今回の大災害、そして原発の事故、日本の状況は「国家の大危機」です。
このところ、3月25日からいくつかポストしましたが、未曾有の危機に政府の反応はどうでしょうか。
4月2日の朝日新聞の「オピニオン 耕論 3.11」に何人かの意見が出ていました。その一人が、大惨事があって、すぐに電話があった冨山和彦さん。「すべては子供のために」です。冨山さんについてはこのblogでも何回か紹介、最近は「カイシャ維新」、「挫折力」 という組織、人間の本質に迫る刺激的な本を出しました。このサイト内で「冨山和彦」でサーチしてください。私の尊敬する経営者の一人です。自分が責任を負っている会社の従業員の放射能への懸念についての電話でした。
この朝日の記事には、彼の忌憚のない意見が出ています。とても参考になると思いますので以下に掲載します。
「すべては「子どものために」 冨山和彦さん (株式会社 経営共創基盤CEO)
■ 私も当事者になりました。福島、茨城、岩手の三つの地方バス会社がうちの子会社です。従業員2100人、バス1200台。自ら被災しながら現地はすぐに運行を再開し、原発周辺からの多数の住民退避や、医療チームの搬送にも対応しました。
■ でも燃料が足りない。私は官邸や各省庁、知り合いの政治家に訴えて回った。なのになかなか動かない。
■ 震災は3月11日、政府が石油備蓄の取り崩しを発表したのは14日、さらに大幅な取り崩しの決定は22日でした。この間、全国で買いだめが進んでしまった。寒冷地で広域激甚災害が起きたら、燃料が被災者の死活問題なることは明明白白です。なぜあんなに時間がかかったのか。
■ 私が直接、政治家や官僚、企業と掛け合って痛感したのは、彼らエリート層の資質の問題です。危機に直面しているのに、決めるべきことが決められない。判断することを避ける。なんだこれは、と思いました。
■ 「上と相談する」「県からの要請が来ていない」「要件に該当しない」。そんな反応ばかりです。保身とメンツと責任転嫁。
■ 指示や命令も、いろいろなところがばらばらなことを言ってくる。行ってみたら、その通りになっていない。こちらからの問題を提起したら、ピンボールマシンのボールのようにあちこちに飛んでいってしまう。
■ 燃料や物資については、政府が早々に被災地でない地域に向けて「しばらく我慢してほしい」と訴えればよかった。原発から30キロ圏内の扱いや、野菜、飲料水の汚染についても「絶対安全とは言えないが、かなり安全」なんていうのは全然だめ。白か黒か言わないと人は動けません。でも、びびったんでしょうね。
■ 私たちはこういう「リスクを取れない、判断できない」人たちを長い間、「エリート」として政と官と民のリーダー層に据えてきた。その結果、この国は頭から腐っているんじゃないか。そんな実感があります。
■ 彼らの多くは東大をはじめ一流大学出です。成績優秀、人格温厚、調整力があり、みんなにいい顔をして組織の階段を上がっていった。でもいざ危機に面したら、批判をこわがり、決められない。逃げる。だから物事が進まない。
■ 決断とは一部に犠牲を強いることです。できない人にリーダーの資格はありません。有事に判断を先送りする人間が、平時に決断できるわけがない。官公庁、企業、政党は人の評価をやり直したらどうでしょう。
■ 修羅場の中で、政官財の誰が役に立ち、誰が役に立たなかったか、逃げたか。記者のみなさんは見ていますね?国民はそれを知りたい。あとで総括して報道してほしい。
■ これからの日本再興で一番大切なことは、すべての政策やプランを「子どもたちにプラスかマイナスか」で判断することです。「国は何をしてくれるか」ではなく、「あなたは国の未来のために何ができるか」を問うこと。それを国民に問う勇気のあるリーダーを選ぶこと。
■ だから町づくりも、さらには国づくりも30代までの若い世代に任せたい。50年後にも生きているだろう彼らが、未来を決めるべきです。
■ それより上の世代は、子どもたちのためにどれだけ犠牲になれるか、当然と思っている既得権益をどれだけ捨てられるか、が問われる。年金受給権も、医療保障も、あるいは年功序列や終身雇用も。それが大事です。すべての政策や復興計画は、子どもたちの未来を軸に考えていく。
■ うちのバスは止まらずにすみました。少数ですが、結果が出るまでやるべきことをやり通した政治家や官僚がいた。さらに、心ある運送業者が自分たちの分を分けてくれるなど、現場の助け合いのおかげです。
■ 現場は立派です。うちの連中のやる気と献身には涙が出ました。震災からわずか5日後に、盛岡から激甚被災地の宮古に路線バスを復活させたんです。その第1号に、いかにも今どきの若者が、支援物資をたくさん抱えて乗り込んできた。満席です。草食系なんてとんでもない。
■ 日本の強みは、我慢し自己犠牲をいとわない、一般の人々です。そして現場の力。自衛隊も消防も立派です。役所も課長以下や自治体の現場がよくやっている。
■ 会社も国も、破滅的な事態が起きると、隠れていたいろいろな問題がいっぺんに出てくる。これはある意味チャンスです。日本の未来へのテコにしたい。勝負はこれからです。」
(聞き手 編集委員 刀祢館正明)
2011年4月2日(土)朝日新聞13面より