「医学生のお勉強」 Chapter4:生活習慣病(7)

「生活習慣病」を文明と生活という観点から考えると
おのずと対策が見えてくるというものです。
セッションのオリジナルタイトル/Hypertension, Salt, and Kiney: How and Why

 

■人間とバナナの遺伝子は50%同じ。サルと人間は1%しか違わない。

黒川:
僕らの遺伝子はゲノム30億の塩基対、A、G、C、Tからできている。突然変異がどこに起こるかなんていうのはわからない。しかも最近のゲノムの解析でみなさん知ってると思うんだけど、僕らの遺伝子のゲノムのうちで蛋白をコードしている遺伝子は3万くらいとわかった。30億の塩基対のうち機能しているのは何パーセントくらいあると思う? たくさんの遺伝子のうちで機能を持っているのはエクソンとイントロンを含めてだいた20%くらいと考えられている。だけどサルと人間はゲノムがどれくらい違うか、知ってる? サルと人間は1%しか違わない。けっこう微妙なラインだね。しかもバナナと人間の遺伝子も大体50%が同じ。
あなたたちは両親から一対の遺伝子をもらっている。いろんなところが似てたり似てなかったりしている。両親から受けた遺伝子30億塩基対の2ペアだけど、それぞれ機能している部分はいろいろあるけど、そのうちどれくらい両親と違うと思う? 兄弟だってそれぞれの部門を継ぎ合わせているわけだから、まったく同じじゃないんだよ。遺伝子30億の組み合わせによって兄弟が少しずつ違う。それは当たり前だね。それで、A、G、C、Tと読んでいくと両親とどのくらい違うと思う? 塩基は30億のうち100個くらいしか違わない。ものすごく少ない。きっと10のマイナス8乗くらいの確立しかそのプロセスでは変異は起こらない。それに変異が起こったところで、さっき言ったように機能しているところがせいぜい20%、しかも意味のある変異かどうかという確率はさらに少ない。
つまり突然変異というのは自然界で常に起こっているから、地球上に人間が60億人いても同じ人は1人もいない。人の遺伝子を読み込んでみると30億の塩基配列がみんな少し違う。だからみんな顔が違う。その一人ひとりを見てみると、そのバラエティの多さからも常に変異が起こっていることがわかるでしょう。変異が起こった結果が何か機能的に意味があるものかどうか、という確率は少ないけれども、例えば目が青く、肌が白くなってきたとかは、変異の結果の選択なんだよ。なんで黒人の皮膚は黒いのにスウェーデン人は白いの? オリジンは10万年前はみんなアフリカにいたんだから。それがだんだん移動して行った。アフリカでは皮膚が黒くてメラニンが多くないと、紫外線がものすごく強いから皮膚がんになって死んじゃう。だけど北欧みたいなところでは日が当たる時間が少ないから、白くなってないとビタミンDができにくい。その適応と選択なんです。メソポタミアで農耕民族が出現したのが1万年前だけど、たぶんヨーロッパに移動したのは2、3万年前くらい。そのくらいの間に遺伝子に効いてるわけだから、けっこう短い時間だと思うけど。
遺伝子がわかってきたというのも解析技術のおかげだから、それをどういうふうに使うかというのも大事だけど、前回の生殖医療のときも話したようにね、「何を知りたいか」というのも、知的レベルとしては大事なんだね。特に生命科学っていうのは遺伝子の解析もいいんだけど、それをどう使うか。人間の倫理や人権の問題もある。もう一つはピュア・サイエンスとして遺伝子を解析するときに、より正確な方法で得た情報をどう解釈するか。あるいはなんでそんなことを知りたいのか、ということもあらかじめ考えておくことが非常に大事だ。遺伝子に入っている情報というのは、人間だけではなくて動物とか生物の進化のプロセスの歴史が全部読み込まれているわけだから、そういう視点でものを見ることがすごく大事。人間は進化のプロセスで、ある意味では種の中で一番進んだ生き物だから、「何を知りたいか」と考えることが必要なんだ。
そういう目で見ると僕らの体にはね、進化のプロセスを考えると当たり前だという機能がたくさんあるわけ。例えば脊髄での造血は陸にあがった動物には必要だった。魚には必要ない。骨髄での造血は当たり前だといって研究するけど、一つのアプローチとしては進化のプロセスが人間とは違う哺乳動物。脊椎動物と比べてみると、なぜそのような機能が特定の場所にあるのかが理解できる。
医学の勉強をしているとき、臨床の実習をしているときにどういうふうに患者さんとコミュニケーションをとったりとか、それから最近の科学でわかったことをどう解釈するか。そして、そういうことを将来の臨床にどう利用していくか、知識として整理されてくるかが大事。どんな現象にも進化の理由がある。考えるとおもしろい。生命現象の謎解きだから。病気の謎解きは自分が無知だから知らないのか、本当に原因が解明されてないから知らないのか。おもしろいね。患者さんの謎解きで病気は治るけど、なぜかという本当のところ、「どうして病気になるんでしょう」というのはわからないから、やることはたくさんある。今日は1人でしゃべっちゃったな。次回からはやめるけど、だけど今日は僕がしゃべったほうがいいんじゃないかと、ちょっと思ってたの。

 

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