「医学生のお勉強」 Chapter3:生殖医療(5)

個人の希望や要求に対して医師として倫理観が問われる
極めて重いテーマです
セッションのオリジナルタイトル/In Vitro Fertilization And Gene Technology

 

■人生の価値観を反映する難しい問題

黒川:
これから遺伝子診断ができるようになって、例えば「この人は大人になるとこれからもっと天才になる」とか「頭がいい」なんてもしわかって、そういう遺伝子をもらったとするじゃない。私が6月にアメリカに行ったときに、カリフォルニア大学デービス校医学部のフィッツジェラルド教授ってすばらしい女医さんが、「そういう遺伝子がわかるだなんて、科学の進歩はすばらしい」って言って、そのあとに、「親はアルコール中毒でタバコをスパスパ吸って、その子供は小さいときから乱暴で。なんていうヒストリーだけど、それは誰でしょう? これはウインストン・チャーチル。それから一つのことには非常に一生懸命になるけど、ものすごく勉強が嫌いで小学校で落ちこぼれて問題ばかり起こしていた。これは誰でしょう? アインシュタイン。やっぱりそういう遺伝情報ばかりで人は決められない」って。すばらしかった。2002年の国際内科学会でこの先生を呼んでいるんだけどね。それを考えるとそういう家庭とか遺伝子とかで人の一生を必ずしも否定しなくてもいいかもしれない。
それからもう一つ、最近はなんでも「検査屋さん」っていうのが流行っているけど、「1つにつき5万円でやってあげます」なんて、こないだのタクシーに乗ったらそんな広告があった。「高血圧になりやすい遺伝子」だなんて・・・。高血圧になりやすい遺伝子なんか、ああいうことを脅しで言われると、「調べてみようかな」って思っちゃうよね。不必要な心配を煽る。

――:
男性雑誌の広告に「あなたの子供があなたの子供か判断します」というのがありますよ(笑)。

黒川:
出てたね。どっかでそれをやったら10人に1人が違ったとか。日本じゃなかったけど。だからこないだ言ったように、「ユダヤ人がユダヤ人であるということは、母親がユダヤ人でなくちゃいけない」というのは正しいよね。父親だけがユダヤ人の場合は子供はユダヤ人とは認めてもらえない。
今日は話がまとまらないな。問題が多すぎるな。やっぱり生まれた子供の人生の価値っていうのは親の価値観で決まる。でも親の価値観でみなさんの人生を決められても困るんじゃない?

――:
今この場にはこれから医療に携わっていく人間しかいないのに、生殖医療についてだけでもこれだけ限られた人数で話し合っているにもかかわらず、たくさんの価値観がでてくる。最近特に生殖医療に対して、優生思想とか、いろんなことがでてきた。医者自身の性格が非常に感化されやすいタイプとされにくいタイプがあったり、また患者さん側も担当した医者の影響を非常に受ける人と、受けない人がいる。もし患者さんが医者の影響を受けやすい人だったとして、自分たちは子供をほしいと思っていて、お腹の中にいる子供に障害がある可能性があるとする。非常に悩んで、最終的に中絶することに決めたとして、それを医師に伝えたとき、医者からその結論に対して意見されてしまうとしたら、どうでしょう。
生の問題は医療者も1人の人間として価値観を持っている。それを患者さんとの関係でどこまで出していいのかは、ある程度、医療者として働く者としては考えておかなければならないと思うんです。それをしないと患者さんにとって非常に精神的に負担をかけてしまう。実際に日本でカウンセリングができる医師は非常に少ないと思います。というのは日本では遺伝学という教室は非常に少ないし、遺伝とかの問題を扱うのは臨床より基礎の人が多い。それにそういう制度的な問題と、実際に日本にある基盤とはあまりにギャップがあると思うから。だからよく考えたほうがいいんじゃないかな、って思います。

――:
今の話は本当にとんでもないことと思います。われわれのうちのほとんどは近い将来医者になると思うんですけど。そうした前提に立った場合、卑屈になる必要はないとは思いますが、自分の価値観がいかに浅薄で浅はかで、まだまだ練れていないかと・・・、それぐらい自分を低く評価しておかないと、きっと今言ったような傲慢というか、自分の価値観を押しつける医者、とんでもないお医者さんになってしまう。ここのみなさんはそんなことはないと思いますが、本当に気をつけておかないといけない。そしてその程度の価値観しかないのだったら、患者さんの話をただ聞いてあげるクールな医者のほうがまだましかな? って気がします。それは肝に銘じなければいけないと改めて思いましたけど。

――:
本当にその通りだと思います。医者も自分は1人の人間で価値観を持っている。でもとりあえず医者としてできることは、「もしかしたら私のこのような言い方は間違っているかもしれない」ということを、まず患者に伝えることと、その治療のメリットとデメリットをきちんと正確に教える事が必要であって、それ以上の私情をなるべくいれないように、自分を消すようにというか、自分の価値観をなるべく表に出さないように話をすることも、ある意味必要なんじゃないかな?って思います。

――:
みんな静かになっちゃった。(笑)

黒川:
だけど意外に本当に大切なのはそれなんで、そうするとカウンセリングっていうのがすごく大事だと思うんだけど。一番恐ろしいのは、お医者さんにしろ、カウンセリングをする人がどれくらいのクオリティを持っているか。お医者さんはやっぱり自分の教育を受けたバックグラウンドで相手にアドバイスをする。いろんなメリット、デメリットを説明するといっても、どのくらい正確な知識に基づいているか。
今日この生殖医療っていうのは非常に重い問題がある。技術が使えるようになったらチョイスが増えるんだけど、究極の人生の価値観、個人の価値観っていうのは誰が決めるのかっていう話になってくるよね。アメリカの僕の友達で、白人夫婦で子供が4人もいるのに黒人の養子をもらって、喜んでいる夫婦もいるね。そういうの、感心するなあ。それほどお金があるわけじゃないのに、養子をもらった後にできた子供もまた育てている。

――:
顔が全然違うのに。でもそういうの、受け入れる社会ってやっぱりすごいなって。日本だったら、いきなり違う人種の養子をとったら・・・。

黒川:
またいろいろ条件があるけど、養子って選べるじゃない。子供の密売とか、東ヨーロッパで子供のビジネスってすごいでしょ。誘拐してきたり。そのために子供を作ったりする夫婦もいるわけだから。養子といっても本当の養子かどうかわからない、目的がね。
childabuseもやっぱりリアリティとして養女と結婚しちゃう養父とかいろんな話があるわけ。そういう意味からいうと、「どういうモチベーションで養子にしたいのか」というところも気がかりになってくるね。「そのときはそのつもりじゃなかったんですけど、経済状況が悪くなっちゃって・・・」って、自分の子供じゃないからね。本当の自分の子供を学校に入れなくちゃいけないからとか。重い問題がある。そういう意味ではお医者さんという職業を選ぶのは大変かもしれないね。(一同沈黙)
今日はもうやめようか。いろんな問題がある。確かに優生学って優生保護法とかいろんなことをいって、避妊手術を強制的にしちゃうところがずいぶんあったね。ヨーロッパではごく最近までスウェーデンとか。女性は不妊手術をさせられるけど、男性の場合は・・・大変なことだなあ。今日はこれで終わって、次はどうしようか。次も何かテーマがいるね。

 

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