「ブラックジャックたち」、そして医師を育てる

いつも言っていることですが、人材育成は国の根幹です。私自身、日米で医師としてのキャリアを形成する上で周りの人々にとても恵まれ、UCLA医学部と東京大学医学部では内科教授をさせてもらったし、東海大学では医学部長をする機会を得ました。どこにでも優れた人達がいる、この人達を広く若者達に知ってもらうのも私の仕事と考えています。また、若い人達でもすばらしい可能性を秘めた人達がいる。その人達にできるだけ機会を与えることが、教師の仕事と考えています。事実、できるだけその原則で行動してきたつもりです。

朝日新聞で田辺功氏の取材による「ブラックジャックたち」という優れた医師の紹介記事が15回にわたって掲載されました。その最終回に沖縄の宮城征四郎先生、アイオワ大学の木村健先生と共に紹介されました。ご覧になった方も多いかもしれませんが、ありがたいことです。お二人とも本当にすばらしい方で、皆さんにもっともっと知って頂きたい方達です。

医学生の方も研修医の方も、広く「外」の世界を見なさい。たくさんの人達に出会いなさい。そして自分の目標、お手本を見つけることです。そしてその目標へまっしぐらに向かえれば幸せですよ。

なかなか目標になる様な人には出会えないと思っていませんか?そんなことはありません。

マサイ・マラから、「ジャンボ!」

ナイロビの仕事が終わり、せっかくここまで来たので、ケニアの大草原、マサイ・マラ国立公園に足を運びました。テレビなどで見たことがあると思いますが、ヌーの大移動などで有名な場所です。あと3、4週間ほどするとヌーとシマウマが大挙して南のタンザニアのセレンゲッティ草原からマサイ・マラへ移動を開始するそうです。そして、ここを流れてヴィクトリア湖へと注ぐマラ川を渡るのですが、それをワニが待ち構えており、またこれらの草食動物を追ってライオンなどもたくさん来ます。自然の偉大な営みですね。

この辺のケニア・タンザニア一帯はマサイ族の土地です。
到着した午後の3時間と、翌日の朝から6時間ほどサファリに行きました。サイ、ゾウ、キリン、チータ、ガゼル、水牛、カバ、ワニ、ハイエナ、ジャッカル、ダチョウ等々、たくさん見られました。動物園とはまた違っていていいですね。多くの子どもたちに見せたいです。自然はすばらしいです。時間がゆっくりと流れ、毎日の生活の忙しさがばかげてきます。何のためにワサワサしているのかと。もっと自然に近い生活でないと“不自然”ですね、本当に。

この東アフリカはヒトが出現した場所です。なんとなく、「なるほど、草原だな」とか「どんなだったのかな」なんて、しばし感慨に。いろいろ本もあるし、http://sapporo.cool.ne.jp/jpnam/sosen.htmlのようなサイトもあります。自分で見つけて楽しんでください。ダイアモンドの「銃、病原菌、鉄」とか、Rサイクスの「7人のイヴの娘」などの本を思い出しました。

今回私は日本人が経営するMpata Safari Clubに宿泊しました。なかなか素敵なロッジです。日本人旅行者のお客さんが多く、新婚旅行組あり、シルバー系ありでした。見晴らしもすばらしく、なかなかよかったです。ちょうどここで結婚式を挙げている場面にも遭遇しました。私のサファリは2組の新婚さんと一緒でちょっとお邪魔でしたね、何しろこちらは一人ですし。

お客さん担当が日本人の若い女性で、アメリカの大学でツーリズムを勉強し、アフリカが好きでここで働いているそうです。ここの人たちはみんないい人たちで好きですと言っていました。私も何日かケニアに滞在して本当にそう思いました。スワヒリ語と英語が共通語で、みんな「ジャンボ」(こんにちは)と言うのです。

ケニアの1週間で感じたことは、世界は本当に広いのだから、若い時には広い世界へ出てみるべき、生活してみるべきだということです。スラムへ行ってみるのも良し、“ニート”なんて言っていてはもったいない。あなた達を待っている人達も、機会も、たくさんあるのです。みんなが将来へ向けて、それぞれできることがいっぱいあるのです。ケニアのマータイ氏(2004年ノーベル平和賞受賞者)ではないですが、「もったいない」ですよ。

ナイロビから ~立派なリーダーを知ること

WHOの会議の4日目に、メキシコの厚生大臣Julio Frenk氏が「医療・保健行政」について話をされました。自分で政策を実践してきた人の話は説得力があります。素晴らしい学者・研究者という背景もあり、まだ若いですが世界の厚生行政の第一人者として広く知られています。

4/2に紹介した北京での国際会議で基調講演をした一人がこのFrenk氏でした。格調高い名講演で、私も友人のDr. Jaime Sepulveda(世界的に著名な、メキシコ医学界のリーダーの一人)に頼んで、大臣の講演原稿のコピーを送ってもらいました。このような講演原稿は細微まで自分で書くのだそうです。たいしたものですね、実力が違います。

この会議では、挨拶が予定されていたWHO西太平洋事務局長の尾身茂氏が急用で来られなかったので、ビデオで挨拶をされました。素晴らしい内容でした。彼はいつも国際的視野の豊かな話をされるので、日本人として嬉しい限りです。

今回、Frenk氏と夕食も一緒になったので原稿の話しをしてみましたが、今回の講演の原稿もご自分で書いたと言っていました。実力と実践力のあるリーダーは頼もしいですね。世界で高い評価を受けるにはそれなりの理由があるのです。世界ではすぐに人間を見抜き、理解してしまいます。決して肩書きではごまかせません。

ところで今週末メキシコは総選挙で、彼の支持政党は負けそうだとのことでした。そうなると政権も変わり、政府は12月初めで交代だそうです。日本は政権党が1955年から、短期に終わった細川内閣以外は変わらないのですから、ある意味で不健康、世界でも珍しい「民主国家」ということでしょうか。

さて、このWHO Commissionには、つい先日までチリの大統領だったLagos氏も参加していました。昨年3月の第1回WHO会議が、チリのSantiagoで開催されたのはそのためですが、Lagos政権での医療政策大改革は弱者へ焦点を当てており、途上国として大変素晴らしいものでした。その会議にはFrenk氏も参加していてLagos氏の政策に共鳴し、教わりに来たのだと言っていました。今回の会議の要所要所でのLagos氏の発言は、本当によくしっかりと考えられていて、素晴らしかったです。

立派な政治家を持つことは大事です。

最後に、WHO事務局長のLeeさんも内外とも評判が高い方でしたが、先日、61歳という若さで急逝されてしまいました。本当に残念なことです。

大学の大相撲化?! -続き2

今年の4月15日、16日に、「大学の大相撲化」のテーマで大学という「知の世界」の鎖国性を指摘しました。そして、小泉総理のメールマガジンに掲載された総理のメッセージもそこで紹介しました。

このテーマについては、文部省系の学術誌「IDE 現代の高等教育」でも“新科学技術基本計画と大学”というタイトルで取り上げました。“大学の大相撲化”と“Science as A Foreign Policy”というキーワードが何度か出てきますので、是非ご覧ください。

御意見もお待ちしています。

ケニア大統領との会見

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今日はケニアのKibaki大統領と2時間ほどの会談をしました。前大統領が統治していた4年前までは国自体かなり荒れていたようですが、今はだいぶ回復してきたようです。Kibaki大統領はその頃からの改革派。「さあ、なんでもいってください、遠慮なく」から始まって、このWHO Commissionの重要性を認められ、ケニアに委員会を作るよう指示されました。このようなWHO CSDH(Commission for Social Determinants of Health)への国内対応委員会を、国の最高責任者がじきじきに作るのはブラジルとケニアの2ヶ国だけですが、ケニアはアフリカでは比較的政情が安定しているので、アフリカへの政策としてモデルケースになりうるのではないか、それはケニアにとってもいいことだ、ということです。

スラムへ行く

午後は、厚生大臣Ngiluさんとナイロビ郊外のKiberaというスラムに行きました。50万人ほどが集まっているということですが、とんでもなくすごいところです。窓もない土とトタン屋根でできた狭い「家」に何人も住んでいるといことです。「家」にはトイレなし、調理するところもない。スラム自体には電気や水道はきていましたが、「家」にはほとんどきていません。ここに住む70%の人は貴重なお金で水を買っているということです。

クリニックもひどい状態で、エイズ患者は本当に多いです。全国的には人口の14%だったものが、今では 6%程度までに減ったということでしたが、スラムではエイズ患者が人口の30%にも上るということです。

1997年~2002年までJICAを通して関わったタイのパヤオ村では薬もなかったのですが、ここでは薬はくばらられていたので、まだましなのかなとも思いました。

ところで、このKibera村では2つの小学校を訪ねました。一つはスラムの中にあって、教会が運営しています。環境的にはひどかったのですが、ここでは子どもたちがみんなで歌を歌って歓迎してくれました。スラムのはずれにもう一つの公立の学校(1年生~8年生)があります。ここは国のモデル校になっているようで、全国でもトップクラスの生徒が集まっているそうです。教室では狭い机に3~4人が座り、子どもであふれかえっていました。

子どもたちは皆明るく、ここに未来があると思いました。“トイレの後は手を洗う”といったことも学校で実行させていました。「家」ではそんなことさえもできないです。そんな環境の中、子供たちは明るく、目をきらきら輝かせて暮らしていました。本当に心から感動しました。

先生たちもすばらしいかたばかりでした。皆が誇りにあふれているのです。「家」に帰っても電気があるわけでもないので、5時まで学校に残り、そして長い道を子供たちの手をとって帰るのです。

学校に「The most moving experience in my life, I see the future of the nation」と記帳してきました。このブログを見ている誰かが、いつか目にするかもしれませんね。

ホテルに帰ると、このホテルの女性のマネジャーが、今日見たスラムの出身で、さっき訪ねたばかりの町のはずれにある学校に通っていたと知り驚きました。アフリカには恵まれない国がまだたくさんあります。皆さんも何か少しでもできることを考えて、こういった活動に参加する機会を作ってみませんか?

Kenya1写真 ケニヤ大統領公邸で。大統領(中央)とCommssionerのNdioro Ndiayeさん

ケニアへ

ロンドンから帰国して、富山と横浜を2日でまわり、ドバイ経由でナイロビに来ました。WHOのCommissionに参加するためです。

ナイロビは標高が高いのでとても涼しく、北海道のような感じで広々としています。ケニアの大蔵大臣、文部副大臣等が3時間も時間を取ってくれて有益な議論ができました。チリの元大統領のLogos氏も参加していて、チリのワインが夕食時に話題になったり、大変楽しい時間でした。

Commissionの目標は「Social Determinants of Health」で、東京大学の橋本英樹教授にも参加してもらっています。彼は私の教え子の一人ですが、HarvardのPublic HealthでMaster’s Degree(このレベルは日本にもたくさんいますが)だけでなく、Doctorまで修了してきた珍しい俊才です。

ナイロビの街中は結構危険、ということで、街のはずれのサバンナの広がる国立公園に面したホテルに滞在していますが、とてもすばらしい光景です。

ナイロビから。

ewoman(イー・ウーマン)

先日、私と石倉洋子さんとの共著『世界級キャリアのつくり方』を紹介しました。amazon.co.jpのカスタマーレビューでもなかなかの評判をいただいていて嬉しいかぎりです。よかったら読んでみてください、参考になることも多いと思います。

また、「ewoman(イー・ウーマン)」というサイトで、石倉さんが佐々木かをりさんとの対談、「佐々木かをりのwinwin対談」に登場しています。この本の紹介もされているので、見てください。この対談、なかなか面白いですね。

ナイロビから。

大英博物館のミケランジェロ展

6月25日まで大英博物館でミケランジェロ展が開催されています。天才ミケランジェロの彫刻、バチカンのシスティーナ礼拝堂のとんでもなく素晴らしい天井フレスコ画「天地創造」や壁面の「最後の審判」、また4 メートルの高さの「ダビデ像」等のいくつかの彫刻のスケッチが展示されていました。

ミケランジェロの作品の素晴らしさはもちろん、その天才さに感動します。1475~1564年、89歳で没したルネッサンスの天才です。いまは、“ダヴィンチコード”ばかりですけど。

大英博物館のオンラインショップでDVDや本などが買えるようですよ。

5月にはロンドンに滞在していたのですが、その時はものすごい人気で予約が取れませんでした。今回は時間がなかったのですが、日本でOn-Line予約し、15時30分にヒースロー空港に到着し、入場ができる最後の時間ぎりぎりの16時40分に博物館に駆け込みました。1時間半ほど見て、また70分かけてヒースロー空港方面へ。空港をさらに超えてFour Seasons Hotelへチェックイン、約束していた夕食に間に合わせました。

ばかげているかも知れませんが、これが最後のチャンスかもしれないので観れて本当に良かったです。その後2日間で仕事を済ませ、日本に帰国してきました。

小泉総理へ、G8サミットへ向けた提言の提出

7月にSt. Petersburgで開催されるG8サミットに向けたG8学術会議の意見書を、14日の午後、小泉総理に手交しました。同時にMoscowで世界に向けたプレスリリースをしています。リリースの内容は日本学術会議のホームページで見ることができます。科学者達がこのような国際的な政治の場所に意見書を出すということは、とても大事なことだ考えています。

来年はドイツ、再来年は日本がG8のホストです。G8学術会議の意見書のまとめ方で、日本学術会議の手腕、そして日本政府の見識が問われることになります。世界の動きとはそういうものなのです。よく眼を開いて、世界の動きを見てくださいね。

JST電子アーカイブ事業

アメリカやイギリスなどでは既にスタートしていますが、日本でも情報技術の進歩に伴って、今まで図書館や学会事務局の倉庫の奥底に眠っていた過去の学会誌を創刊号から電子化し、J-STAGEを使って誰でも検索でき、すぐに手に入れるようにできるという事業(電子アーカイブ事業)がJST(科学技術振興機構)でスタートしました。

私はどの学会誌を掲載したらよいのかを選定する委員会(電子アーカイブ対象誌選定委員会)に参加したのですが、これは当時の研究者たちが如何にして問題を解決していったか、どういうことが問題だったのか、その歴史的背景を知り、文献を見ることによって、当時の状況を垣間見たり、想像を膨らませることができ、また科学や研究、発明への隠れた情熱を思い出させ、より一層強くすることができると思います。

いつでも、誰でも簡単に昔の文献を読むことができ、昔の人に思いを馳せることができたら、今問題になっている「理科離れ、科学離れ」なんてなくなるように思いませんか?