ワシントン、そしてニューヨークへ

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1月6日、成田からWashington DCへ。去年と同じで結構暖かいです

午後、私たちの“Think Tank”、医療政策機構English)から同行してくれたジェームス近藤くんと、Holocaust Memorial Museumに行きました。企画も、建物も、よくデザインされています。なんてばかげたことをしたのかと感じますが、程度の違いこそあれ、今でも似たようなことが世界のどこかで起こっているのです。狂気の沙汰です。このような歴史資料、文書の保存、展示、開示は大事なことです。それでなければ何も学ぶことができず、同じことを繰り返してしまうのです。愚かなことですね。

翌日7日の午前は、National Academy of Sciences(NAS)での会議(写真1)。昼食はNational Academy内の会員専用サロン(国務省科学顧問のNina Fedoroff博士のご招待だったのですが、よく考えてみれば私もInstitute of Medicine(IOM)の会員なので、このサロンを使えたはずなのですが・・・)で、Fedoroff博士と有本さんとで、いろいろと相談ごとです。話しているとすぐにいろいろな方たちとのネットワークがつながります。

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写真1 左から、Goldin元NASA長官、National AcademyのCicerone会長、何度もご紹介しているAlexandria図書館長のSerageldin博士

この日は、ちょうどIOMの理事会があり、朝、会場の入口で旧友のVictor Zhau氏(「イノベーション25」の応援団としてお世話になっているDigital New Dealでおなじみの大阪大学の森下竜一さんの先生で、いまやDuke大学の医学部から病院の全てを仕切っている切れ者です)とばったり。また、ちょうど1年前に昼食を共にしたIOM会長のFineberg氏ともお会いしました。プロの友達はいいものです。

(ところで、先ほどのDigital New Dealで、「DNDパーソン・オブ・ザ・イヤー2007」に私が選ばれていました。)

また、12年もの間、National Academyの会長を務め、特に途上国への援助に力を注がれたBruce Alberts氏にも、去年10月以来ですがお会いしました。大学(UCSF)に戻ったけど少し退屈だったと言っていました。今年3月からは「Science」誌のEditor-in-Chiefになられるそうです。「これで有名になるね!」なんて冗談を言ってあげました。

午後は世界銀行へ。East Asia and Pacific RegionのVice President、James Adams氏、そしてScience and Technology Program CoordinatorのAlfred Watkins氏等とお会いし、講堂で彼らの司会の下、「Innovation for Development」の講演を約45分行いました。これもwebcastで見ることができます。新年早々でしたが、日本大使館等からも案内があったようで、かなりの日本の方が見えられていました。質問も多く、楽しかったです。

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写真2・3 世界銀行での講演の後で。(写真2の私の向かって左がWatkins氏。)

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写真4 世界銀行の出口で、日本大使館の江端さんと(江端さんは以前イラクのサマワにも赴任していました。)

夕方はBush大統領の科学顧問、Marburger博士を訪問しました(写真5、6)。その後またNational Academyへ戻り、National Academy of Engineeringの会長で、10余年に渡ってMITの学長を務めたCharles Vestさんとお会いし(写真6)、これでNational Academies 3部門全ての会長とお会いできたことになりました。

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写真5・6 Marburger博士の会議室で。(写真6は秘書のJoan Rolfさん。日本に2年ほどいたことがあり、日本ファンです。)

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写真7 左から、私、Dr. Goldin、Dr. Vest、有本さん

夕食の途中で失礼し、Ronald Reagan AirportからNew Yorkへ向かいました。

それにしても、忙しい一日でした。

昼の気温は18度程度、実に暖かでした。去年は20度を越えていましたけどね。温暖化ですね、確実に。

科学技術と国家政策

去年の11月のblogでも少し触れましたが、11月16日に、朝日新聞科学部50周年記念のシンポジウムに参加しました。立花隆さんの基調講演と私も参加したパネルが行われました。ちょっと時間が少なかった嫌いもありますが、立花さんの話はさすがでした。この内容はアサヒコムで見ることができるのでアクセスしてみてください。

Webcast、Stanford大学での講演

去年の師走にStanford大学で「Innovate Japan」という講演をしたことはご報告しましたが、この講演の趣旨も結局は新年1日のブログと同じにならざるを得ないといったところでしょうか。結局、日本は「自信のない男性社会」で、その社会では「女性、外国人」は入ることができないのです。この社会構造は「田吾作」社会であると、講演のQ&Aでは言っています。この講演はWebcastで見ることができます。どうしても日本の男性社会の「Establishment」、社会的責任ある「リーダーポストの方々」には、キツイところがあるのは致し方ないですね。お気を悪くしたのであれば、ごめんなさい。でも、どう思い、考えますか?

行った年2007年、来た年2008年、日本はどこへ

皆さんにはこのblog等を通して定期的に報告していましたが、皆さんもそうでしょうけど、2007年は私も大変な年でした。「イノベーション25」のまとめ、それに関連した国内外の講演等々があったからです(*注1)。皆さんからずいぶん勉強させてもらいました。そして、9月12日には安倍総理の退任、新総理選出等の政変の近くで仕事をしていたわけです。一方で、この10年の日本の衰退はどうしたものでしょう。

注1:このサイトで、どこへどんなことで行ったのか、主要なものはお知らせしていますが、2007年の海外出張日数は出発日と帰国日をあわせて1日と勘定して87日ほどでした。ちなみに、2006年は約75日、2005年は約100日でした。

国内では「いざなぎ景気以来」とか、結構な景気づけの声も聞かれていましたが、本当のところはどうなのでしょうか。単なるデフレでそう見えるのでしょうか。サブプライムの問題を言う人もいますが、日本の場合はどの程度までが本当でしょうか。国際情勢とは反対に東証株価は下落で終わりました。日経新聞の年末シリーズ「越年する経済政策課題」(特にその4)は本質的な指摘が多くされています。要するに、精神的な鎖国です。志向も、行動も外へ出たくない、外と付き合いたくないのです。自信がないのですね。「内弁慶」の「男性社会」ということなのです。

「週刊 東洋経済」12月29日/1月5日迎春合併号の「10賢人が語る世界の大変革」で、私の意見が出ています 。この“10人”の根拠はわかりませんが、私というのはちょっとね・・・。でも、光栄なことです。日本のGDPは依然として世界第2位ですが、この10年でOECD諸国のGDPが増えているのに比べ、日本だけはGDPが増えていないのです。一人当たりのGDPは一時の世界第2、3位のあたりから、今や18位に。これはさらに落ちると予測されています。これでは国内に閉塞感があるのは無理ないことと理解できるでしょう。

この成長できない産業、経済はなぜでしょう。何をどうしたらいいのでしょう。ここに「カギ」があります。政界、財界、行政、学会、メディア等々、全ての社会構造の「リーダー」といわれる職責にある人たち、しっかりとしてください。いつまでも、精神的鎖国ではダメですよ。これは、このblogの底流に常にあるメッセージです。

グローバル社会では、国内外の格差は広がっていきます。最近のプロ野球ではメジャーに移籍する選手が増え、彼らの年俸を見ていれば、この「格差」は歴然としてはいませんか?国のGDP、つまり分ける「パイ」が増えなければ、貧困者が増えるのは理の当然です。これをどうするかは国家の役割です。相変わらず地方への同じ種類の公共事業というのは策がなさ過ぎます。雇用をどう守るのか、これも大事な政策課題です。従来の社会制度、例えば、年功序列、一生涯同じ企業勤めが常識という社会制度ではうまくいきません。なぜ、今まではうまく行ったのでしょうか?

最近の国際的ジャーナルに日本経済特集が出ましたが、時を同じくして、「週刊 東洋経済」12月第2週号では「iPod」の特集がありました。日本の「強さ、弱さ」を正確に指摘しています。林信行さんの「iPhoneショック」も素晴らしいです。また、多くのいわゆる国際派の方々の論評では、日本は急速に衰退しているという指摘が多いのです。その原因の指摘についてもみな同じです。

冨山和彦さんの2冊の本、立花隆さんの「滅びゆく国家、日本はどこへ向かうのか」、船橋洋一さんの「日本孤立」、ウォルフレンさんの「もう一つの鎖国、日本は世界で孤立する」、高城剛さんの「「ひきこもり国家」日本」、そして再び林信行さんの「iPhoneショック」などはそれらの典型といえましょう。結局は、最近注目された白洲次郎と、そのエッセイ集「プリンシプルのない日本」で指摘されているところが、基本的にそのまま続いているのです。

世界には日本びいきの応援団は大勢いらっしゃいます。皆、気にしているのです。特に「リーダー」といわれるような社会的地位の人たちはしっかりしてください。

さあ、2008年はどんな年になるでしょう。5月はTICAD、7月はG8サミットと世界の注目の的となる日本です。このグローバル時代、従来の社会経済構造ではいくつもあるでしょう「できない理由」は横において、どうしたらいいのか、何をするべきか、それぞれ一人ひとりが、「従来からの常識の枠を超えて」、「考え抜いて(「考える」では不十分です)」、「失敗を恐れず」、「行動する」ことです。私の持論でもありますが、Charles Murreyの「Human Accomplishments」にも明示されているように、いつも「時代の変人」が、時代を変えるのです。

さて、ここで2008年の宿題。2007年最大の明るいニュースは、京都大学の山中さんの遺伝子操作で生まれた新しい幹細胞「iPS」でした。これはどうしたらいいでしょうか?どうなるか注目して見て行きましょう。この設問は、私は、これこそが日本の基本的課題の一つの典型例だと思うからです。いずれまた議論いたしましょう。