ジュネーヴ、WHO本部から

2005年に始まったWHOのCommission for Social Determinants of Health(CSDH)で、私がCommissionerをしていることはご存知の方も多いかと思います。これまで、Santiago de Chile、Cairo、Nairobiなどを訪問しています(2006年6月と7月のブログで少し触れています)。今回はGenevaの本部での開催です。1月16日、21時55分発AFの予定でしたが、内閣府の仕事などがあって、17日朝の出発とし、CSDH会議の第1日目は欠席となりました。

CSDHから出されている出版物、Report等はこちらから見ることができます。

Commissioner全員の写真がWHOのサイトに掲載されています。事務局長のMagarert Chan氏(写真中央の女性)を囲んだ記念写真です。私がどこにいるかわかりますか?また、“Commissioners meeting in Geneva, 17-19 January”の報告にはChan局長、Amartya Sen氏、Sir Michael Maremot氏、そして私の4人が写った写真が掲載されています。

今回はCommissionerの一人のAmartya Sen氏も初めて参加しました。2年前に東京でお会いした時に、「たまには、CSDHに出てくださいね」とお声がけしといたのですけどね。皆さんは、彼のことをご存知ですよね?現代の最高の哲学者、知能の一人です。1998年Nobel経済学賞の受賞者、Cambridge大学 Trinity CollegeのMasterを務め、3年前からHarvardに戻られています。読書漫遊 「インドの深みを知り 日本を見つめ直す」(PDF)でも紹介していますので読んでください。日本学術会議の鈴村興太郎副会長(一橋大学教授。私の尊敬する一人です)のCambridge大学時代の先生です。

Sen教授は会議中の意見も実に的確で、夜のレセプションでは話が弾んで実に楽しかったです。鈴村氏のほかにも、わたしの好きな宇沢弘文先生、青木昌彦氏、Lord Martin Rees氏、Asia Pacific UniversityのMonti Cassim氏等、共通の知人も多いし、本当にすばらしい方です。

私の主張のポイントは、「社会的格差(social inequity)はすべてこれまでの社会が歴史的に男性優位だったことにある。どの社会でもごくわずかの例外を除けば男性と女性が半々なのだから、貧富の差別なしでどの国でも、地域社会でも、まず「男女の社会的平等を目標とすべき」というものです。例外なく、達成目標としては優れた指標だと思います。何人かの女性のCommissionersから、「その通りなのだけど、私達からは言い難いのよね、ありがとう」といわれました。

WHOでは、上の写真のように新しい事務局長のDr. Margaret Chanともお会いしました。(私の尊敬する尾身茂さん、本当に残念でした。国家戦略の問題でしたね。)

また、日本人で大活躍しているシブヤDr.、モチヅキ氏、東海大学におられたタムラDr.、厚生労働省から来ているDr. エナミには大変お世話になりました。夜にはこれまた厚生労働省のDr. シノザキ元局長、タナカ、コイケ、タケイ(漢字が違うといけないので皆さんカタカナにしてあります)、そしてWorld Economic ForumのGenevaの本部で活躍しているツチヤ君も一緒に夕食を楽しみました。

明日からLondonですが、ヨーロッパの北部は大変な嵐で、飛行機が飛ぶのかどうかちょっと心配です。

沖縄、Reuters、そしてカナダとの交流

前回はWashington D.C.からでしたが、10日に帰国して、翌日11日の午前は仕事、午後から沖縄にやってきました。仲井真知事らと夕食させていただき、翌12日午前は沖縄の新しい科学技術大学院大学に行きました。予定地の恩納村の一部に古くから残る、「白雲荘」といわれる建物があり、その建物が改築されて素敵なものになっています。ここにshowcaseなるような建造物ができるのだと思います。今年のうちに研究所の建築が始まる予定です。環境アセスメントとか、造成が難しいところなのです。

移行期の研究所も訪問し、昼食は何人かの研究者と楽しくさせてもらいました。前回報告した、「Janelia Farm」は確かにここのモデルとして大いに参考になるものと感じます。設計はすばらしいものになるでしょう。楽しみです。

午後は、沖縄県行政の幹部職員にむけた講演です。沖縄の強みを生かすべきで、それは地理的、歴史的な課題はありますが、特区を大いに活用して増やすこと、国際的な人脈(米国への移民が主ですが、沖縄は広島と共に移民した人の数が多分一番多い県です)をICT等を 使って生かすこと、さらに沖縄の科学技術大学院が将来の世界の人材育成の中心の一つになるであろうこと等々をお話しました。ゴルフでも世界的な人材を輩出しているのです。どこでも同じことですが、グローバルの時代では特に、中長期的な視野で将来を担うような国際的人材の育成、世界に通用する人材を輩出することが重要です。また、沖縄は臨床研修では一番人気を誇るエリアです。ここでも何度も紹介していますが、若者には絶大な人気があり、多くのすばらしい医師を輩出しています。

さらに沖縄の強みはその観光資源でしょう。南国の香り、ビーチリゾート、慶良間諸島などのすばらしいスキューバスポットの魅了等々です。沖縄の観光収入は年4,000億円。国内からの観光客が年間約500万人ですが、海外からのお客様は年間たったの15万人だそうです。那覇空港への直通の国際線はマニラ、台北、ソウル、北京です。毎日一便あるようですが、沖縄の魅力と対照的な中国の北や内陸の瀋陽、大連、北京、南京、西安などで宣伝し、さらに週2、3便でもいいから直行便を出してもらうことを提案しました。はじめは週2便のチャーター便でもいいのです。2泊3日、3泊4日とかの暖かい南国沖縄ツアーは、特に秋や冬の寒そうな時期には、すばらしい魅力と思います。沖縄の魅力がどんなお客さんを引きつけるのかを考えて、と私の考えをお伝えしました。みなさんはどう思われますか。

13日は土曜日でしたが、去年ダボス会議で知り合った、ReutersのLondon在住の女性記者“わき”さんとのインタビューがありました。どんな人が国際感覚を無意識の内に内在していくのかなど、話が弾みました。

その後はToronto大学のLollar教授とお会いしました。地質化学が専門ですが、話はまたもや弾みました。彼女は3年前に日本学術会議とカナダのアカデミーがはじめた、「Japan-Canada若手女性科学者交換プログラム」の一環でこられたのです。このプログラムのポイントは訪問先の高校生たち(日本から行くときは小学生のこともありえます。生徒の言葉、つまり英語の問題なので。)とセミナーをすることなのです。一週間の滞在ですが、皆さんとても楽しまれているようです。今回も高校生からたくさんの質問があがって、大変よかったとの話でした。去年Canadaへ訪問したお茶の水女子大学の加藤先生もこられました。このプログラムについては、去年の加藤・本間両先生が実に生き生きと、Canadaの科学教育で大学が中心となった取り組みなどをレポートされています(「日本・カナダ女性研究者交流事業を終えて」)。日本の子供たちに行われている科学教育が、なにか変なことにも気がつくのではないでしょうか。

グローバルの時代、若い時から、広い世界を訪ねて、見て、肌で感じてほしい、そんな機会をもっと増やしたいと思います。日本でもどこでも、将来は若者たちのものですからね。2006/7/212006/11/27のブログも参考にしてください。これが私が一番大事に感じ、考え、実践に移していることです。

16日には「イノベーション25」委員会が開催されました。17日からはWHOの会議でGenevaへ出発です。

早々にWashington DCから

明けましておめでとうございます。時間のたつのは早いものですね。6日からWashington DCに来ています。なんと、日中の気温は25度。まさに「異常気象」です。この暑さなので、半袖でテラスでコーヒーを飲む姿が町中で見られます。この時期で25度まで気温が上がるのは過去100年で初めてのことだそうです。

こちらに着いて早速、米国医学アカデミー(Institute of Medicine)会長のHarvey Fineberg氏と昼食。多くの課題についてとてもいい議論ができました。その夜、まったく偶然なのですが、Gates Foundationの関係者からメールがあって、昼にFineberg氏と話していたまさにその内の一つ、私も関わった「Disease Control Priority Project, 2nd edition」の件で問い合わせがありました。不思議なものです。

NIH所長のZerhouni氏との面談も予定の時間を大幅に超過してしまうほど議論が弾みました。そして、待望のJanelia Farmに。まったく新しいコンセプトの研究所で、所長のGerald Rubin氏も大変素晴らしい方でした。まだ30%程度しか完成していませんが、素晴らしい構造の施設となっていました。私の関係している沖縄の新しい大学院大学にも大いに参考になります。その他には米国製造業協会にも訪問しました。

国務省の科学顧問George Atkinson氏とも1時間ほどお会いしましたし、National Academy会長のRalph Cicereno氏、国際関係担当局長のJohn Boright氏等々、実に内容の濃い、刺激的な時間を共有できました。その夜には、今度はMillennium Villege Projectの件でJeffrey Sachs氏が3月に日本に来るという件でメールがあり、すぐにNew Yorkに電話で連絡を取ることができました。

それにしても、今回お会いした方たち、皆さんがアメリカのそれぞれ重要な機関の長であったり、重要なポストの方たちばかりでした。それぞれの視点、向いている方向が国際的で、日本の同じような立場にいる方たちと会うときとは、知的な刺激レベルがちょっと違うように感じました。皆さんもこのような経験があるのではないでしょうか?

今回は大使館の若い方たちに色々とお世話になり、充実した訪問となりました。大使館の皆さんには大いに活躍して欲しいという思いでいっぱいです。それぞれ一人ひとりが本当に素晴らしい方たちばかりでした。個人個人の力を十分に発揮できるようにしたいですね。そうでないと、組織だけでは総合力というものは決して発揮できないからです。

10日に帰国しました。新年早々、いやはや忙しい、しかし充実した旅でした。

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 写真1 NIHでZerhouni所長と。

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 写真2 Janelia FarmのRobin所長と。

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 写真3 Janelia Farmの玄関脇で有本建男 社会科学研究センター長と

「イノベーション」をはぐくむ社会

→English

文部科学省、経済産業省、日本経済新聞社が主催する「全国知的・産業クラスターフォーラム」の締めくくりが、11月29日に東京ビッグサイトで開催されました。29日の朝にインドから成田に到着し、いったん自宅で着替えて会場へ向かい、基調講演で「イノベーション」をさせていただきました。講演の要旨は12月25日の日経の朝刊に、以下のよう纏められて出ています。

【「イノベーション」をはぐくむ社会が日本を変える】
● 今、世界の経済成長のキーワードとなっているのが「イノベーション」です。EUでは「リスボンストラテジー2000」に続き、そのフォローアップとなる「アホリポート」が出ています。米国でも「US コンペティティブネス2001」に続いて「イノベートアメリカ2004」いわゆる「パルミザーノリポート」がでています。日本はどうかというと、安倍首相の所信表明演説公約の一つとして掲げられ「イノベーション25」という長期戦略指針があり、その戦略会議の座長を私が仰せつかっています。
● これから20年後の社会を討していくわけですが、20年前を思い起こしてみると、携帯電話もインターネットも社会に普及していませんでした。それが今では、これらの技術が社会の構造まで大きく変えました。つまリイノベーションとは、単に技術革新を指すのではなく、経済効果を伴い社会システムを変えるような大きな変革というわけです。
● ここで重要なのが、生活者の視点であり、アジアおよび世界との共生による成長、創造性のあるチャレンジをする、志の高い人材が輩出され活躍する杜会になることです。どんなに優れた技術でも、社会に浸透しなければ単なる発明、つまりインベンションに過ぎません。社会的価値のあるイノベーションには生活者の視点が不可欠なのです。
● またアジアや世界との共生についても重要です。日本はいまだに鎖国的な意識を残しています。日本は環境技術で世界をりードしており、成長著しい中国やインドなどに移転できる技術も少なくありません。
● さらに重要になるのが人材の育成です。残念ながら日本の大学は、世界の大学トップ200の中に10校ほどしかランクインしません。ナショナルな大学であってグローバルリーダーを育てるという視点がないのです。今や大学は世界のタレントを集め、社会に送り出す場所になっていますが、日本の大学は、世界の優秀な人材を引きつける場になっていません。
● 日本の強みは「凝り性」ということであり、その中から既成概念を打ち壊すイノベーターも生まれてきました。逆に弱みは「俯瞰性に乏しい」ということです。物事を新しいシステムでとらえる、活用することが苦手ということです。日本の社会が競争力を持つためには、強みを伸ばして弱いところは世界と連携していけばいいわけです。20年後に次々とイノベーションが挑まれるためにはそうした人材輩出し、活躍する社会への変革が必要です。

私の後に、ザインエレクトロニクス社長の飯塚哲哉さんの特別講演がありました。飯塚さんとは初対面でしたが、お人なりなどは前から聞いていました。すばらしい情熱のこもった話でした。日経によれば:

【大学・ベンチャーの抜本的機能強化を】
● 日本の産業界を見ると、大企業というエンジンと大学・ベンチャーというもう一方のエンジンがあるとすれば、「イノベーション」という点から見て片方のエンジンが機能していません。つまり大学・ベンチャーの機能が十分でないのです。
● 日本は「技術立国」を自認してきて、現在でもそのスタンスは変わっていません。しかし実態はどうでしょうか。統計にも表れていますが、1995年からの10年間で工学部を目指す学生の数は半数に減り、さらに今後、少子化が進めば事態はもっと深刻になってくるでしょう。現に今、技術者の不足が叫ばれていますが、二ーズが増大しているのになり手がいないというのは大きな問題です。
● この現象を分析すると、キャリアの発展性に誇りや夢を持てなくなっていることと、日本の開廃業率の高さが挙げられると思います。かつて日本にはイノベーティブな人材が数多く輩出した環境がありました。プロ野球の世界では日本の一流選手が米メジャーリーグで大活躍しているのに比べて、そうしたキャリアを伸ばす道がエンジニアには少ないのが実態です。独立してベンチャーを設立しようにも、その活動を支援する体制も完全とは言えません。
● 私は大手の半導体部門に10年以上勤務した後、現在のザインエレクトロニクスを設立しました。80年代から米半導体業界では当たり前となった工場を持たないファブレスメーカーですが、海外のお客様と違って、日本ではいまだに心配されるお客様がいらっしゃいます。また最近のさまざまな事件の影響があるのか「ベンチャーは拝金主義」とい見方があるのも問題です。
● さらに日本の失敗を許さない風土というのもベンチャーの成長を阻んでいます。総務省「事業所・企業統計調査」によると01-04年の日本の開業率が3.5%なのに対して廃業率は6.1%と高く、これは先進国の中でも非常に悪い数値です。言わば企業も「少子高齢化」の状態なのです。
● まずこうした環境を改善していかなければならないと思います。米国などではイノベーションの両翼として既存の大手企業の開発組織とベンチャー・大学という構造が確立されています。日本も失敗しても再挑戦できる、時間、費用、人材の面において低コストで高効率なトライ&エラーが可能な産業構造を確立して、日本のイノベーションを本格的に推進していくことが必要だと思います。

まとめの総括は、私の尊敬するおなじみの堀場雅夫さんです。私は他の用事があってお聞きすることができませんでしたが、日経によれば:

【産学連携でローテク分野にもチャンス】
● 二十一世紀の最大の日本の課題は、地域の活性化ということに尽きます。「知的・産業クラスター」というのは、地域に活力を与える最も効果のある処方箋であるということは疑う余地のないことだと思います。この処方箋を用いるにあたって、一番のキーワードとなるのが「イノベーション」です。
● しかしこれまではイノべーションの定義があいまいでした。新しいアイデアのことだと言う人もいれば、将来、産業化できるめどがつけばイノベーションだと言う人もいます。しかし基調演説て黒川さんがこのイノベーションについて、「社会的な価値を創造するところまでいかなければイノベーションではない」 と明確に示され、これからはこれをイノベーションの定義として、知的・産業クラスターは進んでいくべきだという思いを強くしました。
● またパネルディスカッションでは「成果を早く求めすぎる」という点が指摘されました。本来、知的・産業クラスターとしては将来の大きな成長が期待できるシーズを対象とすべきです。実際に商品開発の現場では事業化までに10年近くかかる場合もあります。商品化を急ぐあまり大きな芽を摘んでしまっては意味がありません。もっとも10年も20年もかかるようでは、税金の無駄遣いと言われても仕方がありません。そうならないためにも、中間評価を徹底することが必要だと思います。
● また産学連携というと常に先端分野の研究開発に目が向くというのも問題です。もっとローテクの分野でも伸びる余地があると思います。

【参考サイト】
 (1) 全国知的・産業クラスターフォーラム
 (2) 産業クラスター計画

皆さんが、もっともっと自分で考え、行動することが待たれます。このブログとも連携している出口さんのDNDも訪ねてみてください。こちらは格調高い「イノベーションの花盛り」です。

いよいよ師走、しかし、忙しい2週間でした

ちょっとご無沙汰しました。「イノベーション25」をはじめ、たくさんの仕事が遠慮なく落ちてくるので忙しくしています。前回はインドからでしたので、簡単にその後の行動をご報告します。

12月5日、6日は、香港で開催されたITU(Internationl Telecommunication Union)主催の「ITU Telecom World 2006」に参加してきました。前回のGeneva(2003年)から続いて、東海大学総合医学研究所 中島教授たちのTelemedicine技術をいくつも搭載している救急車や、PakistanでのTelemedicineプログラムの紹介を出展しているためです。

ITUは世界への情報時代の国際貢献という視点で、World Summit for Information Society(WSIS)を運営しており、大事な国際的任務を負っています。ITU事務局長は内海さんが2期務め、今年いっぱいで退任されるということです。ご苦労様でした。後任はアフリカのMaliの方で、中島教授とも長い付き合いがあり、ブースの方にもこられていました。大企業の展示ブースは大変立派なものばかりでしたが、韓国、中国、香港、日本といった国の元気のよさがよく伝わってきました。11/27にお知らせしたSTAR TV社長のGuthrieさんとは出張中にお会いすることはできませんでした。

帰国した6日の夜はDNDでおなじみの出口、石黒、森下さんとの食事会。意見交換等とても楽しいひと時でした。7日の夜は、高市大臣主催の「イノベーション25」のスタッフと会食。

9日、10日、11日は「STS Forum」。沖縄大学院大学等で朝から晩まで出ずっぱりで、忙しかったです。STS Forum理事会では前NASA長官のGoldin氏と話が弾みました。すばらしい人で、いろいろと良い示唆をくれます。11日は記者会見が済んで直ちに成田へ。去年から10回目ぐらいでしょうか、21時55分発のAir France便でParisへ。そこから今度はLondonへ。朝から丸2日の会議に参加して夜の便で帰国の途へ。14日の16時に成田に着きました。 翌日の朝はインドの首相たちご一行のJasu Shahさんとお会いしました。2月にムンバイで開かれる、バイオの会議に参加してほしいという要請でした。さて日程調整してみますが、どうなるでしょうか・・・。

16日は、終日学術会議とInterAcademy Council(IAC)によるエネルギー政策の会議に出席しました。StanfordからLawrence Berkeley National LaboratoryのDirectorとなって、未来のエネルギー研究の陣頭指揮をとるSteven Chu氏が議長です。彼らの研究は本当にすばらしいです。このIACは、今年のG8サミットでエネルギーに関するG8学術会議の声明にも述べられていて、世界の科学者コミュニティの代表として着々とその地位と認知度を高めています。

こんな調子でしたが、10日から16日までの間に7人のノーベル賞受賞者とお会いしました。Yuen T Lee氏、Sydney Brenner氏、Torsten Wiesel氏、Jerome Friedman氏、利根川進氏、ロンドンではJohn Goldstein氏、そして東京でSteven Chu氏です。皆さんのバックグラウンド、研究等を知ることはなかなか楽しいですよ。ノーベル賞のサイトあたりから調べてみてください。

インドでのイノベーションセッション

28日、いよいよ私の出番です。朝9時からのPlenary:“Promoting Innovation in India: What Works Where?” で、パラレルセッションはなく、これだけだったので会場はいっぱいでした。偶然ですが、先日、東京でお会いした心臓外科医のDr Naresh Trehanさん(アメリカ帰りで大きな先端的病院を運営しています)とも一緒でしたし、2人はインドの製薬企業の方、あとの2人は司会のParrettさん(GloBal CEO, Deloitte, USA)と、主役の科学技術担当 Hari Sibel大臣です。大臣が10分ほど、その後インドの方々それぞれが数分ずつしゃべった後、最後にワタシ。日本の強さ、弱さ等に触れ、安倍政権の「イノベーション25」計画、また私の持論の「純粋培養文化」と、「鎖国マインド」ついても触れ、交換留学推進提言や、一流大学開放論(ここでは「大相撲化」という言葉は通用しないので)、そしてこれも持論の「Science As A Foreign Poicy」などを話しました。そして、最後にインドの若者に日本へのご招待。特に工学系は大学も企業も、もっともっと多くの若者を必要としているので、日本に来ることを推奨しました。

プログラムの要約はWORLD ECONOMIC FORUMのサイトで見れます。以下に私のところを抜粋しました。

“Innovation is the keyword for every economy, whether it be in Asia, the EU, or the US, said Kiyoshi Kurokawa, Science Adviser to the Prime Minister and Professor, National Graduate Institute for Policy Studies (GRIPS), Japan. Japan spends 3% of its GDP on research, of which two-thirds comes from the private sector. Opening up resources and collaborating with neighbours can create an advantage for the region. Japan has strengths in many areas, such as water management, and can work with other countries to find innovative solutions that will benefit a large number of people.

Sibal and Kurokawa agreed that there is scope for collaborating at the global, regional and bilateral levels to find innovative solutions to meet the needs of the common man. There are issues, such as global warming, climate change and disease, for which no country alone has the resources to find solutions. To resolve these problems, there is a need to collaborate at the global level and pool resources to innovate.”

日本企業の弱さとして、なぜNissanやSonyのような世界のブランド企業に、突然、外国人のトップが来たのか、という疑問を提示しました。外国人がトップに来る前に、なぜか、もっと多くの外国人を全ての層に入れたりはしていないのです。反応は多かったです、思っていた以上でした。

ところで、インドは世界最大の民主主義国家です。経済成長も年8%程で凄いのですが、トップダウンの中国とは違った味があります。これは先日11月はじめの北京からのブログでもお伝えした、インドと中国の違うところなのです。インドは基本的に個人、私企業、企業家精神旺盛、よくしゃべる、理論(理屈)家という印象でしょうか。現在の最大の思想家の一人、Amartya Senの言うとおりの「The Argumentative Indian」なのですね。でもこれが民主主義の基本的要素なのです。

しかし、ここでも貧困問題は重大です。国民の28%程度(約3億人ほど)がまだ「1日1ドル以下の極貧」とのことです(Bahir州では50%だとか)。AIDSも大きな課題です。今年の1月のダボス会議でお会いした大蔵大臣のP. Chidambaramさん(WEDGE_私の読書漫遊 「インドの深みを知り 日本を見つめ直す」でも紹介しています)は、今日のパネルで「現政権が、初めて、明確にAIDSの問題を国民に伝えている」、とその認識のほどを話していました。素晴らしく、本当に「アタマ」のよい方と感じます。

“寒い”ニューデリーから、そして元気な日本の若者

26日朝、北京からニューデリーに着きました。夜中に到着ですが、涼しいですね、冬ですから。あらかじめ気温は調べておいたのですが、涼しすぎます。北京からの機中はほとんど寝ないで「The Economist, Oct 7th」の「The Battle for Brainpowerbrain」特集、「The Times Higher, Oct 6th」の大学特集などを読んでいました。いずれコメントしますが、いつも言っているとおり日本の評価は低いですね。世界で共通している認識は、日本は「鎖国」であり、大学も企業も「大相撲化」(4/154/166/289/229/2311/6)が必要なのです。しつこいようですが、将来の若者たちが可哀想だからなのです。“えらい大人たち”の責任は重いですよ。

ホテルにチェックインしてからは、まず、ゆっくり午後1時まで寝ました。ニューデリーではIndia Economic Summitに参加ですが、これはダボス会議を主催しているWorld Economic Forum(WEF)がインドの経団連的な団体「Confederation of Indian Industry」と22年前から共催しているとのこと。WEF議長のKlaus Schwab博士も、「ここまでになるとは」と嬉しそうでした。彼とは2000年からのお付き合いで、日本に来るたびにお会いしています。ダボス会議(毎年1月末開催です)からのメッセージもブログに書いていますので見てください。

WEFスタッフで仕事をしている土屋君、坪内さんともお会いしました。若くて元気のある、国際的な場で「個人」として活躍している若者を見るのは気持ちのいいものです。二人の経歴も凄いですよ。独立心が強くて、坪内さんなんてアフガニスタンまで、自分で仕事をしに行ったのですから。私たちのNPO Health Policy Instituteでもしばらくお手伝いしてもらいましたが、MITのMBAへ行き、それからここで仕事しているのです。そのうちお二人を紹介しましょう。

午後の開会から、いくつかのセッションを聞きましたが、どれも活気がありました。東京大学の小宮山総長のPresident’s Councilで2週間前にご一緒したMunjalさん(Hero Group、India)がパネルに出ていて、お会いできました。根本総理補佐官にもお会いしました。「アジアゲートウェイ」等を担当しています。8月に参加した外務省の「30人委員会」のときにも会った、東京大学医学部卒業の医師で外務省の役人になっている小沼君も根本チームできていました。根本さんと同じような立場ですが、私とはずいぶん違います。政治家と学者の違いですか。役所の認識もそんなところなのでしょうか?もっとも、私はあくまでも個人の資格で招待されているのでしたから。

26日の夜は、Manmohan Singh首相の公邸の庭で招待宴がありました。気温は10度を下回ってちょっと寒い。北京経由だったので、冬服を持ってきていてよかったです。

Singh首相は12月に日本訪問のご予定。安倍総理との会談があるそうで、楽しみにしておられます。首相の補佐官から特にと紹介され「その時にぜひお会いしましょう」と言われています。実現しますか、楽しみです。後で聞いたところでは、インドの財界人を50人ほどお連れになる計画と伺いました。

日ごろから言っているように(9/9)、インドは面白いし、日本とはいい関係でさらに「Win-Win」の関係が築けると思います。多くの、極めてイノベーティブな起業家にお会いしましたが、日本人と違ったいくつものすぐれた価値観があり、日印協力は相互補完性が高いと見ています。

2日目の27日はいくつかのセッションに出て、たくさんの名刺交換と“Net-workling”でした。根本さんの出たセッションも聞きましたが、この何年かお付き合いのあるGLOBISの堀さんの出たセッションは同じ時間だったので、そちらには残念ながら出れませんでした。堀さんも元気な若者で、世界のリーダーたちの年代、40代の一人です。

夜は、またまた寒かったのですが、Kamal Nath商工大臣主催の野外レセプション。Purana Qilaという古い城跡で行われ、すばらしいダンスパーフォーマンス、広い庭での夕食では、偶然ですがまたまた東京大学総長カウンシルで一緒のMunjal御夫妻と同じテーブルでした。香港のSTAR TVのCEOである、“Ms.”Michelle Guthrieも一緒で、来週香港で行われるITUのWorld Telecomに「1日だけど私も行く予定だよ」といったところ、「STAR TVも参加しているので是非寄ってください」、といったことになりました。皆、若いですね。この方もWEFの「Global Young Leaders」の一人です。そして、BBCの名キャスター Nik Rowingさんにも会いました。今年1月のダボス会議で、彼のBBCライブに私が写っているのを1/27のブログで紹介しています。これは、Manilaで見ていたBagladeshの友人が見つけ、すぐにダボスにいる私にメールで送ってくれた写真です。世界は本当に狭いですね。

寒い北京から暑いニューデリーへ

北京に来ています。今年3回目の北京です。政策大学院大学(11月から教授に就任しました)と中国共産党中央党校との合同会議に参加しているのです。広いキャンパスです。寒いですが、本来はもっと寒いそうです。

23日に到着、チェックイン、すぐに学生さん相手の講演に行きました。講演も質問も英語ですが、上手くなくても積極的でいいと思います。今日24日は政策大学院との共同会議で「持続可能な発展の制度設計」をテーマに双方から一人ずつプレゼン。こちらは「社会」が私、「大都市」が八田副学長、「地方政府」が高田教授(総務省から出向中、元自治省)、「エネルギー」が田端さん(北京のNEDO代表)、座長はこちらからは堀江教授(元総務省)、角南助教授という面々でした。会議の内容もとても良くて、共同研究等の可能性がいくつも見えました。

お互いに、政治も、過去もさることながら、前向きに共同作業を始めることは、世界の将来にも大事であることを双方がしみじみと感じた一日でした。

24日の午後は、NEDO田端さんのお世話で、北京の秋葉原のようなところに行きました。いやいや活気がありますね。ここでは、テレビ、液晶パネルは日本、韓国、中国製が競っています。パソコンはLenovo、Vaio等々の競争、値段は高い。デジカメは日本製の圧勝、携帯電話は日本製は見る影もなく、Nokia、Motorolaが圧倒しています。しかし世界の携帯電話の内部部品の65%は日本製です、なぜでしょう?よく考えてください。

その後は、新しく科学技術副大臣になった、中国科学院副会長だった曹 健林(Dr. CAO Jianlin; 光科学)ほか、4人の日本留学組の精華大学教授たちとお会いしました。皆、環境・エネルギー等の分野が専門で、日本の大学、中国の大学等の話題で盛り上がりました。

夜7時に空港に到着。これから今年2度目となるニューデリーへ向かいます。World Economic Forum主催の“India Economic Summit; India, Meeting New Expectatoins”でのPlenary Session、「Promoting Innovation in India; What Works Where?」に出席します。

前回のインド訪問については、4/219/9のブログに書いています。是非読んでみてください。

061124_2 写真 合同会議の質疑応答の様子

「イノベーティブな人」の条件、「フロネシス(Phronesis)」とはなにか?

今日の午前は、昨日(11月20日)の産学官サミットのゲストで来日された元Stanford大学副学長のWilliam Millerさんの訪問を受け、楽しい時間を過ごしました(今年でもう3回目の来日だということです)。原山さんもちょうど来られたので、スタッフの佐藤くん、是永くんたちにも参加していただきました。夕方からは総合科学技術会議の本会議が官邸でありました。今日のセッションはなかなかよかったです。その後、デンマーク大使館でRasmussen首相の歓迎レセプションに行きました。レセプションで東京工業大学長の相沢学長にお会いしましたが、Rasmussen首相が明日、東工大で学生さんを相手にお話をされるそうです。楽しそうですね。

今日は、久しぶりに格調高い、哲学的思索の入った「イノベーティブな人」、「イノベーティブなマインド」についての考え方を伺いました。DNDに掲載されている原山さんのレポートがそれです。

さすがに、ヨーロッパの高等教育を受け、仕事をされていた方ですね。感心しました。ちょうど出たばかりの日本学術会議「学術の動向」11月号のジェンダー特集に寄稿されている上野千鶴子さんの文を読んでいたら、原山さんも引用していた言語学者ソシュール(Saussure)の同じ本が引用されていたのでびっくりしました。

でも、出ましたね、原山さん!ここでも「フロネシス(Pronesis)」が!私の11/14のブログDNDメールマガジン Vol.196でも取り上げている言葉です。

野中郁次郎先生(本当にすごい先生ですよね)が提示したこの言葉「フロネシス(Phronesis)」の意味ですが、原山さんの引用を再引用させていただくと、“この言葉の意味の重要性、あまり聞きなれない概念なので定義を引用すると「個別具体的な場面のなかで、全体の善のために、意思決定し行動すべき最善の振る舞い方を見出す能力」となります。ここでキーとなるのが主観であり、その主観がよりどころとする価値体系の構成要素である倫理観、歴史観、社会観、政治観、美的感覚なのです。科学的知識と実践的知識を融合してアクションを取るイノベーティブなひとには規範的な側面においても卓越していることが求められるのではないでしょうか。”と。いい文章ですね。素晴らしい。

野中先生が例として挙げられる方の中に先週生誕100年を迎えた本田宗一郎さんがいまが、ほかにもソニーの井深大さん、盛田昭夫さん、トヨタの豊田喜一郎さん、クロネコヤマトの小倉昌男さんたちが私にはすぐに浮かぶのです。

このような哲学、思想にこそ、社会の変化をもたらすイノベーションを起こす「イノベーティブな人」、「イノベーティブなマインド」は深く無意識下に内在するのだと私は思います。

イノベーションについてこのような理解が広がると、本当に活気のある、素晴らしい社会変革が起こるでしょう。いや、そのような認識こそが広がってこそ、社会イノベーションが起こる「活気のあふれる」、「品格ある国家」になるのであろうと考えるのです。予算委員会などの答弁などを聞いていると、安倍総理はこのような認識をどこかにもっておられると、私は感じています。

061121 写真 Stanford大学のMillerさん、原山さんと

なぜ年齢を?

日本経済新聞夕刊(2006年11月14日)の「フォーカス」欄に「首相肝いり、「イノベーション25戦略会議」座長に、黒川清氏」という記事が出ていました。内容は以下のようです。

●「技術革新めざし環境づくり」
●「どうすれば日本がアジアの成長エンジンになれるか、議論していきたい」。安倍晋三首相が新設した有識者会議「イノベーション25戦略会議」の座長に就任した。
●「イノベーション25」は2025年の将来像を想定し、技術革新を通じた経済成長を目指そうという首相の政権構想。科学者の意見を集約して政策を提言する政府の日本学術会議の会長を70歳定年で9月に勇退したところに、首相が戦略策定の実務を担う逸材として白羽の矢を立てた。
●もう一つの肩書は科学技術担当の内閣特別顧問。日本では初めてのポストだが、米英では定着しているという。サッチャー英政権で初代顧問になったロバート・メイ氏とは日本学術会議の活動を通じて友情をはぐくんだ仲。
●来日中に内閣特別顧問就任の一報が入り、喜びを分かち合った。
●大学など日本社会には大相撲ナイゼーションが必要」が持論。外国人力士が多数活躍し活気もある相撲界のように、本当の意味で国際化を浸透させられるかイノベーションのカギと読む。
●首相と同じ成蹊高卒で、本職は腎臓専門の内科医。幅広い識見と人脈を武器に、持続的な経済成長を遂げられる社会環境づくりに乗り出す。=くろかわ・きよし、70歳

ところで、年齢を出すのはやめてほしいですね。どんな意味があるのでしょうか?しかもこの短いスペースで二度までも・・・。一般に、どの記事でも内容によっては意味がなくても直接的に年齢を出しますね。なぜでしょうか?ちょっと考えてもらいたいです。高齢社会ですから「60歳以上」なんていう方法はないでしょうかね?

でも、またまた「大相撲化」を紹介していただけました。うれしいです。