2009年度科学ジャーナリスト賞

5月14日、科学ジャーナリスト賞の授賞式が東京で行われました。私も審査員の一人として、受賞者の磯部泰弘さん、吉尾杏子さんを紹介する機会がありました。

皆さんそれぞれ力作で、特に楽しかったのが受賞者の言葉でした。ちょっと短かったでけど。作品からは想像もつかないような、受賞者たちのその作品へのいきさつ、思い、そして作者の人柄がうかがえて、楽しい時間でした。

多くの候補作品から選ぶのはとても難しく、またつらいものがあります。大賞の「ダーウィン『種の起源』を読む」は北村雄一さんの作品で、まだ40歳ちょっと。イラストレイターでサイエンスライターだとか。

進化について考え始めたとき、じゃあ「種の起源」でもと読んでみたが、読んでみると理解しにくい。そこで今度は、ダーウィンの書いた英語で読んでみた。しかし、それも難解だ。そこから疑問が次々と出てきて、解説シリーズが始まり、シリーズ3回が終わったところで本にしないかと依頼があったそうです。死ぬような思いで、猛進したそうです。

特に今年がダーウィンの生誕200周年ということで書いたわけではないようです。でも、この仕事量の多さに比べて、収入はせいぜい年に200万円になるかどうか。そんな切実な話でした。本気で真剣に取り組んだのでしょう。こういう方は大変貴重ですね。

皆さんも是非読んでみてください。

この本の英語版を出そう!Jared Diamondを目指そう!これが私の提案です。出版社の方、お願いしますよ。

Chateau Margaux

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Chateau Margouxは言うまでもなくBordeauxを代表する名門、「フランスワインの女王」といわれます。蔵出しのVintage物を飲もう!という会にお招きを受けて、素敵な料理と素晴らしい方たちといい時間をすごすことができました。

Chateauの支配人Paul Pontallierさんも成田から直行。

Champagne Cattier Clos du Moulinの後、次の順でサーブされました。

Pavillion Blanc du Chateau Margoux 2006
Pavillion Rouge du Chateau Margoux 2004
Pavillion Rouge du Chateuu Margoux 2000
Chateau Margoux 1995
Chateau Margoux 1989
Chateau Margoux 1982

最後の3本もそれぞれ独特な味わいです。95年は力強くて複雑。10~20年後が飲み頃でしょう、89年はまさに今です。とても女性的でまろやか。82年はパワーと厚みがあります。

先日もChateau Mouton Rothschildの1953年をテイストいたしましたし、今年の1月には1858年もの(150年前)のChateau Lafiteを味わう、世の中でも極めてまれな機会がありました。ありがたいことです。

良い友達に乾杯。

好機を捉える、大変革のとき。しかし、リーダーはどこに?

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日本の状況はすこぶるよろしくありません。もちろん世界中がよろしくない状況です。変革を起こし、政治、産業、経済、教育等々、将来の展望を皆が模索しているところです。

私の国家ビジョンについては、今年の始めから繰り返し発信していますが、4月25日発売の週刊ダイヤモンドにも「クリーンエネルギー技術を、中国・インドに売り込め!」というインタビュー記事が掲載されました。相変わらず、変われない理由、できない理由を言う人たちばかり。政治家も、産業界でも、リーダーたるものしっかりして欲しいものです。

民主党の党首が鳩山さんになりました。政治はどう動くでしょうか?

日本では公的資金の“投売り的”な補正予算の話ばかりで、もっぱらこれが政局がらみになっています。既得権グループへの“ばら撒き”の様相、または省庁の“つかみ取り”の様相です。将来への展望、ビジョンが示されず、せっかくの大転換のチャンスを捉えていないのです。誰かさんたちの無責任な大笑いが聞こえてきます。

科学技術政策も同じです。降って沸いたような3,000億円の大型補正予算ですが、これを何にどう使うのか?皆さんも良く見ておいてください。オバマ大統領の科学政策とはずいぶん違います。

若者に投資しない国に将来はありません。グローバル時代へ向かう若者たちには、広い世界を見せ、体験させることが大事なのです。若者たちこそが将来の財産なのですから。

Torontoから-2

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「豚インフルエンザ」のニュースが飛び交う中、5月2日の午後に再びToronto大学のMassey Collegeに向かいました。ちょうど昨日のMunk Centerの向かいにあります。Gairdner賞の責任者で、旧友のJohn Dirksさんを5年ぶりに尋ねました。Washington DCから、AAAS の会議に参加していた有本氏も合流。Collegeの古めかしく格調高い雰囲気の小ぶりな図書室で1時間ほど過ごしました。

すでにご報告したように、今年はこのGairdner賞の50周年にあたり、山中さんと森さんの2人の日本人が受賞 しましたので、表敬訪問です。今年の10月に行われる授賞式や記念行事などについても話を聞きしました(参考 12 )。

ついでProf. Jun Nogamiとの面談。Nano-Materialsの第1人者で、2月にCanadaのNanotech研究推進視察団として来日さられた折に、東京のCanadian Embassyでもお会いしました。

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写真1: Massey CollegeでDirksさん、有本さんと

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写真2: Nogamiさん、角南さんと

その後、Peter Singerさん(参考 1 )とお会いし、来年Canadaがホスト国となるG8サミットのアジェンダ等について、共通の話題で議論を行いました。

夜はIto Peng教授と彼女の友人、有本さん、そして角南さんと、レストラン“Sotto Sotto”で楽しいデイナー。最後はもちろん“Ice Wine”で。日本が一番のお客様だとか。

Torontoから-1

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写真1: トロント大学Naylor学長と

5月1日、Washington DCからTorontoにやってきました。5年ぶりになります。今回はUniversity of TorontoMunk Center for International Studiesへの訪問が主目的です。

まずは、Le Royal Meridien King Edward Hotel にチェックインし、一息ついて出かけます。

最初の訪問では、DirectorのJanice Steinさん、Vice-President for University Relations のJudith Wolfsonさん、L.J. Edmondsさん、そしてGRIPSの角南さんと、今年の「Japan-Canada修好80周年」計画の打ち合わせ。特に広い意味でのイノベーションに焦点を絞ろうと双方で提案をしました。しかし、向こうの3人は、女性で皆それぞれがPhD、弁護士、政府関係など、多彩なキャリアを持っており、たいしたものです。

ところで、75周年のときは日本学術会議と「Gender Issue」をテーマで会議を開催し、そこから「日本-カナダ女性研究者交流プログラム」 が始まっています。

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写真2: Munk CenterでSteinさん、角南さんと

ちょうど講堂ではMunk Center Asia Institute主催の「Asian Foodprints」が開催されており、ちょっとのぞきました。今回が第1回目ということで、食から知る文化、今年は「China、Hong Kong」がテーマで、とても面白そうでした。

その後、学長との面談。5年前に訪問した時は、現在のUC Berkeleyの学長に就任する直前だったBirgenenauさんと学長室で昼食をとりました。就任間もないDr. David Naylorさん(写真1)ですが、私と同じ医師であり、医学部長だった方です。まだ若いですがなかなかのキャリアがあり、共通の話題も多く話が弾みました。

その晩は、Munk Center Asia Institute主催の「食から知る文化」のdinner。お客様も大勢で、所長のJohn WongIto Peng教授をはじめ、Stein, Wolfson, Edmondsさんも参加、全体がすばらしい企画でした。来年は日本をテーマにするということです。会場では在トロントの山下総領事在トロント国際交流基金 鈴木所長ご夫妻にもお会いしました。

7月には天皇皇后両陛下がカナダをご訪問されます。これも皆さんの話題になっていました。うれしいことです。

2009年6月

国際交流事業 イノベーション・クーリエモデル
移動型海水飲料水化システム セミナー 
日程: 2009年6月3日(水) 13:30-16:30
     (うち黒川講演は13:45~14:30を予定)
場所: ホテルモントレ横浜 3階 大宴会場ホールビクトリア
演題: 「水イノベーション事業の進路」
<連絡先>
社団法人民間活力開発機構
E-mail:sympo0603@minkatsu.or.jp (お申し込み・お問い合わせ)
TEL:03-3543-8777 (PC・携帯にアクセスできない方のみ)

ワシントン、その3: 世界銀行から

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2008年1月に世界銀行で講演(参考 12 )をし、また直後の2月には東京でGlobal Health Summitが開催されましたが、これらから双方向で大きな信頼関係を築くことができました。今回のWashington DC訪問にあわせて、30日の朝から4時間にわたって、科学技術政策と特にアフリカの開発について議論する機会がありました

日本では、昨年のTICAD4 (参考 12 )やG8 Summit 関連会議などを通して、アフリカ支援の強化と、さらに「科学技術外交」(この数年主張し続けていることです。参考 12 )を展開しようという政策が、日米その他各国のアカデミーでも策定されるようになり、それぞれが協力体制を作りつつあります。

大きく動く世界の中で、グローバルな課題に対して世界銀行の科学技術政策はどのような役割が果たせるのだろうか?これは大きな課題です。ちょうど、日本の科学技術の視察団がアフリカを訪問し、その報告会が東京で開催されたばかりでしたので、こちらとしても日本の政策の宣伝にもなるいい機会でした。国際投資銀行(JBIC)国際協力機構(JICA)など、日本からの参加もあり、活発な議論が行われました。なかなか好評でした。

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写真1: 世界銀行で、大使館の上田書記官と

以下、世界銀行での朝食会とパネル「Science, Technology and Innovation Capacity Building Partnership Meeting」の様子です。

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写真2: 朝食会

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写真3: Dr. Nina Fedoroff (参考 1)と Dr. Peter McPherson

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写真4: 世界銀行のDr. Alfred Watkins (参考 1)とUNAIDのDr. Andrew Reynolds

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写真5: 左から、Drs Victor Hwang (T2 Venture Capital)Christian DelvoiePhillip Griffiths

世界の日本に対する期待も大きいですし、日本が世界に貢献できることも大きいはずなのですが、何か内向きの国内事情が寂しいです。この「100年に一度」といわれる危機的な世界の状況に対して、なかなか変われない日本を大改革するという覚悟を示すような、明確な国家ビジョンを政治のリーダー達が示すことが大事です。

それでなければ、いくら国際交渉やトップ外交をしたところで、冷徹な世界では本気で相手にはされないのです(船橋主幹による、註)。世界第2の経済大国といっても、どの程度、日本の国家の意思とその政策が世界に発信され、世界からどの程度信じられているでしょうか。世界は“Japan Missing”と感じているのです。

註: 日本語は「脱力状態の日本外交」(朝日新聞 4月27日 朝刊3ページ)

ワシントン、その2: Atlantic Council

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ワシントンにはいろいろなシンクタンクがあります。日本でもよく知られているのはCSISBrookingsなどでしょう。日本からも勉強に来ている人がいますが、世界第2位の経済大国として考えると、それほど多いとは思えません。勉強ばかりでなく、ワシントンでの人脈作りや、政治の動き、政策などを理解するのにとても大事なことなのです。もっと、本気で取り組む必要があります。

その中の一つにAtlantic Councilがあります。政治にも極めて近いところに位置しているシンクタンクです。Wall Street Journalで活躍していたFred Kempe氏がトップに就任し、とても活発になっています。そして、ホワイトハウスでも最も重要なポジションの国家安全保障顧問(National Security Advisor)ですが、そこにはAtlantic Councilの理事長であったGeneral James Jonesが就任しています。

Atlantic Councilはホームページを見れば分かるように大西洋の両側の関係を重視して設立されたのですが、このグローバル時代の中、積極的に米中関係や、新エネルギー等に関する報告書、またアジアにも力を入れています。こうした中でも日本のプレゼンスは極めて弱いのです。

今回はKempe氏に招待されて2009 Leadership Award Dinnerに参加しました。約900人もの人が出席しました。今年はベルリンの壁崩壊20年目ということで当時の米国と西ドイツのトップだったBush大統領(お父さんのほうです)とKohl首相が表彰され、さらにPalmisano IBM会長、Petraeus将軍、Thomas Hampson(歌手)等が表彰されました。

Colin Powell前国務長官Gates国防長官等々の多くの政治家や世界46カ国の大使等々、本当にすごい顔ぶれです。私は藤崎大使のお隣に席を設けてくれていました。

受賞のスピーチは皆さん手馴れたものです。Petraeus将軍の「ジョーク」は面白かったです。これらはサイトで見ることができます。

中国の友人にも会いましたが、しっかりテーブルを一つに中国人脈を招いていました。

オバマ大統領のスピーチと科学技術政策

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Washington DCにやって来ました。東京を出発する前夜の27日、オバマ大統領がNational Academyの総会で、科学技術に関する政策についてスピーチがあり、インターネットのライブで聞きました。National Academyでスピーチを行った大統領は4人目で、しかも20年ぶりだということです。National AcademyのWebサイトでこのスピーチを見ることができます。力強い、将来を見据えた素晴らしい構成と内容です。

科学技術研究開発(R/D)への投資をGDPの3%を目指すという目標を掲げ、さらに将来へ向けて一番大事なこととして、特に数学と科学教育の予算増を挙げ、その内容について踏み込んで明確にコミットメントを示しました。これらの政策は従来からNational Academy等の独立したシンクタンクから提言されている政策、つまり客観性を保証した、しかも根拠を明確にした上で予算化しているということです。このプロセスは大事です。

現在の経済危機ではこうした「将来への明確なメッセージ」、つまり将来への明確な展望とコミットメントが大事なのです。

日本の大型補正予算でも、新しい予算でもいいですが、この経済危機的状況では、まず(1)さしあたりの出血への手当としての支出、(2)この2~3年の雇用と社会保障、そして医療等の社会インフラへの手当て、そして(3)将来の社会像を見せる新しい産業と成長への投資、つまり新しい産業の「芽」としての基礎研究と、人材の育成に多く予算をつぎ込むなどが必要です(今の教育制度へいくらつぎ込んでもグローバル時代の人材育成へとはあまり効果はないでしょう。OECDの中でも日本の教員予算はあまりにも少ないです)。
各省庁から出てくる政策ばかりでは変わらないでしょう。官邸で行われる有識者の総理への提言をみてください。どの程度上の(1)~(3)の視点に立った提案がされているのか、皆さんで調べてください。私の提案もこの中の「低炭素、環境」で見ることができます。

政治家のリーダーシップと社会へのメッセージは多くの人々に力を与えるパワーがあるのですけどね・・・。

「出る杭」を伸ばす他流試合

4月17日のブログでGairdner賞について書きましたが、その中で、京都大学の2人の教授、森和俊さんと山中伸弥さんが主として日本での研究成果で受賞したと紹介しました。これまでの日本人受賞者の経歴から見ても、珍しいことだったことが見て取れると思います。

森先生は、若いときに退路を絶って米国で研究するようになりました。日本プロ野球の、ある意味「ムラの掟」を破ってメジャーに行った野茂投手(私と石倉洋子先生が書いた「世界級キャリアの作り方」でもこの事の本質を書いています)を見ても、米国で置かれた立場の、切なく追い込まれている感じが出ていませんか。

若い時にこのような境遇の中で実体験を積んだ経験があるということも「出る杭」の特徴の一つでしょう。これは「出る杭」がブレイクするのに大事な条件だと思います。特にこのフラットでグローバルな時代ではね。研究に関してだけじゃなく、世界中のどんな分野においても、成功している人たちに共通して見られるパターンです。組織でなく、個人で修羅場をくぐる経験、そして多くの異質な人たちとの出会い。これらは何物にも代えがたい「人生の心棒」をくれるでしょう。世界観も変わるでしょう。

最近、この山中先生と生体肝臓移植を確立した田中紘一先生と鼎談を行う機会がありました。山中先生も日本の研究者としてはとても“変”な「出る杭」の経歴の持ち主です。紆余曲折の経歴、しっかりしたお考えで「iPS」という多様な細胞に分化可能な細胞を皮膚細胞から作成したのです。この田中先生、山中先生、そして私の鼎談の記事は、下記からPDFをダウンロードしてみることができます。

 「iPS細胞作製で、日本の研究環境は変わったか」 (DOCTOR’S MAGAZINE 2009年5月号)

科学雑誌「Science」でも2008年のBreakthrough of the Yearで山中さんを取り上げています。このInterview記事はWebで見ることができます。英語での受け答えなど、なかなか落ち着いていますよね。たいしたものです。

若い人を伸ばす、若者を世界に触れさせる、これが日本の人材育成に一番欠けている部分なのです。