「イノベーション」をはぐくむ社会

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文部科学省、経済産業省、日本経済新聞社が主催する「全国知的・産業クラスターフォーラム」の締めくくりが、11月29日に東京ビッグサイトで開催されました。29日の朝にインドから成田に到着し、いったん自宅で着替えて会場へ向かい、基調講演で「イノベーション」をさせていただきました。講演の要旨は12月25日の日経の朝刊に、以下のよう纏められて出ています。

【「イノベーション」をはぐくむ社会が日本を変える】
● 今、世界の経済成長のキーワードとなっているのが「イノベーション」です。EUでは「リスボンストラテジー2000」に続き、そのフォローアップとなる「アホリポート」が出ています。米国でも「US コンペティティブネス2001」に続いて「イノベートアメリカ2004」いわゆる「パルミザーノリポート」がでています。日本はどうかというと、安倍首相の所信表明演説公約の一つとして掲げられ「イノベーション25」という長期戦略指針があり、その戦略会議の座長を私が仰せつかっています。
● これから20年後の社会を討していくわけですが、20年前を思い起こしてみると、携帯電話もインターネットも社会に普及していませんでした。それが今では、これらの技術が社会の構造まで大きく変えました。つまリイノベーションとは、単に技術革新を指すのではなく、経済効果を伴い社会システムを変えるような大きな変革というわけです。
● ここで重要なのが、生活者の視点であり、アジアおよび世界との共生による成長、創造性のあるチャレンジをする、志の高い人材が輩出され活躍する杜会になることです。どんなに優れた技術でも、社会に浸透しなければ単なる発明、つまりインベンションに過ぎません。社会的価値のあるイノベーションには生活者の視点が不可欠なのです。
● またアジアや世界との共生についても重要です。日本はいまだに鎖国的な意識を残しています。日本は環境技術で世界をりードしており、成長著しい中国やインドなどに移転できる技術も少なくありません。
● さらに重要になるのが人材の育成です。残念ながら日本の大学は、世界の大学トップ200の中に10校ほどしかランクインしません。ナショナルな大学であってグローバルリーダーを育てるという視点がないのです。今や大学は世界のタレントを集め、社会に送り出す場所になっていますが、日本の大学は、世界の優秀な人材を引きつける場になっていません。
● 日本の強みは「凝り性」ということであり、その中から既成概念を打ち壊すイノベーターも生まれてきました。逆に弱みは「俯瞰性に乏しい」ということです。物事を新しいシステムでとらえる、活用することが苦手ということです。日本の社会が競争力を持つためには、強みを伸ばして弱いところは世界と連携していけばいいわけです。20年後に次々とイノベーションが挑まれるためにはそうした人材輩出し、活躍する社会への変革が必要です。

私の後に、ザインエレクトロニクス社長の飯塚哲哉さんの特別講演がありました。飯塚さんとは初対面でしたが、お人なりなどは前から聞いていました。すばらしい情熱のこもった話でした。日経によれば:

【大学・ベンチャーの抜本的機能強化を】
● 日本の産業界を見ると、大企業というエンジンと大学・ベンチャーというもう一方のエンジンがあるとすれば、「イノベーション」という点から見て片方のエンジンが機能していません。つまり大学・ベンチャーの機能が十分でないのです。
● 日本は「技術立国」を自認してきて、現在でもそのスタンスは変わっていません。しかし実態はどうでしょうか。統計にも表れていますが、1995年からの10年間で工学部を目指す学生の数は半数に減り、さらに今後、少子化が進めば事態はもっと深刻になってくるでしょう。現に今、技術者の不足が叫ばれていますが、二ーズが増大しているのになり手がいないというのは大きな問題です。
● この現象を分析すると、キャリアの発展性に誇りや夢を持てなくなっていることと、日本の開廃業率の高さが挙げられると思います。かつて日本にはイノベーティブな人材が数多く輩出した環境がありました。プロ野球の世界では日本の一流選手が米メジャーリーグで大活躍しているのに比べて、そうしたキャリアを伸ばす道がエンジニアには少ないのが実態です。独立してベンチャーを設立しようにも、その活動を支援する体制も完全とは言えません。
● 私は大手の半導体部門に10年以上勤務した後、現在のザインエレクトロニクスを設立しました。80年代から米半導体業界では当たり前となった工場を持たないファブレスメーカーですが、海外のお客様と違って、日本ではいまだに心配されるお客様がいらっしゃいます。また最近のさまざまな事件の影響があるのか「ベンチャーは拝金主義」とい見方があるのも問題です。
● さらに日本の失敗を許さない風土というのもベンチャーの成長を阻んでいます。総務省「事業所・企業統計調査」によると01-04年の日本の開業率が3.5%なのに対して廃業率は6.1%と高く、これは先進国の中でも非常に悪い数値です。言わば企業も「少子高齢化」の状態なのです。
● まずこうした環境を改善していかなければならないと思います。米国などではイノベーションの両翼として既存の大手企業の開発組織とベンチャー・大学という構造が確立されています。日本も失敗しても再挑戦できる、時間、費用、人材の面において低コストで高効率なトライ&エラーが可能な産業構造を確立して、日本のイノベーションを本格的に推進していくことが必要だと思います。

まとめの総括は、私の尊敬するおなじみの堀場雅夫さんです。私は他の用事があってお聞きすることができませんでしたが、日経によれば:

【産学連携でローテク分野にもチャンス】
● 二十一世紀の最大の日本の課題は、地域の活性化ということに尽きます。「知的・産業クラスター」というのは、地域に活力を与える最も効果のある処方箋であるということは疑う余地のないことだと思います。この処方箋を用いるにあたって、一番のキーワードとなるのが「イノベーション」です。
● しかしこれまではイノべーションの定義があいまいでした。新しいアイデアのことだと言う人もいれば、将来、産業化できるめどがつけばイノベーションだと言う人もいます。しかし基調演説て黒川さんがこのイノベーションについて、「社会的な価値を創造するところまでいかなければイノベーションではない」 と明確に示され、これからはこれをイノベーションの定義として、知的・産業クラスターは進んでいくべきだという思いを強くしました。
● またパネルディスカッションでは「成果を早く求めすぎる」という点が指摘されました。本来、知的・産業クラスターとしては将来の大きな成長が期待できるシーズを対象とすべきです。実際に商品開発の現場では事業化までに10年近くかかる場合もあります。商品化を急ぐあまり大きな芽を摘んでしまっては意味がありません。もっとも10年も20年もかかるようでは、税金の無駄遣いと言われても仕方がありません。そうならないためにも、中間評価を徹底することが必要だと思います。
● また産学連携というと常に先端分野の研究開発に目が向くというのも問題です。もっとローテクの分野でも伸びる余地があると思います。

【参考サイト】
 (1) 全国知的・産業クラスターフォーラム
 (2) 産業クラスター計画

皆さんが、もっともっと自分で考え、行動することが待たれます。このブログとも連携している出口さんのDNDも訪ねてみてください。こちらは格調高い「イノベーションの花盛り」です。