浅田次郎の清朝末期の小説

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浅田次郎さんのファンは多いと思います。私も彼の作品は好きです、全部読んでいるわけではありませんが。

清朝末期の中国を描いた4部作、「蒼穹の昴」、「珍妃の井戸」、「中原の虹」、そして去年の「マンチュアン・リポート」の4部作シリーズは好きです。ぞれぞれの「ものがたり」の構成と分析と視点です。読み始めると、引きこまれてしまい、終わりまでついついやめられなくなるのです。

去年、浅田次郎さんの「蒼穹の昴」が日中合作でNHKシリーズとして放映されました。清朝末期、西太后と春児(チュンル)とその周りの人々を中心とした物語です。田中裕子さんが西太后を演じてとてもいい感じを出していたと思います。そのあと「珍妃の井戸」が出版されます。言うまでもないことですが、珍妃は「蒼穹の昴」にも出てきましたね。

数年前に北京に行ったとき、ちょっと時間があって紫禁城へ行きました。案内の方に「どう案内しましょうか?」といわれたので、「時間がないので「珍妃の井戸」へお願い」、といって直行、後はほとんどなにも見る時間がなかったことがありました。それぐらい浅田さんの話は面白いのですね、引き込まれてしまいます。「珍妃の井戸」へ行っての感想ですか?それは行ってみての感想をお聞きしたいものです。

そのシリーズ第3弾が「中原の虹」。流民の子の馬賊の長となる張作霖、中原で待ち受けるラストエンペラー溥儀、袁世凱、そこへ絡む西欧諸国、関東軍などをめぐるものがたりです。これもわくわくする話です。

去年の秋に出版されたのが「マンチュリアン・リポート」。関東軍による満鉄奉天駅近くでの張作霖爆殺事件へいたる素晴らしい構成と語り口です。

プロの作家の取材と書きぶりは、ほんとうにすばらしいです。

ところで、このような20世紀へ入る直前から20世紀前半の日本と近隣諸国、朝鮮半島、中国、満州との関係を色々書いたものは数多くありますが、人物のものがたりから見たこのような著作は「non-fiction」でもあるし、とても面白いので、私は好きですね。ほかにも、いくつもあるでしょうが「阿片王」の里見甫の話(佐野真一さん)、それらにも関係するのですが「満州裏史; 甘粕正彦と岸信介が背負ったもの」(太田尚樹さん)、また当時の「日朝関係」のものがたりも、人のいとなみ、歴史の出来かたなど、色々教えられるものが多いです。

このような「歴史小説」は、妙な愛国心などとは関係なく、その時代時代の人間の営みから見た、世界と国家の動き、それぞれの立場の人たちの生活などを多角的に双方の立場から考えるのに、とても役に立つことだと思います、特にグローバルに世界が広がっていく世界での対応を考える上では。

この4部作でも「語り部」を通した浅田さんの考えの一部が伺えます。例えば;
「(日本の)政府も軍も目先の利益にこだわって、大局を読むことができない、、」
「日本人はその国土の規模に応じた小さな考えしかできない、、」
「「満州は日本の生命線」(東方会議で)と口を滑らせた、「わが国の国益のために他国を侵略する」といったも同然で、、」
とかとか。

「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」はよく知れられた言葉です。「長い歴史を学ばない人間たちは、単なるバカの集まりだ」と誰かが言いましたが、けだし名言です。