インドから、ところ違えば、、、

ニューデリーで開催されたアジア学術会議(毎年開催していて、今回が第6回です)に参加して、帰国してきました。幸いなことにあまり暑くなかったのですが、会議場のエアコンが効きすぎていて、弱くするように何回もお願いするほどでした。「インドに行って凍えそうだったよ」などとは報告したくないからね、といってお願いしたのですが、これでエネルギー問題を議論しているのでは話になりません。

しかし、国が違えばとんでもなく違うということも実感しました。例えば、レセプションですが、主催者の挨拶もなく、なんとなく始まってなんとなく終わっていくのです。インドでは大体そんなものだと言われました。ゆったりとしているといえば、聞こえはいいですけどね。

今回の会議では、特に女性の「ジェンダー問題」の委員会が元気でした(ここ3年は、毎回元気になっています)。報告書もすばらしものでした。日本からのメンバー2人(石倉洋子さんと深川由紀子さん)も物怖じしないし、英語は達者だし、論客だし、感心しました。このような方たちにお会いすると、元気をもらいます。

22日には学術会議メンバーの何人かがアゴラ、そしてタージマハールを1日で観光し、その後帰国してきます。私はといえば、23日からエジプトのアレキサンドリアに行かなければなりません。この世界で最古の図書館(約2,300年前)、「世界初のアカデミー」で、理事会と、BioVisionという国際会議が開催されるためです。

アメリカアカデミーの建物(国務省の目の前にあります)のドームの天井に、アレキサンドリア図書館、英国のRoyal Society、そしてイタリアのLinceiアカデミー(ヨーロッパ最初の科学アカデミー、1606年設立)の紋章が掲げられています。伝統でしょうか、歴史を知る国家の品格ですね。

国際持続可能性会議

4月2日のブログでも少し触れましたが、今年3月に国際持続可能性会議が東京大学が中心となって、バンコクで開催されました。小宮山総長も出席し、当地での同窓会も企画されていました。

会議では開幕の基調講演をさせていただいたのですが、その時行なった講演のレポートがありましたので紹介します。

元気を出してもらうのが私たち教育に関わる者の責務と考えています。そういったメッセージを伝えられたと思います。 レポートを書いてくれた黒田さん、ありがとうございました。

大学の大相撲化?! -続き

4月12日、総理官邸で小泉総理等と会食する機会がありました。その時にも総理に「大学の大相撲化」の話をしました。第3次科学技術基本法で国家の投資が増えるのはうれしいが、大学が鎖国状態では世界の主流から“外れて”いるといった趣旨です。同じ趣旨で去年の12月、今年の2月にも総理に私の見解を申し上げています。

同じ頃、総理のメールマガジン(2006/3/30)でこの話が取り上げられています。

さらに総理には「春場所は優勝、3賞みんなモンゴル」、そして「今年は世界で始めての最大の帝国“大モンゴル帝国”がジンギスカーンによって作られたのが1206年、今年がその800年目です。」と申し上げ、是非、モンゴルの力士とモンゴルを訪問されてはいかがかと提案いたしました。モンゴルでの日本の人気はさらによくなることでしょう。これも国家の外交戦略の一つと考えますが、いかがですか?

鎖国の時代ではないのです。特に大学という「知の世界」ではなおさらです。

大学の大相撲化?!

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4月14日から16日にかけて横浜で開催された、日本内科学会総会(慶応大学の池田教授が会長)で、特別講演をさせていただく機会をいただきました。嬉しいことです。今回で4度目となる日本内科学会での特別講演ですが、今回は前回行なった講演の延長で、大きな枠組みで見た日本の課題について、それからリーダーシップというものについてお話しました。

この講演では「大学の大相撲化」というスライドを使用しました。内容は以下のようなものです。皆さんはどのように考えますか?

日本の大学は現在も「鎖国」状態ではないか?この「グローバル時代」の中で、世界の一流大学はいかに世界中から優秀な学生を獲得するか、そしていかに優秀な学部卒業生を世界に輩出するか、という高い目標を掲げています。優秀な学生を世界に輩出することがその大学の世界での評価であるという認識なのです。それに比べ、日本の大学はいまだに「知の鎖国」(このサイトで“知の鎖国”というキーワードで検索してみてください)状態にあるというのが私の見方です。1月28日のブログ「ダボスから(3) 一流大学人の価値観、情熱、社会的ミッション」も見てください。「そんなことは無理」だというのでしょうか?

10数年前、相撲で小錦が勝ちまくっていたころ、「外国人が横綱なんてとんでもない」という議論がありました。しかし今ではどうでしょう。ちょっと前では曙や武蔵丸、今では朝青龍と、みんな外国人です。これはどんなことを意味しているのでしょうか?モンゴルは言うに及ばず、海外で相撲という文化を理解する人が増え、日本を好きになり、日本を評価するようになってきました。モンゴルでは日本のファンが増えています。

もし日本の大学が“学部”を開放したらどうなるでしょうか?もちろん英語の授業をとるだけで卒業できるようにするのです。日本語の授業をとる人も出てくるでしょう。日本人だって海外の大学へ行けば同じことです。同級生に世界のリーダーになる人も出てくるでしょう。すばらしい国であるという評判も立ってくるでしょう。大学の評価も卒業生の国際的評価によって「グローバル」になってくるのです。

現在、大相撲の力士は758人、そのうち外国人は60名(約8%)、中国人、韓国人もいます。幕内では 42人中12人が外国人(約29%)、三役では8人中3人(約38%)、モンゴルの横綱も入れれば、三役以上は実に9人中4人(約44%)が外国出身になります。春場所では優勝、3賞、全てモンゴル出身者が獲得しました。

大学という、相撲よりももっと開かれていい人材育成の場が、なぜまだ鎖国状態なのでしょうか。何か“ずれている”と思いませんか?途上国の学生に奨学金を出すことも一つです。このようなことで人材育成を通して国家の信頼が上がっていくのです。

ウィンブルドンはプロテニスの目標の一つとなっています。でもイギリス人はほとんど優勝できていません。しかし、イギリスの伝統、国を好きな人は世界中にたくさんいるのです。これを英国の「ウィンブルドン化」といいます。

“学部”を完全に解放している大学の一つが、立命館大学の大分キャンパス「Asia Pacific University」です(小泉総理も昨年11月に訪問されたそうです)。Cassimさんという Sri Lanka出身の方が学長をされています。学部学生の42%が外国人。去年12月に講義(もちろん英語で行ないます)に行きましたが、クラスの30%が日本の学生でした。この若者たちがこれから世界に目を向け、たくさんの国に多くの友達を作っていくかと考えただけで、嬉しくなりませんか?大分の町の評判もこれからどんどん上がっていくのではないでしょうか。

世界の健康政策へ

4月1日から北京に来ています。10日前にも、バンコクで東大が主催し、MIT等の7大学が参加した持続可能性国際会議で基調講演した後、北京で開催されたWHO西太平洋主催の会議に出席したばかりです。どんどん世界は小さくなっていますね。

今回の北京訪問は、2000年に日本学術会議が主催して実質上の立ち上げとなったIAP(Inter Academy Panel)の際に、医学アカデミーの連携を目的に設立された「IAMP(Inter Academy Medical Panel)」の初めての事業のひとつとして協賛した“Disease Control Priorities in Developing Countries (2nd Edition)”と、その別冊的な“Global Burden of Diseaseand Risk Factors”のお披露目もかねて開催される会議に出席することが目的です。この事業はGates Foundationの支援で可能になったのもですが、素晴らしい出来栄えです。The Disease Control Priorities Project (DCPP)のホームページもたずねてみてください。

1月30・31日とStockholmのKarolinska研究所で開催された、Millennium Developing Goalsとも深く関係する立派な成果です。World Bankの方や米国のInstitute of MedicineのPresident、Fineberg氏(4年前まではHarvard School of Public Healthの学部長でした)も参加しています。

世界はどんどん動いています。中国の仲間とも議論が盛り上がっています。

6日には帰国しますが、日本学術会議の春の総会が終ると、15日からはアジア学術会議のためにインドのニューデリーに行きます。いやはや、忙しいです。

「タテ社会」の見直しを

2月11日の毎日新聞「論点」に掲載されました。

 「タテ社会」の見直しを

ここのところ、ソウル大学のES細胞捏造事件をはじめとして、国内でも研究論文の不正疑惑が相次いでいます。日本学術会議では以前から研究者の行動規範を論じ、いくつかの提言を出していきました。

研究者の意図的な不正行為もあるでしょう。これは問題外です。しかし、そのような不正行為を一番わかっているのは内部の人です。若い人たちが教授に疑問を投げかけられますか?できないのであれば、なぜできないのでしょう?研究室や学内、また学会等は開かれた議論の「場」になっているでしょうか?そうでないのであれば、なぜでしょうか?

日本社会に特異的な問題がないか、これがまず一番の問題です。現在の日本の社会全体が抱えている問題も、そのような不正が行われる要因の1つになっているのではないでしょうか?企業でも役所でも、不正行為が明らかにされ、癒着などが後をたちません。なぜでしょうか?
皆さんもどこが問題なのか?なぜ問題なのかをしっかり考えてみてください。

日本の決断-国民が真に求める医療政策とは

前にも紹介していますが、今、医療政策を考え提供するシンクタンク「日本医療政策機構」を設立し、活動しています。定期的に青山で朝食を囲みながら政策談議をしたり、「医療政策人材講座」というものを東京大学と始めて2年が経ちました。2月18日(土)には、国連大学で「日本の決断-国民が真に求める医療政策とは」というシンポジウムを開催しました。

安倍晋三官房長官もご挨拶に来て下さり、今このプロセスで重要な役割を担っているキーパーソンの参加を得て、有意義な盛会となりました。参加した皆さんも、どのように政策が作られ、選択され、導入されるべきなのか、理解を深められたのではないかと思います。こういったことがもっともっと広がることが、市民社会への第一歩なのです。

このブログの他にも、日本医療政策機構のサイトや、22日のブログでも紹介した言論NPOのサイトも時々尋ねてみて下さい。

 

日本人に特徴的行動

突然ですが、皆さんはグローバル時代の動向、行動原理はどこにあると思いますか?そして、日本人の行動原理はどこにあるのでしょう?

2月のはじめに行った言論NPOでの講演で、日本人に特徴的な、つまり、日本人以外にはほとんど理解できない「4つの常識」というものについてお話しました。皆さんも「なぜか?」をよく考えてみてください。

言論NPOは工藤泰志氏が主催している「シンクタンク」で、アジアとの連携等について重点的に活動をしています。支援している方も多くさんいらっしゃいますが、このよう活動をもっと広げていくために、まわりの知人にも紹介してください。

Inter Academy Council(IAC)会議 in Amsterdam

31日からアムステルダムに移動しました。空港で日本学術会議の西ヶ廣局長と合流し、小町大使公邸にこの一年のご支援に感謝を申し上げに行きました。

私も参加しているIAC(Inter Academy Council)については、ブログでも何回か触れていますが、今回3つ目の報告書「Gender in Science」がほぼ出来上がり、更に、エネルギーStudy Groupを立ち上げたりと、気候変動等の分析、政策提言へ向けて活動しています。日本からは東京大学の山地賢治教授が参加しており、後1年余で完成するとの報告です。座長の一人は、1997年Nobel物理賞を受賞したSteven Chu教授で、彼はCO2の出ないエネルギーの研究を始めようと、2年前にStanford大学からLawrence Berkeley Research Laboratoryの所長へと移りました。このNobelのサイトで彼が書いている自伝(autobiography)から、何か感じ取ることがあると思います。素晴らしい人物で、かつ大変頭の切れるすごい方です。生物学対象の遺伝子情報の読み取り転写等の研究を進めていますが、エネルギー問題に関するお話を聞いていると、その造詣の深さに驚かされます。Chu氏は私も関わっている沖縄の大学院計画の運営委員でもあります。

一方で、このような科学者からの地球規模の問題についての提言は大変期待されてはいるものの、ここでも資金が問題となっています。これまでに2つのIAC報告が2004年に国連のAnnan事務総長に提出され、昨年のMillennium Summit報告にも掲載されましたが、これらは資金があって初めて出来ることです。事実、第1報はSloan財団からの支援、第2報は国連からの支援で実現されたのです。

去年12月に就任した英国のRoyal Societyの新会長、天文学者のMartin Rees氏にお会いしました。Cambridge大学のTrinity CollegeのMasterでもありますが、本当に素晴らしい方です。今年のG8についても少し議論しました。

Millennium Development Goals (MDG) in Stockholm

Jeffrey Sachs氏というColumbia大学の教授を知っていますか?2000年から2005年まで、5年の歳月をかけて国連の「Millennium Development Goals(MDG)」という報告書(世界の国が2015年までに諸問題に対しどこまで達成するかをプッシュしようという極めて大きなビジョンを持ち、しかも具体的な提言。日本学術会議の「日本の科学技術政策の要諦」でも、「MDG」について述べてあります。)を作成し、昨年の1月に発表されました。「The End of Poverty」という本でも出版されています。途上国開発の顧問等として、いつも忙しくされています。とても立派な方ですが、少しも威張らない、ニコニコした素晴らしい方です。

29日の夜にDavosからStockholmに入り、このSachs氏たちがKarolinska InstituteのNobel Forumで開催した、「Malaria and Forgotten Infectious Diseases」という会議に参加してきました。MDGのゴールに向け一歩でも前進させるための具体的な知恵、戦略について議論するものでした。(この会議については、http://www.unmillenniumproject.org/stockholm/index.htmで見ることができます。)

Sachs氏の企画にMillennium Villege(MV)というプログラムがあり、AfricaのKenyaとEthiopiaで1箇所ずつ活動が始まっています。子どもの教育、栄養、食料、病気と健康等について、約5,000人の村の地元の人たちを主体としてアフリカの生活を少しずつ向上させようというものです。MVについてはNY Academy of SciencesのPresident Ellis Rubinstein氏のコラムにわかりやすく書かれています。

去年9月の国連Millennium Summitで日本がこの8つのMVを支援すると宣言し、国連関係者の中では高く評価されました。この運動をもっと広めて行きたいのですが、日本ではほとんど報道がされておらず、知られていないのが現状です。そこに役所主導の政策の弱点があるのです。私企業では考えられないことですね。日本のODAも、もっともっとよく考えないといけません。

会議は100人程度の規模でしたが、勿論Africaからの参加者が多く、パネルでは「ODAなどの支援は、MV のような地元密着型、住民参加型でなければ上手くいかない」ということと、日本のMV支援について紹介しました。実際の成果を、Kenyaの厚生大臣Ngilu女史(私と共にWHOのCommissinerをしています)に聞いてみたところ、彼女もMVモデルを高く評価しており、もっと増やして行きたいといっていました。子供たちは勉強し、健康になり、畑や水も、日常生活が明るくなっているということです。やはり、ODAは地元にあったプログラムでないといけませんね。教育、健康、栄養、農業等々、地元優先が基本です。そして一人一人にプライドを与えなければいけません。Sachs氏も一歩でも前進する具体的な提案が必要だと繰り返し言っていました。ここでは先進国の大学生などの参加も大変期待されています。

ご存知の通り、このKarolinska InstituteはNobel医学生理学賞の選考・発表が行われるところです。Karolinskaには、5年前から日本の学術振興会の事務所が置かれており、パネルには、現在所長をしておられる遺伝学で有名な岡崎恒子先生も参加してくれました。

滞在中にはKarolinska所長のHarriet Wallberg-Henriksson氏、在Sweden大使、また、Nobel MuseumのLindqvist所長、Royal Society(Nobel物理、化学受賞者の発表のあるところ)の事務局長OEquist博士等に会食等にお招きいただきました。来年はこのRoyal Societyを創設したLinne生誕300年です。そういえば今年はMozart生誕250年ですね。