ガードナー賞

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ガードナー賞の一日は2009年受賞者による業績についての講演で始まりました。講演は学術的に内容が優れているだけでなく、受賞者自身や、自分の研究を支えた周囲の人たちの科学への情熱を感じさせる、それぞれが美しい物語です。特にLucy Shapiroさんの講演は、彼女のライフワークであるバクテリアの3次元動的分子学の不思議の追及と、中には物理学者の夫君の協共同作業の話を交えて語られ、大変印象的でした。Shapiroさんとは個人的に親しいのですが、ご子息は沖縄のアメリカ海軍病院で3年間の勤務を最近終えられた泌尿器科の医師ですし、義理の娘さんの一人は海兵隊員で、アフガニスタンの勤務から戻ってきたばかりと伺いました。素晴らしいご家族ですね!

森先生の講演も感動的でした。先生は助教授だったそうですが、この自分の仕事は誤りで満足でないという理由で、日本でのテニュア地位を捨ててアメリカへ渡るという決意を実行され、多くの困難を経ながら現在の自分にとってやりがいのあるお仕事に辿り着いたそうです。先生のご両親は決して豊かではない生活の中から先生を支援し、励まし、またアメリカへの渡航をお許しになったということで、先生は深い感謝の念を表明されていました。授賞式にはご両親、ご家族、研究スタッフ数名をお連れになり、私たちも先生のご家族の皆様にお祝いを申し上げることができてとてもよかったと思います。

山中先生は自分の研究生活に焦点を絞って講演されました。2年間の臨床研修、日本の大学院での研究の後カリフォルニアで全く新しい研究に携われたそうです。カリフォルニアでは完全な失敗と思われる事態に遭遇、しかしそこで踏みとどまって何が起こっているのかを見極めようと研究を継続しました。予想もしなかった発見とそれに伴う多くの困難を経て、奈良先端研に助教授となり、3人の大学院生と共に苦労しながら、その後京都大学に。ここで数人の院生と実験助手とこの数年研究を重ね、今回の画期的な発見へとつながったわけです。

Dr Sackettは、一流の医師が観察者として犯した大きな誤りの歴史についてWilliam Oslerの例も含めながらお話をされました。Sackett先生はDr. Oslerの明白な失敗を見つけたときの驚きを個人的にも私に話してくれました。

各講演には受賞者の人格がにじみ出ていました。受賞講演最後は誰もが認める“thoughts-provoking scholar”、 Sydney Brenner博士で、演題は‘Humanity Gene’でした。彼独特のユーモア溢れる講演でしたが、込められたメッセージは重いものでした。

Photo_3 1:西田大使ご夫妻 
Gairdner 091029 0114写真2:左からDr. Pierre Chartrand, Vice-President, CIHR.、Dr Peter Singer (資料

夜にはRoyal Ontario Museum で授与式。西田カナダ大使が日本人受賞者お二人の栄えある付き添い役を勤められました。

ホテルに戻り、山中先生や先生のスタッフの方々とバーで寛いでいると偶然、森先生も立ち寄られて一緒に楽しいひと時を過ごしました。

トロントでのこの数日間は私だけでなく日本の科学界全体にとって良き数日間でした。今年は日加修好80周年記念の年にもあたります。天皇皇后両陛下のカナダご訪問 (資料1)も記憶に新しいことでしょう。

明日早朝、San Diegoに向かいます。

Torontoからー2、ガードナー財団Global Healthシンポジウム

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ガードナー賞50周年記念の今回、特筆すべき新企画はGlobal Health賞の創設です。グローバルな現代においてグローバルヘルスは重要かつ緊急な課題ですから、この賞は大変タイムリーであると言えるでしょう。初の受賞者はDr Nubia Munoz で、子宮頸がんの原因パピローマウィルスの同定とワクチンの効果に関する世界規模の疫学研究が評価されました。

10月28日の午後、Dr. Munozを主賓に迎えてトロント大学Dalla Lana School of Public Health でガードナー Global Health シンポジウムが開催されました。私は最初のセッション(セッションは2つ)でモデレーターを務めましたが、パネリストはEmory大学、Dr.Jeffrey Koplan 、 Gates 財団、Dr. Tachi Yamada、Wellcome Truse、Dr. Mark Walport、Toronto大学、Dr. Peter Singer  (資料1)というグローバルヘルスの頼もしい4人組でした。パワー溢れるこのセッションを司会するのはとても面白かったです。満席の会場からも熱気を感じました。

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写真1-4:レセプション。写真1;Dr Oliver Smithie (ユーモア溢れるスピーチはいかにも彼らしかったです);写真2;Gairdner Wightman 賞を受賞されたMcMaster大学Dr.David Sackett (左)-臨床疫学とEBMで知られています、とJohn Dirks (ガードナー財団の理事)、写真3;小川先生ご夫妻、山中先生と私;写真4;小川先生、森先生と私

夜のレセプションはトロント大学のMaRSで開かれました。多くの友人、過去のガードナー賞受賞者、今年の受賞者が来られて大変楽しいひと時でした。日本からは小川誠二先生森和俊先生山中伸弥先生の3名の受賞者が出席されました。

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写真:Dr. Blackburnと共に

沢山のゲストに混ざって今年度ノーベル医学生理学賞を受賞されたDr Elizabeth Blackburn(受賞理由はテロメラーゼの発見)と、彼女の元教え子で共同受賞者(三人)の一人Dr. Carol Greiderもお見かけしました。Dr. Blackburnもガードナー賞の受賞者であられますが、L’Oreal女性科学者賞を10周年記念の年に表彰されていて、私は当時、審査委員の一人に加わるという名誉に与かっています。

今日は実に素晴らしい、刺激に満ちた一日でした。本当に光栄で稀有な体験でした。

オタワでグローバルヘルス、トロントでイノベーション

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カナダは来年G8サミット(おそらく最後のG8で最初のG20となるでしょう)の主催国となります。当然のことながら、グローバルヘルスをサミットでの主要な議題とするために、カナダの様々な分野でいろいろな努力が重ねられ、交渉や準備がなされてきたことでしょう。

CCGHRもその一環としてある会議を開催しました(10月25日)。この会議はどちらかといえばリサーチに重点を置いていて、出席した会員約150名のうち25%は海外の方々でしたが、私はここで基調講演に招待されました。大変な熱気で、私もいくつかのワークショップに参加、役員会にはゲストとして出席、G8の議題についてカナダの視点から協議する内輪のセッションにも出席しました。大変有意義で学ぶことも多く、沢山の新しい友人や仲間との出会いにも恵まれた一日でした。

10月の終わり頃のオタワはそれなりに寒いですが、天気は良かったです。ここで、1人の女性の日本人研究者にお会いしました。McMaster大学で学部教育を受け、McGill大学で疫学、生物統計学、産業衛生学の修士号、博士号を取得された方です。彼女は小さいときにほんの数年を日本で過ごし、現在は南アフリカで、アフリカにおけるメンタルヘルスと貧困に関するイギリスとの共同プロジェクトにポスドク・フェローとして参加し、勉強しています。やりがいのあるミッションですね!

次の日はトロントを再訪し資料1)、いくつかの仕事をしました。トロント大学のMunk Center では私のための夕食会をMassey College で開催して下さいました。

その翌日はMunk Centerで「イノベーション、グローバリゼーションと大学」と題するパネルがあり、私の手短な基調講演の後、活発で建設的なパネルセッションが行われました。今後ますます相互依存を強める世界において、一流大学は将来のリーダー達を育成し、彼らをコネクトし、将来の課題に備えさせるための開かれた場にならなければいけないという点では皆さんの意見が一致しているように思いました。現在のグローバルな国際社会では途上国及び低開発国が抱える諸問題やその地域は彼らだけのものではなく私たちのものでもあるのだということを認識しなければなりません。ここでも、日本の女性放射線医師に出会いました。彼女は東京女子医大の出身で、Massey Collegeのresident junior fellowとして医学教育研究の勉強を始めたばかりだそうです。このような経験は彼女のキャリアにおいて広い視野や考え方を身につける貴重な機会ですね。トロント大学は多民族性、多様性、カリキュラムや講義の幅広さで知られる素晴らしい大学ですから。

MITのD-Lab、学生との起業

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先日もMITのD-Labを紹介しました。ここで活躍している遠藤くんが、日本を訪問した機会に、ということで私を尋ねてきました。私のイノベーション関係の研究や教育活動に参加してくれているDr William Saitoさんも参加して、いろいろ話が弾みました。遠藤くんは慶応大学で学部、修士を終えて、MITでPhD、現在MITでD-Labに参加しながら、自分の研究活動にも活躍しています。

遠藤さんのD-Labでのテーマは、途上国の義肢(義足、義手等々)を必要としている人たちに、安く、しかも使いやすい義肢を提供しよう という計画です。交通事故、戦争、地雷などで、不自由な生活を強いられているのです。また、現地での義肢は質も悪く、使いにくいとか、なかなか上手くフィットしないとか、すぐに壊れるとか、社会基盤、技術の程度を考えれば、致し方ないところもあるのですが、これを開発して普及させたい、このような人たちの自立を助けたいという、壮大な計画です。素晴らしい活動です。

Img_1889_top 写真; 左からSaitoさん、遠藤くんと

このような活動が実際の社会活動、事業へ発展することも多いようで、上手くいかないのが多いのは当然です。しかし、このサイトに掲載してあるのはまだ続いているものだそうで、起業したものの26%が残っているということです。William Saitoさんはアメリカで学生のときに起業し、それが大成功した人ですが、「この比率はすごいね」、とすぐにコメントしました。本当ですね。

遠藤くんは、世界記録を破れるような高度の義足の開発にも関係しているようですね。高い目標と、とても広い視野での活躍です。慶応の学生のときにソニー研究所北野宏明さん とAIBO の開発にかかわったそうです。

米国内科学会日本支部

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この米国内科学会日本支部というのはなかなかユニークなものです。なぜ米国内科学会(American College of Physicians- ACP)日本支部があるのか?これについては以前にもご紹介していますので参考にしてください(参考12)。

2004年春の設立以来、ACPの会長の参加も得て、総会を開催しています(活動報告はこちら)。私も設立から関わっており、あと1年ほどGovernor支部長を勤める予定です。

この総会は国内のものとはちょっと違っていて、上下関係があまり感じられないところに特徴があります。これは特に若い人たち、医学生や研修医たちから言われることです。

去年の報告はこのblogでも。

今年の総会は、日本内科学会の協力を得て、4月に東京で開催されました。女性医師の活動や症例検討などに活発な議論が盛り上がり、若い人たちの熱気が感じられた会でした。会場の雰囲気はこちらでご覧下さいまた、去年の総会の報告もこのブログで紹介していますので、見てください。

さらにその2週間後には米国PhiladelphiaでACP年次総会もあり、多くの会員が忙しい中を参加していただけました。

これらの一連の活動報告ができあがりましたので、興味のある方はぜひ目を通して、会の活動状況や多くのメッセージ、写真なども楽しんでください。

インフルエンザ文明論

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4月の終わりからブタ由来のインフルエンザが広がり始め、世界中が大騒ぎになりました。速やかな科学的分析と対応、世界をまたぐ情報の共有を通して、幸いに今回はさほど大きな人的、社会的、経済的な被害は発生しないですみそうです。

よく考えてみれば人類の歴史は常に感染症との闘いであり、基本的には人類の活動範囲が広がるに伴って、これからも繰り返し起こることです。

この視点から月刊誌「新潮45」(7月号)に「インフルエンザ文明論」という私の考えを示してみました。

歴史を振り返り、将来を考える。これは何を考えるのにも大きな枠組みとして大事なことです。

ジャック・アタリの「21世紀の歴史:未来の人類から見た世界」は2006年の著作ですが、邦訳(2008年)が出ています。壮大な人類史と、21世紀の世界のありようについての予測です。今までの常識では考えられないような急速な変化です。でも本当に起こりそうです。

TEDが東京へ

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TEDが東京へ」といわれて、「いよいよ来たか」と思う方は相当な人ですね。でも本当なのですよ、これが。

5月22日、TEDxTokyoがお台場の科学未来館で開催されました。200人限定で全て英語。日本の方は40%までという設定。私もお手伝いしたのですが、ライブの時間は最長でも1人18分と限る方式で進められ、TEDからいくつか選んだ映像も織り交ぜながら、とても楽しく、そしてinspireされる一日でした。

企画の2人、Todd and Patrickの息のあったコンビ、テンポのよい司会進行がとてもおしゃれ。

TEDxTokyoのサイト、また、本場のTEDのサイトも訪ねてみてください。

ボランティアで参加した多くの若者たちに感謝。

Torontoから-1

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写真1: トロント大学Naylor学長と

5月1日、Washington DCからTorontoにやってきました。5年ぶりになります。今回はUniversity of TorontoMunk Center for International Studiesへの訪問が主目的です。

まずは、Le Royal Meridien King Edward Hotel にチェックインし、一息ついて出かけます。

最初の訪問では、DirectorのJanice Steinさん、Vice-President for University Relations のJudith Wolfsonさん、L.J. Edmondsさん、そしてGRIPSの角南さんと、今年の「Japan-Canada修好80周年」計画の打ち合わせ。特に広い意味でのイノベーションに焦点を絞ろうと双方で提案をしました。しかし、向こうの3人は、女性で皆それぞれがPhD、弁護士、政府関係など、多彩なキャリアを持っており、たいしたものです。

ところで、75周年のときは日本学術会議と「Gender Issue」をテーマで会議を開催し、そこから「日本-カナダ女性研究者交流プログラム」 が始まっています。

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写真2: Munk CenterでSteinさん、角南さんと

ちょうど講堂ではMunk Center Asia Institute主催の「Asian Foodprints」が開催されており、ちょっとのぞきました。今回が第1回目ということで、食から知る文化、今年は「China、Hong Kong」がテーマで、とても面白そうでした。

その後、学長との面談。5年前に訪問した時は、現在のUC Berkeleyの学長に就任する直前だったBirgenenauさんと学長室で昼食をとりました。就任間もないDr. David Naylorさん(写真1)ですが、私と同じ医師であり、医学部長だった方です。まだ若いですがなかなかのキャリアがあり、共通の話題も多く話が弾みました。

その晩は、Munk Center Asia Institute主催の「食から知る文化」のdinner。お客様も大勢で、所長のJohn WongIto Peng教授をはじめ、Stein, Wolfson, Edmondsさんも参加、全体がすばらしい企画でした。来年は日本をテーマにするということです。会場では在トロントの山下総領事在トロント国際交流基金 鈴木所長ご夫妻にもお会いしました。

7月には天皇皇后両陛下がカナダをご訪問されます。これも皆さんの話題になっていました。うれしいことです。

ワシントン、その3: 世界銀行から

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2008年1月に世界銀行で講演(参考 12 )をし、また直後の2月には東京でGlobal Health Summitが開催されましたが、これらから双方向で大きな信頼関係を築くことができました。今回のWashington DC訪問にあわせて、30日の朝から4時間にわたって、科学技術政策と特にアフリカの開発について議論する機会がありました

日本では、昨年のTICAD4 (参考 12 )やG8 Summit 関連会議などを通して、アフリカ支援の強化と、さらに「科学技術外交」(この数年主張し続けていることです。参考 12 )を展開しようという政策が、日米その他各国のアカデミーでも策定されるようになり、それぞれが協力体制を作りつつあります。

大きく動く世界の中で、グローバルな課題に対して世界銀行の科学技術政策はどのような役割が果たせるのだろうか?これは大きな課題です。ちょうど、日本の科学技術の視察団がアフリカを訪問し、その報告会が東京で開催されたばかりでしたので、こちらとしても日本の政策の宣伝にもなるいい機会でした。国際投資銀行(JBIC)国際協力機構(JICA)など、日本からの参加もあり、活発な議論が行われました。なかなか好評でした。

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写真1: 世界銀行で、大使館の上田書記官と

以下、世界銀行での朝食会とパネル「Science, Technology and Innovation Capacity Building Partnership Meeting」の様子です。

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写真2: 朝食会

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写真3: Dr. Nina Fedoroff (参考 1)と Dr. Peter McPherson

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写真4: 世界銀行のDr. Alfred Watkins (参考 1)とUNAIDのDr. Andrew Reynolds

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写真5: 左から、Drs Victor Hwang (T2 Venture Capital)Christian DelvoiePhillip Griffiths

世界の日本に対する期待も大きいですし、日本が世界に貢献できることも大きいはずなのですが、何か内向きの国内事情が寂しいです。この「100年に一度」といわれる危機的な世界の状況に対して、なかなか変われない日本を大改革するという覚悟を示すような、明確な国家ビジョンを政治のリーダー達が示すことが大事です。

それでなければ、いくら国際交渉やトップ外交をしたところで、冷徹な世界では本気で相手にはされないのです(船橋主幹による、註)。世界第2の経済大国といっても、どの程度、日本の国家の意思とその政策が世界に発信され、世界からどの程度信じられているでしょうか。世界は“Japan Missing”と感じているのです。

註: 日本語は「脱力状態の日本外交」(朝日新聞 4月27日 朝刊3ページ)

外科医 木村 健さん:日米の「違い」から学ぶ実践的改革

アイオワ大学で小児外科医として腕を振るってきた木村 健先生と久しぶりに対談の機会がありました。

日米では社会制度も医療制度も医師の教育や研修にも大きな違いがあります。実体験に基づく違いを知ることによって参考になる点を、そしてどのように日本の制度にあわせながら、この悲惨な「医療崩壊」の現状を変えていく参考になるのか、考えさせられるところも多いです。

木村先生は広島大学での「医学部付属病院」から「大学付属病院」への思い切った大学病院改革にも、お力添えされました。これも大いに参考になります。

「違い」の本質を身をもって体験から知ってこそ、実践的な“知恵”が出てくるのです。実体験のない“知識”は今の日本の「医療崩壊」のような修羅場にはあまり役に立たないのです。

この対談が医学界新聞に掲載されましたので紹介します。

 「Principleのない日本、“医療崩壊”の打開策とは」PDF

“できない理由”を言わないで、どうしたら“できるか”を考え、行動することこそが、責任ある立場の人たちの責務であり、リーダーなのです。今こそ、そのような人たちが本当に必要なのですけどね。