サマーダボス -2  輝く日本女性たち

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今回のサマーダボスの感想です。一言で言えば地元とはいえ、中国の元気とプレゼンスの大きさ、政府の力の入れようは温家宝首相、天津市長の挨拶など、すごいものです。そして今回のサマーダボスに関してはそのウェヴサイト(webcast 写真も沢山ありますーいろいろ探してください)、石倉さんのいくつもの報告(9月9、10、12、13、16日分)も読んでください。大いに現場感があり参考になります。

日本からも大勢の参加があってうれしいです。興味あるセッションが多く、パラレルに複数の会場で開催されるし、個人的なネットワーキング、相談事もありますし忙しいです。第2日のレセプションでも大勢の古い、また新しい友人に会いしました。

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レセプション1-4; 3つのレセプション風景、China Daily社長とスタッフと韓国Yonsei大学Moon教授(左端)

IdeasLabでは慶応義塾大学東京大学が参加、これもうれしいことですね。両方とも石倉洋子さんがセッションを引っ張ります。この2つにしても私は全部を聞き、議論に参加したわけではありませんが、慶応はインターネット、携帯電話など情報系を中心に村井さん、夏野さんなどが情報系のテーマで、プレゼンも上手に刺激的なプレゼン。特に夏野さんの日本の携帯機能には参加者も驚いていました。これがなぜ世界の一定のターゲット市場を開拓する、届けようとしないのか、できないのか、この辺の課題はこのお2人のほかにも私も参加している「超ガラパコス研究会」でも議論しており、間もなく政策提言が出ます。東京大学は持続可能な人間社会をテーマに環境、特に「水」問題が中心のテーマ。これも光触媒の橋本さん、世界水バランスの沖さんなど、面白いセッションでしたが、ちょっと時間が足りずに残念。これらの詳細などはウェヴサイト(資料)で見られますので、お時間のあるときに楽しんでください。

Photo_5_ishikurasan 写真5; グローバル競争力報告パネル

ダボス会議を主催する世界経済フォーラムは毎年「グローバル競争力報告 The Global Competitiveness report」 を発表しています。日本では石倉さんたちが分析、評点など、この報告書作成に参加しています。今回の2009-2010年度 では、日本は133国で8位 (8/133) です、悪くないです。これで安心していてはいけません、もっともっとできることがあります。元気を出しましょう。自分の得意なところと独自性を伸ばし、活かし、世界へ思いを馳せ、広げる、そこへ果敢に行動することです。この報告書を取り上げたパネルはBBCの有名アンカーNik Gowingの司会で、Vietnam (75位/133国) 副総理、Costa Rica (55/133) 通商大臣, Mauritius (57/133) 副総理と石倉さんでした。石倉さんによる報告の説明に始まり、各自のコメント、考えなど、そして最後に会場のZimbabwe (132/133)の大臣にも Nikからの問いかけ(ちょっと意地悪ですね)があり、その課題、計画、世界への約束などの返答があり、これが石倉さんに振られますが、うまく答えていますね。

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写真6-9: 国谷さん司会のパネル(6、7)、道傳さん司会のパネル(8、9)

最終日のグローバル金融についてのホットなパネル「Asia’s New Role in Managing the Global Economy」 はNHK「Close-Up現代」でおなじみの国谷裕子さんが、一流のパネラー5人を相手に、IMFの役割などなど、この難題をとてもうまく捌き、進めました。最終の全体セッションの直前の一つはNHKのホストで道傳愛子さんの司会による「China, Japan and South Korea; Shifting the Power Equation Together?」 。これも事前の打ち合わせの時間がそれ程あったとも思えませんが、なかなか上手な司会ぶりでした。近いうちに日本で放送されるでしょう。

ここに紹介した日本の女性3人はとても英語が流暢ですが、それだけでなく司会として出すぎず、でもしっかり「カンドコロ」を押さえて発言をひきだす、時に挑発しながら全体を流れるように動かすなどなど。パネル参加とはまったく違ったスキルが要求されるのですから、とても大変と思います。上手な人の捌き方を見たり、自分で経験し、広く評価してもらいながら、うまくなってくるのでしょう。何事も勉強と、世界のモデルを見ること、まねしてみること、実践してみること、経験と評価と反省から進歩でしていくのですね。「暗黙知」とも言うもので、決してマニュアルでは得られない能力です。

今回は何人もの日本の方たちも参加し、活躍しましたが、特に女性陣が司会というパネル全体を仕切る役割で活躍が目立ったのではないでしょうか。IdeasLabを含めると、ここに書いた日本女性が司会した4つのセッションでは、パネラー、プレゼンは全部が男性でした。だからなおさら、目立ったのでしょうか? 相当な立場の男性を、うまく順々にスポットライトを当てていくというような役回りですからね。私の偏見ですかね? 日本の方の活躍が目立つことはいいことです。

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写真10-11:皆さんとデイナー

最後の夜は日本からの参加者12人ほどで国谷さん、道傳さんほかの方たちととても楽しい夕食会(写真11)。この機会を持てたこと、とてもよかったです。この席は女性男性が半々でした。

サマーダボス・大連で:「D.Light」 など、活躍する社会起業家たち

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夏のダボスでも「社会起業家」たちは注目です。日本は技術先進国ですし、とかく世界を国内からばかり見ているので、国際貢献といっても、思考、製品の基本に「現地での感覚がかけている」、「進んだ技術に気をとられすぎる」傾向があり、これが日本の「弱さ」だということに気がつかなくてはいけません。

このような視点で立ち上がってきたのが、すでに紹介したMITのD-Labです。

社会起業家をテーマにしたIdeasLabで提示された事例の一つが「D.Light」(資料1)のNed Tozanで、これは最も注目を集めました。インドやアフリカでは電気がなく、夜はケロシンを燃やしているところもあります。危険ですし、健康にも良くない、貧しい人にとってそれなりのお金もかかります。これを何とかしたい。ここから始まります。皆さんの意気込みが伝わってきます。

他にも;1)出稼ぎに来た人たちにそれなりの教育と能力開発をし、帰国して自立できるようにしようという活動、2)小さな土地しかない人たちを自立させてきた活動、3)カンボジアなどで若い売春婦にさせられた女性を自立させてきた活動などなどです。

Tozanさんに、「これはD-Lab (資料1)から出てきたの?」と聞くと、「そうです」、といっていました。先日、MITが始めた素晴らしいコースとして紹介しましたが、そのときにも卒業生を通してどんどん広がって、Stanfordの学生が始めた成功事例として話を聞いていましたが、やっぱりそうでしたね。創業者のSam Goldman資料1) の背景からもアメリカの若者 たちの、若いときからの世界へという考え方、活力、駆動力、それも受け止めるエリート大学のイノベーションは素晴らしいと心の底から感じます。

日本のビジネスも若者も、世界の問題に自分で実体験として接してみると、このような人たちが、もっともっと出てくるのでしょうね。引きこもりなんてもったいないです。自分たち世代から20歳、30歳年上の周りの「おじさんたち」を見ていると、それしか選択肢がないと思い込んで、将来が暗くなってしまうのでしょうか。そんなことはありません。「若者にはもっと外の世界を見せ、体験させる」(資料)このことこそがこれからの世界の日本の構築には大事なのです。いつも言っていることですが、再確認しました。世界は広いのです、Steve Jobsの「Don’t Settle, Keep Looking」資料1)です。

ダボス会議東京事務所開所記念の集まり、そしてニューデリー、台北、サマー・ダボス大連へ

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ダボス会議は世界的に知られているいわゆる「track2」のグローバル社会の対話の場であるといえます。このサイトでも「サーチ」していただければ多くの報告が読めます。今年で39年ということですが、今回東京の事務所を開設しました。世界で4番目ということですが、うれしいですね。なぜでしょうか、日本への期待でしょうか。しっかりしたいものです。

9月4、5日にお広めの会(資料) が東京であり、多くの方が集まってくださり、大変に活気のある会議となりました。ちょうど衆議院選挙が終わり、歴史的ともいえる新政権ができる期待もあり、鳩山民主党党首(ダボス会議議員連です)もご挨拶にこられ、力強いスピーチをされました。その後、私もパネルに参加しました。

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この会議の初日の午後からNew Delhiへ向かいました。Singapore経由で翌朝早く到着、早速9時から「クリーンエネルギー技術のインドと日本」(資料)というテーマです。IPCCのPachauriさん(1年ぶりです)と私の基調講演で始まり、特に日本からいくつも省エネ技術の発表があり、両国の「Win-Win」のpartnershipを築きたいというものです。堂道大使もこられご挨拶、夕方のレセプションにも参加してくださいました。

インドは10億の人口を有する、しかもこれから当分は年6-8%の成長が見込まれるのですが、インド駐在の日本ビジネスの方たちは、全インドでなんとたったの3,300人とか。何か情けないですね。大いに期待できる、お互いに「Win-win」の関係になれるのになのです。これは残念ですね、いつも言っている(資料) ことですが。製造業では中国、韓国企業がどんどん進出しています。日本からの参加者の方々には、日本のこの弱さをはっきり伝えしましたけど。

Img_1815 総督府で。後ろは孫文の胸像

翌日は、台北へ。政策大学院大学の同僚の角南さんたちと合流、ここでも「日本のクリーンエネルギー技術」がテーマなのですが、この強さが世界に広がっていない、世界では目立たないのですね。なぜでしょう。これもお話しました。グローバル時代には、グローバルな課題へ自分たちの強さを生かし、弱さを認識して、コラボレーションですばやく社会へ、世界へ広げる事が大事なのです。これが21世紀のイノベーション、つまり「新しい社会的価値の創造」 です。

ついで台北から上海経由で大連へ来ました。’Summer Davos’とも言われる‘New World Champions’  (このサイトでいろいろ見たり、読むことができます)と言われるダボス会議主催の会議へ参加です。ちょっとばかり忙しい旅ですが、これも外交であり、世界の仲間つくりです。第1回は大連 、第2回は天津で開催されましたが、若手もビジネスの方が多く、なかなか活気があります。初日から3つのセッションに参加です。日本からの方たちも80人ほどの参加があるとかで、なかなか活躍しておられ、嬉しいです。初日からたくさんの友人に会いました。石倉洋子さんの9月9日からのBlogも見てください。前回、前々回と同様に、温家宝首相が出席、このグローバル規模の経済危機に際しての中国のとった政策とその成果と現況、そしてこれからも世界での責任を果たしていきたいという自信に満ちた講演をしました。

夜は、太陽経済の会主催の日本デイナーなどいくつかのレセプションへ参加です。

民主党が衆院選圧勝、そして?

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8月30日の衆院選で民主党は自民党に対して歴史的な地滑り的大勝を収めました。自民党は1955年以来、いわゆる「55体制」と「鉄のトライアングル」による日本株式会社を構築し、政権を担当してきた政党です。(細川首相のときに一時中断しましたが、この政権は一年ともちませんでした。55体制は何も変わりませんでした。)

今回の選挙結果は日本の将来に長期的な影響を及ぼすでしょう。自民党の大敗はメディアが好んであちこちで報道するように、景気悪化、失業率の増加、「格差」の拡大などの責任を国民が自民党に問うた結果ではないと思います。むしろ、国民が「変化」をますます熱望するようになっていること、「55体制」の強い絆で結ばれた「当局」や「関係者」(例えば官僚主導省庁の閉ざされた強い権力、大企業、農家、土木関係、その他利益者集団など)から圧力を受ける自民党は「チェンジ」できないという認識の広がりの表れではないでしょうか?

私のこのような見解は外国の知日派の方々や日本国内で仕事をしてきた外国人の方々など、海外のオピニオンリーダーの見方と重なるように思います。9月7日、New York Timesに村上龍氏のOp-Ed、’Japan Comes of Age’ が掲載されましたが、これもまた日本国民が日本の現状をどのように認識しているかをよく表現しています。

また、例えばEconomistは9月5日版その他で‘The vote that changed Japan’ , ‘Lost in transition’, ‘New bosses’   ‘Banzai; A landslide victory for the DPJ Japan’ など、数ページの記事をいくつも掲載しています。他の外国メディアやプレスも同様な見解を発表しているようです。

Huffingtonpost はリベラルなon-line news とブログのサイトで, オバマ大統領もよく投稿していますが, 私の友人 Dr Sunil Chacko  (資料1)も常連の一人で, 今回の民主党圧勝について‘Japan’s New Era’ と題する記事を書いています。

作家、ジャーナリスト、そして知日派として有名なBill Emmott氏は私の友人ですが、2月にメールで、「先日偶然お目にかかった日の夜にThe Guardianのオンライン版に ‘A silver lining for Japan; The economic suffering here has been harsh and long, but at last political change is coming’ という簡単な記事を掲載しました」と教えてくれました。

その記事を読んだのですが、特に面白かったのは最後の部分(下線)、日本の民主主義に関わる一節で、私も日ごろからいろいろな場面で言ったり書いたりしていること (資料)と重なります。

以下、引用です。

‘It is a country, in other words, that is in desperate need of a change of government, and the election of a party dedicated to repairing broken social services as well as shaking up the economy. No doubt as and when the DPJ wins power, it will bring disappointments and its own occasionally shambolic ministers. No matter. The important thing in a democracy is to punish those who have failed and to bring in a new crowd capable of making new mistakes. Japan has waited far too long for that.

わが国は依然として世界第二の経済大国であることをお忘れなく。したがって ‘The Post-American World’においても日本は世界の諸問題に責任ある態度を取らなければならないし、またそうすることを期待されてもいるのです。実際、日本はグローバルな課題に貢献できる力を充分に持っているにも拘わらずその経済力に見合った積極的なアクションやコミットメントが充分ではありません。少なくとも私の目にはそう映りますね。

天才・異才が飛び出すソニーの不思議な研究所

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これは最近の本のタイトルです。

著者は「所 真理雄、由利伸子」、本の帯(オビ)には「北野宏明  、茂木健一郎高安秀樹暦本純一 らを生んだ「夢のラボ」の秘密、ソニーコンピュータサイエンス研究所」とあります。ここにある「名前をどこかで聞いたことのあるのではないだろうか?」

「北野宏明は、、、ペット犬AIBOの生みの親の一人、、、生物学の新しい領域「システムバイオロジー」を切り拓き、その第一人者、、、茂木健一郎は、「クオリア」、「アハ体験」といった脳の働き、、、斬新な視点と鋭い考察が、もじゃもじゃの髪、おっとりとした童顔、、、出版、テレビ、ゲームと、メデイアの寵児、、、高安秀樹は、、、「フラクタル」はベストセラーに、、、「経済物理学」を起こし、現在この分野の研究は世界に広がっている。暦本純一は、、、実世界とネット世界を自然に融合させる技術を次々と開発し、、、この4人は皆同じ研究所の仲間で、、、(第1章から p. 11)」

これは「ソニーコンピュータサイエンス研究所(SONY CSL)」の生い立ちから今までの20年を、その創設からかかわり、天才、鬼才を輩出した所 真理雄さんを書いた物語です。所さんはご本人も「鬼才、変人」、だけど優れたマネジャー、素敵な方です。「変人」は子供のときからのようで、「トコロ・ヘンジン・マリオプス」といわれていたとか (第1章から p. 78)。

時代を変えるいくつもの新しい分野を開拓し、世界に新しいコンセプトを提示する、これだけの数の「変人」を輩出するこの研究所SONY CSLは、スタッフを入れても30数人という小さな組織。これら5人のほかにもユニークな人たちがいろいろ出ている。

所さん、北野さんとはこの数年いろいろとお付き合い (資料) があります。いつも楽しいけれど真面目な話ですが。お二人を含めて、素晴らしい可能性を持った若者がたくさんいること、それを伸ばす「場」の設定が大事であること、事の本質を見つけ、本物の価値創造と発見の楽しさと厳しさを感じ取ることができる等々、物語が素晴らしく、とても素敵な本です。所さんの科学への哲学とマネージメントの優れているところでしょう。共著の由利さんの物語りと物書きぶり手腕はたいしたものです。

本の章立ては;
1. 一日で書き上げたドラフトから始まった
2. コンピュータサイエンスの最前線をいく
3. 研究マネージメントの真髄とは
4. コンピュータサイエンスからの脱却
5. より広く、より深く
6. 私にとってのソニーCSL
7. 科学の未来とソニーCSL

2章; 「所はいう。「僕の仕事は二つしかない。一つは研究所の向かう方向を決めること。もう一つは人材のマネージメント。ここに合う人を採ること、ここを卒業する人の手助けをすること、そしてここに合わない人には辞めてもらうこと」。」(p.62)

3章; 「何もまして評価されるのは、新しい学術分野を作ること、新しい文化を作ること。これができれば、ソニーのブランド価値を飛躍的に向上させることはもちろんのこと、人類への貢献という意味でも計り知れない」。(p.75)

「所真理雄のマネージメントは「日本標準」からはっきり外れていた、、、「なんと無茶な」と言われることがしばしば、、、だが、「その無茶も長年蓄積してくると黒光りしている、まったくユニークな研究所に仕上げたものだ。こんなことは民間だからできた?いや民間じゃ無理だ、よくやった」。」

「所の素直さ、ストレートさについては定評がある、、、担当した編集者、、にも、「所さんは直球一本」といわれたという。」

4-6章では、所さんと北野さんをはじめとする研究者とのいきさつ、出会い、考え方等々、実に興味深い。皆さん事の本質を見ている。若い研究者、いや研究者でなくともそれぞれの「生き様」の問題として、ぜひ皆さんにもこの本を読んで欲しいところだ。

北野さんは言う、「一見かけ離れた分野間のシナジーは、各々の分野の根幹の概念を理解しないと進まない。しかし、その幅広さが、新しい領域や深い自然理解へと達する唯一の方法だと着たのは思っている、、、「コンピュータの発達で、多くの要素の係わり合いからなる複雑なシステムをいろいろと扱えるようになった。その結果、情報科学、バイオ、社会学、経済学といった分野の壁を越え、横に貫くような視点や方法論が浮かび上がってきて、新しい学問体系が開けつつある」という北野の言葉が、この後に続く七人(脚注1)の研究から実感されるだろう。」(p.119-120)

脚注1; 暦本純一Luc Steels高安秀樹茂木健一郎桜田一洋Franc NielsenFrancois Pachet

陰で支えるスタッフの2人の女性の意見として、「研究員の発表には参加している、、、発想の仕方や着眼点に、すごいと思うことがたびたびある」、「研究者の言葉の端々から、、、刺激を受ける」、「研究員たちは、皆、穏やかで優しい、、、会社や日常の常識にとらわれない面は多々あるが、研究以外のことに対しては本質的にやさしい」と。(p.226-227)

所さんの哲学には、可能性をもつとんでもない「変人」を見つけ、思い切って伸ばしてみる「場」を造ることにあると思う。これは所さんが、若いとき英米でもいくつかの研究所ですごし、一流の人たちの中にいたことにも関係しているように思える。だからこそ、この研究所SONY CSLは「、、、フレッシュPhD、、、新米の研究者でも自分と同等だとして扱い、フェアでオープンだが、手加減もしない、、、こういう雰囲気は、、、一切のごまかしや、なあなあの無い、非常にピュアな精神の表れでもある、、、」、「、、どんな権威のある先生の前でも、その先生に何を言われようとも、ソニーCSLのメンバーは怯まない」といわせる。(p.216-217)

7章で、所さんはこれからの課題へのあり方として「オープンシステムサイエンス」 を考え、今年初めに同じタイトルの本 を20周年記念として出版している。

とにかく、研究に興味がある、何か面白いことに興味がある方たち、そして学生、大学院などの若者たちには、ぜひ読んでもらいたい一冊です。

そして、私がこのサイトでも繰り返し指摘(このサイトで「変人」「出る杭」「常識」「非常識」などで「Search」してください)していることですが、時代の「変人」、「出る杭」、「非常識」こそ、フロンテイアを開拓し、新しい価値を創造し、世界を変えるのです。この本で紹介される何人もの研究者の物語からも、このことを改めて確信しました。

グローバル時代への教育改革者

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リーマンショックの後、当初の国内の予測と違って、鉄のトライアングルが始まった「55体制」が行きづまったからなのか、日本の経済の調子が予測以上に悪く、産業構造の脆弱さが表面化しています。こうなると定番ですが、「“坂の上の雲”的」な明治人の活躍を懐かしむような「リーダー論」が出てきます、ずいぶん状況も見当も違うと思うのですが。

世界の変化は日本を待ってくれるわけではありません。5、10、20年先のことを考えれば、将来を担う人材の育成こそが国家政策の根幹であることは明白です。このサイト内で「人材育成、人づくり」などで「Search」してください、数多く出てきます。

日本では教育に対する国の予算は先進国で際立って少ないのです。今回の衆議院選挙になって、マニフェストでようやく「子供、教育」などへの予算が出てくる有様です。

しかし、従来の教育予算の増強は大事ですが、グローバル時代をよく見据えながら新しい、将来へ対応する多用な人材を輩出する思い切った施策こそが大事です。このような変革が、大学レベルにさえもあまりにも小さく、オズオズといった感じであるところがわが国の現状でしょう。このことについても、このサイトで何回も指摘(資料)しているところですし、いくつかの思い切った試みはありますが主流になるにはほど遠いというところです。アジア太平洋大学、秋田にある国際教養大学などの活動は国内でさえ殆ど知られていません。一橋大学大学院国際経営戦略コース は世界へ開かれた、世界でも評価の高い画期的なプログラム です。

ところで、多くの英米の大学での改革、さらにネットなどの情報技術を使った教育手法にもまったく新しい可能性が模索され、実践が進んでいます。その点で、先日ご紹介したMITのOpenCourseWare の開発にかかわったMiyagawa宮川さん、新しい可能性を探っている、最近Carnegie Foundation からMITへ移ったIiyoshi 飯吉さんなどの海外の大学で活躍する日本人がいます。

飯吉さんには去年ドバイでお会い(資料) したのですが、最近、Vijay Kumarさんとの編集による「Opening Up Education」 を編集、出版されました。書評もCharles Vest (長年にわたりMIT学長、私のサイト内でも「Search」してください)などによって高い評価を受けています。

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写真: 飯吉さんと私、GRIPSで

最近、飯吉さんとご一緒する機会がありました。世界の教育は「Flat化」する世界でとてつもなく大きな改革の可能性さえ出てきているようです。このグローバル時代へのチャレンジ精神、チェンジ変革へ若者の可能性 をのばし、ビジョンと強い意思とエネルギーでリーダーシップを発揮する政治、企業、大学など、グローバル社会でのリーダーの育成に余念がありません。このような人たちが新しい時代を担い、これからの世界を動かしていくでしょう。宮川さん、飯吉さんの教育改革への情熱と先見性と実行力には素晴らしいものがあります。

宮川さん、飯吉さんたちのような「外」で活躍し、「外」から日本を見ている素晴らしい愛国心(脚注)あふれる教育者の意見を、ぜひ広く聞いて欲しいものです。

脚注:私の考える愛国心は「Patriot」です、「Nationalist」ではありません。日本語での違いはややあいまいですが「愛国心」 vs 「国家主義」でしょうか。

Asian Innovation Forum

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出井伸之さん は、グローバルに活躍するビジネスリーダーの一人です。わたしとは哲学も時代の認識も共有するところが多く、SONY会長を退任した後はご自分で新たな挑戦である投資ファンド「クオンタムリープ」(資料1)を立ち上げ、周りには素晴らしい若い人たちが集まり、新しいビジネス、起業支援などに力を入れています。ビジネス界の先輩として本当に素敵なことです。

多くの活動の一つとして、2007年にAsian Innovation Forum を立ち上げ、私も微力ながら参加、応援させていただいています。2007年の会は他の予定があって欠席しましたが、去年は参加。大きな盛り上がりを感じることが出きました。

今年は9月14、15日に東京で開催されることになりました。一橋大学経営大学院研究科長、ダボス会議などでよく知られている竹内弘高さんと私はシニアメンバーですが、出井さんのビジョンを共有しつつ、計画も議論も若いメンバーが中心で、なかなか楽しいのです。

私のこのサイトの中でも、「出井」、「竹内」で「Search」していただくと、いくつも「ヒット」します。

最近の日経新聞にも開催広告 が出ましたが、このようなネットワークから新しいビジネス、成長のエンジンが出て欲しいと心底から願っています。

「個」人力を磨き、世界への意識の高い、そしてどんどん広がるネットワークを築く、エネルギーに満ちた素晴らしい若い人たちがどんどん出始めていることを実感します。このような人たちの一人ひとりが、これからの日本にはとても大事だと考え、大いに応援したいのです。

政治の行方、ジャーナリスト清水真人さん

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いよいよ衆議院選挙です。4年前の2005年9月11日、小泉総理の「郵政」解散から自民党が圧勝した衆議院選挙がつい最近のようにも感じられますが、それから小泉、安倍、福田、麻生とそれぞれ約1年ずつ総理を務めた、なんだか「不可解な」時間を過ごしたと、感じる方も多いでしょう。

このような政治の背景や真実は分からないことが多いわけですが、ここにはジャーナリストの使命があるのです。

日経の清水真人さんは、小泉総理による官邸主導の経過と記録、経済財政諮問会議の活動、そして小泉総理以降の3人の総理の交代劇について、わが国の政治の経過の「実録」を出版してくれました。いまでは“3部作”です。

1冊目を読んで大変感心したのですが、さらに2冊をタイムリーなテーマで書いています。

「官邸主導 小泉純一郎の革命」(2005年)
「経済財政戦記」(2007年)
「首相の蹉跌」(2009年)

日本の国家政治に何が起こったのか?誰がいつ、何をし、どう動いたのか、どのような意味があったのか、入念な取材に基づいた記録です。

ニュース、テレビ、週刊誌などの報道は、時間や紙面の制限から私たちには十分に理解できないことだらけです。しかも、これらの報道を私たちが後になって見る、読む、調べるというのはほぼ不可能で、大変なことなのです。

だからこそ、現役の記者が、取材した材料をもとに、多忙の中にもかかわらず、タイムリーに本として出版することはとても大事なことであり、国民にとっても大変ありがたいことです。良い記録にもなります。3冊目の著者の「あとがき」が、さすがにめまぐるしい展開があったこともあり、著者の苦労をよく表しています。

新聞を中心に、ジャーナリストはそれぞれ専門性を持って取材し、勉強し、記事を書くのですが(デスクなど、毎日のニュースの重要性などを考慮した編集の方針があり、多くは紙面に出ないのでしょうが)、新聞の一過性、紙面の限定等で、記事だけでは十分でないことが大部分でしょう。他にも週刊誌、月刊誌などがあります。新聞紙上でのシリーズもあります。かなりの記事はネットで見れるようになって来ましたが、でも、一つにまとめて、加筆したものをノンフィクションとして出版することの意義はとても大きいと思います。

闊達なジャーナリズムを作るかどうか、これは報道関係のメディア関係者、組織の意識と倫理の課題であろうと思います。

メディアは社会に責任ある大きな権力です。あいも変わらずの「記者クラブ」もいい加減にしてほしいです。組織が硬直化し、ジャーナリストがサラリーマン化していては、おしまいです。しかも、世界から広く見られているのです。国内向きの理由だけでは通じません。

「製造業ガラパゴス化」からの脱出

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携帯電話を典型例として、ハイテクではあるが世界を目指さない、目指せない日本の製造業について“ガラパゴス化”という表現が使われるようになりました。

「ガラパゴス化」はどこが課題で、どう克服していくか?i-modeの生みの親、夏野剛さんたちが「超ガラパゴス研究会」というのを立ち上げました。私も応援団の一人として参加しています。「ガラパゴス」をどう越えていくのか、これが目的です。初回から熱い議論が行われました(参考12)。

日本の技術を“引きこもり”経営から、世界へ展開して欲しいのです。

夏野さんと言えば、歯に衣を着せない本物のEntrepreneur。“出る杭”、実力派、果敢にチャレンジ、失敗を乗り越える、世界が認めるリーダーの一人です。一緒にいてもとても気分がいい人です。こういう人たちを応援しなくては、と思います。

最近のインタビューをご紹介します。「フム、フム」と納得、わが意をえたり、というところですね。

アメリカ後の世界、The Post-American World

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Fareed Zakaria(1964年生まれ)は新進気鋭な世界でもっとも活躍している“旬”なジャーナリストで、Newsweek International Editionの編集者です。ご自身のサイトもあります。

2008年に「Post-American World」という本を出版。とても興味深く読める、示唆に富む内容の本です。素晴らしい洞察と筆力、広い視野と見識。皆さんに、特に若い人たちにも広く読んで欲しい本の1つです。

章の構成は;
1. 「アメリカ以外のすべての国」の台頭
2. 地球規模の権力シフトが始まった
3. 「非西洋」と「西洋」が混じり合う新しい世界
4. 中国は「非対称な超大国」の道をゆく
5. 民主主義という宿命を背負うインド
6. アメリカはこのまま没落するのか
7. アメリカは自らをグローバル化できるか

彼がインド出身で、18歳までインドで育ったという背景もあり、アメリカと中国を中心とする大きな政治経済という見方ばかりでなく、これからの大国インドの中長期的な視点と課題などを盛り込んだ、大変興味深く、また他の同類のテーマの書籍とは少し違った見方を与えています。

「アメリカ後の世界」というのは、アメリカ一極ではなく、“その他の台頭”ということです。特に中国とインドは、大きな問題を抱えていますが、その人口からも大きく成長し、世界で大きな意味を持つことになるでしょう。その辺りの視点がなかなかのものです。

彼はインドに生まれ、イスラム教徒の家庭で育ちます。小中高教育をムンバイの名門校で学び、Yale Universityに留学。さらに、Harvard大学において政治学でPhDを取得。27歳という若さで「Foreign Affairs」(Council of Foreign Affairsの出版物)の編集長へ大抜擢され、2000年から現職のNewsweekの編集者となりました。

「アメリカは“大きな島国”だ」という彼の認識は、講演などで度々話している私の主張とも合致しています。彼は第2章の最後で次のように書いています。(p. 69-71)

「アメリカの政治家は見境もなく他国のあら探しをしては要求を突きつけ、レッテルを貼り、制裁を加え、非難を浴びせかける。過去15年間に、アメリカは世界人口の半数に対して制裁を発動してきた。世界中の国々のふるまいに毎年毎年、通信簿をつけている国は、アメリカ以外に存在しない。ワシントンDCは独善によって足もとがふらつき、外の世界から浮いた場所になってしまった。」

「2007年度のPew Research Center(アメリカの独立したシンクタンクの一つ=脚注)による世界動態調査によれば、自由貿易、市場開放、民主主義を支持する人々の割合は、世界各地で驚くほど増加した。中国、ドイツ、バングラデッシュ、ナイジェリアなどの国々では、各国間の通商関係が深まるのは好ましいことである、大多数の国民が回答している。調査対象となった47ヵ国のうち自由貿易への支持率が最も低かったのは、何を隠そうアメリカだ。調査が行われた5年間で、その支持率の落ち込み幅が最も大きかったのも、やはりアメリカだ。」

「続いて外国企業に対する態度を見てみよう。ブラジル、ナイジェリア、インド、バングラデシュなどの国々では、外国企業に良い印象があるかとの問いに、大多数の国民が「はい」と答えている。歴史的に見ると、これらの国々は総じて西洋の国際企業に不信感を持ってきた(背景には、南アジアの植民地化がイギリスの1企業、<イギリス東インド会社>によって始められたという事実がある)。しかし現在では、インド国民の75パーセント、バングラデシュ国民の75パーセント、ブラジル国民の70パーセント、ナイジェリア国民の82パーセントが、外国企業に好感を示している。対するアメリカ国民はといえば45パーセント。これは世界の下位5ヵ国に入る数字だ。アメリカ人は、世界じゅうでアメリカ企業が大歓迎されてほしいと望む一方、自国に外国企業が入り込むと、まったく逆の反応を示す。」

「このような矛盾がよりはっきり表れているのが、移民への態度だ。移民問題で世界の手本だったアメリカは、これまでの自国の歩みに逆行し、怒りと萎縮と防御の姿勢をとるようになってしまった。また、かつてのアメリカ人はあらゆる最先端技術の開拓者であろうとしてきたが、今では技術革新からもたらされる変化に戦々恐々としているのだ。」

「皮肉にも、「その他の台頭」を招いたのは、アメリカの理念と行動だった。60年間にわたり、アメリカの政治家と外交官は世界中を訪問して回り、市場の開放や、政治の民主化や、貿易と科学技術の振興を迫ってきた。遠く離れた国々にも、グローバル経済下での競争、通貨の規制撤廃、新しい産業の振興など、さまざまな難題に挑むよう煽りたて、変化を恐れるな、成功の秘訣を学べ、とアドバイスを送りつづけた。この努力は実を結び、世界の人々は資本主義にすっかり適応した。」

「しかし、今日のアメリカ人は、自分たちでさんざん奨励してきたものに疑念を抱くようになっている。この態度の豹変は、ものや人の流れがアメリカへ向きだしてから起こった。つまり、世界が門戸を開いているさなかに、アメリカは門戸を閉ざし始めたわけだ。」

「後世の歴史家たちは、これからの数十年間を、次のように記述するだろう。21世紀初頭、アメリカは世界のグローバル化という歴史的偉業を成し遂げたが、その過程で自国のグローバル化をし忘れたのだ」

脚注:最近では、日本が深くかかわっている国際捕鯨問題の調査も支援し、その会合の一部に私も参加しました。今年の4月にはAsia Societyと共同で「A Roadmap for US-China Coorperation on Energy and Climate Change」を発表。

また、Zakariaは米国の成長産業は「大学教育」と指摘しています。自分の受けてきた教育も「アジア式」であり、「暗記と頻繁な試験を重視するのである・・・毎日大量の知識を頭に詰め込み、試験の前には一夜漬けで暗記をし、翌日にはすっかり忘れさるということを繰り返していた。」

「だが、留学先のアメリカの大学は別世界だった・・・正確性と暗記は殆ど要求されず、人生での成功に必要なこと、すなわち精神機能の開発に重点がおかれていた。他国の制度が試験のための教育を行うのに対し、アメリカの制度は考えるための教育を行うのだ。」(p. 254)

「シンガポールの教育相が自国とアメリカの教育制度の違いを説明してくれる。「両国はともに実力主義を採用している。そちらは才能重視型の実力主義、子こちらは試験重視型の実力主義だ。われわれは生徒に高得点をとらせるノウハウを持っている。アメリカは生徒の才能を開花させるノウハウを持っている。それぞれに長所はあるが、知力には試験で測れない部分が存在する。創造性、興味、冒険心、大志などだ。なによりもアメリカには学びの文化がある。これは伝統的な知恵に、ひいては権威に挑戦することを意味する・・・」(p. 254, 255)

Zakariaさんが若くして世界のオピニオンリーダーの一人となり、羽ばたくことができたのも、アメリカで受けた大学教育の影響が大きいのです。説得力のある議論だと思います。しっかり、日本の大学教育と比べて考えてみてください。

もっとも彼は、「このようなアメリカの優位性は、簡単に消え去ることはないだろう。なぜなら、ヨーロッパと日本の大学―大多数は官僚主義的な国立大学―が構造改革を行う可能性は低いからだ。」と書いています。そしてさらに「インドと中国は大学の新設を進めているが、20~30年で世界レベルの大学を1から作り上げるのは簡単ではない。」(p. 252)と指摘しています。