Asia Innovation Forum開催;「外から」日本を見る目

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先日ご紹介しましたが、元SONY会長の出井さんが主催する「Asia Innovation Forum」が、9月14、15日の両日にわたって六本木ヒルズで開催されました。プログラムをご覧になると分かるように「Group20」 が苦労しながらの作品、いい仕上がりです。大勢の方が参加され、うれしいことでした。会議の運営についてはTwitter、webcastなども取り入れ、いっそうの効果を出そうと工夫しました。

今回は初めからの予定で主たる参加者を日本の方にしたので、日本人でない方は少数派でした。他にも用事があり第1日目のはじめの部分は出られませんでしたが、セッションは快調に進んだようです。スピーカー はそれぞれ一人ひとりの方たちが素晴らしいし、皆さん論客であり、時間の制限のなかで言いたいことも多いので、司会の方は苦労しましたね。司会の方たちも素晴らしかったです。

第2日は一日出席しました。ランチのときの奥山ケンさん資料1)久しぶりにお会いしましたが、雄大な話と実践力は素晴らしいものがあります。また、ベネッセの福武社長の世界でよく知られた名所「直島」の話は素敵、その後の米倉さんのパネル司会も心優しくてとてもよかったです。最後の「Group20」のパネル、時間の関係もあり、ちょっと不満がのこり気味。最後は緒方貞子さんでしたが、社会起業を目指している方たちのセッションもあり、素晴らしい締めくくりでした。

新しい試みとして「Twitter」を使い、またWebcastも見ることができます。事務方、スタッフたち本当にご苦労様でした。

この「Group20」は従来の日本のビジネス界から見れば、かなり際立って異質と見られるかもしれない人たちかもしれません。従来の「エリート」とはまったく違ったグローバル時代に挑戦している実力のある若手のリーダーたちです。でも、発言を聞いていると、基本的には日本から世界を見ること以上にはなれない限界がある、これが弱みだ、と思いました。つまり、日本を本当に「世界からの視点」からはまだ実感し、見ていないのではないでしょうか。でもこれが外国人の日本を見る視点なのですけど。。。。これは実際に日本の組織、企業を辞めて、海外で「個人として」長い生活経験がないと難しいと思います。いくら長期に海外滞在しても、所詮本社の決断にしたがっているのは「長期の出張」ですから、日本社会、日本の会社の文化から出ることができません。この辺がパネルへ参加した外国人からの質問にいくつも現れていると感じました。自分の「強み」と「弱み」を知ることが大事です、皆さん全員が日本を担う大事な人材ですから。

私のまとめの話資料1)は、その辺の日本人の海外での実践、実体験のなさを中心に話しました。女性の活用程度の低さも大きな問題と指摘しました。翌日の「Newsweek International版」(9月21日号)には、「The Female Factor」(トップの写真をご覧下さい。)という特集記事「The Real Emerging Market」が出ていました。私の意見もですが(このサイトでもしばしは出てくるテーマです)、これは世界の趨勢と思います。日本だけが特殊な国などということを考えていてはいけないと思います。で、ちょっときつめのコメントにしました。今回のテーマ「地球の限界、アジアの成長、日本の責任」 は、日本に期待したいからこそ、なのです。まだまだやること、やるべきことはたくさんあります。行動あるのみです。

サマーダボス -2  輝く日本女性たち

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今回のサマーダボスの感想です。一言で言えば地元とはいえ、中国の元気とプレゼンスの大きさ、政府の力の入れようは温家宝首相、天津市長の挨拶など、すごいものです。そして今回のサマーダボスに関してはそのウェヴサイト(webcast 写真も沢山ありますーいろいろ探してください)、石倉さんのいくつもの報告(9月9、10、12、13、16日分)も読んでください。大いに現場感があり参考になります。

日本からも大勢の参加があってうれしいです。興味あるセッションが多く、パラレルに複数の会場で開催されるし、個人的なネットワーキング、相談事もありますし忙しいです。第2日のレセプションでも大勢の古い、また新しい友人に会いしました。

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レセプション1-4; 3つのレセプション風景、China Daily社長とスタッフと韓国Yonsei大学Moon教授(左端)

IdeasLabでは慶応義塾大学東京大学が参加、これもうれしいことですね。両方とも石倉洋子さんがセッションを引っ張ります。この2つにしても私は全部を聞き、議論に参加したわけではありませんが、慶応はインターネット、携帯電話など情報系を中心に村井さん、夏野さんなどが情報系のテーマで、プレゼンも上手に刺激的なプレゼン。特に夏野さんの日本の携帯機能には参加者も驚いていました。これがなぜ世界の一定のターゲット市場を開拓する、届けようとしないのか、できないのか、この辺の課題はこのお2人のほかにも私も参加している「超ガラパコス研究会」でも議論しており、間もなく政策提言が出ます。東京大学は持続可能な人間社会をテーマに環境、特に「水」問題が中心のテーマ。これも光触媒の橋本さん、世界水バランスの沖さんなど、面白いセッションでしたが、ちょっと時間が足りずに残念。これらの詳細などはウェヴサイト(資料)で見られますので、お時間のあるときに楽しんでください。

Photo_5_ishikurasan 写真5; グローバル競争力報告パネル

ダボス会議を主催する世界経済フォーラムは毎年「グローバル競争力報告 The Global Competitiveness report」 を発表しています。日本では石倉さんたちが分析、評点など、この報告書作成に参加しています。今回の2009-2010年度 では、日本は133国で8位 (8/133) です、悪くないです。これで安心していてはいけません、もっともっとできることがあります。元気を出しましょう。自分の得意なところと独自性を伸ばし、活かし、世界へ思いを馳せ、広げる、そこへ果敢に行動することです。この報告書を取り上げたパネルはBBCの有名アンカーNik Gowingの司会で、Vietnam (75位/133国) 副総理、Costa Rica (55/133) 通商大臣, Mauritius (57/133) 副総理と石倉さんでした。石倉さんによる報告の説明に始まり、各自のコメント、考えなど、そして最後に会場のZimbabwe (132/133)の大臣にも Nikからの問いかけ(ちょっと意地悪ですね)があり、その課題、計画、世界への約束などの返答があり、これが石倉さんに振られますが、うまく答えていますね。

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写真6-9: 国谷さん司会のパネル(6、7)、道傳さん司会のパネル(8、9)

最終日のグローバル金融についてのホットなパネル「Asia’s New Role in Managing the Global Economy」 はNHK「Close-Up現代」でおなじみの国谷裕子さんが、一流のパネラー5人を相手に、IMFの役割などなど、この難題をとてもうまく捌き、進めました。最終の全体セッションの直前の一つはNHKのホストで道傳愛子さんの司会による「China, Japan and South Korea; Shifting the Power Equation Together?」 。これも事前の打ち合わせの時間がそれ程あったとも思えませんが、なかなか上手な司会ぶりでした。近いうちに日本で放送されるでしょう。

ここに紹介した日本の女性3人はとても英語が流暢ですが、それだけでなく司会として出すぎず、でもしっかり「カンドコロ」を押さえて発言をひきだす、時に挑発しながら全体を流れるように動かすなどなど。パネル参加とはまったく違ったスキルが要求されるのですから、とても大変と思います。上手な人の捌き方を見たり、自分で経験し、広く評価してもらいながら、うまくなってくるのでしょう。何事も勉強と、世界のモデルを見ること、まねしてみること、実践してみること、経験と評価と反省から進歩でしていくのですね。「暗黙知」とも言うもので、決してマニュアルでは得られない能力です。

今回は何人もの日本の方たちも参加し、活躍しましたが、特に女性陣が司会というパネル全体を仕切る役割で活躍が目立ったのではないでしょうか。IdeasLabを含めると、ここに書いた日本女性が司会した4つのセッションでは、パネラー、プレゼンは全部が男性でした。だからなおさら、目立ったのでしょうか? 相当な立場の男性を、うまく順々にスポットライトを当てていくというような役回りですからね。私の偏見ですかね? 日本の方の活躍が目立つことはいいことです。

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写真10-11:皆さんとデイナー

最後の夜は日本からの参加者12人ほどで国谷さん、道傳さんほかの方たちととても楽しい夕食会(写真11)。この機会を持てたこと、とてもよかったです。この席は女性男性が半々でした。

SteLA, K-RIP, そしてGrameen Change Maker Program

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先週はSteLA, K-RIP そして Grameen Change Maker Programという、三つのユニークなプログラムとご縁がありました。

STeLA はScience Technology Leadership Associationの略で、2年前に東京大学とMIT(Massachusetts Institute of Technology)の大学院生によって創設された彼らのための団体です。今回、第三回の年次総会が日米約90人の学生の参加を得て東京で開催されました。中国とフランスからの参加もありました。学生さんたちは東京に10日程滞在したそうで、私はこの集まりで講演とコンテストの審査員をするよう依頼されて出かけました。世界が対峙する諸問題のために科学技術やエンジニアリングの大学院生たちが集まって核やバイオなどの活用、そのリスクについて討議し、協力する様子は見ていて大変面白くまた嬉しいことでした。グローバルな時代の将来のリーダー達によるこのようなイニシアチブを私は全面的に支持しますし、今後の活動を楽しみにしています。

長崎では、長崎大学が主催したK-RIP (九州地域環境・リサイクル産業交流プラザ)のセミナーで基調講演をしました。K-RIPの麻生泰会長は麻生首相の弟さんで九州のビジネスリーダーの一人でいらっしゃいます。二日前の衆院選で自民党は大敗を喫しましたが、この日はご一緒に大勢の大学生や院生と素晴らしく充実した一日を過ごしました。イノベーションの諸問題について、フラット化する世界の中で九州がもつ特異的な潜在的可能性に重点を置いて話をし、意見交換をしました。学生達の将来の可能性についても話し合い、とても面白かったです。夜には麻生さんとプログラムのシニアメンバーの方々は食事をご一緒され、楽しいひと時となったようです。

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写真:ユヌス教授と日本人大学生、バングラデシュにて

東京に戻ると、今度はGrameen Change Maker Program (資料1)の代表、ミヨシ ダイスケ君とその仲間2名の訪問を受けました。三週間のバングラデシュ訪問から帰国したばかりだそうです。2名は大学一年生で今回が初の海外旅行、パスポートも初めて作ったそうです。いまどきの若者としては珍しいほうかもしれませんね。とても良い経験になったようです。例えば、入浴はバスタブに浸かるのではなく、川で沐浴すること、下痢、多民族性、多様性、貧困の現実など等、日本とは違うことを見聞きして学んだり、その他楽しい経験をしたり。。Dr Jamilというかつての私の教え子で医師の方が、病気の時にとてもよくしてくれたとのことでした。バングラデシュを発つ前にグラミン銀行ユヌス教授資料1)にお会いでき、皆で約3時間もお話をさせていただいたとのことでした。

この一週間、自分の将来の可能性を模索し見つめる多くの日本の若者たちと出会い、話し合って、大変楽しく愉快な時を過ごすことができました。

天才・異才が飛び出すソニーの不思議な研究所

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これは最近の本のタイトルです。

著者は「所 真理雄、由利伸子」、本の帯(オビ)には「北野宏明  、茂木健一郎高安秀樹暦本純一 らを生んだ「夢のラボ」の秘密、ソニーコンピュータサイエンス研究所」とあります。ここにある「名前をどこかで聞いたことのあるのではないだろうか?」

「北野宏明は、、、ペット犬AIBOの生みの親の一人、、、生物学の新しい領域「システムバイオロジー」を切り拓き、その第一人者、、、茂木健一郎は、「クオリア」、「アハ体験」といった脳の働き、、、斬新な視点と鋭い考察が、もじゃもじゃの髪、おっとりとした童顔、、、出版、テレビ、ゲームと、メデイアの寵児、、、高安秀樹は、、、「フラクタル」はベストセラーに、、、「経済物理学」を起こし、現在この分野の研究は世界に広がっている。暦本純一は、、、実世界とネット世界を自然に融合させる技術を次々と開発し、、、この4人は皆同じ研究所の仲間で、、、(第1章から p. 11)」

これは「ソニーコンピュータサイエンス研究所(SONY CSL)」の生い立ちから今までの20年を、その創設からかかわり、天才、鬼才を輩出した所 真理雄さんを書いた物語です。所さんはご本人も「鬼才、変人」、だけど優れたマネジャー、素敵な方です。「変人」は子供のときからのようで、「トコロ・ヘンジン・マリオプス」といわれていたとか (第1章から p. 78)。

時代を変えるいくつもの新しい分野を開拓し、世界に新しいコンセプトを提示する、これだけの数の「変人」を輩出するこの研究所SONY CSLは、スタッフを入れても30数人という小さな組織。これら5人のほかにもユニークな人たちがいろいろ出ている。

所さん、北野さんとはこの数年いろいろとお付き合い (資料) があります。いつも楽しいけれど真面目な話ですが。お二人を含めて、素晴らしい可能性を持った若者がたくさんいること、それを伸ばす「場」の設定が大事であること、事の本質を見つけ、本物の価値創造と発見の楽しさと厳しさを感じ取ることができる等々、物語が素晴らしく、とても素敵な本です。所さんの科学への哲学とマネージメントの優れているところでしょう。共著の由利さんの物語りと物書きぶり手腕はたいしたものです。

本の章立ては;
1. 一日で書き上げたドラフトから始まった
2. コンピュータサイエンスの最前線をいく
3. 研究マネージメントの真髄とは
4. コンピュータサイエンスからの脱却
5. より広く、より深く
6. 私にとってのソニーCSL
7. 科学の未来とソニーCSL

2章; 「所はいう。「僕の仕事は二つしかない。一つは研究所の向かう方向を決めること。もう一つは人材のマネージメント。ここに合う人を採ること、ここを卒業する人の手助けをすること、そしてここに合わない人には辞めてもらうこと」。」(p.62)

3章; 「何もまして評価されるのは、新しい学術分野を作ること、新しい文化を作ること。これができれば、ソニーのブランド価値を飛躍的に向上させることはもちろんのこと、人類への貢献という意味でも計り知れない」。(p.75)

「所真理雄のマネージメントは「日本標準」からはっきり外れていた、、、「なんと無茶な」と言われることがしばしば、、、だが、「その無茶も長年蓄積してくると黒光りしている、まったくユニークな研究所に仕上げたものだ。こんなことは民間だからできた?いや民間じゃ無理だ、よくやった」。」

「所の素直さ、ストレートさについては定評がある、、、担当した編集者、、にも、「所さんは直球一本」といわれたという。」

4-6章では、所さんと北野さんをはじめとする研究者とのいきさつ、出会い、考え方等々、実に興味深い。皆さん事の本質を見ている。若い研究者、いや研究者でなくともそれぞれの「生き様」の問題として、ぜひ皆さんにもこの本を読んで欲しいところだ。

北野さんは言う、「一見かけ離れた分野間のシナジーは、各々の分野の根幹の概念を理解しないと進まない。しかし、その幅広さが、新しい領域や深い自然理解へと達する唯一の方法だと着たのは思っている、、、「コンピュータの発達で、多くの要素の係わり合いからなる複雑なシステムをいろいろと扱えるようになった。その結果、情報科学、バイオ、社会学、経済学といった分野の壁を越え、横に貫くような視点や方法論が浮かび上がってきて、新しい学問体系が開けつつある」という北野の言葉が、この後に続く七人(脚注1)の研究から実感されるだろう。」(p.119-120)

脚注1; 暦本純一Luc Steels高安秀樹茂木健一郎桜田一洋Franc NielsenFrancois Pachet

陰で支えるスタッフの2人の女性の意見として、「研究員の発表には参加している、、、発想の仕方や着眼点に、すごいと思うことがたびたびある」、「研究者の言葉の端々から、、、刺激を受ける」、「研究員たちは、皆、穏やかで優しい、、、会社や日常の常識にとらわれない面は多々あるが、研究以外のことに対しては本質的にやさしい」と。(p.226-227)

所さんの哲学には、可能性をもつとんでもない「変人」を見つけ、思い切って伸ばしてみる「場」を造ることにあると思う。これは所さんが、若いとき英米でもいくつかの研究所ですごし、一流の人たちの中にいたことにも関係しているように思える。だからこそ、この研究所SONY CSLは「、、、フレッシュPhD、、、新米の研究者でも自分と同等だとして扱い、フェアでオープンだが、手加減もしない、、、こういう雰囲気は、、、一切のごまかしや、なあなあの無い、非常にピュアな精神の表れでもある、、、」、「、、どんな権威のある先生の前でも、その先生に何を言われようとも、ソニーCSLのメンバーは怯まない」といわせる。(p.216-217)

7章で、所さんはこれからの課題へのあり方として「オープンシステムサイエンス」 を考え、今年初めに同じタイトルの本 を20周年記念として出版している。

とにかく、研究に興味がある、何か面白いことに興味がある方たち、そして学生、大学院などの若者たちには、ぜひ読んでもらいたい一冊です。

そして、私がこのサイトでも繰り返し指摘(このサイトで「変人」「出る杭」「常識」「非常識」などで「Search」してください)していることですが、時代の「変人」、「出る杭」、「非常識」こそ、フロンテイアを開拓し、新しい価値を創造し、世界を変えるのです。この本で紹介される何人もの研究者の物語からも、このことを改めて確信しました。

ジャック・アタリの「21世紀の歴史」

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人類の歴史を振り返り、将来を予測する、これはいつも大事なことです。「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」、「Historia Majistra Vitae」 、洋の東西を問わず、同じ言葉が受け継がれています。「人間の知恵」です。このブログでも再三にわたって発信しているメッセージです(参考: 1234)。

前回はFareed Zakariaの著書を紹介しましたが、フランスを代表する現代の知性ともいわれるジャック・アタリによる「21世紀の歴史:未来の人間から見た世界」も大変面白い本です。これは長い歴史から学び取れる「21世紀を読み解くためのキーワード」を抽出し、そこから考察する21世紀の予測です。「歴史の法則、成功の掟は、未来にも通用する。これらを理解することで未来を占うことが可能になる・・・」、ということです。

邦訳に当たって、短いのですが「21世紀、はたして日本は生き残れるのか?」、また最後に「フランスは、21世紀の歴史を生き残れるか?」が追加されています。それにしても、私はフランス語を読めませんが、英語本と読み比べると、邦訳はずいぶんと量が増えるものですね。

この著書を話題に、NHKがジャック・アタリの2時間にもなるインタビューを放映しました。テレビでご覧になった方も大勢おられるかと思います。

この本は6章の構成です:
1.人類が市場を発明するまでの長い歴史
2.資本主義はいかなる歴史を作ってきたのか?
3.アメリカ帝国の終焉
4.帝国を超える「超帝国」の出現 -21世紀に押し寄せる第1波
5.戦争・紛争を超える「超紛争」の発生 -21世紀に押し寄せる第2波
6.民主主義を超える「超民主主義」の出現 -21世紀に押し寄せる第3波

2006年の発行ですが、「アメリカ、終焉の始まり」で、「アメリカの金融システムは増殖し、過剰となり、無制限に活動し始め、制御不能に陥った。このシステムは、産業に対して到底達成不能な資本収益性を要求し、産業を担う企業に対して企業活動に必要になる投資行為よりも、こうした企業が稼ぐマネーを金融市場に放出することをもとめた・・・」、そして「サラリーマンの債務もますます増加した。特に公営企業2社(アメリカ第2位の企業である連邦住宅抵当公庫Fannie Mae、アメリカ第5位の企業である連邦住宅貸付抵当金庫Freddie Mac) は4兆ドルの抵当権を所有ないし保証しており、その債務は10年間で4倍に膨れ上がった・・・」(p.128、129)。2007年夏に始まる金融パニックを起こしたように、ここで「サブプライム問題」を予告していたといえます。

また「中心都市」というコンセプトを提唱し、「これまで市場の秩序は、常に1つの「中心都市」と定めて組織され、そこには「クリエター階級」(海運業者、起業家、商人、技術者、金融業者)が集まり、新しさや発見に対する情熱に溢れていた。この「中心都市」は、経済危機や戦争が勃発することにより他の場所へ移動する。」(p.61)

数多くの「未来への教訓」が示されているが、ここでは、いくつかだけ示そう。例えば、
「知識の継承は進化のための条件である」(p.31)
「新たなコミュニケーション技術の確立は、社会を中央集権化すると思われがちだが、時の権力者には、情け容赦ない障害をもたらす」(p.77、脚注*1)
「専制的な国家は市場を作り出し、次に市場が民主主義を作り出す」(p.98)
「テクノロジーと性の関係は、市場の秩序の活力を構造化する」(p.111)
「多くの革新的な発明とは、公的資金によってまったく異なった研究に従事していた研究者による産物である」(p.120)

註1:いくつかの講演で「Incunabulum, Incunabula」というラテン語を使って、「フラット」な世界での「タテ社会」の脆弱性を指摘しています(参考 123)。

21世紀に現れるいくつかの現象には、サブタイトルが面白い。例えば;
「歴史を変える「ユビキタス・ノマド」の登場」
「地球環境の未来」
「時間 -残された唯一、.本当に希少なもの」
などなど。

そしてここから、第4章が始まる。これから起こるであろう第1波、第2波、第3波。じつに面白いというか、恐ろしいというか、かなり現実となるような予感がします。今もそれらの兆候は見えています。

この本を読んで思い浮かべたのは、J. ダイアモンドの「文明崩壊」でした。

ぜひ、これらの本も「The Post-American World」などとも併せて、読んでみてください。

インドIIT学生の日本での研修

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ASIMO Demonstration@Honda Aoyama Welcome Plaza from Kihoko Suda on Vimeo.

Indian Institute of Technologyといえば、インド屈指の名門大学で、世界で活躍する多くのリーダーを輩出しています。

そこの優秀な学部学生を対象に、本田財団による“Young Engineers and Scientists”が2007年から開催、表彰されています。インドでは毎年5人が選ばれますが、去年の表彰式で私とIPCCのPachauriさんがお祝いのスピーチをしたことはこのブログでも報告しました。

その後4人の受賞者を日本に招き、2ヶ月間の研究と研修に従事してもらいました(参考)。インドの若者が日本を知り、好きになり、“日本大使”の役割をすることにもなるのですから、とても素晴らしい企画だと思います。日本の学生にも、この反対のことを積極的にさせたいものです。

今年は5人の受賞者全員が日本で2ヶ月を過ごしました。2人は岡崎自然科学研究機構で遺伝子工学を研究し、2人が宮崎市と埼玉県の朝霞市にあるホンダの研究所、そして1人が芝浦工業大学で過ごしました。違う国の研究環境や町の環境。違う価値観、正確な電車に親切な人達など、皆さん、本当に感激の2ヶ月間だったととても喜んでいました。

帰国前にホンダ財団の方々、GRIPSの角南さん、そしてIITの学生さん(1人は参加できませんでした)とお別れの食事会を開催しました。今年の6月に行われたIITの卒業生たち等との交流でお会いした方たちも3人ほど参加して、大変盛り上がりました。

若いときの異国、異文化との出会いはとても大事な財産です。人生の価値観、選択肢が広がります。“フラットな世界”の中で“Connecting Dots”となる可能性もとても大きいのです。

本田財団の方々、学生の指導にあった先生たち、その他関係者の皆さん、本当にご支援ありがとう。

 

「ノーベル賞とアカデミー賞」対談のその後

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先日、このタイトルにある魅力的な対談の司会をするという機会に恵まれたことをお話しました。

この対談の内容が「週刊ダイアモンド」誌に掲載されましたので、紹介します。(PDF

田中さんと加藤さんお二人の意見や考え方など、楽しめると思います。そして私の「時代の変人が社会を変える」という主張も含まれています。

このブログで「変人」というキーワードでサーチしてみてください。繰り返し、この主張が出てきます。

イノベーション・クーリエ事業

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「イノベーション25」の政策を受けて、様々な施策や活動が始まっています。その一つに、私も協力している「イノベーション・クーリエ」という事業がありまして、いろんな事業、講演会、会誌を発行するなどの活動をしています。

今回、横浜で「水」をテーマにした展示会を開催しました。トラック掲載型海水飲料化システムや、バングラデッシュで実用化されている簡単な水浄化装置などが展示されました。いづれも素晴らしいものでした。しかし、アフリカをはじめ、もっともっと現地のニーズにあった装置の開発も必要であることを痛感しました。

日本ではどうしても技術先導で、しかも技術者がより良いものを、より精度を高く、ということに囚われるあまり、現地の人からすると、高価すぎるとか、現実的ではないものになりがちです。また、資金援助も国に頼ってばかりになっているのではないかと感じています。素晴らしいものは多いのですが、一日でも早く現地に届ける、そのための仕掛けや資金のあり方にも、違った視点や工夫が必要と思います。例えば現地での雇用を増やしたり、貧困から少しでも助け出そうという視点も欠けているようにも思えました。それは多くの人に現地での生活感や生活体験が欠けているからではないか?そこが、“Demand-Driven”のイノベーションが大いに有効なグローバル時代にあっての日本の弱さだと思います。

私も講演をしましたが、グラミーン銀行の実例や、KickStartのような素晴らしいNGOの活動にも触れました。これこそがイノベーションによる「新しい価値の創造」です。

地球温暖化へ、日本の目標はどこに?

地球温暖化は、全人類にとって21世紀最大の課題です。対策は遅々として進みません。難しい問題がたくさんあります。でも行動は待ったなしです。100年に一度の経済の低迷とかで、どこかに吹っ飛んでしまったかの様子もないではありませんが、大変なことです。

日本はどうでしょう。国家のビジョンと、国家のリーダーの役割 がこれほど求められているときは歴史的にもそうはありません。

5月24日、官邸で地球温暖化問題に関する懇談会が開催されました。これが最終回だと思いますが、どう国家の決断がされるのでしょうか?この懇談会の様子や資料はネットで見ることができます。私はやはり早口ですね。いつものことですが反省しています。資料ではパブコメと世論調査の大きな違いが目立ちます。なぜでしょうか?

日本は2006年G8サミットで、2050年までに世界全体でCO2排出量を50%削減するという、「CoolEarth 50」という米国も入れた画期的な国家のコミットメントを出しています。また、2008年の洞爺湖サミットでも2050年までに60~80%削減のコミットメントをしています。

では2020年への日本の中期目標はどこなのか?いまは各論ではなくて、従来のコミットメントを実現する道筋としての国家のコミットメントを宣言する時です。すべての可能性と分析はされているのです。できない理由を言っていてもいたし方ありません。やらなくてはいけないのです。今は大転換のときなのです。

TEDが東京へ

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TEDが東京へ」といわれて、「いよいよ来たか」と思う方は相当な人ですね。でも本当なのですよ、これが。

5月22日、TEDxTokyoがお台場の科学未来館で開催されました。200人限定で全て英語。日本の方は40%までという設定。私もお手伝いしたのですが、ライブの時間は最長でも1人18分と限る方式で進められ、TEDからいくつか選んだ映像も織り交ぜながら、とても楽しく、そしてinspireされる一日でした。

企画の2人、Todd and Patrickの息のあったコンビ、テンポのよい司会進行がとてもおしゃれ。

TEDxTokyoのサイト、また、本場のTEDのサイトも訪ねてみてください。

ボランティアで参加した多くの若者たちに感謝。