明治維新の頃の日本が進む方向性について、明確な指針を与えたのが福沢諭吉でしょう。実に立派な思想家、教育者です。明治8年に書いた「文明論之概略」が彼の思想の中心となる集大成ですが、邦訳本の少ないこの頃に原文を英語で読み、日本語にないいくつもの言葉の意味を正確に理解しているさまはすごいと思います。この福沢の本(岩波文庫 1995年)を読むことはできますが、あわせて昭和の偉大な思想家である丸山真男氏の「「文明論之概略」を読む」は福沢思想のすばらしい解説書ですので是非読むことをお勧めします。
という事で、この本を含めて3冊の本を紹介したのが私の「読書漫遊」です。新幹線JR東海の社内誌「Wedge」の平成17年2月号に掲載されますが、ほぼ最終のゲラの前半をここで紹介したいと思います。是非、読んで、偉大な思想に触れてください。
紹介する本は以下の3冊です。
丸山真男:「「文明論之概略」を読む」」 岩波新書 1986年
福井秀夫:「官の詭弁学」 日本経済新聞社 2004年
平山 洋:「福沢諭吉の真実」 文芸新書 2004年
回復基調とはいえ不透明な日本経済と増え続ける国の借金、急変する中国とアジア、そしてユーロとロシア動向、中東とアフリカ、米国の国際政策等、不安定要素を多く抱える国際政治の動向、さらに増加する地球人口、環境問題、南北格差拡大等を中心とした地球規模問題等、不安定、不確定要素を数多く抱え、目標の見えにくい2005年が始まった。「政産官の鉄のトライアングル」の「ジャパンアズナンバーワン」の終焉から15年、では次の15年、2020年への日本の航路は、戦略は、何か。ここは歴史観、文明史観が必要だ。そのような「リーダー」はいるのか。明治の新時代日本の最も偉大な思想家、知識人、教育者である福沢諭吉の思想の体系的原論「文明論之概略」(岩波文庫)は明治7年(1875年)の出版、「古典」なのである。「政府と名のる籠の中に閉じ込められた」知識人の枠を破り、自由独立の知識人、福沢の思想は事の本質を深く考察し、いまも説得力がある。邦訳本のすくない時代、多くの原書を読み、西洋文明を理解し、日本の将来を思い、そこから思想と言葉の意味を汲み取る能力は想像しただけでもすごい。身震いがする。「スタチスチク」(統計)、「カラッスインタレスト」(階級の利害)等、読者が英語をほとんど理解しない時代のカタカナは、本質をよく理解しないままの今のカタカナ氾濫の対極だ。
昭和を代表する思想家、丸山真男が解説した「「文明論之概略」を読む」は現在の日本国の根本的課題を考えるのに最もふさわしい書である。「序」の「古典からどう学ぶ」から、全編にわたって福沢への畏れにも似た尊敬の念と、福沢思想への洞察が伝わってくる。福沢の思想と日本への思いと懸念は現在に通用する普遍性がある。いまだに「人民」と「国家」、「公」と「パブリック」、「外国交際の基本」等の本質を理解せず、むしろ勘違いしている(としか思えない)多くの責任ある立場の人も、将来を担う若い人たちも読むべき本である。福沢の思想は、20世紀の日本を知らないにもかかわらず、なのである。文明史的に本質を見抜き、大局観ある人はここまで違う、すごいの一言である。
後半に続く・・・