科学新聞、「グローバル化とイノベーション」

科学新聞という週刊の新聞があります。それほど発行部数が多いわけはありませんが、主に科学技術関係の記事を扱っていて、科学者や科学に関わる人たちに広く読まれています。これは科学技術庁設立を強く推進した、当時の国会議員であり、また東海大学の創設者である松前重義先生の肝いりのものです。この先生のすごいところはその見識、実行力等々。沢山の貢献があるので、ウェブで検索してみてください。「二等兵物語」は自伝の一部ですが、あの戦争中に政府内にあって堂々と東条英機首相の政策を批判し、40歳を超えて「二等兵として徴兵」され、それに従うのです。本当にすごいことです。これは読んでみるといいと思います。

この科学新聞では時々、「対談」や「放談」をさせていただいたりしていますが(このブログでも検索してみてください)、今回は「“科学技術立国”日本の課題」というタイトルで、シリーズを企画することになりました。その第一回(3月28日号)「グローバル化とイノベーション」 で、私のインタビュー記事が掲載されました。大見出しは「個人力引き出す教師の熱意」というものです。人材育成がなんと言っても一番大事ですから。

ちょうど2週間ほど前に「イノベーション思考法」(PHP新書)という本を出しましたが、これも参考にしていただければうれしいです。イノベーションとは何か、日本の課題も含めて理解していただけると思いますし、実際に行動を起こしていただけるとうれしいです。「イノベーション25」の発表、そして閣議決定以後も、世界は待ったなしでさらにドンドン動いている実感があります。

誤訳?いえいえ!

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最近参加したパネルで‐おおよそ20人くらいのパネリストだったでしょうか‐日本人と外国人の割合が6:4の中、気候変動について熱い議論が戦われていました。何人かの日本の政治・経済のリーダー達は日本の省エネ技術こそ最も効率的で1973年中東戦争のオイルショック以降エネルギー効率を上げるために”サムライの精神”で取り組み、二酸化炭素排出量を減らすには革新的な技術こそが鍵であると訴えました。
一方、その他の日本人や外国人はそれでは不十分であり、”キャップアンドトレード”を含むルールや規制が実行されるべきだと主張していました。日本側はセクターごとに各国がベストプラクティスを追求する”セクター別アプローチ”を主張しています。
EUはもとより、アメリカまでもがさまざまな政策の実行や革新的な技術を導入するだけでなく“キャップアンドトレード”に向けて動いているように思えます。日本が独自にイニシアティブをとらない限り、新たな世界のルールを追随せざるを得なくなり、この種のビジネスから取り残されるかもしれません。
ビデオスクリーンでは本来「侍」を意味する“Samurai Warrior”と翻訳すべきところ、“Samurai Worrier”(心配する侍)となっていました。アメリカ人がこの誤りに気づいたのですが、間違いではなくこの方がむしろ正しいメッセージを伝えているかもしれないと言っていました。時には翻訳の方が本来の意味が伝わることもあるものですね。

Blair首相との会見、そして「ブレアプロジェクト」参加へ

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3月14~16日、「G20エネルギー、環境担当大臣会合」が幕張で開催されました。

13日の朝はJeffrey Sachs教授とお会いして、先日のGlobal Health Summitのこと、Bush大統領がAfrica訪問中に発表された、AfricaのHIV、Malaria、結核以外の感染症への支援に関する発表などを受けて懇談しました。いろいろな形のODA貢献や、目に見え、成果の挙げられる貢献、資金援助のあり方などです。夕方からはColumbia大学の上海会議があり、私もお招きを受けていましたが今回は残念ながらご辞退しました。

その後すぐにGIES 2008に参加。これが第3回目です。GIES 2007は去年6月に開催され、私の「Innovation 25」の話もwebcastで聞くことができます。

14日朝は、「G20」に参加している英国のMalcolm Wicksエネルギー大臣と会談。15日の午前は去年まで英国首相であったTony Blair氏と会談(写真1)。Blair氏はこの日の朝に「G20」で基調講演を行っていて、気候変動に関するG8 Summitの政策、中国政策、そして他の途上国への対応等について意見交換をしました。彼は2005年のGleneagles G8 Summitで始めて気候変動を主要テーマにしたのです。だからこそBlairさんは、フォローアップの努力を今も続けているのです。Davos会議もよく活用していて、今年行われた福田総理の講演の座長もしました。チームを作って活動を進めるとのことで、今回から私もそのチームに参加することになりました。楽しみです。Blairさんはこの後に北京、New Delhiと訪問予定で、その間にもスタッフとメールで、早速やり取りをはじめています。また、忙しくなりそうです。

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写真1 Tony Blair氏と

16日の午後は、環境省、東京都などと日本経済新聞主催の「温暖化シンポジウム」で昼食会(写真2)。その後、Blair氏の基調講演、さらに鴨下大臣、石原都知事などのパネルが行われました(写真3)。詳細はいずれ日経新聞に出ると思います。

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写真2 昼食会で、左から、私、首都大学長西沢さん、並木環境大臣政務官、Graham Fry在日英国大使、Blair氏、石原都知事

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写真3 左から鴨下環境大臣、Blair氏、石原都知事

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写真4 Fry在日英国大使と、講演会の開始前に

UNESCO-L’Oreal女性科学者賞10周年、Parisから

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5日の夜、成田からパリへ。UNESCO-L’Oreal For Women in Science賞が始まって10周年の記念行事です。今年、10年目の2008年受賞式もあります。Laureates(受賞者)は50人を越え、そのほかにもInternational Fellowship、National Fellowshipを入れると500人近い女性科学者がこの10年で表彰を受けています。素晴らしい社会貢献です。今年はその中の40人弱のLaureatesが参加しました。

6日の朝に到着して一休み。午後からUNESCO本部で行事が始まります。まず、LaureatesによるCharter(宣言書)として10のCommitments(約束)の紹介とサインの儀式がありました。10の約束についてはサイトを見てください。なかなかいいですよ、皆さんも実践してください。私は今年の選考委員の一人として参加しました。記念行事は1週間続くのですが、私は授賞式だけの参加になりました。

この後に今年の受賞者の表彰式が行われました。松浦UNESCO事務局長、L’Oreal社長Sir. Linsey Owen-Jonesが流暢なフランス語でご挨拶。受賞者の紹介は選考委員長で1999年Nobel医学生理学賞を受賞したRockefeller大学のBlobelさんです。受賞者お一人ずつ、まず受賞者を訪問して作成された数分の映画から始まり、受賞者の業績をBlobelさんがわかりやすく紹介。そして受賞者登壇と挨拶があり、これが5人について順々に行われました。その後で、受賞者一人ひとりに松浦さんとSir. Linseyによる賞状の授与。なかなか素晴らしい演出でした。

アジア太平洋を代表した受賞者では、日本の岡崎恒子さん(2000年)と米沢富美子さん(2005年、今回は欠席)、中国のFang-Hua Liさん(2003年)、前からよく知っているHong KongのNancy Ip さん(2004年)、そして今年は韓国のNarry Kimさんが受賞されました。

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写真1 岡崎さん

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写真2 Nancy Ipさん

選考委員の注目するところは独創性などの業績の質ですが、一番大事なことは「独立した研究者としての成果か?」という点です。今年のKimさんはsmall RNAの研究ですが、37歳でソウル大学のAssistant Professor(助教授)です。素晴らしい業績で、全員一致で推薦し、問題なく決まりました。私は、なぜ独立して研究業績を挙げることができたのかを知りたくて、選考委員会の翌週にソウルに行き、Kimさんにお会いして話を聴きました

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写真3 Blobelさん、松浦さんと

ソウル大学で修士、Oxford大学でPhD、Pensylvania大学でPost-doctoral fellow、帰国して助教授。教授は帰国して何年かは研究費を支援し、機器も自由に使わせてくれ、大学院生も2~3人をつけてくれたそうです。論文は全てKimさんの仕事だからと、共著者になることは辞退されていたということでした。そして独立することができ、教授のサポートに本当に感謝していると言っていました。この教授は彼女を独立した研究者に育てていたのですね。なぜでしょう?いつか聞いて見たいと思っています。日本では若い人たちが独立せず、競争の中で育って来ないので、外からは誰が伸びてくるのか、そして誰が次世代を担えるのかが見えないのです。基本的に教授になるまで、外から将来を担う人材の比較が見えないのです。これでは独創性はなかなか育ちませんね。かわいい子には旅をさせろ、です。

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写真4 Narry Kimさん

Kimさんの受賞の言葉では、子供が二人いるので一時は研究をやめようと思った、託児所などの社会のサポートが大事だと訴えていました。当然ですよね。彼女のお子さんにも会いました。日本も若い才能ある人たちに素晴らしい機会を、そして独立して才能を伸ばす機会を広げたいものです。独立した研究者とは教授である必要はないのです。教授であることは結果です。教授は若い人を育て、才能を伸ばす機会を提供することが大事だと思います。若者が将来を切り開くのですから。

ホテルはConcorde広場とSt. Honore、日本大使館に隣接したSofitel。場所は最高でしたが、あまり時間に余裕がなく、翌日午前に出発。帰国の途へ。残念。

空港には映画のスクリーンほどもあるLaureates一人ひとりの写真が、ここかしこに展示されていました。

「国際保健で主導権発揮を」・「イノベーションの課題」

日本経済新聞(2008年3月11日)に掲載された記事「経済教室 国際保健で主導権発揮を」を、記事講演録一覧に追加しました。

 「経済教室 国際保健で主導権発揮を」

2007年10月18日に開催されたエンジニアリングシンポジウム2007での講演録を、記事・講演録一覧に追加しました。

 「イノベーションの課題」
 

その他の記事・講演録等はこちら ≫≫≫

The Economistの会議: 日本の強み、弱み。

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3月5日、朝8時から総理官邸で「地球温暖化に関する懇談会」の第1回に参加。ちょっとスタートが遅すぎる感じもありますが、ダボス会議の講演をはじめ、総理の考えがだんだん前進しているのです。結構なことです。でも国会は予算委員会、道路財源、ガソリン税、日銀総裁人事等々、課題が山積です。

世界で最も読まれている経済紙の「The Economist」は、最近の号で「JAPAIN」(「JAPAN」ではない)という見出しの特集で、世界第2位の経済大国にもかかわらず、この危機的な状況になっても日本は政治的リーダーシップがないと報告をしていました。その「The Economist」主催の会議があり、午後のパネルに出席しました。昼前のセッションにも少し顔を出しましたが、渡辺喜美大臣、松井証券の松井さん等の論客が「社会主義国日本の苦悩」について話していました。また午後には政務官の方(勿論、政治家です)も出ていましたが、政務官は大臣の補佐をする役目なのに、役人の書いたものをそのまま読んでいるなんて変ですね。世界とは逆です。「ギャグ」か?だから“leader”ではなくて“reader”と言われるのです。参加者の半分は外国人なのにこれではね。日本人に「R」と「L」の発音が区別しにくいのはわかりますが、こうまで言われるようでは・・・。日本の役所と大臣の関係は世界からまったく理解できない変な政府なのです。

昼食時には民主との岩国哲人議員の講演がありました。午後の最初のパネルに参加したのですが、この内容は石倉さんのblogを見てください。Panelistsは4人でそれぞれ10分ほどプレゼンしました。私は最後の締めくくりとして、4つのことについて話をしました。(1)まず「We ‘eated’ lunch next room and enjoyed a lecture by Iwakuni-san」という言葉からはじめました。「We eated lunch」は間違った言い方ですが、誰も私をとがめもしないし、笑いもしませんでした。英語としてちゃんと通じているのです。ここで「We eated」じゃなくて「We ate」だというのは正論ですが、「eated」で十分に通じるのです。正しい文法を気にするのもいいですが、「まず英語を喋ることからはじめましょう」という一例です。これがグローバル時代の共通語としての「ブロークン英語」なのです。

Panelistの一人、Nokiaの役員はいい話をしました。世界で毎日100万台の携帯電話が売れていると。そこで、私の(2)は世界の携帯シェアは38%がNokia、14%がMotorola、12%がSamsung、9%がSONY-Ericksonで、日本の携帯電話は10数社を合わせても世界の5%程度のシェアですと話しました。DoCoMoなどのキャリアが縛っているからだということを言う人もいますが、その通りでしょう。でも部品では日本製の性能は良く、世界中の携帯電話の部品の65%程度が“made in Japan”なのです。日本の強さと弱さをしっかり認識して、グローバルにビジネスをしなくてはいけないということです。

次に(3)として、AppleがiPhoneを出したら日本の各キャリアが、是非うちに取扱わせて欲しいとAppleに陳情に行くのですから、日本の携帯電話産業にかかわる人たち、技術者、経営者とその組織の全体に問題ありと指摘しました。“世界”のお客さんのほうを見くことが大事です。大体、Appleは1997年には、資金が5週間分しかなくて、もう破産かどこかに吸収されると言われていたのですよ。日本の企業もここまで追い込まれないとダメなのですかね。すぐに役所に陳情という企業体質も問題ですね。

大企業、役所、老舗で次々と起こる、信じられないほど幼稚なトップの不祥事。これはなぜ起こるのか良く考えてください。しかも、経営者は自ら辞めもしない、社長を辞めるといっても取締役として残っているとか、本当にみっともない。こんな社会の「上の方たち」が“品格”などとよく言うよ!と覚めた感じが社会、そして若者に蔓延しているのも当然です。社会のどこもかしこもトップは腐っています。自分から、きちんと社会的責任を取ってもらいたいものです。これでは経済成長もどんなものでしょうか。

最後に(4)として、ポケットからiPodを取り出して、このピカピカした裏のデザインと試作品は日本、生産は台湾企業、その生産工場は中国、内部部品もいくつか日本製品が入っている。でもこれはすべて部品メーカー。Appleは何も作らず、全体のシステムとコンセプトを作り出したこと、そして一つの製品の利益率が50%などという話しをし、「ものつくり」は大事だが、何を目的に、何を作るのか、そしてどう顧客を掴むかが大事だという話をしました。iPodの使用説明書は至極簡単ですね。全部ネットでみれます。日本の携帯電話をはじめとする電気製品の説明書の判り難さ、想像を絶しっていますね。技術者が書いているのでしょうが、根本的にユーザーを向いていないのです(「理科系の作文技術」-1981年、中公新書など、木下是雄先生の著書が面白いですよ)。この辺については林信行さんが書かれた「iPhoneショック」(日経BP社、2007年)が参考になるでしょう。

日本の強さと弱さ。技術は素晴らしいですが、構想力と世界への行動力の欠如。所詮は経営ですね、弱いのは。社長も「2年2期」など、勝手な内向き規則で平気な顔をしているなんていうのは、この世界の情報化時代に信じられないことなのです。これは市場経済の基本的事項。日産がゴーンさんを招いた時に「2年2期」などという内規を伝達したとは思えませんが、どうでしょう。日本の常識ばかりに囚われるのもいい加減にしてください。

今の日本に必要なのは1960年代の「SONYの盛田さん」のような経営者でしょうか、と言うとすぐに時代が違うとか、あの人は特別、誰それがいたからなどとまずできない理由を考える人は経営者として失格ですね。

 

世界の大学改革の激変: 日本の「一流」大学の大相撲化は待ったなし

このブログを読んでくれている方たちには理解いただいていると思いますが、これからの時代の人材の育成は、国家の根幹をなす最も大事なことです。世界中の国が優れた人材を育て、集め、それが国の信用にもなるということを良く知っているのです。

その方策として「一流」大学を世界に開放された場所にすることが必要です。「大学の大相撲化」(このキーワードでこのブログをサーチしてみてください)です。といってもそんなにすぐには動きませんが、少なくとも先進国の一流大学は、世界の素晴らしい若者たちが集まリ、切磋琢磨する国際村となっています。こうしたことは日本の若者の視野を世界へ広げるでしょう。そして日本のことをしっかりと考えるようになるでしょう。大人に言われてするのではなく、自分でね。

繰り返し開かれた大学への転換を提唱し、東京大学総長にも提言し、「イノベーション25」にも具体的な政策として掲げ、閣議決定もされています。具体的政策には大学入学時の理系文系区分の廃止、一斉の入学試験制度の廃止、中学校時代から双方向の夏休みホームステイ、高等学校のときは1年の交換留学、大学も1年程度は双方向の交換留学、授業の20%程度は英語で(勿論ブロークン)、などなどです。

大学人は情けないですね。何を考えているのでしょう。この時代に、日本で本当の意味で「実質的に」国際的に開かれている大学は、国際教養大学とアジア太平洋大学ぐらいじゃないですか。両方とも学部学生の50%は外国人です、先生たちも。英語圏ばかりでなく、ドイツ、フランスなども同じような政策をどんどん進めています。これからの世界で活躍し、新しい価値を作る「人材」・「人財」を作ること、これが国家の将来を決めます。

最近出た月刊誌「選択」にこの辺の大学の様子を報告しています(PDF)。このグローバルへの急速な変化は怖いですね、本当に。日本だけがますます取り残され、鎖国になっていくようです。日本の若者の将来はどうなるのでしょうか?また、ここで何度も紹介している大学人が自分たちでしっかり行動してください。できない理由はどうでもいいのです。「What to do」ではなく、「How to do」ですから。時間はあまり残っていないと思いますが。

そういえば、福田総理も留学生30万人計画を出していますね。

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ニューデリーでの2日目、3日目はもっぱらホンダと現地のビジネス関係の訪問が中心。

まずは、ホンダ(Honda Siel Cars India)へ。武田川社長はじめ、松崎副社長兼工場長とお会いしました。社長から苦労されたお話や、会社の現状と今後のPlanについてお話を伺いました。松崎さんは1982年にアメリカで工場を立ち上げ、都合15年間滞米。その後もアジア各地でご活躍され、ここの工場を立ち上げています。工場はとてもきれいで、従業員の皆さんも礼儀正しい。これはずいぶん苦労されましたね。

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写真1 Honda Siel Carsを訪問

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写真2 同じく玄関で

その後、電通の現地事務所、IITのNew Delhiキャンパスを訪問。夜は大使館でイランから着任された堂道大使と瀬戸一等書記官、角南さん等と歓談。瀬戸さんには2年前にここで開催されたアジア学術会議の時に大変お世話になった方です。

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写真3 IITのNew Delhiキャンパスで

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写真4 日本大使館で、左から角南さん、堂道大使、私、瀬戸一等書記官

翌日は現地の三井物産、Hero GroupのMunjalさん、インドビジネスの大物の一人National Manufacturing Competitiveness CouncilのChairman、V. Krishnamurthyさん(写真5)、 Confederation of Indian Industry(経団連に相当するものでしょうね)を尋ね、ビジネス中心の話になりました。インドは特に日本の会社、技術と組みたいと思っているのですが、日本のビジネス慣行は決めることも話の進み方も遅く、合弁会社は日本側が半分以上の株を持つことに執着する。これでは韓国や中国の企業にどんどん取られてしまいます。また、ヨーロッパやアメリカとのビジネスがどんどん出てきているといった話をいろいろと聴きました。

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写真5 角南さん、Krishnamurthyさんと

Hero GroupのMunjalさんのところではDymlerとの合弁の話が進み、昨日はFranceのSarkozy大統領から手紙が来たところだといっていました。

以前、インドの科学技術大臣、大蔵大臣、産業大臣、また首相等ともお会いしたことがありますが、皆さんビジネスも科学も独特で素晴らしい方が多いです。インド特有の「難しさ」はいろいろありますが、みすみす指をくわえてみていることはないでしょうね。いろいろとビジネスのやり方はあると思います。

その点ではスズキ自動車の鈴木会長は立派ですね。ご当地の車といえばスズキというぐらいになっているのですから。何でも先に出かけて汗をかかなければなければ、いい果実は取れません。また現地の慣行と、現地の人たちのインセンテイブも大事でしょう。

ビジネスの皆さん、がんばってください。インド、そしてアジアの成長に乗って、一緒に経済成長の展開をしたいですね。とにかく、日本はこの10年間、GDPが増えていない唯一のOECD国なのですから

ニューデリーから-1

2月17日にグローバルヘルスの3日間の会議を無事に終了し、翌日18日は朝からニューデリーに向かいました。夕方17時半、定刻通りにニューデリー空港に到着、そのまま郊外にあるNoidaの街に。今回は本田財団によるYES(Young Engineers and Scientists)の表彰式に出るためで、これは今では知る人ぞ知るIndian Institute of Technology(IIT)の優秀な学生5人を表彰するものです。すばらしい企画です。さすがホンダ、つまりは本田宗一郎の精神ということでしょう。

時間ぎりぎりで表彰式に到着した私と、もうひと方、Pachauriさんがゲストです。Pachauriさんとはこの数年、アジア学術会議等で何回かご一緒して、お互いに良く知った仲です。3年前もBangkokで行われたAGS-Global Alliance for Sustainabilityの会議で、一緒に基調講演をしました。去年2007年、IPCCがAl Goreさんと共にNobel平和賞を受賞したことで、IPCC議長を勤めるPachauriさんも一躍世界的に著名になったといっていいでしょう。科学者たちの間では、地球温暖化問題のリーダーとして、すでに広く知られていたのですけどね。

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写真1 表彰式で。左からHonda Siel Cars India 武田川社長、私、Pachauriさん(※)、本田財団の伴さん

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写真2 左からPachauriさん、表彰された学生の一人と私

※Pachauriさんはアメリカから前日に帰国、頭にできものができているので帽子をかぶっているとのことでした。

表彰式の後、2人で20分程ずつお祝いと激励の話をしました。私は本田宗一郎の精神について少し触れながら、受賞者がその精神を引きついで世界に羽ばたき、貢献してくれることを願っているとお話しました。このスピーチについてはまたご紹介します。本田財団の関係者や現地のホンダの方たち、そして受賞者の家族も来られていて、皆うれしそうでした。

また、1982年からホンダと合弁でオートバイを生産販売しているHero Hondaの会長、Lallさんもいらっしゃっていました。Lallさんのご子息のMunjalさんはHero Groupを引っ張る存在で、私も東京大学のPresident Councilとして一緒にお手伝いしています。

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写真3 講演する私

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写真4 受賞者たちと関係者一同(左から5人目がHero Group のBrijmohan Lall会長)

夜は政策大学院の角南さん、本田財団の伴さん、石原さんとホテルのバーで一杯。しかし、素晴らしい若者たちに会えて気持ちのいい、素敵な一晩でした。

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2月16日の午前は、私たちのNPO Heath Policy Institute(HPI)が例年行っている「医療政策サミット」を開催しました。理事や顧問の方たち、それから普段からお世話になっている方々をお招きして、わが国の医療制度をめぐるセッションを行いました。

そして午後は、これまで3年間のHPIの活動の経過を踏まえ、「Global Health Summit: Advancing our promises for TICAD/G8 and Beyond」というテーマで、国際会議を開催しました。司会はNHKの道傳さんです。

基調講演は小泉純一郎元総理の「健康と環境」というテーマでした。さすがにお話が上手くて、皆さんを惹きつけていました。原稿なしで、時間はきっちり30分。脚気から、食生活の変化、長寿社会となった日本、そして「変人」は“eccentric, crazy”ではなくて“extraordinary”という話、三浦安針・William Adamsと壊血病の知識、2日前に宮古島へ行って見たサトウキビから作るバイオエタノールと石油業界からの抵抗の話等々。参加者の半分は海外の方でしたが、素晴らしいオープニングでした。

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写真1 小泉元総理の講演

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写真2 世界銀行のPhumaphi副総裁

緒方貞子さんはアフリカへご出張中で、ビデオで挨拶をされました。ついで世界銀行副総裁の一人Phumaphiさんの講演、パネルはDevelopment Bank of South Africa、そしてGAINを率いるJay Naidooさん(今年のダボスでBonoたちと行ったセッションでお会いしました)、このブログで何度も紹介しているGates財団のDr. Tachi Yamada、マラリアにすばらしい効果を挙げている蚊帳(Olyset Net)で世界的にも有名な住友化学の米倉社長、日本の本格的なNPOの元祖ともいえる日本国際交流センター山本正理事長、そして世界銀行のWashington DC本部で活躍している前田明子さんという豪華なメンバーで、実りの多い議論が進みました。多くの日本の方たちにはアフリカでの日本の貢献など、新しいことも多かったと思います。そして、外務省の鶴岡審議官がTICAD、G8サミット等への日本政府の考え方等について話をしました。締めくくりはサミットの開催地である洞爺湖が地元の、民主党 鳩山幹事長からのビデオメッセージでした。

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写真3 パネルで、手前からNaidooさん、Yamadaさん、米倉さん

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写真4 パネルで、手前から道傳さん、前田さん、山本さん

それぞれがGlobal Healthを考える世界のリーダーたちです。Naidooさんは日本が大好きという13歳のお嬢さんを初めて日本に連れてこられたということでした。

レセプションも大いに盛り上がり、TICAD、G8サミットの主催国である日本への期待の大きさが感じられました。

翌日17日(日)は、G8 NGO Forumの主催で、日本でGlobal Healthの分野で活動をしているNGOの方たちとの意見交換の場が設けられ、これも実り多いものでした。

いつも言っていることですが、今年の日本は5月のTICAD、7月のG8サミットと、世界の注目を集める大事業があり、特にG8サミットは日本での開催が最後になる可能性が高いと思います。そういった面でも、今回の会議は大変にタイムリーで、実りの多いものだったと思います。

HPIという独立したシンクタンクが、世界銀行、外務省、財務省、厚生労働省、Gates財団等と協働して会議を開催することは、必ずしも官主導ではない形で政策にかかわる、開かれたプロセスです。グローバル時代の日本の方向性を垣間見せたような会議であったと感じます。

参加して頂いた方たちに心からお礼申し上げます。また企画・運営に参加した人たち皆さん、ご苦労様でした。

(写真撮影:工藤 哲)