大学改革は待ったなし、「文系理系」区分は?

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「イノベーション25」の中間報告を読まれた方も多いと思います。中心はなんといっても人作りです。グローバル時代に 「大学改革待ったなし」というメッセージは、当面の重要政策事項として定めてあります。「官邸―内閣府」とリンクしているイノベーション25のサイトにもありますが、財政諮問会議も同じ意見で「骨太政策」には「学部入り口の文系理系廃止」、「入学試験制度の見直し」等が書かれています。別にアメリカのことを言うわけではありませんが、英米や他の国ではどの程度、一斉の大学入学試験があるという認識なのでしょうね?また、大学教育の中心では「リベラルアーツ教育と専門教育」などが検討項目に入るでしょう。

偶然ですが、時を同じくして、おなじみ出口さんのDNDでは、原山さん橋本さん塩沢さんが「文系理系」という同じテーマで侃々諤々の様相を呈しています。お互いに触発されてですが、素晴らしいことです。大いに議論を盛り上げて欲しいものです。万機公論に決すべしです。経済界からも似た視点からの提言がされています。経済同友会の今年3月の政策提言を参考にしてください。

日本中がこのような方向に向いているのですが、当事者である大学は、どのような反応をするのでしょうか。今までの制度に慣れてしまっているし、自分達の利害を考えると、どうでしょうね。「そんなことはできない」と言ったり、リベラルアーツの定義などの各論に何年もかけてできない理由を考えるよりは、知恵を出して、できるところから思い切って前進することです。大学は教授のためにあるのではなくて、将来の人材のためにあるのですからね。ここが大学人の知恵の出しどころです。見識を問われるでしょうね。

3月3日のブログにも書いたように、世界トップの大学の思い切ったメッセージなどを見れば、日本の大学改革は待ったなしなのです。大学人たちが自分たちの思い切った決断で、改革を進めてほしいです。私立大学は言わずもがな、法人になった国立大学も自由度は高いのですから。

2月27日に行われた経済財政諮問会議の資料からもわかるように、教育改革会議でも大学改革への認識は同じ報告です。楽しみですが、たいした改革にならないのかな?と心配でもあります。文部科学省にも、大学に任せっぱなしではなく、しっかりと工夫して取り組んでもらいたいです。大学は本来、独立性が高いはずですし、そうあるべきですが、日本の歴史背景もあって大学が当局ばかりを向いてしまっている。致し方ないことですけどね。

ひな祭り

こんなことをいうと古いと言われるかもしれませんが、「ひな祭り」はいいですね。総理官邸にも素晴らしいひな壇が飾ってあります。ご存知かもしれませんが、先週はイノベーション25、財政諮問会議、総合科学技術会議と3回、官邸で会議に参加しました。これらの会議で大学改革待ったなしということが共通のテーマとして明確に示されたのはいいことです。

最近の大きな話題は、400年弱で歴史上初めてHarvard大学学長に女性が就任したことです。いわゆるIvy Leagueの大学8校のうち4校でトップが女性になりました。Princeton、Pennsylvania、BrownそしてHarvardです。他にも世界の一流と認識されるMITやCambridgeでもトップが女性です。このブログでも、この関係について何度か紹介しています(2006/1/282004/12/6等)。

一方、日本では、90弱の国立大学(私が国立を大事に考えているのではなく、日本の歴史的価値観で読者にお話しているのです)では、外国語大学長の池端さん(素晴らしい方で、私とも話が良く合う方です)がお辞めになったので女性のトップは一人になってしまいました。このHarvard新学長については、朝日新聞で辻篤子論説委員がすぐに指摘しました。さびしいですね、世界はみんな見ているのです。なにも「数の問題」ではありませんが、社会全体で大学人の意識を表しているよう感じ取られます。グローバル時代に大学が、社会に、世界に、何を発信するかは極めて大事なことです。

これが「ひな祭り」を迎えて感じたことです。日本の「Gender Development Index」は世界でも8番目なのに、彼女達の活躍の場である「Gender Empowerment Index」は世界で40番目です。もったいないことです。

「イノベーション25」 中間報告

「イノベーション25」の中間報告が発表されました。出口さんのDNDをはじめ、各方面で大きな期待と多くの応援をいただいていたのですが、相当な圧力も感じ、それなりに苦労しました。この種の報告書としては異例で、高市大臣の「メッセージ」から始まり、20年後の社会の「伊野辺(イノベ)家」の物語、そして座長として私からの「基本的考え方」と続き、そこからが他の報告書のような体裁になっています。

「科学技術のイノベーション」と「社会のあり方や制度のイノベーション」は、つまるところ、「人作り、イノベーティブな人を作る」という趣旨です。これらを一括して進めていくためにはどうするかが、報告書のアジェンダとなっています。当面の重点政策課題としては、1)若者への思い切った投資拡大、2)大学改革、3)環境を経済成長のエンジンに、そして国際貢献の中心とする、以上の3点としました。安倍総理もこの3課題をすぐにでも取り掛かるべき最重要課題であると認識を示され、推進の指示をされました。

新聞報道や様々なblogなどでも、いろいろとご意見、コメントをいただいています。ありがたいことです。報告書は http://www.kantei.go.jp/jp/innovation/chukan/070226.htmlに掲載されていますので、読んでみてください。

財政諮問会議(27日)でも議論された大学改革については、財政諮問会議の民間議員や文部科学大臣とも見解は基本的に一致していると思います。細部、方法論になると意見の違いやそれぞれの思惑の違いは当然あるでしょうけれどね。大学改革は国家政策の「きわめて大事な柱」という認識は、皆さんお持ちです。基本的には私が常日ごろから発言している「大学の大相撲化」の理念です。

また、地球環境、気候変動が最重要課題になってきていることは先進国共通の認識です。EU、英国ばかりでなく、アメリカでも今年1月23日に行われた大統領の一般教書演説ではエネルギーと環境がトップに上げられていました。ゴア元副大統領の「不都合な真実」がアカデミー賞を受賞されましたし、これらを見ても世界の動向は明らかです。今年のドイツ、そして来年は日本で開催されるG8サミットへ向けて、京都議定書後のリーダーシップの取り合いといった様相になりつつあります。環境問題に対する日本のリーダーシップとメッセージが世界で問われるところでしょう。

「イノベーション25」での提言に、総理自信が「(地球)環境(と気候変動)を経済成長のエンジンに、そして国際貢献の中心に」を重要課題として取り組むといわれたことは重要なことです。これらをどのようにして、国民に指示されるものにしていくか、関係省庁の政策も問われるところでしょう。情報がグローバルの時代です、世界は見ているのです。

大学病院革命

一部の方はすでにご存知かと思いますが、先般、「大学病院革命」という本を日経BPから出版しました。amazom.co.jpなどを見ると、それなりの評価をいただいているようです。18日の朝日新聞の朝刊の「書評」で、政治学の小林良彰さん(慶應大学教授)が、この本を紹介してくださいました。嬉しいことです。以下が、小林先生のご意見です。

● 「大学病院革命」 黒川清(著)
● 問題解決へ説得力ある提案
● ともすれば「3時間待ちの3分診療」と言われる大学病院。本書は、日本の大学病院が優秀な人材を集めながら、患者を満足させる医療が必ずしも行われていないのはなぜなのかを解き明かし、解決のための処方箋を示したものである。
● 著書は、日米双方の大学で医学部教授を務めた経験から、医者の道を選ぶのが 日本では大学受験の時であり、早過ぎると言う。米国のように学部生時代に自分の興味や基礎知識を育てた後で、医師としての適正を踏まえ、卒業後に(できれば別の大学の)メディカルスクール(医学専門職大学院)に進む方式を導入すべきである、と主張する。
● また、医療サービスを提供する大学病院と、研究や教育を行う医学部を明確に分け、大学病院では診療に応じた報酬を得る米方式の検討を促す。
● さらに、<かかりつけのお医者さん>を全国民が持つことを勧め、そのかかりつけの医師が大学病院の施設を利用して手術を行えるようにするなど、大学病院の一層の開放を訴える。
● たこつぼ的な医局の風通しをよくするため、医学部卒業後の2年間、臨床研修 医として病院に勤務する制度の導入を実現させた著者だけに、その分析と提案は説得力に富んでいる。

皆さんはどう思われるか分かりませんが、ご意見をいただければと思います。将来の若者のためであり、そのためにこそ私たちの世代はあるのです。先日の日経に紹介された「私の苦笑い」でも同じ趣旨のことが書いてあります。つまり、これが私の信念というか、原則、プリンシプルなのです。

イノベーティブなヒトとは?

去年の12月25日のブログザインエレクトロニクスの飯塚哲哉さんをご紹介しました。先日、技術者たちへの熱い思いがひしひしと伝わる彼のインタービュー記事をみつけましたので紹介します。

 飯塚哲哉(THine Electronics)さんインタビュー記事.pdf

このような思いを持ち、その思いへ向けて実践する人が、一人でも多く増えることを願っています。このような「イノベーティブなヒト」がもっともっと増え、いつも活躍しているのが「イノベーティブな社会」であり、これが「イノベーション」なのです。

評論家はもうたくさんです。考えていることがあるのなら、しっかりと深く考え、必要があれば相談し(だれに相談する?相談相手がいない?友達がいない?それがあなたの問題かもしれませんね)、実践あるのみです。できない理由をグダグダ言っているようでは、ダメなのです。

イノベーションは魔法の杖でももないし、あなたに何かしてくれるような秘密でも、トリックでもないのです。それは、あなた一人ひとりの気持ちの問題です。

イノベ-ションについてもっと知りたい方は、出口さんのDNDのサイトも訪ねてみてください。

「私の苦笑い」と思いがけない嬉しいメール

「私の苦笑い」という囲み記事が時々日経新聞の朝刊に掲載されますが、1月29日に私の話が掲載されました。以下のような記事です。

●「ロスで焼鳥屋開く」の軽口が災い -突如来訪、「雇って」に焦る-
●1979年、渡米して丸10年たっていた。当初、2~3年で日本に帰るつもりだったが、若くても実力さえあれば活躍できるオープンな雰囲気が気に入り、米国で勝負しようと決めた。カリフォルニア州の医師免許を取得、専門医の資格も取り、この年カリフォルニア大ロサンゼルス校(UCLA)の内科教授になった。一人前の大学人・医師としてようやく認められたのかなあと実感できた時期のことだ。
●初夏、ストラスプールで開催される国際学会に招かれ、家内と一緒にフランスに行った。その4年前にも腎臓病の名門テノン病院で研究するため2ヶ月間パリで過ごしたが、当時は気づかなかったがオペラ座近くに焼鳥屋ができており、2、3度足を運んだ。
●ロサンゼルスにも多くの日本企業が進出し、すし屋やうなぎ屋などが駐在員相手に繁盛していた。パリの焼鳥屋は日本人客よりも地元の人で大にぎわい。味もすばらしくいけた。店で働く一回りは年下の若者といろいろ話した。日本での料理人としての経験はゼロ。なんとかなるさと軽いノリでパリにやってきてから仕事を見つけ修行した、という。「鳥はいったんしめると全部食べられる。捨てるところがなくていいですよ」。なるほどなあと思った。
●私は「ロスにまだ焼鳥屋はない。店を持つのはどうかなと考えている」と口にした。もちろん本心ではない。ただ、米国では教授といても給与や研究費は自分で稼がなければならない。雇用は日本のように安定しておらず、いつクビになるかわからない。不安を打ち消すため「いざとなれば焼鳥屋をやろう」と考えていたのも事実だ。
●1年後、自宅の電話が鳴った。「先生、店の話どうなりましたか」。パリで出会った若者の声だ。「今、ニューヨークにいます。できれば雇ってもらえませんか」。懐かしさは一瞬で吹き飛んだ。よく聞くと、何のあてもなくパリの店をやめて米国にやってきたという。
●家内からは「調子のいいことを言うからよ」とたしなめられたが、放っておくわけにもいかない。ロスに呼び寄せ、約1ヶ月居候させ、行きつけの日本食レストランへの職を紹介した。
●その後、しばらく何の音沙汰もなかったが1年ほどたってまた電話があった。「いろいろとお世話になりました。ニュージャージーに自分の店を持つことができました。リンカーンコンチネンタルに乗ってます」。たくましさにただただ感心した。
●失敗を恐れる人生はつまらない。才能豊かな若者たちに出会うたび、日本のような「ムラ社会」から海外に飛び出してみろとけしかけている。決してムダにならないと思う。
●しかし、時に深く考えもしないで発言することもある。人の人生を左右するだけに「言い過ぎたかな」と反省する。
●あるとき、私の前に日本学術会議会長を務めた吉川弘之氏に「黒川さんはいつもずけずけ言っているように見えるけど、すごく人に気を使っているね」といわれた。うれしかった。(談)

・・・という話です。

さらに、この記事の囲みの中に、
●<失敗訓>次代の担い手 育成に注力
●安倍政権で科学技術担当の内閣特別顧問になった黒川さんは、この10年、日本の医学教育の建て直しに取り組んできた。次代を担う人材をきちんと育てることが自分の責務と言い切る。
●苦い経験がある。オウム真理教信徒で都庁郵便物爆発事件などの実行犯が東大時代の教え子だった。「とてもまじめで優秀な学生だった。研修医を辞めると相談に来たとき(入信に)気づいていれば・・・。慚愧(ざんき)に堪えない」と悔しがる。(科学技術部 矢野 寿彦)

・・・とまとめてあります。

矢野さんありがとう。妙な話で申し訳なかったですけど、うまくまとめてくれました。

そして、この記事を読まれた女性からホームページ宛にメールをいただきました。少し紹介します。

「1/29 日経を読んで・・・黒川清先生へ」

黒川清 先生

突然のメール失礼いたします。
私はいつも恥ずかしながら夫の持ち帰ってくる日経新聞を
毎日1日遅れでなんとなしに読んでいる者です。
「私の苦笑い」というコーナーの黒川様の記事を今朝出勤前に読んで
思わずじわーっと感動がこみ上げてきて涙ぐんでしまいました。
こんなに暖かい気持ちになれて、嬉しくて、絶対お礼が言いたくて
先生のホームページを検索してみました。
ロスが大好きなのでその文字につられて読んだのですが・・・
先生の暖かいお人柄、若者に対する愛情があふれ出ていて、
私まで勇気付けられました。
薬剤師として薬局を始めて10年経ちますが、患者さんを含め
いろいろな人との出会いで自分も成長してきました。
そして、もっともっと色々な体験を通して成長したいです。
黒川先生のことは紙面で初めて知ったのですが(もしかしたら本を持っているかも?
すみません)この記事大切にとっておきます!
ありがとうございます。
感謝の気持ちをこめて・・・

私の気持ちにこのように反応してもらって、本当に嬉しかったです。

ダボスから(3)

26日のダボスは一番忙しかったです。午前中は私が司会で“Who Funds Research and Innovation?”というテーマのパネルディスカッションを行いました。8人のパネリストは以下のメンバーです。

・Carol Bartz, Executive Chairman, Autodesk, USA
・Seth Berkeley, President and CEO, International AIDS Vaccine Initiative, USA
・Alexander Bradshaw, Scientific Director, Max-Planck-Institute for Plamsa Physics, Germany
・James Fruchterman, President and CEO, The Benetech Initiatitve, USA: Social Entrepreneur
・Thomas Insel, Director, National Institute of Mental Health, USA
・Linda Lomier, Vice-President, Yale University, USA
・Neelie Kroes, Commissioner, Competition, European Commission. Brussels
・Xu Zhihong, President, Peking University, People’s Republic of China

豪華なメンバーです。いろいろ盛り上がりました。意見の違いは多くても、このようなフラットな議論のプロセスで相互理解と共通のゴールを共有することはとても大事なことだと感じます。楽しいパネルでした。午前の同じ時間帯に、石倉洋子さんがHarvard Business Reviewの編集長Thomas Stewart氏と共同司会で進行する「How Cities Drive Innovation」というパネルもありました。もちろん私は出ることはできませんでした。

さらに午後にはJames近藤君の司会で“How Much Should the Industrialized World Spend on Healthcare?”というこれも大変興味あるパネルがありました。最近とみに医療政策に進出してきたMichael Porter氏もパネリストの一人として参加していました。彼とは去年、同じテーマで私と一緒のパネルにも参加していました。

こちらにも私は出れませんでした。というのも、非公開で内々に行われた、「化学産業界社長の会」のパネルでしゃべるよう招待されていたからです。東レの榊原社長、住友化学の米倉社長(写真1)もおいでになりました。1/25のブログで紹介したDaniel Esty氏(Yale U.)とも一緒でした(写真2)。

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写真 1: 住友化学の米倉社長(左から二人目)

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写真 2: パネルに招待された(右から)Estyさん、私、そして中国の大物Siweiさん。「Green to Gold」の本が見えますね。

彼とはすっかり意気投合し、彼の最近の著書「Green to Gold」(写真2に見えています)をいただきました。これからの企業のあり方について極めて参考になると思います。企業と環境対応のあり方について明快に書いてありますので、是非多くの日本の企業人に読んでもらいたい一冊です。これからの世界のビジネスのトレンドを予測させます。事実、今回のダボス会議で一番多くの人が集まったのは、10を超える環境と気候変動のセッションでした。エネルギーではSteven Chu氏が存在感を出していました。

そのあと16時15分から、“Scaling Innovation in Foreign Aid”というセッションを聴きに行きました。Bill Gates氏、Paul Wolfowitz氏(第一期Bush政権のネオコンの一人。現在、Word Bank総裁)、NY University経済学教授のWilliam Easterly氏、そしてLiberia大統領のEllen Johnson Sirleaf氏(写真3)が参加していました。司会はNewsweek InternationalのEditorであるFareed Zakaria氏でした(権威を恐れぬ実に鋭い突っ込み!メディア人の“鑑(かがみ)”だと感じました)。去年、Gates FoundationのGlobal Health InitiativeのDirectorとなった、UCLA時代からの友人、Tachi Yamada氏ともここで一緒になり、Malinda Gatesさんを紹介されました。このパネルの議論を聞いていて、Bill Gates氏は恐ろしいほどシャープだと感じました。

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写真 3: 左からBill Gates氏、Prof. Easterly、そしてWolfowitz世界銀行総裁。

この後はTony Blair氏、U2のBono氏、Gates氏などが出るパネル「Delivering on the Promise of Africa」でした。こういうところでは必ず緒方貞子さんがパネリストに入っています。緒方さんからはいつも日本の誇りというものをひしひしと感じます。

夜は夜で、これからの宇宙プロジェクトのパネルに呼ばれていて、私の盟友、The Royal SocietyのPresidentでCambridge University-Trinity CollegeのMasterでもあるLord Martin Rees氏と一緒で、楽しかったです。このセッションには石倉洋子さんも来られて、Rees氏の隣に座っていました。帰りは石倉さん、坪内さん(写真4)と一緒に帰りました。

明日の朝はダボスを離れて帰国の途に着きます。今回は緒方貞子さんや竹中平蔵さんが数多くのセッションに参加され、飛び抜けた存在感があったと感じました。嬉しいのですが、世界第2位の経済大国としては、他にももうちょっと存在感を出せる人が欲しいですね。皆さんご苦労様でした。

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写真 4: 左から石倉さん、私、そして坪内さん。

ダボスから(2)

今日は一日フル稼働になりました。午前は旧知のWanandi氏がパネリストをされる“Islam/South East Asia”のセッションに参加。Malaysia、The Philippinesから論客が参加されていました。同じ時間に日本の経済動向についてのセッション“Japan: Beyond the Recovery”があったのですが、出れませんでした。昨日、1/25のブログで紹介したJames近藤君が司会で、竹中平蔵さん、伊藤隆敏さん、経済同友会の北城恪太郎さんが日本側として参加。後で聞いたところでは、竹中さんが最後にしっかりと締めたということでした。

午後には小池百合子さんがお出ましの“Northeast Asia”のセッションがあるので顔を出しました(写真 1)。その後は、明日私が司会をするパネルの打ち合わせを担当事務方と行い、去年11月にインドでお会いしたインド産業大臣のNath氏、一橋大学の研究科長でダボスは久しぶりという竹内弘高さんと奥様、そして3年ぶりにぐらいになる船橋洋一さん(もう2報以上、ダボスの事を書かれていますね、すごい)などなど、多くの方とお会いしました。

夜は“Japan Night”のレセプションがありました。今年の主催は日本の“水フォーラム”でしたが、ちょっと変ですね。森喜郎前総理が会長のNPOで世界の水問題について頑張っています。先週、WHO訪問の際にGenevaでお世話になった藤崎大使もお見えになり、東大の小宮山さんや慶応の安西さんと奥様、アジア開発銀行の黒田頭取、JETROの渡辺会長もお見えでした。また、Googleの創業者のLarry Page氏とSergey Brin氏も来てくれました。Page氏との写真がありますが、Brin氏もすぐそばにいました。Googleの歴史を見てみると、いろいろと面白いことが分かります。小池さんはこの後、夜8時から行われた“Military/Asia”というパネルに出席されたようです。

また、8時からは「横田めぐみさんの物語」(約45分の映画)が放映され、皆さんじっと終わりまで見ておられました。“感動的でした”という方が多かったです。日本から来ていた皆さん、ご苦労様でした。

10時から、“McKinsey Global”のレセプションに出かけ、Michael Porter氏にも会いました。長い一日でした。

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写真 1 小池百合子総理補佐官と会場で

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写真 2 竹中平蔵先生と

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写真 3 藤崎大使、石倉洋子さんと

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写真 4 (右から)竹内弘高さん、私、小宮山東大総長、安西夫人、村沢さん(東大総長の右腕)、安西慶応塾長

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写真 5 Google創業者の一人 Larry Page氏

ダボスから(1)

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23日、昼にLondonを出発し、Zurich空港へ。夕方にDavosに到着しました。今年で7年連続となるDavos会議(これは通称で、正式にはWorld Economic Forum)に参加するためです。2003年、2004年、それから2006年の会議についてもブログに書いています。途中の道も山も、例年よりはるかに雪が少ないですね。今年になって訪問したWashington DC、Geneva、Londonはみな温暖な気候です。

Davosに入ってまずは会議登録とホテルへのチェックイン。面白そうなプログラムが数多くあるので、どれを選んだらいいか、苦労するところです。夜は議長のSchwab氏主催のReceptionがありましたが、そちらはスキップ、明日の予定を考えて一休みです。

24日、まず会場をうろうろと。Lester Brown氏等、知っている人たちと出会っては、握手、「Hey, what’s up?」から始まるルーチン。いろいろと出会いがありました。10時からは「CNBC Debate?Make Green Pay」という刺激的なタイトル(このタイトルのつけ方がうまい)のTV放送録画取りのあるパネルに参加しました。地球温暖化は急速に悪化するなかで、エネルギー政策等は「市場に任せるか、政府の規制か?」を「Pro vs Con」で1つの質問に対して一人ずつ5分で意見を戦わせ、相互に1分間の質疑、それから会場から質問を受けるという構成。

Q1. Nuclear energy and clean coal are the only viable alternatives to oil: Yes or No
Q2. Markets are superior to regulation in leading corporations towards “greener” operations: Yes or No
Q3. A global carbon tax will do more harm than good?

質問の内容も面白いですが、Daniel Esty氏(Yale U.)や“Stern Report”のNicolas Stern氏などなかなかよかったです。Londonで会う予定だったStern氏を捕まえそこないましたので、メールをしておきました。しかし、今年の世界ビジネス界は気候変動、地球温暖化が熱いテーマになりそうな予感のパネルでした。26~28日に、欧州、北米、アジア等で放映されたようですが、誰かごらんになりましたか?

昼のビュッフェでもいろんな方と会いました。竹中平蔵さんは、今年は4、5日の予定で参加されるとか。心強いです。またこの日は、「世界級キャリアの作り方」を一緒に書いた戦友、一橋大学の石倉洋子さんと、私と共に医療政策機構(英語版)をリードするジェームス近藤君がパネルの座長をしていました。残念ながら私は時間がぶつかってしまい、どちらも参加できませんでしたが。

次回はいくつか写真を掲載する予定です。ここでは一足早く、Khatami元イラン大統領のセッションの写真を紹介します。右端がKhatami氏。左にイランのLolwah Al Faisal王女、一番左が“The World is Flat: A Brief History of The 21st Century(2005)”、“The Lexus and the Olive Tree: Understanding Globalization(1999)”等で有名なPulitzer賞を3回受賞しているNY TimesのThomas Friedman氏(司会)です。

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ロンドンから、科学者の信頼

GenevaからLondonに入りました。目的はTony Blair首相の科学顧問(Chief Science Advisor)で、私のcounterpartというべき立場にある旧知のSir David King氏に会うこと、それから“Stern Review Report”のSir Nicolas Stern氏のスタッフと会うことです(本人はインドに出張中でした)。2008年に日本が主催するG8 Summitの件もあるので、野上大使もご一緒してくれました(写真1)。とても有意義な時間でした。

イギリスの科学顧問(Chief Science Advisor)というものは組織化されていますが、最近、英国議会でさらに科学顧問の機能強化の提案も出ているそうです。Blair首相の退任後、この組織を統括するDTI(Department of Trade and Industry)をDepartment of Energyとし、さらにDepartment of Scienceを作るということも検討されているようです。(※1)

King氏との話で一番印象に残ったことは、英国社会の持つ科学への信頼の高さと、それを保障する科学者コミュニティが、個人、それから総体としての個別分野、俯瞰性、哲学性、歴史性、国際性のレベルでも、科学的、社会的責任への意識や発言の質が高いということです。これはひとつは伝統であり、そのような社会的信頼が築かれてきた歴史と文化ともいえます。とにかく科学的根拠に基づいた政策、提言を、という精神が、政治でも、社会でもいつも強調されているということです。国家としても科学に基本をおいた政策の使い方が客観性が高いだけに国際的に信用度が高く、そのために戦略性が極めて高い。英国はその実力の2倍、3倍の存在感を世界に与えていると認識されています。今回の“Stern Review Report”もそのような言葉を裏付ける報告です。だから、世界からの信頼も大きいのですね。Blair首相も「科学的事実に基づいた意見」ということを繰り返し強調し、それを戦略的に国際的な場でも使うのです。また首相は科学者の意見にはよく耳を傾けるそうです。科学者の高い見識と、一人ひとりの評価が仲間の中での開かれた相互評価を通して日常的に広く認識されています。これは本当に立派なことです。社会からの信頼の確立と維持が一番大事という哲学、認識です。

Stern氏のスタッフ達との会合もよかったです。外務省 Special Representative for Climate ChangeのJohn Ashton氏(写真2)等と、その後はDepartment for Environmnt, Food, and Rural AffairsでDavid Warrilow氏、Stephen Cornelius氏、Ian Pickard氏と気候変動、エネルギー関系担当との会合でした(写真3)。

Stern氏本人には、5月にLondonでお会いする予定です。

夜は野上大使公邸で、高岡公使、松浦一等書記官も参加し、さらに論議が弾みました(写真4)。

ところで英国の外交官については細谷雄一氏の「大英帝国の外交官」(2005年)がいいですよ。ここに描かれている外務省(Foreign and Commonwealth Office)が、どのような歴史的意味と位置付けを持つのか、これらを理解しながらこの本を読んでください。この外務省の建物の中でも写真をとったのですが、撮影が禁止されているとのことでここに掲載することができません。細谷氏はまだ若い(30代前半と思います)のに何冊も本を書いている学究の徒です。

(※1)グローバル時代に向けて英国の強いところをさらに強く、国家としてのメリハリを作るという明確な政治的意思です。こんなこと日本で考えられますか?政治と役所の役割はしっかり確立しています。グローバル対応へのスタンスは、対立する保守党も、Shadow Cabinetの財務大臣Osborne氏から去年の夏に東京で聞いた話でも同じ意見でした。ある英国人の意見ですが、英国が歴史上、世界に誇れるものは“科学、金融、民主主義”というのも理解できます。

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写真1: Sir David King氏のオフィスで野上大使と

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写真2: John Ashton氏と英国外務省で

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写真3: Warrilow氏、Pickerd氏、Cornelius氏とDEFRAで

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写真4: 大使公邸で野上大使と