「医学生のお勉強」 Chapter4:生活習慣病(2)

「生活習慣病」を文明と生活という観点から考えると
おのずと対策が見えてくるというものです。
セッションのオリジナルタイトル/Hypertension, Salt, and Kiney: How and Why

 

■ビールを飲んでいるあいだに腎臓がしてくれていること

黒川:
なぜレニンが腎臓で作られているかというと、腎臓はセンサーとして一番いいところにあるからなんだ。「食塩摂取量→細胞外液の変化→レニン分泌の変化」がどうしてカップリングしているか。腎臓は片方が150グラムずつくらいだから、両方で300グラムしかない。それで腎臓は糸球体と尿細管でセットになった「ネフロン」でできている。ネフロンがだいたい片方の腎臓に100万ずつ、両方で200万ある。腎臓で尿を作ってるのが糸球体で、どのくらい尿ができるか。正常な人だったら1分間に100ccの尿ができちゃう。すごい量だと思わない? 60分で6リットル。1日24時間で140リットル。例えば体重60kgの人はそのうち水が60%だから、36リットルの水が体の中にある。そのうち3分の2が細胞内液24リットル、3分の1が細胞外液12リットル。そこの食塩濃度が0.9%。体の中を回ってる血液の中にある水、つまり細胞外液量は12リットルしかないから、細胞外液は1日に10回以上おしっこになってでることになる。そうなったら大変だからほとんど99%が尿細管で再吸収されるんだけど、なんでこんな無駄なことしてるの? たくさん濾過をして尿を作るのはなぜか。さっき言ったように尿中にNaいくら出す? Kいくら出す? リンをいくら出す? カルシウムいくら出す? 水をいくら出す? という調節をしているけど、みんなそれぞれ、てんでんばらばらに、食事として摂取してるじゃない? 例えばこれからみんなでビールを飲みに行くと、おつまみでイオンがいくら入ってくるか知らないけど、ビールで水ばっかりがバカバカ入ってきちゃう。それどうする? 水とか食塩とかKとか、そういうものをそれぞれが違った量を出さなくちゃいけないわけだ。そのためにはそれぞれが、例えばKは尿細管のここで調節している、水はここで調節している、カルシウムはここ、というように、尿細管のどこかそれぞれ別の部分で最終的にいくら尿中に出すか、という調節系を持っている。そのメッセージを伝えるホルモン等があって、「何か変わったぞ」というシグナルを感じるセンサーがどこかにあるわけ。そのシグナルのターゲットは腎臓にしかないんです。「今、Kが入りすぎてるから出してね」っていうシグナルを出して、Kをちょっと余分に尿中に出してる。こういうことをするためにはたくさん尿を作ってくれないと。1つのイオンだけ余分に出すわけにはいかないし、それぞれのインプットとそのコンビネーションは毎日違うわけだから、それでもちゃんと尿中に出せるようにするにはたくさん尿を尿細管に提供してくれなければ、「これだけ残しておこう」「これはいらないよ」と、さばけない。このおかげで1時間に1リットル水を飲み続けても全然溺れない。なぜ? 腎臓は1時間に最大1リットルずつ真水を尿中に出せるから。
つまりね、ビールをワッと飲むでしょ。「体液が薄まったよ」というシグナルを身体が感知する。さっきの「のどが渇いたよ」というのと同じところがさ、今度は逆に水が増えたから「体液が薄まったよ」と感じて、それで「抗利尿ホルモンをもう出さなくていいよ」ってシャットアウトしちゃう。そうすると集合尿細管まで流れてきた尿は、ここから先はもう抗利尿ホルモンがないから再吸収されなくなって、水が尿中にスッとでちゃうわけ。そのとき、おつまみに野菜スティックをたくさん食べてればKも尿中にでる。おつまみにKがなくてほとんど食塩だったら、Naは出すけどKは出さない、ということをしてくれるわけ。だけど水はどんどんでる。そのような複雑な組み合わせに対応するためには、糸球体で尿という材料をたくさん作っておいてくれないと対応できない。最初からちょっとの材料だと、余裕がなくて対応できる範囲が狭くなっちゃう。
それでね、おもしろいことには、ネフロンは片方の腎臓に100万もあるんだけど、自分のおしっこを作ってくれた糸球体のところに尿細管がまたくっついていて、必ずもう1回糸球体のそばにおしっこが戻ってくる。どういうことかというと、この腎臓とネフロンのイラストを見てください。糸球体にもう一度ネフロンが戻ってきているところに流れてくるNaCl、特にClがシグナルで、糸球体に入ってくる血管の一番最後の血管平滑筋なんだけど、ここでレニンを作っている。ここのClがちょっとでも減るとね、すっとレニンがでてくる。これが最近わかってきたんだ。これは、東北大学第2内科の伊藤貞嘉教授たちやミシガン大学グループが直接証明したんだ。Clがちょっとでも動くとレニンがポンとでてくる。だから食塩摂取がちょっとだけ減ると、「Clが少し減るな」ということでレニンをポンと出す。逆に食塩がちょっと増えるとレニンを抑えるということをしている。例えば食塩の摂取量を今極端なことをやって毎日10グラムから6グラムぐらいに落とすと、ちゃんと2、3日後にはもう6グラムずつしかでない。そしてそれ以上細胞外液は減らない。血圧を測るとなんにも違っていない。見ためには何も変わってないんだけど、非常に微妙なシグナル系があって、RAAS系が少し変化しているんだ。だってそうじゃない、食塩摂取が毎日10グラムから6グラムに減ったとしたら、やっぱり3、4日後には尿中排泄量が6グラムになってないとバランスがとれなくなっちゃう。過不足なくやりながら、また新しい平衡状態ができてるんだよ。
 

■私たちの優秀な腎臓は、3億年前の進化のプロセスで起こった突然「変異」

黒川:
こういうネフロンでのメカニズムは両生類の腎臓で初めてでてくる。ということは陸に上がったことと関係あるんじゃないか、ということがわかってくる。例えば魚の腎臓にはこういう機能はない。腎臓は陸に上がってから非常に大事になってくるんですよ。うまいことできてるなって。だって陸に上がる前は海にいたでしょ。どんなものを食べても海の中で食べてるんだから海水が入ってきちゃうわけ。海水の食塩濃度は3.5%だからものすごくしょっぱいわけじゃない。だから海にいる生物っていうのは腎臓があんまり作用していない。なぜかというと水の中にいるんだから水分はあまり調節する必要がないわけ。体の中に海水を入れてNaClを外に出すという作用をする「えら」がものすごく大事。陸に上がった途端に水のないとこにきちゃう。どのくらい水が飲めるかわからない、どれくらいNaClが摂取できるかわからない、となっちゃうわけです。この点で非常におもしろいのが河口にいる魚です。それは鱒とかさ、鰻とか。真水から塩水に、塩水から真水に移動する。こういう魚はどうやってるのかな、というのは非常におもしろいテーマだと思う。真水に移ったら、食塩がなくなっちゃうでしょ。海中では塩水だけ取り込んで、NaClばっかり出していたのに、今度真水に来たら食塩がなくなっちゃうわけでしょう。だけど真水にいても海水にいても陸にいても対応できる・・・こういう生物はいないかな。
さてそこで、魚とか、特に哺乳動物で海に戻っちゃった鯨とかさ、イルカなんてのはそういう意味ではすごくおもしろいんです。3億年前に両生類が陸に上がったって言ったでしょ。で、腎臓に血圧を維持する機能がでてきた。それがさらに進化して爬虫類、そして爬虫類がさらに進化して鳥類と哺乳類に分かれていくんだけど、同じ脊椎動物でも哺乳類が地球にでてきたのは、たぶん1億年くらい前なんです。たぶん8000万年くらい前には恐竜がすごく栄えていた。それで6000万年前に恐竜が突然いなくなっちゃう。恐竜がいた頃には哺乳動物というのは非常にマイナーな種で、たいしたことがなかった。恐竜がいなくなってから哺乳動物がだんだんだんだん増えていったんだけど、でもその哺乳動物の中で海に戻ったものがいる。たとえば鯨とか。鯨は海に戻らなかったらあの体重を支えられなかったという話もある。今までは残っているものが骨しかなかったから骨を分析するしかなくて、骨格を分析して比較して、こういうふうに系統発生してきたといわれていたんだけど、最近になってDNAが分析されてきたから、進化のプロセスの解釈がかなり変わってきた。

 

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Exposition:

  • リン
    P。血清中の無機リンの濃度は3.5~5mg/dl程度。加工食品、特に清涼飲料水にも多く含まれる。
  • カルシウム
    Ca。牛乳、乳製品に多く含まれる。

 

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