最近の活動サマリー: Singapore、広島、SoftBank、そして金沢工業大学

English

最近も、相も変わらず、忙しくしています。カラムの掲載が遅れがちですが、最近の活動のサマリーを。

SydneyからSingaporeへ。私なりに相互の関係を推進しようと、日本からの友人と連れ立って、TemasekNational Research FoundationEDB (Economic Development Board)A*STAR SPRINGなどの政府機関を訪問。このサイトの中で「Singapore」で「search」すればお分かりのように、私も何年もお付き合いがあるので、面会等はスムーズです。またいくつかのPrivateの起業家や企業の方達とも面会や会食に時間を使いました。とにかく、何でもあちらは話が早い、理解が早い、前向き、こちら側のフォローのスピードが心配だ、というぐらいです。大変化の時代、何よりも個人的信頼とネットワークとスピードは大事です。

会食はいつものことですが、A*STARの伊藤教授、そして今回は米国でPhD、UCSDでポスドクのあと、National University of SingaporeにAssistant Professorとして今年から研究活動を始めたShigeki Sugii くんと。またLee Kuan YewとともにSingaporeを立ち上げた1人Goh Keng Sweeさんの義理の娘のTan Siok Sunさん、などと。

10日は広島に出かけました。今年の春、広島大学医学部教授を退任した腎臓関係の長い友人、頼岡さんの3月に予定されていた会へ出席。大震災で延期になり、この時期になったのです。1時間ほどの講演をしました。このところの講演は、時期的にも世界の大変化のときでもありますし、「Age of Uncertainty」を中心に話しています。このテーマは特に教育関係の方たちにとっては、分野を超えて大事なテーマだと考えているからです。久しぶりに多くの友人に会え、楽しい時間をすごしました。

翌日11日(日)は、もとUNITARの所長をしていたAzimiさん(資料1)と久しぶりにお会いしました。ここでも話題が尽きませんが、時間切れで東京へ向かいました。

この日はまさに「9.11」、10年の日。世界中が注目する中、皆さんが10年前のその日を思いつつ、この10年で世界の様相がどんなに大きく変わったのかを実感したのではないかと思います。そして、この日は私の誕生日。わたしは10年前と確か同じ場所で身内で食事へ出かけました。たくさんのHappy Birthdayメールをいただきました。この返事で夜中までかかってしまいました。

12日(月)は、大いに話題になっているSoftBankの孫 正義さんの立ち上げた「自然エネルギー財団」設立の国際会議」 に出席。孫さんの基調講演はなかなか好評資料1)のようでした。世界から多くのお客様もお招きして、なかなかのプログラムでした。3日間の会議です。

夕方から、金沢工業大学 が主催する企業の方々をお招きしての講演会で、ここでも「Age of Uncertainly」の話。広島とは同じタイトルですが、筋書きはちょっと変えていますが、大枠は同様の趣旨での話です。広い会場に多くの方がこられました。企業の方々、また特に主催の大学の皆さんにとても喜んでいただけたようです。この大学は、1学年1000以上の定員の大学で就職率は95%を超え、就職ランキング(色々のがありますが、、)でも相当に高い、ある調査では全国9位ということを知っていましたので、この辺の背景・意味・企業の課題などについてもコメントしました。

多くの方にお会いし、とても忙しく、色々なことが後手に回りがちなこの1、2週間です。

 

Sydney Opera House

English


 

<上:Australiaにて、Hayman、Sydney、Bondi Beachの写真>

ADC Forumが終わりHayman島を出ると、時間の都合からSydneyで一泊。

翌日は快晴。次の予定まで半日の時間が。そこで行く先はモチロン、まずはOpera House。そこで、ゆったりした時間をすごしました。

このOpera House。見れば見るみるほど、外側も内側も、このプロジェクトの将来ヴィジョン、それへ向けた全体構想,そして出来た建物だけではなく、そこに現在にも続く、しかも世界を引くつけるコンテンツ、プログラムの素晴らしさ。長期の展望から生まれる、すばらしい「引力」です。

日本の国家政策は、どちらかといえば、このOpera Houseのような、世界での自分達の存在とその将来を見据えた大きな構想力に欠けているように思います。なんのかんの言っても基本的には各省庁由来の「ムラ社会発想」であり、そこが内田 樹さんによれば「日本辺境論」(資料1)である所以(ゆえん)なのだと思います。

残りの時間はあまりないので、Bondi Beach へ出かけてイタリアン・レストランでランチ。経営者はIsraelから来たユダヤ人の若者、いろいろな話が出来ました。Bondi Beachは Life Saving Club Icebergs などでも有名な海岸です。

ホテルで荷物をPick-upして空港へ、Singaporeへ向かいます。

アジアの若者の繋がりを作る沖縄の‘AYDPO’

English


 

3 年前に沖縄で始まった「アジア青年の家 Asian Youth Exchange Program in Okinawa」 (資料)。 15歳前後の若者達が3週間ほど沖縄で一緒に過ごす「Summer Camp」です。みんな本当に楽しい時間を共有します。

今年は4回目。プログラムのタイトルがAsia Youth Development Program in Okinawa (AYDPO)になりました。沖縄が開催主体になったのです。この2008-2010年の3年間の参加の皆さん、Tutorsの大学生さんたちの熱い思いと友情のきずなはFaceBookなどで強く結ばれています。

例年のことですが私も閉会式に参加、今年のみんなの発表は水問題。でも、発表にもいろいろ工夫が凝らされていて、とても感動的な時間を共有しました。

今年のプログラムの日記、写真、最後の日の皆さんの作品、みんなで作った歌などをココで見ることができます。若者達の楽しい時間が感じ取れますね。将来が楽しみです。

このような活動を、学校単位でも、地域単位でも、出来る範囲で、自発的にでいいのでドンドン広げていって欲しいですね。

若いときこそ、将来の仲間づくりの場を作ってあげる、これが日本にとっても、アジアの若者にとっても、これからの世界にとっても大事な課題なのですから。

AYDPO閉会式での講演のほかに、この機会に私は午前は琉球大学へお邪魔して「MOT」などで活躍している方々と講演と懇談(ちょっと時間が足りなくなりました、すみません)、夜は沖縄科学技術大学院大学のDorfan学長資料1)(大学院になって正式に学長就任予定)ご夫妻、Vice President and Executive DirectorのBaughman  さんと会食の機会を持つことが出来ました。

沖縄で、このような「開国」への動きが進んでいるのです。皆さんの応援をお願いします。

 

Harvard学部生たちと日本の大学生達による高校生へ向けたLiberal Arts Summer Course -2

English

このコースの初日、私が基調講演をしました。この100年で大きく変わった世界、この20年で急激に変化するグローバル世界、これからどんなことが起こるか予測がつきにくい世界の状況の背景について、いくつかのポイントを話しました。その上で、「なぜLiberal Arts」が大事なのか、について話をしました。

このSummer CourseはHarvardの学生さんが始めたことなので、100年前に今のようなHarvard大学のあり方への改革をしたCharles Eliot学長についても触れました。いくつもの質問もあり、交流を楽しみました。

翌日は、夕方からHarvard同窓会の方達にも案内したレセプションがGRIPSで開催され、私もそれに間に合って到着、昼間はUniQloの柳井さんの話でまた刺激を受けたようです。何人かの高校生に聞いてみると、まだこの2日間だけの経験ですが、とても刺激的で、これからの進路の考え方が大きく変わっていくのを感じつつ、これからどうしようかと、本気で悩みだしているということで、皆さんの思いは同じのようです。いいことです。これからの人生はまだまだ始まったばかりなのですから、いくらでも選択肢が増えることはいいことです。

主催の小林くんたちのヴィデオ・メッセージ、また、Japan Times にも記事が出ています。

このコースの様子はいずれウェブに出てくる予定ですが、ほかにもいくつかの取材を受けていますので、これらも楽しみです。

 

Harvard学部生たちと日本の大学生達による高校生へ向けたLiberal Arts Summer Course

English

Harvard College Japan Intiative - Liberal Arts beyond Borders(HCJI-LAB)による「Summer Course 2011」が、8月20-27日の8日間の予定で始まりました。

これはHarvard 大学3年生の小林亮介くんが1年ほど前から考えて発言していたものです。わたしの友人で、この数年Harvard、 MITなどで活躍している学部生(きわめて少ない)、院生、ポスドクなどとも、いろんな場面でのお付き合い があります。1年ほど前でしょうかこの小林くんがLiberal Arts教育がいかに大事か、なぜ日本の高校生だったときにはそんなことも知らなかったのだろうか、というような疑問を話していることを知り、彼のその思いを語っているヴィデオをネットで見ました。すぐに小林くんと連絡を取り始め、具体的な計画が始まり、今年の5月に入って、日本での本格的に準備が始まりました。

何しろ初めてのことでもありますし、関係機関の許可や調整、資金や場所、Harvardの学生が来るのか、日本で高校生がターゲットの80人が集まるだろうか、どんな問題があるのかなどなど、小林くんの仲間の日本の大学生達が、企画し、知恵を絞り、いろいろな方達を訪問し、多くの課題を乗り越えて(いやはや、実に多くの問題・課題があるものですね、、)、これらを乗り越えてきました。いろいろな協賛、後援などなど大変でした。

GRIPSImpact Japanなども出来るだけの応援をすることになり、昼間の会場もGRIPSを中心に六本木近辺で開催することになりました。全体で約120人ほどの若者たちが、本郷の旅館に宿泊し、夜も色々なグループセミナー活動をする、かなりIntensiveなプログラムです。

小林くんは、その仲間の応援といっても、両方の状況を把握しているのは小林くん本人だけですから、本当に大変だったと思います。私も彼を連れて、いろいろな方への紹介とか、そしていろいろな方から温かいご支援をいただきました。この場を借りてお礼を申し上げます。

Harvardサイドではこの10年、一橋大学Business Schoolを立ち上げ大活躍し、去年からHarvardのBusiness School教授として戻って教鞭をとることになった竹内弘高さんがいろいろ支援してくれました。

このような、学生さんが始める教育プログラムはその趣旨も素晴らしいし、応援のしがいがあるというものです。Harvardから20名の学生さんたち、日本も20名ほど、そしてなんと250名の応募者から選ばれた80名の高校生達、素晴らしいラインアップ。毎日の特別ゲストにはHarvard大学の竹内弘高さん、ユニクロの柳井さん、一橋大学の米倉誠一郎さん、Lawsonの新浪さん、そして私などなどといった顔ぶれです。あとはもっぱらHarvardの学生さんたちが先生です。

この3ヶ月の準備は、本当に大変だったと思います。いよいよ20日の開会にこぎつけ、私も開会のときに基調講演をすることになりました。これらについては、また報告しますが、実に充実した8日になるでしょう。

翌日の夕方、この120ほどの学生さんたちとGRIPSで開催したHarvard Alumni Associationとのレセプションは大いに盛り上がり、多くの高校生たちが、たった2日で相当興奮状態になっていて、これからの進路について、さてどうしたらいいのか、ずいぶん質問を受けました。

また、別に報告しますが、若い人たちに将来の可能性を見せ、実体験として感じさせることは本当に大事なことです。これこそが教育の真髄です。

 

MIT Media Labの2人、Itoさんと石井さん

English

MIT Media Labといえば、世界でもよく知られている研究センターです。1985年に発足、多くの日本企業が共同研究などに参加していたので、日本では特によく知られているのかもしれません。

最近、この所長にJoi Ito (伊藤穣一)くんが就任 したことは、明るいBig Newsです。先日、Joiと、もう一人、Media Lab副所長も勤める石井裕さんと一緒に夕食の機会を持ちました。石井さんは今年のTEDxTokyoにお招きして、素晴らしい熱いスピーチをしていただきました。

話題は色々でしたが、要は日本の若者をもっと世界と交流させたいということです。Joiは「3.11」以後、フクシマを中心にした放射能測定も積極的に実施しているので、この件についても意見交換。

今年のAERA、4月25日号で石井さんが「現代の肖像」で紹介され、また8月8日号でJoi Itoが「表紙の人」になり、「「世界の未来を作る場所」の未来」という記事が掲載されました。

Joiは10年来、世界のalpha-bloggerの一人、石井さんはtwitter (@ishii_mit)のとおり、いつも熱い2人です。

 

「2010 ACCJ Person of the Year」のこと再度

English

去年2010年の終わりに、2010 ACCJ Person of the Year に私が選ばれ、今年の2月にTokyo American Clubで受賞講演の午餐会が開かれて、その講演もこのサイトに掲載しました。

最近、ある方が教えてくれたのですが、このときの話からの記事だと思うのですが、私のことを「Kiyoshi Kurokawa, The Maverick」として、Tokyo Weekenderに、Richard Smartさんが書いてくれていることを知りました。

まあ、私は確かに、皆さんが嫌がることを多く発言していますから、無理もない話しですが、しかし、私の言っていることが間違っているなどとは思ったことはありません。日本社会はあまりに閉鎖的な「タテ社会」だ、ということを指摘してきた、ということですから。

本当のことを指摘されると気分を悪くする人も多く居ることはいたし方ありませんが、本当のことを言うことは大事です。

「3.11」以後の日本では、いかに取り繕った政府サイドよりの報道が多かったかは、皆さんご存知の通りです。権力寄りの日本のジャーナリズムの姿勢でその信用はガタ落ちです。これは政府や保安院、東京電力だけの話でないことは世界に広く知られてしまいましたね。

日本はどこへ行くのでしょうか?ちょっと心配です。

 

Doha, Qatarへ再び

English

QatarのHamad Medical Corporation Academic Health System という構想を打ち上げ、そのお披露目にご招待を受けたのでDohaへ出かけてきました。

外は45℃程度、とても暑いし、またラマダンのさなかのことです。

せっかくの機会ですから、再びQatar財団 (資料1)へ。ここではCornell Medical College in Qatar Texas A&M University in Qatar 、またQatar Science Technology Parkも訪問してきました。

これらの大学は米国の本校と同じcurriculumで、教材も一緒、教員の同じ資格で採用しているので、卒業生は本校と同じ資格とみなされています。医学部卒業生の臨床研修でもmatchingでJohns Hopkins, Cleveland Clinicなどの有力な研修先を見ることができます。ほかにもQatar財団のサイトからわかるように、いくつもの大学と特別なプログラムの提携をしています。

最近では、BrookingsRANDなどの一流Think-TankもDohaに進出しています。

このような教育や研究の場は、設備も最新であり、きわめてオープンで国際的ですので、日本の研究者とのプログラムや学生や院生フェローの交流を進める機会を構築していくとよいと思います。

Hamad Medical Corporationも新しい病院群を次々と建築中ですし、また研究設備も整えつつあります。25年ほど前に出来た病院を拡張しながらの中でも活発な医療が行われています。救急、特に外傷は大きな部門で、交通事故、工事現場での外傷などが多いのです。

多くのスタッフもDoctorも海外からですが、皆さんバリバリと仕事をしています。

Academic Health Systemもなかなか意欲的なプログラムです。「Healthy Community」の構築と「Globalへの広がり」を強く意識したものです。

Tunisia以来、色々不安定要素のある中東ですが、Qatarはグーッと落ち着いています。もっと、交流してみませんか?

8月6日; ヒロシマ、フクシマ、そしてグローバルヘルスサマーコース

English

DSC_6649 
 
 8月6日、ヒロシマの日です。

日本はヒロシマ、ナガサキ、そしてフクシマ。例年、暑いヒロシマでの式典、菅総理の言葉は皆さんに、ヒロシマの方々に、フクシマの方々に、そして東北の被災者の方々にどのように響いたでしょうか?

日本はどんな国になっていくのか、なにか悪夢の中をこの5ヶ月が過ぎていったような気がします。フクシマの処理は目処も付きません。東北をどうするのか現場への対応も、計画も、国の役割もはっきりしません。もっぱらコップの中の争いと、旧体制の抵抗勢力とスキャンダル、経済産業省の人事もありました。なんと言うなさけない国家なのでしょうか、と愚痴をいいたくもなりますね。

世界中で、金融の大崩壊がまた起こるのかもしれませんね、不気味です。日本はどうしようとしているのでしょうか?

政治の体たらくを国民のせいにする人も多いと思いますが、この50年間の「知の鎖国」の抵抗勢力。大学、メデイア(テレビといえばタレントと食い物ばかり、というのが直感なのでは?)、大学の責任も重いと思います。経済成長ばかりに浮かれていて、この20年のグローバル化の世界に、ほとんど適応できなかった産業界などなど、このサイトでも繰り返し指摘している、そして最近でも自民党、公明党の機関紙に一部を書いた通りです。

さて、数日前に「Global Health人材育成講座「グローバルヘルスサマープログラム2011」資料1)について紹介しました。

6日(土)の午前はこの2週間コースの最終日。本郷にある東京大学の福武ホールの素敵な講堂で、4つのチームが世界の「ポリオ撲滅」へ向けての政策提案のプレゼンです。これが今年の課題でした。皆さん、ずいぶん考えた政策の提案、それぞれユニークで、採点はとても難しかったですね。4チームの成果を色々組み合わせると、何かよい企画になるかもしれません。

私はこの2日間、ひどい風邪で寝込んでいたので、ようやく朝になって間に合って参加できた感じでした。

でも、皆さん現場感を得ることや取材やら、がんばりましたね。「このような問題を自分自身で考えたこともなかったので、考え方も、視野もずいぶん広がりました」というような感想、意見を色々聞きました。

学生さんも、支援してくれた多くの方達も一緒にみんなでランチへ。次のキャリアは、ちょっと違った視点で考え始めている、という方もいました。将来を担う人たちとの交流はいつも楽しいものです。

20人ほどの学生さんたちは米国、フランスなどで学んでいる方、また、アフリカなどで現場の活動していた方もおり、とても熱心な方達の集まりで、ここでも、「世界的キャリア」を作ろうとしている人たちが多く、楽しい時間をすごしました。

私は帰宅早々、荷物をまとめて、成田へ。Qatarへ向かいます。Academic Health System Initiativeお披露目へ参加です。この暑いとき、しかもRamadanが始まっているのに、皆さん熱心ですね。

Qatarについてはまたご報告します。

 

浅田次郎の清朝末期の小説

English

浅田次郎さんのファンは多いと思います。私も彼の作品は好きです、全部読んでいるわけではありませんが。

清朝末期の中国を描いた4部作、「蒼穹の昴」、「珍妃の井戸」、「中原の虹」、そして去年の「マンチュアン・リポート」の4部作シリーズは好きです。ぞれぞれの「ものがたり」の構成と分析と視点です。読み始めると、引きこまれてしまい、終わりまでついついやめられなくなるのです。

去年、浅田次郎さんの「蒼穹の昴」が日中合作でNHKシリーズとして放映されました。清朝末期、西太后と春児(チュンル)とその周りの人々を中心とした物語です。田中裕子さんが西太后を演じてとてもいい感じを出していたと思います。そのあと「珍妃の井戸」が出版されます。言うまでもないことですが、珍妃は「蒼穹の昴」にも出てきましたね。

数年前に北京に行ったとき、ちょっと時間があって紫禁城へ行きました。案内の方に「どう案内しましょうか?」といわれたので、「時間がないので「珍妃の井戸」へお願い」、といって直行、後はほとんどなにも見る時間がなかったことがありました。それぐらい浅田さんの話は面白いのですね、引き込まれてしまいます。「珍妃の井戸」へ行っての感想ですか?それは行ってみての感想をお聞きしたいものです。

そのシリーズ第3弾が「中原の虹」。流民の子の馬賊の長となる張作霖、中原で待ち受けるラストエンペラー溥儀、袁世凱、そこへ絡む西欧諸国、関東軍などをめぐるものがたりです。これもわくわくする話です。

去年の秋に出版されたのが「マンチュリアン・リポート」。関東軍による満鉄奉天駅近くでの張作霖爆殺事件へいたる素晴らしい構成と語り口です。

プロの作家の取材と書きぶりは、ほんとうにすばらしいです。

ところで、このような20世紀へ入る直前から20世紀前半の日本と近隣諸国、朝鮮半島、中国、満州との関係を色々書いたものは数多くありますが、人物のものがたりから見たこのような著作は「non-fiction」でもあるし、とても面白いので、私は好きですね。ほかにも、いくつもあるでしょうが「阿片王」の里見甫の話(佐野真一さん)、それらにも関係するのですが「満州裏史; 甘粕正彦と岸信介が背負ったもの」(太田尚樹さん)、また当時の「日朝関係」のものがたりも、人のいとなみ、歴史の出来かたなど、色々教えられるものが多いです。

このような「歴史小説」は、妙な愛国心などとは関係なく、その時代時代の人間の営みから見た、世界と国家の動き、それぞれの立場の人たちの生活などを多角的に双方の立場から考えるのに、とても役に立つことだと思います、特にグローバルに世界が広がっていく世界での対応を考える上では。

この4部作でも「語り部」を通した浅田さんの考えの一部が伺えます。例えば;
「(日本の)政府も軍も目先の利益にこだわって、大局を読むことができない、、」
「日本人はその国土の規模に応じた小さな考えしかできない、、」
「「満州は日本の生命線」(東方会議で)と口を滑らせた、「わが国の国益のために他国を侵略する」といったも同然で、、」
とかとか。

「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」はよく知れられた言葉です。「長い歴史を学ばない人間たちは、単なるバカの集まりだ」と誰かが言いましたが、けだし名言です。