「なぜ、「異論」の出ない組織は間違うのか」、私の解説 その3

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宇田左近さんの著書「なぜ、「異論」の出ない組織は間違うのか」に書かせていただいた「解説」その3です。

【解説】異論を唱える義務―――私たち一人ひとりが「今」やらねばならないこと
元国会事故調査委員会委員長 黒川 清

3.国会事故調チームづくり

何しろ国会事故調という委員会そのものが日本では初めてのことなので、正直にいって、組織の構築と運営などについて、大きな不安はあった。また、私を含めた10人の委員は国会で任命されているが、各委員の調査に協力する方たち、また多くのスタッフも、基本的には私の責任で集めなければならない。他に本業がある方も多く、日本で6ヶ月だけ国会の仕事をフルタイムで手伝える人などなかなかいない。
そして、特に調査をまとめる責任者(調査統括)を見つけることは大きな「カギ」だった。

委員はそれぞれ意見を持っていても、そのままでは報告書にならない。委員の調査を踏まえつつ、調査の全体を指揮し、まとめる調査統括、極めて有能な「プロジェクトマネージャー」が必要だと考えていたからだ。それには「プロジェクトマネージャー」としての経験、能力は言うまでもないが、この国会事故調の意味を直感的に理解し、共感する価値観も必要だ。

これを誰にお願いするか、誰なら受けてくれるか。数人の人物が頭に浮かんだが、「これを任せられるのは宇田左近さんしかいないな」と思った。彼は、郵政改革など多くの政府組織改革で活躍していたし、一緒に仕事をしたことはないが、個人的には知っていた。
そして、携帯電話で15分ほど話しているうちに、受けてくれることになった。「これで国会事故調はいけるかも」と、とてもうれしかったのを覚えている。その後、数回打ち合わせを繰り返し、12月8日、辞令の日を迎えることになる。

予想通り、宇田調査統括は私の持っている基本姿勢について、説明しなくても共有していた。これはチーム運営に決定的に大事なことである。何しろ、この「憲政史上初」のプロジェクトは、もちろん前例はなく、時限の議員立法に書いてあることを、しかも「ほぼ6ヵ月」という限られた時間でまとめながら進め、報告書として提出するのだ。極めて高いプロジェクトマネジメント能力と、それをサポートするチームに参加する、能力あるスタッフの勧誘にも、多彩な人脈を持っていなくてはならない。

そして予測していたとおり、いくつもの困難が次から次へと発生したが、調査委員会の姿勢について、私と宇田さんの考えの基本がブレることはなかった。この国会事故調が皆さんにも、そして特に海外でも高く評価される成果を出せた大きな理由だ。
このようなチームの基本姿勢の「背骨」があればこそ、報告書には、その基本的な考えとして、「ファクト(事実)のみを記載する」「個人的な判断は可及的に避ける」「委員全体の署名を得る」などのいくつものステップをクリアしていくことができた。さらにこの報告書の基本姿勢によって、研究論文と同じように委員会とは独立した「査読(さどく)、ピアレヴュー」もしていただいたし、報告のプロセスも報告書も、多くの制限の中で、日本ばかりでなく、世界の専門家たちに「ピアレヴュー」をしてほしいという私たちの考えを反映したものとなった。

→「なぜ、「異論」の出ない組織は間違うのか」、私の解説 その1
→「なぜ、「異論」の出ない組織は間違うのか」、私の解説 その2
→「なぜ、「異論」の出ない組織は間違うのか」、私の解説 その3
→「なぜ、「異論」の出ない組織は間違うのか」、私の解説 その4
→「なぜ、「異論」の出ない組織は間違うのか」、私の解説 その5
→「なぜ、「異論」の出ない組織は間違うのか」、私の解説 その6(1)
→「なぜ、「異論」の出ない組織は間違うのか」、私の解説 その6(2)
→「なぜ、「異論」の出ない組織は間違うのか」、私の解説 その7
→「なぜ、「異論」の出ない組織は間違うのか」、私の解説 その8