「医療改革をどう実現すべきか」: すばらしい一冊

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医療改革は世界どこの国でも大きな課題です。現在、日本も米国でも、もっとも大きな政治的課題のひとつになっています。

国によってその社会的、政治的、経済的、文化的など複雑な要素があり、その一方で医学や医療技術がすすむものです。すべての国に適応する制度などありません。特に先進国では制度改革になりますが、最も大きな政治的課題です。側に社会に情報が広がる世界で、社会の期待と現場の状況との乖離は広がります。

医療制度のついては多くの本が出ています。それぞれの国の改革を述べたものもいくつもあります。普遍的なモデルはないのですから、できるだけ多くを学びながら、それぞれの「識者」も、もっと自分の立場を離れた俯瞰的視点からの発言が求められます。このサイトでも述べていますが、私の見るところ、わが国の多くの「識者」は、えてして自分の経験と立場からの発言で、自分を突き放して、大きな時間軸と社会背景などを考慮した客観の高い、俯瞰的視野から発言 (資料) が少ないように感じます。大部分が国内の単線キャリアを積んでいく「タテ社会」の弱みです。

数日前、「医療改革をどう実現すべきか」(日本経済新聞社)という本が出版されました。Harvard大学の公衆衛生大学院の教授たちによって書かれた「Getting Health Reform Right; A Guide to Improving Performance and Equity」 (2nd edition, 2008)を、著者たちの薫陶を受けた日本のお弟子さんたちが訳したものです。Amazonで調べてください。

同じテーマのいくつもの本と違って、著者たちはいくつもの国での経験を踏まえて、多様な社会的背景をよく理解した上で、政策ばかりでなく、医療改革の5つの「Controllers」、すなわち「財政、支払い、組織、規則、行動」を解析し、倫理的、政治的側面と改革への可能性のプロセスを書く、というすばらしい内容です。

日本ではどのような課題と側面があるだろうか、ではどのように改革を進めることが可能なのか、政策の根拠は等々、実によく考えられた、大きく俯瞰的、実践的な思考力を刺激される本です。

Harvard大学の4人の著者、また邦訳を企画、実践してくれた方たちに敬意を表したいと感じた一冊です。ありがたいことに、私も「推薦の言葉」を書かせていただきました。

医療政策に関心のある方たちに、ぜひ読んでほしい本です、ちょっと高い(4,500円)ですけどその価値はあります。