するという覚悟を示すような、明確な国家ビジョンを政治のリーダー達が示すことが大事です。

それでなければ、いくら国際交渉やトップ外交をしたところで、冷徹な世界では本気で相手にはされないのです(船橋主幹による、註)。世界第2の経済大国といっても、どの程度、日本の国家の意思とその政策が世界に発信され、世界からどの程度信じられているでしょうか。世界は“Japan Missing”と感じているのです。

註: 日本語は「脱力状態の日本外交」(朝日新聞 4月27日 朝刊3ページ)

オバマ大統領のスピーチと科学技術政策

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Washington DCにやって来ました。東京を出発する前夜の27日、オバマ大統領がNational Academyの総会で、科学技術に関する政策についてスピーチがあり、インターネットのライブで聞きました。National Academyでスピーチを行った大統領は4人目で、しかも20年ぶりだということです。National AcademyのWebサイトでこのスピーチを見ることができます。力強い、将来を見据えた素晴らしい構成と内容です。

科学技術研究開発(R/D)への投資をGDPの3%を目指すという目標を掲げ、さらに将来へ向けて一番大事なこととして、特に数学と科学教育の予算増を挙げ、その内容について踏み込んで明確にコミットメントを示しました。これらの政策は従来からNational Academy等の独立したシンクタンクから提言されている政策、つまり客観性を保証した、しかも根拠を明確にした上で予算化しているということです。このプロセスは大事です。

現在の経済危機ではこうした「将来への明確なメッセージ」、つまり将来への明確な展望とコミットメントが大事なのです。

日本の大型補正予算でも、新しい予算でもいいですが、この経済危機的状況では、まず(1)さしあたりの出血への手当としての支出、(2)この2~3年の雇用と社会保障、そして医療等の社会インフラへの手当て、そして(3)将来の社会像を見せる新しい産業と成長への投資、つまり新しい産業の「芽」としての基礎研究と、人材の育成に多く予算をつぎ込むなどが必要です(今の教育制度へいくらつぎ込んでもグローバル時代の人材育成へとはあまり効果はないでしょう。OECDの中でも日本の教員予算はあまりにも少ないです)。
各省庁から出てくる政策ばかりでは変わらないでしょう。官邸で行われる有識者の総理への提言をみてください。どの程度上の(1)~(3)の視点に立った提案がされているのか、皆さんで調べてください。私の提案もこの中の「低炭素、環境」で見ることができます。

政治家のリーダーシップと社会へのメッセージは多くの人々に力を与えるパワーがあるのですけどね・・・。

さまよう医療政策改革、「プリンシプル」のない日本の政策

医療崩壊とか医師の定員増といい、卒後臨床研修もご都合で後退し、この国の政策はどんな目的で、何をしようとしているのかさっぱり分かりませんね。皆さんもそう感じているのではありませんか?

皆さんが、それぞれいろいろな立場で、多様な意見をお持ちなのは当然です。しかし、政策というのは大きな流れとその背景を踏まえて、基本的な認識があり、その手段としてあるべきものです。手続きは「民主的なプロセス」のはずですが、わが国では必ずしもよく機能しているわけではありません。

最近の医療制度対策といわれるもののどこに問題があるのでしょうか?それをテーマにした木村健先生との対談記事「プリンシプルのない日本:"医療崩壊"の打開策とは」 が出ましたので、紹介します。

このブログでも繰り返し述べていることですが、日本の政策の多くは手段としての議論であり、いつの間にか、本来の大きな目標がどこかに行ってしまう。つまり、「原理、原則=プリンシプル」がない。あるいはいつの間にか「手段」が「目標」になってしまうのです。これは「外」から見るとよく見えるのですね(「岡目八目」とかね)。

以前もある書評でこのことについて触れましたね。