アラブ首長国、原子力発電は韓国の勝ち-その4

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今年1月に入ってこの報告シリーズを3回出しました。この背景と、これからの成長産業「クリーンエネルギー」を日本がどのように推進して行くのか、大いに参考になることが多いのでわざわざ書いているのです。

その第4報ですが、これは相手がどのような要望を提示していたのか、どのような点で韓国が評価されたのか、公開された資料、報道ですが、参考になると思います。「そんなことはこっちも知っていたよ」、「きれいごとばかりです」などといっているようでは、単なる負けたものの恨み節です。これでは、また負けますね。

この興味ある資料は英語ですが、読んでください。

謙虚に学ぶ姿勢、負けたときこそ学ぶ、勝った時こそ「勝って兜の緒を締めよ」、これが普遍的な知恵であり、大事なのです。これらの公表されたものから何を読み取るか、今までの3報に加えて何を学ぶのか、さらにどう対応するのか、情報を取るのか、人脈を作っていくのか、このあたりの日本の認識とあちらの認識のギャップをできるだけ埋める努力も大事です。UAEに限ったことではありませんが。

何しろ、UAEと石油契約の改定が2012年(UAEの石油輸出量の50%は日本向けで、これは日本の石油総輸入量の25%に相当し、従ってUAEとの関係は非常に重要)ですが、エネルギー獲得競争が激しくなるなか、競争相手はすでに、しっかりと動いているに違いありません。「油断大敵」、「おごる平家は久しからず」です。国民のためにも、関係者諸氏、しっかりお願いします。

石倉さんの「グローバル アジェンダ セミナー」

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このサイトに来てくださる方の多くは石倉洋子さんのことをご存知と思います。私と「世界級キャリアの作り方」という本も出ました。もっとも、彼女がもっぱらリードしてまとめてくれた本ですが。最近も「戦略シフト」という刺激的な本を出版しました。

私のこのサイトでもしばしば紹介していますし、このサイトも彼女の「blog」にリンクしています。時々たずねてください。とても刺激的だと思います。

石倉さんが主宰する「グローバル アジェンダ セミナー」 が毎月1回で、約1年にわたって開催されることになりました。私もお手伝いすることになり、その第1回に参加、お話しする機会をもつことができました。

メールで何回か打ち合わせ。50人プラスの参加者。参加者の「2/3」が20代、30代、しかも女性、男性が「50=50」、これは素敵です。英語で話すと決めて、当日、ちょっと緊張して皆さんに会いに行きました。

当日の様子は、石倉さんのサイト英語版はこちら)をご覧ください。

「ものづくり」と、相手を知った「ものがたり」の違い

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日本の「強さ」は何か。多くの方々が「ものづくり」、「技術」、「匠の技」などといいます。しかし、それだけでは需要を創る、顧客の心をつかみ財布の紐を緩める、新しい市場の開拓には不十分 です。これがグロ―バル時代の「新しい社会的価値の創造」、すなわち「イノベーション」なのです。このサイトでも繰り返し出てくるテーマ です。

さらに、これらの「ものづくり」、「技術」の強さは、アジアの成長がするなかで、アジアの人たちなかなかできない、できにくいことだとも思えません。

では、日本の「弱さ」はなにか?

特に「日米欧」からグローバル市場経済になったこの20年、グローバル世界への大変換です。そこで着眼、大きなビジョン、構想力、戦略と交渉、行動ができるのでしょうか。

相手を知り、顧客へ「ものがたり」を伝える力です。 顧客のニーズを知り、相手を知り、相手の立場で感じ取る力 (Ref.1)。

成長するグローバル社会で欧米諸国、アジア、ラテンアメリカ諸国などと比べて、日本の組織、その「リーダー」達の戦略と決断と実行のスピードはどうでしょうか?この辺が、今の日本の「弱さ」であることを認識し、しっかりコラボレーションのパートナーと組んで、目標へ、スピードをもって進むべきなのです。

1月8日の朝日新聞、朝刊の1面と3面に「日本のすぐれた技術とその課題」がくっきりと取り上げられ、3面には、左下に私のコメントの囲み記事も出ています。私のコメントは、このサイトでも以前から繰り返し指摘していることですが、このように大新聞にキチンと取り上げられるとうれしいです。一時的ではありますが、私のサイトとは、広がる範囲か桁違いに大きいですから。

アラブ首長国United Arab Emiratesの原子力発電は韓国の勝ち-その3

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第1,2報に続いて、いろいろ世界に話題になっている、韓国原子力の勝利ですが、海外、韓国、フランスの対応など、興味深いものがあります。

ところで、前回の2報の記事にあるアブダビの担当責任者「ムハマド王子」 とは「ムハンマド皇太子」、私もお会いしたことがありますが、話をお聞きしていて、とても聡明で思慮深い方であることは歴然です。このムハンマド皇太子が第2報の「#1」にも出てくる「向こうのトップ」ですね。

いつもながらのことですが、The Economist、また韓国の中央日報(日本語版)にもいくつかの動きが読めますし、世界トップであるフランスのショックはいかばかりか、報道 「France24」の「UAE nuclear deal: a French flop?」、さらには、今回の反省に立って、すでに 次の戦略を始めています。

朝鮮日報では、前回の報道にさらに続けて以下のような生々しい経過を伝えてくれます。見出しを抜き出しました。日本にとって参考になることが実に多いと思います。(Chosun Onlineの記事は1週間で見れなくなりますので、本文を資料として引用させて頂だき、ご紹介します)

原発輸出:逆転に次ぐ逆転、交渉の舞台裏(上)
原発輸出:逆転に次ぐ逆転、交渉の舞台裏(下)

原発輸出:UAEの次狙え、海外原発市場開拓で総力戦(上)
原発輸出:UAEの次狙え、海外原発市場開拓で総力戦(下)

原発輸出:「今回の受注でUAEと70年の兄弟に」
原発輸出:「韓国人特有の“やってみよう”精神に感銘」

第1,2報でも書きましたが、では、日本の対応はどうなのでしょうか?この3報で紹介した内容などをよく読んで、自分たちと比べ、考える。何事にも勝ち負けはあるのですから、謙虚に学ぶことが、次への第1歩です。

「トーナメント戦で優勝」(基本的には失敗しない人が上がってきた)した人と、「リーグで優勝」(負けから学びながら強くなった人が上がってきた)した人が組織の上に立つ違い(冨山和彦著の「指一本の執念が勝負を決める」 、「会社は頭から腐る」など(資料1))、こういう場面で出てくる、効いてくるのだ、と思います。若いときに本当の修羅場の経験がない人には、負けたときこそ学ぶ、成長するチャンスと考える、というベンチャー精神、アントレプレナー精神「出る杭」資料1)的な価値観がないのです。

バブル崩壊以後の20年間成長しなかった、「失われた20年」の日本にとって、2010年は正念場です。

グローバルアジェンダと日本

去年の11月のことですが、慶応義塾大学グローバルセキュリテイ研究所が主催する「グローバルアジェンダと日本; 地球社会とグローバルリテラシー」に参加したことは報告 しました。朝日新聞の船橋主筆による米中をめぐる大きな動きと日本の課題、そして船橋さん、私、近藤さん、田村さん、竹中さんの司会によるパネルで、活気のある時間でした。

この報告書「G-SEC Newsletter、No 17」 が出ましたので紹介します。

アラブ首長国United Arab Emiratesの原子力発電は韓国の勝ち-その2

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原子力発電の国際入札で韓国の勝ちについて、私なりの現地のソースからはどんな受け止め方だったのでしょうか?大体、以下のようなものでした。

1. 「予想はしていましたがショックな結果です。あらゆる意味でSYSTEMの塊である原発プロジェクトを10%も安く韓国が提示、その信頼をかちえたことは日本の産業競争力の低下の現実でしょう。日本企業はPresentationで技術と機器の性能の高さばかりを強調、政府の安全管理、東電の操業能力にふれることもなくフランスの一体となった攻勢ときわだった違いがありました。この辺の認識の違い(技術信仰による「甘さ」)は、必ずしも発注側の期待とは整合していなかったようです(時間をかけた「個人的な人脈」つくりの軽視)。この辺の認識の違いについては、あちらのトップから日本のトップへアドバイスがあったほどだと聞いています。」

2. 「韓国は国全体でがんばりました。世界の変化の現実を知るには若いひとが海外にでていき、また外国の優れた人に来てもらう、これしかないかもしれません。私の会社もアブダビでメガプロジェクトを韓国企業に受注されました。日本の人材の国際化を図る、これが今後の経営の核と確信しています。」 

3. 「今回の受注は、韓電のみならず、他の分野(半導体、ICT, エネルギー(マスダール)、教育)においてもアブダビー韓国の協力強化にも結びつきました。」

4. 「今回の原子力協定のビッディングのポイントは以下の3点において、韓国が優れておりState of art の提案だったとの評価です。1) 競争的価格、2)完成までの時間が最短であること、3)原子力関係のUAE人材育成の支援、です。」

5. 「韓国の大統領は、状況に不安を抱いて11月中旬に大きなミッションを派遣し、その中枢には韓国の工科大学KAIST学長もはいっており、KUSTAR資料1)、 はUAE内で原子力のプログラムを提供する唯一の大学と指定されたわけです。今後は韓国から原子力の教員が着任し、学生もKAISTへ送り込まれるでしょう。」

6. 「韓国はアブダビが今、何を必要として、どのような協力を欲しているのか、相手の立場に立って考えていました。人材育成がアブダビにとって、サバイバルの課題だと理解していたのです。だから、皇太子の心を掴むことができたのです。皇太子と韓国の大統領は携帯電話でお互い連絡を取れる間柄だったようです(この辺については「その1」の朝鮮日報にある通りです)。」

7. 「また、「韓国は原子力発電に必要な部品をすべて国産で生産することができず、海外に受注せざるをえないのではないか、」という指摘には、韓国原子力研究院の梁明承(ヤン・ミョンスン)院長は「造船や半導体などでも部品の100%を国産化しているわけはなく、必要な技術は海外のものを使っている。重要なことは韓国が設計、施行、メンテナンスなどシステム全体を輸出する能力を持っているという事実だ」と述べました。」

8. 「日本が部品の特殊性能にこだわって、それを「ものづくり大国」として自画自賛している様子と対照的でした。」

9. 「韓国がいかに国単位で一丸となりアブダビに攻勢をかけたかの様子が分かります。このUAEでの受注で自信をつけて韓国は、次はトルコ、東南アジアのマーケットへと動き出しているそうです。李大統領はもともと建設会社出身者とあり、アブダビに提出する企画書にも注文をつけたり、練り直しに自ら参加していたようです。」

それに比べ、その頃日本のトップは政権交代で国内政治にあたふたしていて、格段の差があったのだろうと言い訳もできます。鳩山さんは去年暮れに、インド訪問、「日本はインドの原子力の協力をする」(誰の振り付けか、、)と発言したようですが、気が付くのが遅かったですね。この発言は、これからどう発展するのでしょうか。

インドでも日本に比べると、韓国ビジネスマン(資料1)の活躍は良く知られていますからね、日本のクリーンエネルギー技術などと言っていても油断はできませんよ。

今回のUAEの事例を政府も企業も共有し、敗因を分析し(野中郁次郎先生も繰り返し指摘しているところです、、)、次への計画をしっかり練る、行動する、これが一番大事なことです。だからこそ、あえてこのカラムを書いているのです。

時代は、基本的には「ものづくり」ではなく「ものがたり」なのです。そして、「Demand-driven」に転換しているのです。

アラブ首長国United Arab Emiratesの原子力発電は韓国の勝ち-その1

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去年の暮れに、世界を驚かせたニュースが入りました。新聞などにもちょっと出ていたかと思いますが、United Arab Emirates首長国(UAE)での原子力発電所4箇所の国際公募があり、だいぶ話題になっていました。応募したのは、日仏米と韓国でした。日米は東芝Westinghouse日立GEの2チーム、世界最強のフランスAreva (三菱重工も組んでいると思います)、そしてこのBig Businessに新しく参入してきた韓国です。東芝チームは早々と敗退。残り3チームでした。

そして、韓国が勝ちました。

日本企業にとってもショックはいかがだったのでしょうか。フランスは大統領自身でトップ外交をかなり積極的にしていたのですから、かなり自信があったでしょうし、ショックだったと思います。「韓国のほうが安いから」、韓国が勝つかもしれない、などという記事も結構見られたように思います。以下に紹介するようにそれだけではありません。

日本での報道は、日経毎日産経Reuterなど。

朝日では、新春に日立について記事を書いています。

そこで現地の情勢と韓国側の報道はどうでしょうか?これは大ニュースですからね。

英語の報道ではいくつかあります;
ReutersWall Street JournalKorea Times 

韓国の新聞の日本語版では;
朝鮮日報

●原発輸出:李大統領、陣頭指揮で見せた手腕(上、下)

で臨場感溢れる報道です。朝鮮日報(Chosun Online)の記事は掲載1週間で見れなくなりますので、資料として記事を引用させて頂き掲載します。

中央日報 にも いくつか(資料1)、出ていますが、社説では浮かれてばかりいるわけではありません。

こういう国家的事業をどのように進めるか、ここが大事な点です。参考になるところが多いと思います。

GEW;日本経済新聞で広告報道

11月16-20日に開催した「GEW: Global Entrepreneurship Week」についてこのサイトでも2回にわたって報告しました。「GEW -1」、「GEW -2」 です。

この2つの講演会について、日本経済新聞の朝刊(12月22日)に見開き2面にわたって主要な講演を中心に広告報告が出ました。それぞれ[16日」「20日」についての記事を見ることができます。

Abu Dhabi、Khalifa大学

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Washington DCから、Dubaiへ飛びました。6週間前にも同じフライトを飛びましたし、3 週間前にもDubaiへ来ましたから、約6週間に3回Dubai空港に来て、Abu Dhabiへ来たわけです。そして帰りは2回は、Dubai-関西空港へ、1回はDubaiからSingapore経由でした。

今回もKhalifa University (資料1)のお手伝いです。今回から、前National Institutes of Health所長だったElias Zerhouni博士が参加してくれて、とても議論が弾みました。Zerhouni博士はAlgeria出身、医学部を卒業してから渡米、米国でNIHのTopと言う米国政府の医学研究での最も責任の重い、高い地位に就かれました。お付き合い もこの数年ですが、素晴らしい方です。

Khalifa大学はAbu Dhabi政府が大事にしているProjectsの一つで、Zerhouni氏のようなアラブの背景を自分自身の体験としてよく理解している、しかも国際的にも高く信頼されている方の高い立場からの助言が必要と思い、彼にメールしたころ、引き受けてくれたのです。とても助かります。

1日だけの会議でしたが、議論は盛り上がり、しかも内容のある会議でした。理屈ばかりでなく、英米とアラブの両方の価値観、付き合い方を知っている方の参加は大事です。

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写真; Dr ZerhouniとEmirate Palaceのロビーで

最近、米国国務省から、中東担当の科学技術担当の特別顧問Envoyとして、このZerhouniさん、’Science’のEditor-in-ChiefのBruce Albertsさん、そしてNobel化学賞Egypt出身のZuweilさんが発表されたばかりです。米国の科学外交への更なる一歩です。こういう多彩な人材、(資料1)こそがグローバル時代の一つの力ですね。Zuweilさんには何度かお会いしたことがありますが、Albertsさんとは、この約10年、米国科学アカデミー会長時代から、国際科学者の会合や日本学術会議関係などの関係でとてもお付き合いが深くなりました。

Abu Dhabiでは、ちょうどサッカーのクラブで戦うToyota Cupが開催されていました。最後はやっぱりMessi資料1)でしたね。

オバマ大統領のNobel平和賞スピーチ、そして日本への懸念

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今年のNobel平和賞受賞に当たってオバマ大統領がどんな演説をするのか、世界が見て、聞いていました。大体、オバマ大統領の受賞そのものに大いに異論もあったのですし、さらに直前に米国はAfghanistanへ3万人の派兵も決めたばかりです。

テレビだけの時代とは違い、画面を見ながら (資料1)何回でも聞くこともできますし、text原稿も読めますし、各国、各主要新聞の扱い、論説などの反応も見ることができます。

しかし、この議論のある受賞で、しかもこの難しいタイミングであればあるほど、よく考えられ、練られた原稿であったと思います。大統領はじめ、スタッフもずいぶん苦労したことでしょう。特に米国国内でも、アフガン派兵、経済と雇用、金融機関対策、医療政策等々、課題が山積で、難しい舵取りで大統領自身の評価も落ち始めていたとこです。リーダーの言葉 はとても大事です。

ちょうど、地元Washington DCにいましたので、12月11日のWashington Postを見ると評価 (資料)は高かったですね。この数10年のことですが、「戦時のアメリカ大統領」としてのスピーチになっていることと、大統領の思想と考え方です。しかし、この時代、blogでもいろいろ意見がでるのは当然ですが、それにしても、一国のtopの言葉はとても重いのです。

New York Times (資料1) のも参考になるでしょう。

Osloで何を語るのか、直前の「識者」のコメントも面白い企画です。

同じ日のWashington Postに、すっかり忘れられた日本のことを忘れないで、と書いてある記事がありました。「Does Japan still matter?」 というタイトルです。終わりが、「So far, Japan’s new government has not defined policies that could restore economic growth and lift the country out of its funk. But America should be hoping that it can. And if it wants to regain some confidence, it makes sense to treat Japan as though it matters. Because it does.」ですが。

一方、同じ日のNew York Timesにもありますね、「Obama’s Japan Headache」 。

Topがなんだか、いつもふらふらしていて、情けない、というか心配です。いつもながら内向きで、外へ発信する意気込みも、力もないし。とは言っても、総理大臣、各大臣の発言は国内向けでも、すべて海外からも見られ、知られているのですけどね。外からは、なにを考えているのか、さっぱり見えないのです。リーダーの言葉はおろそかにできないのです。口から一度出た言葉は引っ込められないのです。

何も政府に限ったことではないですが、先日、Washington DCの有名な「Think tank」の方が訪ねてこられたときに言われましたよ、「なぜ経団連は今年になってWashington事務所を閉鎖したのですか」、とね。こんなことは広く日本で知られているのでしょうか。多分そうなのでしょう、私も知っていましたが、返事に困ってしまいました。

しかし、ウェブ時代は便利である一方で、怖いものですね。実力も、発言も、行動も、思想も世界にすぐに知れてしまうし、自分たちだけの国内向きの理屈だけでは通じませんから。グローバル時代のトップの責任は特に重いですね、事情はいろいろあるのでしょうが。