Jeffrey Sachs氏というColumbia大学の教授を知っていますか?2000年から2005年まで、5年の歳月をかけて国連の「Millennium Development Goals(MDG)」という報告書(世界の国が2015年までに諸問題に対しどこまで達成するかをプッシュしようという極めて大きなビジョンを持ち、しかも具体的な提言。日本学術会議の「日本の科学技術政策の要諦」でも、「MDG」について述べてあります。)を作成し、昨年の1月に発表されました。「The End of Poverty」という本でも出版されています。途上国開発の顧問等として、いつも忙しくされています。とても立派な方ですが、少しも威張らない、ニコニコした素晴らしい方です。
29日の夜にDavosからStockholmに入り、このSachs氏たちがKarolinska InstituteのNobel Forumで開催した、「Malaria and Forgotten Infectious Diseases」という会議に参加してきました。MDGのゴールに向け一歩でも前進させるための具体的な知恵、戦略について議論するものでした。(この会議については、http://www.unmillenniumproject.org/stockholm/index.htmで見ることができます。)
Sachs氏の企画にMillennium Villege(MV)というプログラムがあり、AfricaのKenyaとEthiopiaで1箇所ずつ活動が始まっています。子どもの教育、栄養、食料、病気と健康等について、約5,000人の村の地元の人たちを主体としてアフリカの生活を少しずつ向上させようというものです。MVについてはNY Academy of SciencesのPresident Ellis Rubinstein氏のコラムにわかりやすく書かれています。
去年9月の国連Millennium Summitで日本がこの8つのMVを支援すると宣言し、国連関係者の中では高く評価されました。この運動をもっと広めて行きたいのですが、日本ではほとんど報道がされておらず、知られていないのが現状です。そこに役所主導の政策の弱点があるのです。私企業では考えられないことですね。日本のODAも、もっともっとよく考えないといけません。
会議は100人程度の規模でしたが、勿論Africaからの参加者が多く、パネルでは「ODAなどの支援は、MV のような地元密着型、住民参加型でなければ上手くいかない」ということと、日本のMV支援について紹介しました。実際の成果を、Kenyaの厚生大臣Ngilu女史(私と共にWHOのCommissinerをしています)に聞いてみたところ、彼女もMVモデルを高く評価しており、もっと増やして行きたいといっていました。子供たちは勉強し、健康になり、畑や水も、日常生活が明るくなっているということです。やはり、ODAは地元にあったプログラムでないといけませんね。教育、健康、栄養、農業等々、地元優先が基本です。そして一人一人にプライドを与えなければいけません。Sachs氏も一歩でも前進する具体的な提案が必要だと繰り返し言っていました。ここでは先進国の大学生などの参加も大変期待されています。
ご存知の通り、このKarolinska InstituteはNobel医学生理学賞の選考・発表が行われるところです。Karolinskaには、5年前から日本の学術振興会の事務所が置かれており、パネルには、現在所長をしておられる遺伝学で有名な岡崎恒子先生も参加してくれました。
滞在中にはKarolinska所長のHarriet Wallberg-Henriksson氏、在Sweden大使、また、Nobel MuseumのLindqvist所長、Royal Society(Nobel物理、化学受賞者の発表のあるところ)の事務局長OEquist博士等に会食等にお招きいただきました。来年はこのRoyal Societyを創設したLinne生誕300年です。そういえば今年はMozart生誕250年ですね。