「イノベーション25」初会議と“Digital New Deal(DND)”

本日(26日)夕方に「イノベーション25」の初会議が官邸でありました。安倍総理出席の下、高市大臣が主催し、議長は私が務めました。この会議の出席者は、江口克彦(PHP研究所所長)、岡村正(経団連副会長)、金沢一郎(日本学術会議会長)、坂村健(東京大大学院教授)、寺田千代乃(関西経財連合副会長)、薬師寺泰蔵(総合科学技術会議議員)というそうそうたるメンバーです。

いまや世界中が「イノベーション」ですね。日本学術会議として昨年9月にこのテーマで国際会議「Global Innovation Ecosystem」を開催しましたが、今回の「イノベーション25」政策立案を考える上で大変参考になるものです。

でも、日本ではとかくこの言葉が「技術革新」とほぼ同意義に使われることが多いような感じもします。本当の意味するところは、総理も国会の答弁でも話されていますが、これは常に大きな変革をもたらす「社会のシステムの問題であり、結局はそのような気概を持ったヒトと、そのようなヒトを排出し、また支援する、ヒト、カネ、モノなどを誘発しやすい社会」を創造することです。日経新聞等でも識者の意見を掲載し、これは「技術革新」を意味するだけではないということをしきりに書いています。

この辺の話は<http://blogs.yahoo.co.jp/thetreasureship/4461156.html>でもコメントされています。

インターネットにしても、この10~15年で急速に社会へ広がりましたよね。wwwが1992年、Netscapeが1994年、Yahoo!やLycos等のサーチエンジン、Windows95が1995年、Linax, Google等々、これらにはほとんど日本人の姿が見られません。モノつくりとは違う発想ですね。8/14のブログで紹介した「ウェッブ進化論」を参考にしてください。

これらは技術だけでなく、Product Innovation、Process Innovation、Service Innovation、Finance Innovation等々であり、日本でいえばクロネコヤマトの小倉さんなどが、モノつくりではないイノベーションといえるでしょう。このように、必要なのは既得権勢力を無理やりこじ開けながら、より高い志で国内外の人たちの意識、無意識の思いを満たし、ほしくなるようなモノ・サービスを提供し、経済成長するというプロセスなのだと思います。

Innovation、innovateとは「in(内)」、「novate(新しく)」なのです。1938年、Shumpeterが経済成長の基本として指摘したもので、“「創造的破壊」なくして経済成長なし”ということなのでしょう。

ところで、このブログと出口俊一氏が主催している“Digital New Deal(DND)”というサイトをリンクして、「学術の風」という企画をはじめました。DNDのメールマガジンでは、私の主張する「大学の大相撲化」、「世界級キャリア・・」等々、多数紹介されています。是非みなさんも訪ねてください。

科学新聞で紹介されました。

内閣特別顧問就任に関する記事が掲載されました。

黒川前学術会議会長 内閣特別顧問に就任 -「イノベーション25」に参画-

 黒川清前日本学術会議会長が内閣特別顧問に就任した。安倍総理が3日、官邸で辞令を手渡した。
黒川内閣特別顧問は、科学的な視点からの知見、世界の科学情勢や科学技術に関する情報提供など、科学に関する特命事項を担当する。また、総理の所信表明演説にある「イノベーション25」の策定に参画する。黒川内閣特別顧問は「寝耳に水のことで驚いている。全力で頑張っていきたい」と話す。

 約10年前、イギリスのブレア首相は、ロバート・メイ卿を主席科学顧問 に任命した。科学的知見が必要な政策課題についてアドバイスするだけでなく、ロイヤル・アカデミーと政府とを繋ぎ、イギリスの科学技術政策を牽引してきた。黒川内閣特別顧問には、メイ卿のように、日本学術会議と政府とをつなげ、研究者コミュニティと政府との良好な関係の構築と総理への科学技術政策のア ドバイスを期待したい。

 また政府は5日、内閣府にイノベーション25を策定するための特命室を設置した。室長には丸山剛政策統括官(科学技術政策担当)を起用。近く有識者委員会を設置し、来年2月までに2025年を見通したイノベーションで実現する社会の姿を描き、5~6月までにそのためのロードマップを策定する。高市早苗大臣は「国民の7割はイノベーションとは何なのか分からない。夢のある分かりやすい社会の姿を描いていきたい」という。

出典: 科学新聞 2006年(平成18年)10月13日(金) 第3116号 1面より

科学新聞(2006年10月13日)で紹介されました。

黒川前学術会議会長 内閣特別顧問に就任 -「イノベーション25」に参画-

黒川清前日本学術会議会長が内閣特別顧問に就任した。安倍総理が3日、官邸で辞令を手渡した。

黒川内閣特別顧問は、科学的な視点からの知見、世界の科学情勢や科学技術に関する情報提供など、科学に関する特命事項を担当する。また、総理の所信表明演説にある「イノベーション25」の策定に参画する。黒川内閣特別顧問は「寝耳に水のことで驚いている。全力で頑張っていきたい」と話す。

約10年前、イギリスのブレア首相は、ロバート・メイ卿を主席科学顧問 に任命した。科学的知見が必要な政策課題についてアドバイスするだけでなく、ロイヤル・アカデミーと政府とを繋ぎ、イギリスの科学技術政策を牽引してきた。黒川内閣特別顧問には、メイ卿のように、日本学術会議と政府とをつなげ、研究者コミュニティと政府との良好な関係の構築と総理への科学技術政策のア ドバイスを期待したい。

また政府は5日、内閣府にイノベーション25を策定するための特命室を設置した。室長には丸山剛政策統括官(科学技術政策担当)を起用。近く有識者委員会を設置し、来年2月までに2025年を見通したイノベーションで実現する社会の姿を描き、5~6月までにそのためのロードマップを策定する。高市早苗大臣は「国民の7割はイノベーションとは何なのか分からない。夢のある分かりやすい社会の姿を描いていきたい」という。

科学新聞 2006年(平成18年)10月13日(金) 第3116号1面より

内閣特別顧問に

日本学術会議の会長の職を9月10日を持って終了したことはお伝えしました。京都で開催されたSTS Forum会議の最中で、その後、スイスに行ったことについてもブログに書いたとおりです。

しばらくは仕事を30%ぐらい減らして、NPO日本医療政策機構の活動に時間を使う予定でしたが、スイスから帰国後しばらくして、総理の科学担当顧問を要請されました。公式には10月3日朝に発令されました

何が起こるか、わからないものですね。前日の2日には日本学術会議の総会で、金沢一郎さんが新会長に選出され、皇室医務主幹をしておられることもあり、ニュースになりました。総会2日目の朝に、総理から辞令をいただきましたので、その旨を金沢会長から会員に伝えていただきました。私もですが、みんなびっくりしたでしょうね。科学担当の内閣特別顧問は初めてのことですから。総理からは科学や科学技術に関する国内外の情報等についてと、高市大臣が担当する「イノベーション25」を支援するように、というご下命でした。

科学担当の特別顧問のような立場は米国では定着していて、Clinton大統領の下ではNeal Lane元National Science Foundation会長、今のBush政権下ではMarburger氏がそうです。

英国でもこのようなポストは約10年前に作られ、初代が後にRoyal Society会長になったLord Robert May卿です。今は2代目で、Sir David King氏です。2人とも個人的に知っておりますが、特にMay卿とは去年の英国でのG8サミットで、G8学術会議宣言書等を成し遂げたPartnerということもあって、この5年ほどとても仲良くしており、ちょうど今回の学術会議の総会でも特別講演にお招きしていました。その日の朝に私の内閣特別顧問が発表されたので、とても喜んでくれました。

7日から海外の予定でしたが、急遽キャンセル。5日には「イノベーション25特令室」ができ、高市大臣と開室式をしました。やらなければならないことが沢山ありますが、まずは「イノベーション25」の立ち上げです。

 

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写真1 安倍総理と辞令交付の後で。

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写真2 Lord May of Oxfordと、日本学術会議のレセプションで。

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写真3 高市大臣と「イノベーション25特令室」開室式。

ラマン、ロダン、カリエール

ラマン、ロダン、カリエールの3人を中心に添えて、“芸術と科学は同じような背景からの人間の活動だ”という趣旨のエッセイを「日経サイエンス」11月号に書きました。「光と感動、そして芸術と科学」というタイトルです。皆さんはロダンは知っているでしょう。たぶんラマンのことも。では、カリエールのことは知っていますか?

かわいい写真がはいっているので、この月刊誌「日経サイエンス」を買って、読んでくれればうれしいのですが、 ScientPortalというサイトでも読むことができます。

感動しない研究は楽しくないですよね。

とても悲しい若い研究者の死

8月のはじめに、阪大の42歳の助手が研究室で遺体として発見されました。そばにあった毒物と遺書から、自殺の可能性が高いとされていますが、この方が共著者となっていた論文が取り下げられたことに大きく関係しているようです。

いろんな方のBlogでも盛んに議論され、不正行為とのコンテクストでも話題になっています。(科学者の不正行為については、9/49/5のブログでも触れています。)

Natureも9月21日号(P.253)で「Mystery surrounds lab death」という見出しの記事を掲載しています。最後に私のコメントも引用されていて、「Kiyoshi Kurokawa, president of the Science Council of Japan, agrees. "Japanese universities and institutions may not always take the right approaches to resolving problems," he says. "But, do they realize that the science community around the world is watching?"」と締めくくられています。

この若い研究者は、とても優秀で、すばらしい研究者であったようです。

私もこんなところで言いたくもないことですが、あまりにも悲しい若者の死です。

大学のグローバル度、The World’s Most Global Universitiesでは?

Newsweek International edition (August 21/26, 2006)で「Global Universities」の特集が組まれ、日本語版が9月27日号として発売されました。International Editionの取材を受けたのですが、私のコメントは掲載されないことになりました。理由はわかりますか?

日本では早稲田の国際部(25%が外人の学生。とはいっても、早稲田大学の全体としては別扱いですから、私にいわせればむしろ「差別」でしょうか)や、秋田国際大学もありますが、まだ小さくてこの特集の題材にもなりません。去年のNewsweek日本語版(10月19日号)でも「大学の国際村化」という特集がありましたが、ここでも日本の大学では、大分の「Asia Pacific University」が取り上げられているだけです。(HP内検索で「アジア太平洋大学」、「Cassim」等のキーワードで検索してみてください。)

つまり、日本には「Global Universities」というテーマで取り上げるような大学がないということなのです。私が取材で話したコメントは、日本の大学には「Global Universities」なんて存在しないという認識に立っていたため、特集の趣旨に合わないとのことで入れられなかったということです。国際版の編集部では(日本支局ではありません)、もっとこの特集のようなトレンドや動きは日本でも当然あると思っていたらしいのですが、実は“鎖国”だということを理解したのでしょう。

この特集は33ページからなりますが、日本についてはその中で2、3箇所。全部で6~8行程度だと思います。

毎日新聞の元村さんの記事で取り上げられたこともそうですが、私の主張は外務省の「30人委員会報告」(委員として参加していました)等にも反映され、政府からも発信され始めています。「大学の大相撲化」、「Science as a Foreign Policy」などのキーワードで主張しているものですが、少しずつですが、広く理解され始めたように思います。後は当事者たちに実行させるための、国内外の圧力が必要ですかね。

ところで、このNewsweekの特集では、ランキングに日本の大学がいくつか入っています。東大16位、京大29位、阪大57位、東北大68位、名古屋大94位です。このランキングに使った指標をよく見ればわかりますが、論文引用回数の多い研究者数、Nature、Scienceの掲載論文数、とかそんな指標によるランキングです。なので、当然この程度には出てくるでしょう。しかし、これらの大学についても本文中には何のコメントもされていないところに注目すべきです。世界で見ている大学の「グローバル度」とは、何かということの認識が違う、ということでしょうね。

どう思いますか?

「枠を飛び出す」

毎日新聞社の元村有希子(科学環境部)さんは、毎日新聞の人気シリーズ「理系白書」を執筆している記者で、ご自身のblogでもたくさんの情報発信をしています。その中で、私のことを何回か引用してくれていて、また最近「大学の大相撲化」という私の主張を伝えてくれました。

●「黄金の3割」をご存知であろうか。多民族国家の米国でよく見る経験則だ。集団の活性化には多様性が重要だが、少数派が3割まで増えれば安定した勢力となり、多様化が進んでいくという。
●ためしに大相撲で活躍目覚しい外国人力士を数えてみたら、幕内力士40人(休場除く)のうち12人と、3割を占めていた。
●日本学術会議の黒川清・前会長は「大学も大相撲を見習え」と呼びかけている。日本の大学は均質すぎる。日本人、男性、しかも履歴が「A大大学院修了、A大助手、A大助教授、A大教授」の四つしかない「4行教授」が威張っている。これでは知の鎖国だ、という。
●加えて大学には「文系・理系」という枠がある。環境、知的財産、ロボットなど、先端分野は文理の協力なしには成り立たないのに、なぜか両者は仲良くできない。
●学部構成や受験も文理の枠が根強いから、高校では文理分けが常態化している。歴史を知らない科学者、技術が分からない経営者を育てても、世界では戦えまい。
●救いは、若者の目が外に向き始めていることだ。発展途上国で働く医師になりたいとカナダの高校に進んだ女子高校生は「久しぶりに帰国したら、似たような顔の人だらけで驚いた」と話していた。この夏、科学の五輪(世界大会)に出場した選手の中には、志望大学を外国に変える生徒が出始めている。
●枠の中にいる限り、その本当の窮屈さは実感できない。日本人のパスポート所持率は約25%(05年、外務省)。若年・壮年に限れば3割を超えるだろう。あとは、飛び出す勇気か。
(毎日新聞 2006年9月20日(水) 朝刊2面「発信箱」)

この趣旨については、2006/4/154/166/28のブログや、「学術月報」(“Science As A Foreign Policy 国の根幹は人つくり”)「IDE 現代の高等教育」(“新科学技術基本計画と大学”) 等の記事でも述べているところです。

また、「4行教授」は石倉洋子さんとの本「世界級キャリアーの作り方」にも出てきます。読んでください。

読書漫遊「インドの深みを知り 日本を見つめ直す」

読書漫遊 「インドの深みを知り 日本を見つめ直す」

 「中村屋のボース インド独立運動と近代日本のアジア主義」 (中村岳志著、白水社)
 「喪失の国、日本」 (M.K.シャルマ M.K. Sarma著、山田和訳、文春文庫)
 「人間の安全保障」 (アマルティア・セン Amartya Sen著、東郷えりか訳、集英社新書)

出典: WEDGE (2006年9月号)