知って欲しいことはピルやバイアグラの作用や副作用はともかくとして
その背後にあるもっともっと大きないくつもの問題です
セッションのオリジナルタイトル/Abortion, Contraception, and Gender Issues
■コンドームをもっとオープンにしよう!
司会:
この、アボーションが40万人もいるってことを知らなかったんで、今日はびっくりしたんですけど。話はずれるかもしれないけど、アボーションに反対する人たちは、「アボーションは母体によくないし、殺人ですよ」とは言うよね。でもだからといって、「ピルを使いましょう」とは言っていない気がする。彼らはどうしてそれを言わないんだろう。
――:
ちょっとそれと関係があるかもしれないんですが、この間、第三世界で助産婦をしていた人の講演を聴きにいったんです。日本だったら女性だけ集めて、「ピルを使いましょう」と啓蒙するじゃないですか。第三世界だと、「女性が自分で避妊の方法を選ぶなんてとんでもない」って社会や男性が思ってて、まず男性、だんなさんたちを集めて説明して、「奥さんにこんなものを飲ませましょう」という話から入るそうです。
いろいろ指導して、コンドーム、ピルとかを渡すんですけど。結局あとで話を聞いてみると、「また子供ができてしまった」って言うんです。いろいろな面で母体にも危険だし、結局すごく貧しいから社会的にも危険な状態になってしまいます。で、なんでかと思ってよく聞くと、ピルを男の人が飲んでいたっていうんです(一同笑)。よく伝わっていなかった、っていうこともあるとは思うんですけど、避妊を「女性が主体となってやる」ってことが説明されてもわからない。
司会:
でもそれは第三世界の話でしょ。反対運動が激しくて病院爆破したりするのはアメリカじゃない。彼らが、「ピルをどんどん使おう」と言っていることを、ボクはあまり聞いたことがない。
黒川:
誰か、アメリカに行った人いる?
市川:
それはね、政治的なアイディアなんですよ。というのはプロライフという人たちには非常に幅があって、カソリックみたいにピルを使うこと自体がいけない。どちらかというとプロテスタントのほうはピルを使うということに非常に賛成。両方が共通項で同じように運動しようと思うと、同じような旗をあげないと人数が集まらないから、それでピルのことを言うのはやめちゃってる。それでプロライフとプロチョイスというのがあってどっちもどっち、政治的運動には人数も犠牲にできないっていう要素がある。
黒川:
だけどね、コンドームをもっと社会の表に出して、「STDを防ぐにはコンドーム」っていう啓蒙活動をすることがすごく大事。今、南アメリカでさえも一般人口の15%以上がHIVポジティブでしょ。サハラの南部とかはもっとだから、次の世代まで生きられないんだよ。アフリカは今でもまだまだ暗黒大陸のままだね。次の世代がどんどん死んじゃうからすごくかわいそう。それでコンドームをあげたところではやはりうまくいかないんだよね。だから今、ピルじゃないけど、針で薬を入れて1年間妊娠しないという方法をけっこうやっているでしょ。普及させるっていうのは大変な努力だよ。結局そういうHIVポジティブの子供がたくさん生まれるってことで、ますます悲惨になる。おかしいよね。
アフリカではHIVポジティブの人は2000万人ぐらいだけど、アメリカやヨーロッパではだんだんHIVポジティブが減ってきているでしょ。アメリカが100万人でヨーロッパが150万人ぐらいだけど、薬もでてきたから死ぬ人が随分と減ったんだ。でも、まだアジアが1000万人。アフリカでは200万人死んでいる。僕はJICAのプロジェクトでまた来月にタイに行くんだけど、パオヤっていう一番HIVが多い村があるんだけど、そこでプロジェクトをやっている。タイは妊娠するとけっこう保健所が検査をしている。5、6年前はHIVポジティブが10%。今は5%きってきた。そうするとやっぱり教育だね、一番大事なのは。それに経済。
でもエイズの一番大事な問題は、赤ちゃんの半分がHIVに罹ってしまうんですよ。だから今は新しい薬ができてきて、AZTもそうだけど、お産の3週間前からお母さんがシロップを飲んで、そして産後の3週間は赤ちゃんが粉ミルクにそのシロップを入れて飲むとトランスミッションが半分になる。そうやって次の世代を救おうとしている。もう一つの薬「ネビラビン」は1回飲めばいいっていうもので、すごく良くなってきてるから、それで随分と希望がでてきた。だけどコンドームを普及させることがそういう貧乏な人たちの暮らしでは大事。今年JICAのプロジェクトでタイに行ったときに、バンコクの繁華街のわりにしゃれたレストランだったんだけど、そのレストランの名前が「Cabbage and Condom」という名前でさ(笑)。店のいろいろなところでタダのコンドームが置いてあった。こういうのも明るくていいなあって思った。
――:
ペコちゃんキャンディーっていうのがあるじゃないですか。アメリカの高校のときに見た目があのようなコンドームを先生が授業のときに持ってきてみんなにタダで配って、どうやってつけるかを模型を使ってみんなで練習してっていう授業をやりました。私の行ったアメリカの高校では、授業スケジュールの相談やアレンジをしてくれるカウンセラーが学生一人ひとりについているんだけど、その人に言えばタダで何個でももらえて、かばんの中にぺこちゃんキャンディーみたいなカラフルなコンドームがたくさん入っていたりして「でもそんな、とりにくる人なんているんですか?」って質問したら、「けっこういるよ」って。本当にタダで配っているんです。
――:
私も2年ぐらい前にアメリカ留学したときドームに住んでいたんですけど、ドームで3ヵ月に1回ぐらいかな? コンドームを配る日があって、ドームの受付の前にこんなカウンターがあって、いろいろな形のコンドームが並べてあって、むちゃくちゃオープンだった。私はけっこう抵抗があったけど、すごくオープン。
黒川:
やっぱり随分と違うよね。日本にはそういうことをパブリックに出すってことが「恥ずかしい」って思う今までのカルチャーがある。でもタイなんかはわりとそういうのは平気で、「Cabbage and Condom」なんてオープンで明るくていいよね。
――:
日本の原宿にも「コンドマニア」っていうお店があるよね。あれって、デートスポットになっているらしいじゃないですか。あんな感じですれば。
黒川:
だから変わってきたね。日本はそういうところでお金があるから買えるけど、タイなんかはそうじゃない。
――:
コリアンの友達を原宿の「コンドマニア」に連れて行ったら、めちゃくちゃ驚いてましたよ(笑)。
黒川:
向こうもそうなるよ。数年すると。
――:
院内でも無料配布とか。
黒川:
いいかもしれない。だって看護婦さんもたくさんいるし、若い人もたくさんいるからね。もっと啓蒙活動っていうか、啓蒙活動ばかりではなくて、アクセスをよくしておかないと。
――:
日本のデパートとかに入っているブランドで、私がたまたま見たのはすごく有名なブランドなんですけど。そこのレジのところでビンが置いてあって、その中にコンドームが入れてあって、別に買い物するしないにかかわらず、「勝手に持っていっていいですよ」っていうのがあって。
――:
どこ? ベネトン?
――:
いや、アニエスベー。
――:
いつも毎日やっているわけじゃないけど、たまにそういうことをやっていて。フランスとかでもアニエスベーには必ず置いてある。いいなあって。
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■仲間たちの横顔 FILE No.9 Profile 小学校のときの文集をひっくりかえしてみたら、将来の夢は「医者と作家」と書いてありました。大それたことを書くずうずうしい子供だったのでしょう。ただし高校を卒業する頃は、医学よりも文学に強くひかれていたようです。大学ではアメリカ文学を学び、そののち出版社に勤務した、医学部への入学直前まで単行本の編集の仕事をしていました。作家にはとてもおよびませんが、少しは文学の世界をかいまみることができたようです。途中、アメリカの大学院で社会科学の修士号を取得したのですが、その頃から、子供のころより忘れがたかった医学への思いが現実化の道をたどっていったようです。自分をめぐる環境もその後押しをしてくれました。一般的に見ればやや遅めのスタートなのでしょうが、自分としてはベストなタイミングで医学の勉強を始められたと思っています。 Message 今回の一連の授業は、黒川先生ともっといろいろな話をさせてくださいという私たちのたっての希望から始まりました。けれど、お忙しい医学部長とこれだけじっくり討論を繰り返すことが出来るとは正直思ってもいませんでした。先生には本当に感謝していますし、こうした取り組みは、さまざまな課題を抱えたこれからの医学を学ぶ学生にとって、大変意義のあることなのではないかと思います。
Exposition:
- 第三世界
先進資本主義諸国を第一世界、社会主義諸国を第二世界と呼ぶのに対し、アジア・アフリカ・ラテンアメリカなどの発展途上にある国を指す呼称。 - プロライフ
妊娠中絶反対派。 - プロチョイス
妊娠中絶支持派。 - HIV(human immunodeficiency virus)
AIDSの原因となるHIVはレトロウィルスの一種で、T細胞(白血球の一種)に感染し。逆転写酵素を用いて増殖する。HIV感染ののち種々の症状が出たものがAIDSと診断される。 - JICA (Japan International Cooperation Agency)
国際協力事業団。1974年に国際協力事業団法に基づき設立された特殊法人で、開発途上地域等の経済及び社会の発展に寄与し、国際協力の促進に資することを目的として活動している。 - AZT
抗HIV薬の一種。感染細胞内でウィルスRNAを逆転写する酵素の働きを妨げてウィルスRNAのDNA複製を阻害する。HIV母子感染予防にも高い効果を持つとされている。 - ドーム
dormitory の略。学生の寄宿舎のこと。
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