アラブ首長国連邦の大学生たちの来日

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アラブ首長国連邦 (The United Arab Emirates; UAE)  は日本ととても強い関係があります。ドバイ 、アブダビなどがよく話題になります。このサイトの内部でもサーチしてみてください。私も2007年からご縁があって数回にわたって訪問しています。

特にドバイは、その急成長振りで世界中の話題になっていましたが、今は世界経済危機の影響もあって、しばらく様子見でしょうか。

首長国ではアブダビがもっとも大きく、そこが首長国石油の殆どの石油を産出します。ここの石油輸出量の50%は日本へ、日本の石油輸入の25%がアブダビからです。日本とは良い関係が構築されていますし、親日的なことでも知られています。

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写真; Khalifa大学の学生さん、慶応大学の先生、三菱重工の方、波多野大使と。白い服の方たちがUAE国籍の学生さんです。この服はKandura、というようです。

アブダビのKhalifa大学(理工系大学です)の学生さんが15人ほど、2回にわたって1週間ずつほど、来日しました。1回目は女子学生ばかりですが、2回目の男子学生さんたち。この後のグループとお会いする機会がありました。慶応大学や、つくばにある研究所の訪問などの行程で、ずいぶん充実した時間をすごしたようです。

若い人たちの交流は将来へ向かってとても大事なことです。皆さんがグローバル世界のパートナーとなる人たちですから。

学生さんは大部分が首長国連邦の方ですが、一部はSudan,  Palestine,  Lebanon,  Syriaなどからの人たちでした。

ドバイをハブ基地とするEmirates Airline  が有名ですが、来年から成田にアブダビの航空会社 Etihad が就航の予定です。

政治の行方、ジャーナリスト清水真人さん

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いよいよ衆議院選挙です。4年前の2005年9月11日、小泉総理の「郵政」解散から自民党が圧勝した衆議院選挙がつい最近のようにも感じられますが、それから小泉、安倍、福田、麻生とそれぞれ約1年ずつ総理を務めた、なんだか「不可解な」時間を過ごしたと、感じる方も多いでしょう。

このような政治の背景や真実は分からないことが多いわけですが、ここにはジャーナリストの使命があるのです。

日経の清水真人さんは、小泉総理による官邸主導の経過と記録、経済財政諮問会議の活動、そして小泉総理以降の3人の総理の交代劇について、わが国の政治の経過の「実録」を出版してくれました。いまでは“3部作”です。

1冊目を読んで大変感心したのですが、さらに2冊をタイムリーなテーマで書いています。

「官邸主導 小泉純一郎の革命」(2005年)
「経済財政戦記」(2007年)
「首相の蹉跌」(2009年)

日本の国家政治に何が起こったのか?誰がいつ、何をし、どう動いたのか、どのような意味があったのか、入念な取材に基づいた記録です。

ニュース、テレビ、週刊誌などの報道は、時間や紙面の制限から私たちには十分に理解できないことだらけです。しかも、これらの報道を私たちが後になって見る、読む、調べるというのはほぼ不可能で、大変なことなのです。

だからこそ、現役の記者が、取材した材料をもとに、多忙の中にもかかわらず、タイムリーに本として出版することはとても大事なことであり、国民にとっても大変ありがたいことです。良い記録にもなります。3冊目の著者の「あとがき」が、さすがにめまぐるしい展開があったこともあり、著者の苦労をよく表しています。

新聞を中心に、ジャーナリストはそれぞれ専門性を持って取材し、勉強し、記事を書くのですが(デスクなど、毎日のニュースの重要性などを考慮した編集の方針があり、多くは紙面に出ないのでしょうが)、新聞の一過性、紙面の限定等で、記事だけでは十分でないことが大部分でしょう。他にも週刊誌、月刊誌などがあります。新聞紙上でのシリーズもあります。かなりの記事はネットで見れるようになって来ましたが、でも、一つにまとめて、加筆したものをノンフィクションとして出版することの意義はとても大きいと思います。

闊達なジャーナリズムを作るかどうか、これは報道関係のメディア関係者、組織の意識と倫理の課題であろうと思います。

メディアは社会に責任ある大きな権力です。あいも変わらずの「記者クラブ」もいい加減にしてほしいです。組織が硬直化し、ジャーナリストがサラリーマン化していては、おしまいです。しかも、世界から広く見られているのです。国内向きの理由だけでは通じません。

「製造業ガラパゴス化」からの脱出

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携帯電話を典型例として、ハイテクではあるが世界を目指さない、目指せない日本の製造業について“ガラパゴス化”という表現が使われるようになりました。

「ガラパゴス化」はどこが課題で、どう克服していくか?i-modeの生みの親、夏野剛さんたちが「超ガラパゴス研究会」というのを立ち上げました。私も応援団の一人として参加しています。「ガラパゴス」をどう越えていくのか、これが目的です。初回から熱い議論が行われました(参考12)。

日本の技術を“引きこもり”経営から、世界へ展開して欲しいのです。

夏野さんと言えば、歯に衣を着せない本物のEntrepreneur。“出る杭”、実力派、果敢にチャレンジ、失敗を乗り越える、世界が認めるリーダーの一人です。一緒にいてもとても気分がいい人です。こういう人たちを応援しなくては、と思います。

最近のインタビューをご紹介します。「フム、フム」と納得、わが意をえたり、というところですね。

ジャック・アタリの「21世紀の歴史」

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人類の歴史を振り返り、将来を予測する、これはいつも大事なことです。「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」、「Historia Majistra Vitae」 、洋の東西を問わず、同じ言葉が受け継がれています。「人間の知恵」です。このブログでも再三にわたって発信しているメッセージです(参考: 1234)。

前回はFareed Zakariaの著書を紹介しましたが、フランスを代表する現代の知性ともいわれるジャック・アタリによる「21世紀の歴史:未来の人間から見た世界」も大変面白い本です。これは長い歴史から学び取れる「21世紀を読み解くためのキーワード」を抽出し、そこから考察する21世紀の予測です。「歴史の法則、成功の掟は、未来にも通用する。これらを理解することで未来を占うことが可能になる・・・」、ということです。

邦訳に当たって、短いのですが「21世紀、はたして日本は生き残れるのか?」、また最後に「フランスは、21世紀の歴史を生き残れるか?」が追加されています。それにしても、私はフランス語を読めませんが、英語本と読み比べると、邦訳はずいぶんと量が増えるものですね。

この著書を話題に、NHKがジャック・アタリの2時間にもなるインタビューを放映しました。テレビでご覧になった方も大勢おられるかと思います。

この本は6章の構成です:
1.人類が市場を発明するまでの長い歴史
2.資本主義はいかなる歴史を作ってきたのか?
3.アメリカ帝国の終焉
4.帝国を超える「超帝国」の出現 -21世紀に押し寄せる第1波
5.戦争・紛争を超える「超紛争」の発生 -21世紀に押し寄せる第2波
6.民主主義を超える「超民主主義」の出現 -21世紀に押し寄せる第3波

2006年の発行ですが、「アメリカ、終焉の始まり」で、「アメリカの金融システムは増殖し、過剰となり、無制限に活動し始め、制御不能に陥った。このシステムは、産業に対して到底達成不能な資本収益性を要求し、産業を担う企業に対して企業活動に必要になる投資行為よりも、こうした企業が稼ぐマネーを金融市場に放出することをもとめた・・・」、そして「サラリーマンの債務もますます増加した。特に公営企業2社(アメリカ第2位の企業である連邦住宅抵当公庫Fannie Mae、アメリカ第5位の企業である連邦住宅貸付抵当金庫Freddie Mac) は4兆ドルの抵当権を所有ないし保証しており、その債務は10年間で4倍に膨れ上がった・・・」(p.128、129)。2007年夏に始まる金融パニックを起こしたように、ここで「サブプライム問題」を予告していたといえます。

また「中心都市」というコンセプトを提唱し、「これまで市場の秩序は、常に1つの「中心都市」と定めて組織され、そこには「クリエター階級」(海運業者、起業家、商人、技術者、金融業者)が集まり、新しさや発見に対する情熱に溢れていた。この「中心都市」は、経済危機や戦争が勃発することにより他の場所へ移動する。」(p.61)

数多くの「未来への教訓」が示されているが、ここでは、いくつかだけ示そう。例えば、
「知識の継承は進化のための条件である」(p.31)
「新たなコミュニケーション技術の確立は、社会を中央集権化すると思われがちだが、時の権力者には、情け容赦ない障害をもたらす」(p.77、脚注*1)
「専制的な国家は市場を作り出し、次に市場が民主主義を作り出す」(p.98)
「テクノロジーと性の関係は、市場の秩序の活力を構造化する」(p.111)
「多くの革新的な発明とは、公的資金によってまったく異なった研究に従事していた研究者による産物である」(p.120)

註1:いくつかの講演で「Incunabulum, Incunabula」というラテン語を使って、「フラット」な世界での「タテ社会」の脆弱性を指摘しています(参考 123)。

21世紀に現れるいくつかの現象には、サブタイトルが面白い。例えば;
「歴史を変える「ユビキタス・ノマド」の登場」
「地球環境の未来」
「時間 -残された唯一、.本当に希少なもの」
などなど。

そしてここから、第4章が始まる。これから起こるであろう第1波、第2波、第3波。じつに面白いというか、恐ろしいというか、かなり現実となるような予感がします。今もそれらの兆候は見えています。

この本を読んで思い浮かべたのは、J. ダイアモンドの「文明崩壊」でした。

ぜひ、これらの本も「The Post-American World」などとも併せて、読んでみてください。

アメリカ後の世界、The Post-American World

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Fareed Zakaria(1964年生まれ)は新進気鋭な世界でもっとも活躍している“旬”なジャーナリストで、Newsweek International Editionの編集者です。ご自身のサイトもあります。

2008年に「Post-American World」という本を出版。とても興味深く読める、示唆に富む内容の本です。素晴らしい洞察と筆力、広い視野と見識。皆さんに、特に若い人たちにも広く読んで欲しい本の1つです。

章の構成は;
1. 「アメリカ以外のすべての国」の台頭
2. 地球規模の権力シフトが始まった
3. 「非西洋」と「西洋」が混じり合う新しい世界
4. 中国は「非対称な超大国」の道をゆく
5. 民主主義という宿命を背負うインド
6. アメリカはこのまま没落するのか
7. アメリカは自らをグローバル化できるか

彼がインド出身で、18歳までインドで育ったという背景もあり、アメリカと中国を中心とする大きな政治経済という見方ばかりでなく、これからの大国インドの中長期的な視点と課題などを盛り込んだ、大変興味深く、また他の同類のテーマの書籍とは少し違った見方を与えています。

「アメリカ後の世界」というのは、アメリカ一極ではなく、“その他の台頭”ということです。特に中国とインドは、大きな問題を抱えていますが、その人口からも大きく成長し、世界で大きな意味を持つことになるでしょう。その辺りの視点がなかなかのものです。

彼はインドに生まれ、イスラム教徒の家庭で育ちます。小中高教育をムンバイの名門校で学び、Yale Universityに留学。さらに、Harvard大学において政治学でPhDを取得。27歳という若さで「Foreign Affairs」(Council of Foreign Affairsの出版物)の編集長へ大抜擢され、2000年から現職のNewsweekの編集者となりました。

「アメリカは“大きな島国”だ」という彼の認識は、講演などで度々話している私の主張とも合致しています。彼は第2章の最後で次のように書いています。(p. 69-71)

「アメリカの政治家は見境もなく他国のあら探しをしては要求を突きつけ、レッテルを貼り、制裁を加え、非難を浴びせかける。過去15年間に、アメリカは世界人口の半数に対して制裁を発動してきた。世界中の国々のふるまいに毎年毎年、通信簿をつけている国は、アメリカ以外に存在しない。ワシントンDCは独善によって足もとがふらつき、外の世界から浮いた場所になってしまった。」

「2007年度のPew Research Center(アメリカの独立したシンクタンクの一つ=脚注)による世界動態調査によれば、自由貿易、市場開放、民主主義を支持する人々の割合は、世界各地で驚くほど増加した。中国、ドイツ、バングラデッシュ、ナイジェリアなどの国々では、各国間の通商関係が深まるのは好ましいことである、大多数の国民が回答している。調査対象となった47ヵ国のうち自由貿易への支持率が最も低かったのは、何を隠そうアメリカだ。調査が行われた5年間で、その支持率の落ち込み幅が最も大きかったのも、やはりアメリカだ。」

「続いて外国企業に対する態度を見てみよう。ブラジル、ナイジェリア、インド、バングラデシュなどの国々では、外国企業に良い印象があるかとの問いに、大多数の国民が「はい」と答えている。歴史的に見ると、これらの国々は総じて西洋の国際企業に不信感を持ってきた(背景には、南アジアの植民地化がイギリスの1企業、<イギリス東インド会社>によって始められたという事実がある)。しかし現在では、インド国民の75パーセント、バングラデシュ国民の75パーセント、ブラジル国民の70パーセント、ナイジェリア国民の82パーセントが、外国企業に好感を示している。対するアメリカ国民はといえば45パーセント。これは世界の下位5ヵ国に入る数字だ。アメリカ人は、世界じゅうでアメリカ企業が大歓迎されてほしいと望む一方、自国に外国企業が入り込むと、まったく逆の反応を示す。」

「このような矛盾がよりはっきり表れているのが、移民への態度だ。移民問題で世界の手本だったアメリカは、これまでの自国の歩みに逆行し、怒りと萎縮と防御の姿勢をとるようになってしまった。また、かつてのアメリカ人はあらゆる最先端技術の開拓者であろうとしてきたが、今では技術革新からもたらされる変化に戦々恐々としているのだ。」

「皮肉にも、「その他の台頭」を招いたのは、アメリカの理念と行動だった。60年間にわたり、アメリカの政治家と外交官は世界中を訪問して回り、市場の開放や、政治の民主化や、貿易と科学技術の振興を迫ってきた。遠く離れた国々にも、グローバル経済下での競争、通貨の規制撤廃、新しい産業の振興など、さまざまな難題に挑むよう煽りたて、変化を恐れるな、成功の秘訣を学べ、とアドバイスを送りつづけた。この努力は実を結び、世界の人々は資本主義にすっかり適応した。」

「しかし、今日のアメリカ人は、自分たちでさんざん奨励してきたものに疑念を抱くようになっている。この態度の豹変は、ものや人の流れがアメリカへ向きだしてから起こった。つまり、世界が門戸を開いているさなかに、アメリカは門戸を閉ざし始めたわけだ。」

「後世の歴史家たちは、これからの数十年間を、次のように記述するだろう。21世紀初頭、アメリカは世界のグローバル化という歴史的偉業を成し遂げたが、その過程で自国のグローバル化をし忘れたのだ」

脚注:最近では、日本が深くかかわっている国際捕鯨問題の調査も支援し、その会合の一部に私も参加しました。今年の4月にはAsia Societyと共同で「A Roadmap for US-China Coorperation on Energy and Climate Change」を発表。

また、Zakariaは米国の成長産業は「大学教育」と指摘しています。自分の受けてきた教育も「アジア式」であり、「暗記と頻繁な試験を重視するのである・・・毎日大量の知識を頭に詰め込み、試験の前には一夜漬けで暗記をし、翌日にはすっかり忘れさるということを繰り返していた。」

「だが、留学先のアメリカの大学は別世界だった・・・正確性と暗記は殆ど要求されず、人生での成功に必要なこと、すなわち精神機能の開発に重点がおかれていた。他国の制度が試験のための教育を行うのに対し、アメリカの制度は考えるための教育を行うのだ。」(p. 254)

「シンガポールの教育相が自国とアメリカの教育制度の違いを説明してくれる。「両国はともに実力主義を採用している。そちらは才能重視型の実力主義、子こちらは試験重視型の実力主義だ。われわれは生徒に高得点をとらせるノウハウを持っている。アメリカは生徒の才能を開花させるノウハウを持っている。それぞれに長所はあるが、知力には試験で測れない部分が存在する。創造性、興味、冒険心、大志などだ。なによりもアメリカには学びの文化がある。これは伝統的な知恵に、ひいては権威に挑戦することを意味する・・・」(p. 254, 255)

Zakariaさんが若くして世界のオピニオンリーダーの一人となり、羽ばたくことができたのも、アメリカで受けた大学教育の影響が大きいのです。説得力のある議論だと思います。しっかり、日本の大学教育と比べて考えてみてください。

もっとも彼は、「このようなアメリカの優位性は、簡単に消え去ることはないだろう。なぜなら、ヨーロッパと日本の大学―大多数は官僚主義的な国立大学―が構造改革を行う可能性は低いからだ。」と書いています。そしてさらに「インドと中国は大学の新設を進めているが、20~30年で世界レベルの大学を1から作り上げるのは簡単ではない。」(p. 252)と指摘しています。

ケインズとシュンペーター

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ウォール街に端を発するリーマンショック(2008年9月)から、世界的規模の金融危機、経済の低迷が続いています。各国で公的な支援策が取られ、広い意味で政策競争の様相を呈しています。

そこで出てくるのがケインズ、そして、“イノベーション”を経済学の中心に据えたシュンペーターです。シュンペーターは強烈なケインズの批判者であったそうです。この一見“矛盾”する2人の経済学が、なぜ両方とも必要なのでしょうか?

この20世紀前半の2人の経済学の巨人について書かれた本が出ています。経済学者吉川 洋先生著の、「いまこそ、ケインズとシュンペーターに学べ」です。これは、とても面白いです。吉川先生らしく、きちんと検証が行われ、内容も面白い、経済学者向けに書かれているわけではないので、私でも結構理解できるのです。

このケインズとシュンペーターの2人の巨人は、同じ1883年に4ヶ月ほどの違いでそれぞれ大英帝国のケンブリッジとオーストリア(ハンガリー帝国 モラヴィア・・・今のチェコ東部)のウィーンに生まれ、死ぬのも4年程度の違っただけです(ケインズがブレトンウッズの翌々年1946年、シュンペーターが1950年になくなっています。これについては、谷口智彦さんの「通貨燃ゆ」が面白いです)。それぞれの時代と場所、生まれ育った背景、教育や先生との関係などについてもよく理解できます。

今の日本にとっても、政策的にもなかなか示唆に富む、内容のある読み物です。

特に面白いと思った箇所はいくつもありましたが、例をいくつか:

1.「・・・企業者(脚註)が新結合を行う動機はいったいなんだろうか、彼らは決して経済的利得、金銭を求めて新結合を遂行するのではない。そうシュンペーターは断言する・・・それどころか、「もしこのような願望が現れたとすれば、それは従来の活動線上の停滞ではなく彼の減衰であり、自己の使命の履行ではなく肉体的死滅の徴候である」とすら言っている。・・・企業者の人間類型につきシュンペーターは明確に語っている・・・」(p.56, 57)

脚註:この「企業者」と「起業家」について吉川先生に電話で問い合わせてみたところ、経済学的には「企業者」であって「起業者」とは言わないそうなのです。でも、一般的に読者にとって「起業家」のほうが適切かもしれませんね、とのことでした。以下の「企業者、企業家」については「起業家」と考えて結構です。

2.「シュンペーターの言う企業家、すなわちイノベーションの担い手としてまさに資本主義を資本主義たらしめる主人公は、誰にも備わっているわけではない特別の能力に恵まれた人間だ。「能力」といったが、イノベーションはけっして冷静な計算のみによって生み出されるものではない。むしろイノベーションを起こさないではいられない一種の衝動を持った企業家のみがそれを生み出しうるのである。
ここで想起されるのは哲学者フリードリッヒ・ニーチェ(1844-1900)の処女作「悲劇の誕生(1872年)」だ。古典古代におけるギリシャ悲劇の変遷をニーチェは「アポロン的なもの」と「デイオニュソス的なもの」という二つの対立する概念を用いて論じた。太陽神アポロンはその光によってすべてのものに明確な形をあたえる。理知・理性はアポロン的なものである。一方、酒の神デイオニュソスの本質は陶酔である。シュンペーターの考える「企業家精神」は、ケインズの「アニマル・スピリッツ Animal spirits」と同じように明らかにデイオニュソス的なものだ。」(p.227, 228)

さらに経済と人口減少について、

3.「ケインズはケインズらしく、人口減少と経済の関係についていかにも経済学者然として論じた。これに対してシュンペーターが残した言葉は、はるかに「文明論的」である。」(p.210)

そして、

4.「しかしやがて生身の人間としての企業家自身が、資本主義の発展に伴い自らの「効用」を最大化する「普通の人」に変質してしまう。個人の効用最大化はどのような帰結をもたらすか。子供を生み育てるコストを冷静に計算し始めたとたんに少子化が始まる。シュンペーターは、企業家精神の衰えを示す兆候として少子化の進展を挙げるのである。」(p.229-230)

この2人の巨人は、お互いをどう認識していたのか?これも大変に面白い人間のドラマなのです。

皆さんも、ぜひ読んでみることをお勧めします。温故知新です。

また最近、George A. AkerlofとRobert J. Shillerによる“Animal Spirits: How Human Psychology Drives the Economy, and Why It Matters for Global Capitalism”が出版されました。

この本を読んで、この半年に渡る我が国の政策に対する感想ですが、

スピードも大事ですが、「100年に一度」(グリーンスパン元FRB議長)などといって、検証もせず、いい加減な公的資金の投入では困ります。政局がらみであることもありますが、補正予算などをみていると、ばら撒きに近く、縦割り予算になっている。政治、産業、大学、そして科学者も、リーダーシップにかけると思います。

本当かどうかは別として、「100年に一度」というのであれば、数年先からの大転換を明示したビジョンと政策の導入をしなければなりません。これがないのですね。このブログやいろんなところで繰り返し発言し、指摘しているところですが。(参考: 123456

産業構造もこのままでいいのでしょうか?今の産業界に“イノベーター”が出てくるのか?

社会のどこにでも必要なのは“イノベーター”。つまりは「出る杭」、「進取の気性に溢れる人たち」です。この様な人たちが極めて大事なのです。

インドIIT学生の日本での研修

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ASIMO Demonstration@Honda Aoyama Welcome Plaza from Kihoko Suda on Vimeo.

Indian Institute of Technologyといえば、インド屈指の名門大学で、世界で活躍する多くのリーダーを輩出しています。

そこの優秀な学部学生を対象に、本田財団による“Young Engineers and Scientists”が2007年から開催、表彰されています。インドでは毎年5人が選ばれますが、去年の表彰式で私とIPCCのPachauriさんがお祝いのスピーチをしたことはこのブログでも報告しました。

その後4人の受賞者を日本に招き、2ヶ月間の研究と研修に従事してもらいました(参考)。インドの若者が日本を知り、好きになり、“日本大使”の役割をすることにもなるのですから、とても素晴らしい企画だと思います。日本の学生にも、この反対のことを積極的にさせたいものです。

今年は5人の受賞者全員が日本で2ヶ月を過ごしました。2人は岡崎自然科学研究機構で遺伝子工学を研究し、2人が宮崎市と埼玉県の朝霞市にあるホンダの研究所、そして1人が芝浦工業大学で過ごしました。違う国の研究環境や町の環境。違う価値観、正確な電車に親切な人達など、皆さん、本当に感激の2ヶ月間だったととても喜んでいました。

帰国前にホンダ財団の方々、GRIPSの角南さん、そしてIITの学生さん(1人は参加できませんでした)とお別れの食事会を開催しました。今年の6月に行われたIITの卒業生たち等との交流でお会いした方たちも3人ほど参加して、大変盛り上がりました。

若いときの異国、異文化との出会いはとても大事な財産です。人生の価値観、選択肢が広がります。“フラットな世界”の中で“Connecting Dots”となる可能性もとても大きいのです。

本田財団の方々、学生の指導にあった先生たち、その他関係者の皆さん、本当にご支援ありがとう。

 

米国内科学会日本支部

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この米国内科学会日本支部というのはなかなかユニークなものです。なぜ米国内科学会(American College of Physicians- ACP)日本支部があるのか?これについては以前にもご紹介していますので参考にしてください(参考12)。

2004年春の設立以来、ACPの会長の参加も得て、総会を開催しています(活動報告はこちら)。私も設立から関わっており、あと1年ほどGovernor支部長を勤める予定です。

この総会は国内のものとはちょっと違っていて、上下関係があまり感じられないところに特徴があります。これは特に若い人たち、医学生や研修医たちから言われることです。

去年の報告はこのblogでも。

今年の総会は、日本内科学会の協力を得て、4月に東京で開催されました。女性医師の活動や症例検討などに活発な議論が盛り上がり、若い人たちの熱気が感じられた会でした。会場の雰囲気はこちらでご覧下さいまた、去年の総会の報告もこのブログで紹介していますので、見てください。

さらにその2週間後には米国PhiladelphiaでACP年次総会もあり、多くの会員が忙しい中を参加していただけました。

これらの一連の活動報告ができあがりましたので、興味のある方はぜひ目を通して、会の活動状況や多くのメッセージ、写真なども楽しんでください。

グローバル時代のイノベーション

今年の2月、学士会の午餐会「グローバル時代のイノベーション」という講演をさせていただきました。学士会会報 877号(平成21年7月号)に掲載されています。お時間のあるときに、目を通していただけるとうれしいです。

この10数年ほど、世界中で「イノベーション」政策が大流行。私の話しぶりからScienceのインタビューでは「’Innovation’ Mantra」(お題目としてのイノベーション)というタイトルをつけてくれました。「言いえて妙」です。

世界中がどんどん変化していますが、さて日本はどうでしょうか?皆さんのご意見はいかがでしょう。

素敵な計画「Grameen Change Makers Program」

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早稲田大学2年生の3人とそのお仲間達が、去年の暮に訪ねてきました。彼らはバングラデッシュを訪問し、その状況に愕然として、「自分たちで何かできないか、そこから日本を変えたい。僕たちはやりますよ!」と。

彼らは、再度バングラデッシュを訪れて、多くの人たちと知り合い、1人は1年間大学を休学して現地で活動を始めました。この1人とは都合で会えなかったのですが、残りの2人が報告を兼ねて来訪されました(彼等のblogはこちら。写真つきで熱い内容です)。

いろいろと計画を進めていますが、その一つが「Grameen Change Makers Program」です。素晴らしい行動力、構想力、実行力です。現地の体験からの発想と、日本への思いがよく出ている計画です。一橋大学の米倉誠一郎先生にもずいぶんアドバイスを頂いているようです。

ここでのポイントは、「現地での体験が大事」ということです。ここから自分の中にある何かに気がつくのです。それでないと現地に意味のある貢献ができないのです。前に書いたコラムでも指摘したところです。

また、大学を1年休学するということも、とても素敵なことです。私は、多くの学生に、学部生の時に1年間の休学したり、交換留学をすることなどを勧めています。大学も休学する学生からお金を取ることもないでしょうが、むしろ大学も、国も、少々の応援資金を出すぐらいのことを考える時だと思います。企業が奨学金を出すのもいいことだと思います。このような若者の交流こそが、日本の将来を作る人材育成には欠かせない、決定的に大事なことです。

この「Grameen Change Makers Program」へ多くの若者の参加と、皆さんの応援をお願いします。大学も、企業も。

もっともっとこのような活動を広げることにこそ、日本の未来がかかっているのです。