医療政策、臨床治験、科学と社会について

内閣改造が行われました。意外な人事もありますがさてどうなりますかね。

小泉首相の北朝鮮訪問では外務省がまた醜態を見せました。国民や国家よりは自分達の理屈、都合で考え、行動しているとしか思えません。国内では何とかごまかせると思っているのかもしれませんが、世界中が見ているという現実をどう考えているのでしょうか。このようなことが積み重なって、世界が日本という国を見る眼が形成され、日本国の信用になるのですからたまったものではありません。この後をしっかりフォローしてもらいたいものです。台風21号も近づいています。

9月19日、The Economist主催のHealthcare Reform in Japanで厚生労働省の中村秀一局長等とともに基調講演をしました。日本の「医療政策改革」は、日本の構造改革そのもの、「Japan Inc.」の問題であり、いつも言っているように公共投資の政策転換とともに、日本という国の「ありよう」の基本問題そのものであることを強調しました。主催者としては、日本ではあまり本音の話が聞けることが少ないので、大変良かったといって喜んでくれました。これを受けて何か「外」からの「変化」も期待したいところです。私なりにフォローしてみますが。

これもすでにお知らせしましたが、私が議長を務めることになった日本医師会の医療政策会議では、第2回の会議が8月28日に開催され、「混合診療、自由診療、公私ミックス、特定医療費」等について集中的に議論しました。医師会常任理事やこの会議委員との活発な意見交換によって、この課題に関する理解、問題点の共有化と論点が明確になったと思います。この会議の議論の成果を、これからの医療制度の提案としてどのように国民の信を問い、国民のサポートを得られるように提示していくかの戦略が重要と認識しています。ご意見、ご支援をいただければと思います。議論の内容等についてはできるだけ早くこのサイトでも報告したいと考えています。次回は、公的医療機関についてデータをもとに議論してみる予定です。

9月21日には、日本医師会主催の医療政策についてのシンポジウムが日本医師会会館で開催されました。私と、宇沢弘文先生(本来数学者ですが経済学者、文化勲章受賞、東京大学名誉教授等の世界的に本当に著名な経済学者です)、経済研究者の紺屋典子両氏と私が基調講演をしました。医療政策について宇沢先生は私とほとんど同じスタンスで、私の意見を全面的にサポートしてくださいました。うれしかったです。

日本の新薬開発の臨床治験がなかなか進まないことについて、多くの議論があるのはよくご存知かと思います。これに関するいくつもの委員会(当然ですが厚生労働省関係が多い)、会議があり、私もいくつかに参加しています。厚生労働省の「大規模臨床治験」の委員会(まだ2回しか開催していませんが)は私が委員長です。関心のある方は時々厚生労働省のサイトでも見てください。臨床治験については、9月18日はアジアでの臨床治験の課題についてAPEC主催の会議があり、私も「RENAAL」について講演しました。「RENAAL」は日本も参加した初めての国際的大規模治験で、糖尿病腎症の進行にアンジテンシンⅡ阻害薬Losartanが有効であることを示したものです。結果はNew England Journal of Medicineの2001年9月20日号に発表されており、私はSteering Committeeのメンバーとして、また日本から参加された先生も全員の名前が出ています。翌19日は、上に述べたThe Economistの会議に出席した後、厚生労働省主催の臨床治験の会議にでて、また「RENAAL」について講演しました。これに関連しては、9月から、科学新聞に不定期ですが「黒川対談」を連載することになりました。第1、2回は、今回の薬事法改正のポイントを中心に厚生労働省医薬局の宮島局長と対談しています。臨床治験のことも触れられています。

9月22~30日はRio de Janeiroに行ってきました。国際学術会議(International Council for Science-ICSU)に日本代表として出席したのです。日本学術会議の吉川弘之会長がこの国際会議の会長もされているので、日本学術会議副会長の私が日本代表ということになったのです。日本の先生たちも何人かが分野別国際会議(Science Unions)の代表として参加されており、日本のプレゼンスも結構ありました。すばらしいことです。科学や学術がこれからの世界的な問題、課題の解決の糸口へ向けての政策等に欠かせないという認識が世界レベルで高まっており、このICSUはつい先日Johannesburgで開催されたWorld Summit for Sustainable Development (WSSD)でも科学者の代表として大きな存在を示していました。このWSSDは1992年のRioで行なわれた環境問題のWorld Summitを受けて、「Rio-10」として10年ごとに開催される環境問題に関する2回目の世界会議なのです。日本からは小泉首相はじめ多くの参加があり、これからの環境問題、食料問題等の多くの国際問題が討議されました。

これらの問題を見ればすぐに理解されるように、これからの世界の問題、人工、環境、南北等の地球規模の大きな問題の対策には、当然のことですが科学の役割はきわめて大きいのです。このような理解と認識は世界中にかなりに広まっています。ICSUのほかにも、世界80数ヵ国の科学アカデミーの連合体InterAcademy Panel(IAP)や、さらに小回りのきく15ヵ国の科学アカデミーで構成されるInterAcademy Council(IAC)のような学術の活動主体がこの数年に結成され、活動をはじめています。今週にはUgandaで国連事務総長の要請に対応して「Food Security of Africa Study Panel」の第1回目の会議が行われています。このような国際的な学術と科学者の対応に呼応して、日本の「科学者コミュニティー」(実はこういう観念が日本にはないようなのですが、この点については「学術の動向」に掲載された私の論文等に述べていますし、もうすぐ同じ「学術の動向」に「学術会議は考える」という論文も掲載されます)の代表機関としての日本学術会議でも「日本の計画 Japan Perspective」という報告書を今月10月に発表します。ちなみに、私が委員長を務めました。結構忙しいのです。