インドでのイノベーションセッション

28日、いよいよ私の出番です。朝9時からのPlenary:“Promoting Innovation in India: What Works Where?” で、パラレルセッションはなく、これだけだったので会場はいっぱいでした。偶然ですが、先日、東京でお会いした心臓外科医のDr Naresh Trehanさん(アメリカ帰りで大きな先端的病院を運営しています)とも一緒でしたし、2人はインドの製薬企業の方、あとの2人は司会のParrettさん(GloBal CEO, Deloitte, USA)と、主役の科学技術担当 Hari Sibel大臣です。大臣が10分ほど、その後インドの方々それぞれが数分ずつしゃべった後、最後にワタシ。日本の強さ、弱さ等に触れ、安倍政権の「イノベーション25」計画、また私の持論の「純粋培養文化」と、「鎖国マインド」ついても触れ、交換留学推進提言や、一流大学開放論(ここでは「大相撲化」という言葉は通用しないので)、そしてこれも持論の「Science As A Foreign Poicy」などを話しました。そして、最後にインドの若者に日本へのご招待。特に工学系は大学も企業も、もっともっと多くの若者を必要としているので、日本に来ることを推奨しました。

プログラムの要約はWORLD ECONOMIC FORUMのサイトで見れます。以下に私のところを抜粋しました。

“Innovation is the keyword for every economy, whether it be in Asia, the EU, or the US, said Kiyoshi Kurokawa, Science Adviser to the Prime Minister and Professor, National Graduate Institute for Policy Studies (GRIPS), Japan. Japan spends 3% of its GDP on research, of which two-thirds comes from the private sector. Opening up resources and collaborating with neighbours can create an advantage for the region. Japan has strengths in many areas, such as water management, and can work with other countries to find innovative solutions that will benefit a large number of people.

Sibal and Kurokawa agreed that there is scope for collaborating at the global, regional and bilateral levels to find innovative solutions to meet the needs of the common man. There are issues, such as global warming, climate change and disease, for which no country alone has the resources to find solutions. To resolve these problems, there is a need to collaborate at the global level and pool resources to innovate.”

日本企業の弱さとして、なぜNissanやSonyのような世界のブランド企業に、突然、外国人のトップが来たのか、という疑問を提示しました。外国人がトップに来る前に、なぜか、もっと多くの外国人を全ての層に入れたりはしていないのです。反応は多かったです、思っていた以上でした。

ところで、インドは世界最大の民主主義国家です。経済成長も年8%程で凄いのですが、トップダウンの中国とは違った味があります。これは先日11月はじめの北京からのブログでもお伝えした、インドと中国の違うところなのです。インドは基本的に個人、私企業、企業家精神旺盛、よくしゃべる、理論(理屈)家という印象でしょうか。現在の最大の思想家の一人、Amartya Senの言うとおりの「The Argumentative Indian」なのですね。でもこれが民主主義の基本的要素なのです。

しかし、ここでも貧困問題は重大です。国民の28%程度(約3億人ほど)がまだ「1日1ドル以下の極貧」とのことです(Bahir州では50%だとか)。AIDSも大きな課題です。今年の1月のダボス会議でお会いした大蔵大臣のP. Chidambaramさん(WEDGE_私の読書漫遊 「インドの深みを知り 日本を見つめ直す」でも紹介しています)は、今日のパネルで「現政権が、初めて、明確にAIDSの問題を国民に伝えている」、とその認識のほどを話していました。素晴らしく、本当に「アタマ」のよい方と感じます。

“寒い”ニューデリーから、そして元気な日本の若者

26日朝、北京からニューデリーに着きました。夜中に到着ですが、涼しいですね、冬ですから。あらかじめ気温は調べておいたのですが、涼しすぎます。北京からの機中はほとんど寝ないで「The Economist, Oct 7th」の「The Battle for Brainpowerbrain」特集、「The Times Higher, Oct 6th」の大学特集などを読んでいました。いずれコメントしますが、いつも言っているとおり日本の評価は低いですね。世界で共通している認識は、日本は「鎖国」であり、大学も企業も「大相撲化」(4/154/166/289/229/2311/6)が必要なのです。しつこいようですが、将来の若者たちが可哀想だからなのです。“えらい大人たち”の責任は重いですよ。

ホテルにチェックインしてからは、まず、ゆっくり午後1時まで寝ました。ニューデリーではIndia Economic Summitに参加ですが、これはダボス会議を主催しているWorld Economic Forum(WEF)がインドの経団連的な団体「Confederation of Indian Industry」と22年前から共催しているとのこと。WEF議長のKlaus Schwab博士も、「ここまでになるとは」と嬉しそうでした。彼とは2000年からのお付き合いで、日本に来るたびにお会いしています。ダボス会議(毎年1月末開催です)からのメッセージもブログに書いていますので見てください。

WEFスタッフで仕事をしている土屋君、坪内さんともお会いしました。若くて元気のある、国際的な場で「個人」として活躍している若者を見るのは気持ちのいいものです。二人の経歴も凄いですよ。独立心が強くて、坪内さんなんてアフガニスタンまで、自分で仕事をしに行ったのですから。私たちのNPO Health Policy Instituteでもしばらくお手伝いしてもらいましたが、MITのMBAへ行き、それからここで仕事しているのです。そのうちお二人を紹介しましょう。

午後の開会から、いくつかのセッションを聞きましたが、どれも活気がありました。東京大学の小宮山総長のPresident’s Councilで2週間前にご一緒したMunjalさん(Hero Group、India)がパネルに出ていて、お会いできました。根本総理補佐官にもお会いしました。「アジアゲートウェイ」等を担当しています。8月に参加した外務省の「30人委員会」のときにも会った、東京大学医学部卒業の医師で外務省の役人になっている小沼君も根本チームできていました。根本さんと同じような立場ですが、私とはずいぶん違います。政治家と学者の違いですか。役所の認識もそんなところなのでしょうか?もっとも、私はあくまでも個人の資格で招待されているのでしたから。

26日の夜は、Manmohan Singh首相の公邸の庭で招待宴がありました。気温は10度を下回ってちょっと寒い。北京経由だったので、冬服を持ってきていてよかったです。

Singh首相は12月に日本訪問のご予定。安倍総理との会談があるそうで、楽しみにしておられます。首相の補佐官から特にと紹介され「その時にぜひお会いしましょう」と言われています。実現しますか、楽しみです。後で聞いたところでは、インドの財界人を50人ほどお連れになる計画と伺いました。

日ごろから言っているように(9/9)、インドは面白いし、日本とはいい関係でさらに「Win-Win」の関係が築けると思います。多くの、極めてイノベーティブな起業家にお会いしましたが、日本人と違ったいくつものすぐれた価値観があり、日印協力は相互補完性が高いと見ています。

2日目の27日はいくつかのセッションに出て、たくさんの名刺交換と“Net-workling”でした。根本さんの出たセッションも聞きましたが、この何年かお付き合いのあるGLOBISの堀さんの出たセッションは同じ時間だったので、そちらには残念ながら出れませんでした。堀さんも元気な若者で、世界のリーダーたちの年代、40代の一人です。

夜は、またまた寒かったのですが、Kamal Nath商工大臣主催の野外レセプション。Purana Qilaという古い城跡で行われ、すばらしいダンスパーフォーマンス、広い庭での夕食では、偶然ですがまたまた東京大学総長カウンシルで一緒のMunjal御夫妻と同じテーブルでした。香港のSTAR TVのCEOである、“Ms.”Michelle Guthrieも一緒で、来週香港で行われるITUのWorld Telecomに「1日だけど私も行く予定だよ」といったところ、「STAR TVも参加しているので是非寄ってください」、といったことになりました。皆、若いですね。この方もWEFの「Global Young Leaders」の一人です。そして、BBCの名キャスター Nik Rowingさんにも会いました。今年1月のダボス会議で、彼のBBCライブに私が写っているのを1/27のブログで紹介しています。これは、Manilaで見ていたBagladeshの友人が見つけ、すぐにダボスにいる私にメールで送ってくれた写真です。世界は本当に狭いですね。

寒い北京から暑いニューデリーへ

北京に来ています。今年3回目の北京です。政策大学院大学(11月から教授に就任しました)と中国共産党中央党校との合同会議に参加しているのです。広いキャンパスです。寒いですが、本来はもっと寒いそうです。

23日に到着、チェックイン、すぐに学生さん相手の講演に行きました。講演も質問も英語ですが、上手くなくても積極的でいいと思います。今日24日は政策大学院との共同会議で「持続可能な発展の制度設計」をテーマに双方から一人ずつプレゼン。こちらは「社会」が私、「大都市」が八田副学長、「地方政府」が高田教授(総務省から出向中、元自治省)、「エネルギー」が田端さん(北京のNEDO代表)、座長はこちらからは堀江教授(元総務省)、角南助教授という面々でした。会議の内容もとても良くて、共同研究等の可能性がいくつも見えました。

お互いに、政治も、過去もさることながら、前向きに共同作業を始めることは、世界の将来にも大事であることを双方がしみじみと感じた一日でした。

24日の午後は、NEDO田端さんのお世話で、北京の秋葉原のようなところに行きました。いやいや活気がありますね。ここでは、テレビ、液晶パネルは日本、韓国、中国製が競っています。パソコンはLenovo、Vaio等々の競争、値段は高い。デジカメは日本製の圧勝、携帯電話は日本製は見る影もなく、Nokia、Motorolaが圧倒しています。しかし世界の携帯電話の内部部品の65%は日本製です、なぜでしょう?よく考えてください。

その後は、新しく科学技術副大臣になった、中国科学院副会長だった曹 健林(Dr. CAO Jianlin; 光科学)ほか、4人の日本留学組の精華大学教授たちとお会いしました。皆、環境・エネルギー等の分野が専門で、日本の大学、中国の大学等の話題で盛り上がりました。

夜7時に空港に到着。これから今年2度目となるニューデリーへ向かいます。World Economic Forum主催の“India Economic Summit; India, Meeting New Expectatoins”でのPlenary Session、「Promoting Innovation in India; What Works Where?」に出席します。

前回のインド訪問については、4/219/9のブログに書いています。是非読んでみてください。

061124_2 写真 合同会議の質疑応答の様子

「イノベーティブな人」の条件、「フロネシス(Phronesis)」とはなにか?

今日の午前は、昨日(11月20日)の産学官サミットのゲストで来日された元Stanford大学副学長のWilliam Millerさんの訪問を受け、楽しい時間を過ごしました(今年でもう3回目の来日だということです)。原山さんもちょうど来られたので、スタッフの佐藤くん、是永くんたちにも参加していただきました。夕方からは総合科学技術会議の本会議が官邸でありました。今日のセッションはなかなかよかったです。その後、デンマーク大使館でRasmussen首相の歓迎レセプションに行きました。レセプションで東京工業大学長の相沢学長にお会いしましたが、Rasmussen首相が明日、東工大で学生さんを相手にお話をされるそうです。楽しそうですね。

今日は、久しぶりに格調高い、哲学的思索の入った「イノベーティブな人」、「イノベーティブなマインド」についての考え方を伺いました。DNDに掲載されている原山さんのレポートがそれです。

さすがに、ヨーロッパの高等教育を受け、仕事をされていた方ですね。感心しました。ちょうど出たばかりの日本学術会議「学術の動向」11月号のジェンダー特集に寄稿されている上野千鶴子さんの文を読んでいたら、原山さんも引用していた言語学者ソシュール(Saussure)の同じ本が引用されていたのでびっくりしました。

でも、出ましたね、原山さん!ここでも「フロネシス(Pronesis)」が!私の11/14のブログDNDメールマガジン Vol.196でも取り上げている言葉です。

野中郁次郎先生(本当にすごい先生ですよね)が提示したこの言葉「フロネシス(Phronesis)」の意味ですが、原山さんの引用を再引用させていただくと、“この言葉の意味の重要性、あまり聞きなれない概念なので定義を引用すると「個別具体的な場面のなかで、全体の善のために、意思決定し行動すべき最善の振る舞い方を見出す能力」となります。ここでキーとなるのが主観であり、その主観がよりどころとする価値体系の構成要素である倫理観、歴史観、社会観、政治観、美的感覚なのです。科学的知識と実践的知識を融合してアクションを取るイノベーティブなひとには規範的な側面においても卓越していることが求められるのではないでしょうか。”と。いい文章ですね。素晴らしい。

野中先生が例として挙げられる方の中に先週生誕100年を迎えた本田宗一郎さんがいまが、ほかにもソニーの井深大さん、盛田昭夫さん、トヨタの豊田喜一郎さん、クロネコヤマトの小倉昌男さんたちが私にはすぐに浮かぶのです。

このような哲学、思想にこそ、社会の変化をもたらすイノベーションを起こす「イノベーティブな人」、「イノベーティブなマインド」は深く無意識下に内在するのだと私は思います。

イノベーションについてこのような理解が広がると、本当に活気のある、素晴らしい社会変革が起こるでしょう。いや、そのような認識こそが広がってこそ、社会イノベーションが起こる「活気のあふれる」、「品格ある国家」になるのであろうと考えるのです。予算委員会などの答弁などを聞いていると、安倍総理はこのような認識をどこかにもっておられると、私は感じています。

061121 写真 Stanford大学のMillerさん、原山さんと

なぜ年齢を?

日本経済新聞夕刊(2006年11月14日)の「フォーカス」欄に「首相肝いり、「イノベーション25戦略会議」座長に、黒川清氏」という記事が出ていました。内容は以下のようです。

●「技術革新めざし環境づくり」
●「どうすれば日本がアジアの成長エンジンになれるか、議論していきたい」。安倍晋三首相が新設した有識者会議「イノベーション25戦略会議」の座長に就任した。
●「イノベーション25」は2025年の将来像を想定し、技術革新を通じた経済成長を目指そうという首相の政権構想。科学者の意見を集約して政策を提言する政府の日本学術会議の会長を70歳定年で9月に勇退したところに、首相が戦略策定の実務を担う逸材として白羽の矢を立てた。
●もう一つの肩書は科学技術担当の内閣特別顧問。日本では初めてのポストだが、米英では定着しているという。サッチャー英政権で初代顧問になったロバート・メイ氏とは日本学術会議の活動を通じて友情をはぐくんだ仲。
●来日中に内閣特別顧問就任の一報が入り、喜びを分かち合った。
●大学など日本社会には大相撲ナイゼーションが必要」が持論。外国人力士が多数活躍し活気もある相撲界のように、本当の意味で国際化を浸透させられるかイノベーションのカギと読む。
●首相と同じ成蹊高卒で、本職は腎臓専門の内科医。幅広い識見と人脈を武器に、持続的な経済成長を遂げられる社会環境づくりに乗り出す。=くろかわ・きよし、70歳

ところで、年齢を出すのはやめてほしいですね。どんな意味があるのでしょうか?しかもこの短いスペースで二度までも・・・。一般に、どの記事でも内容によっては意味がなくても直接的に年齢を出しますね。なぜでしょうか?ちょっと考えてもらいたいです。高齢社会ですから「60歳以上」なんていう方法はないでしょうかね?

でも、またまた「大相撲化」を紹介していただけました。うれしいです。

ヨーロッパの「イノベーション」とフィンランド前首相Ahoさんの訪問

科学技術に対する国家や企業の投資は、経済成長のエンジンとしての「イノベーション」、そして地球温暖化、エネルギー問題等の課題解決へのキーワードになっています。ヨーロッパでも同じことでリスボン戦略(2000)を経て、今年の1月に「Creating an Innovative Europe」、通称“Ahoレポート”といわれる報告書がでました。座長はフィンランド前首相のEsko Ahoさんで、4人の委員会で3ヶ月ほどで仕上げたそうです。

このAhoさんが来日され、私を訪ねてくださいました。 Ahoさんは、1991~95のフィンランド首相で、ソ連崩壊直後の国の難局を立ち直し、国のリ-ダ-としてきわめて優れた、そしてそれほど多いとはいえない“Statesman”として認識されている政治家の一人だと思います。個人的にもこの2年ほどお付き合いをしていますが、すばらしい方です。

9/10のブログで紹介した「Global Innovation Ecosystem」でも、この報告書が話題になっていたので、偶然でしたがいい機会となりました。そこへちょうど顔を出した総合科学技術会議の原山議員(東北大学)もお招きしてお話をしてみると、同じEUでもドイツ・フランスなどは経済成長率が低いのに対し、世界でも1、2の元気なフィンランドを始めとする北欧諸国は活気があるようですし、また東欧、ポルトガル等も元気ということでした。世界銀行の調査でもこれを裏付ける予測のようです。

事実、この2週間前に私のところに来られたドイツ、フランスの方たちは「日本はいいですね、でもわが国は・・・」といった趣旨の話が中心でした。もっとも「他人の庭は緑」ということでしょう。

この日の夜は、生駒俊明さん、有本建男さんたちと、フィンランド大使館での晩餐でした。

061115 写真 Ahoフィンランド前首相と原山さんと

イノベーション、日刊工業新聞の記事

「成長には創造的破壊が必要」という見出しで日刊工業新聞(2006/10/30)にインタービュー記事が出ています。そこで、「イノベーション25 戦略会議座長(内閣特別顧問) 黒川 清 氏」として私のコメントが紹介されています。

“2025年の社会に向けた長期戦略指針「イノベーション25」を策定する「イノベーション25戦略会議」がスタートした。技術だけでなく一般社会のさまざまな仕組みの革新をイノベーションと位置づけ、生活者の視点と20年後という長期スパンを特徴とする。
 社会の活性化の基本は人だとする安倍晋三首相の方針を受け、黒川清座長(内閣特別顧問)は「従来の仕組みを変えようとするディスラプター(粉砕者)がもっとも大事だ」と強調する。そんな人を認めて応援する、日本社会の革新について聞いた。(山本佳世子)” で始まります。

山本―― イノベーションの日本語訳はこれまで「技術革新」といわれていました。
黒川―― 「イノベーションは研究開発や製造プロセスだけでなく、組織やサービス、マーケティングなどあらゆる社会の仕組みの革新を指す。カンバン方式やセル方式など製造ラインのイノベーションだけではない。社会ではサービスの比重が高まり、組織ではなく人と人のネットワークで動きだすケースが増えている。モノではない。『それを使って何をするか』だ」
山本―― 企業も皆、変わろうと苦しんでいますが・・・。
黒川―― 「どんな社会も成長してくると保守的になり、安住してしまう。成長するには内部から新しくする(イノべート)創造的破壊が必要だ。それはいったん力を持った組織や人には難しく、担い手はマイノリテイー(少数派)の中からしか現れない。日本は米国と違って変わった人を許容してこなかったが、全体の5%程度の人が担い手になるようにしたい」
山本―― 高市早苗イノベーション担当相が言う「生活者視点」が新鮮です。
黒川―― 「社会に、生活にとってよいという理念と情熱を持って、アイデアを実社会の仕組みにつなげるには、この視点が大切だ。例えば宅配便や引っ越しビジネスがそうだった。その考えが正しいから、周囲の圧力や規制にかかわらず社会に浸透した。また、内容の魅力に加え、使いやすさを高めて普及させないとイノベーションにはならない。インターネットは技術的につなげられるだけでなく、アクセス料を劇的に下げるビジネスモデルができてこそ広がった」
山本―― すでに多様なイノベーションの報告書がありますが?
黒川―― 「内閣府の総合科学技術会議や日本学術会議、さらに日本経団連で議論され、各省庁での取りまとめもある。5年、10年先の社会のあり方にフォーカスしたこれらも大事だ。時間がないこともあり、戦略会議ではこれらを議論のたたき台にする。しかし考えるのは、20年後に日本が創造的破壊をし続ける社会になっているか、ということだ。2月の最初のとりまとめでは、そのために人が大切だと明確に打ち出す。20年後を予想するのが目的ではない。目指すのは、次から次へと何かが生まれてくる社会に変えることだ」

以上ですが、いかがでしょうか?

新聞などの論調でも、イノベーションとは単に技術革新ではなくて、外からの圧力ではなく、内から変革していく組織、企業、そして社会の構造改革であり、結局は人である、ということになりますね。そして、生活者(今の時代、日本だけではいけませんよ!アジアであり、世界の生活者です!)の視点です。そして、会社などの強さ、つまり「コアコンピテンス」をしっかり認識した、国際競争と協調なのです。そして「リーダー」の崇高ともいえる「理念」「確信」です。野中郁次郎先生の言われる「Phronesis」のある人です。これがなければ誰もついてきません。社会を変えるほどのことにはなりません。だからイノベーションとはいわないでしょうね。この点は、「イノベーション」満載のDNDメールマガジン Vol.196を見てください。

“イノベーション”、“イノベーション精神” とは何だろう

先日ご紹介した出口さんが主催するDNDでは、このブログとリンクして、「学術の風」なんてしゃれたタイトルで私の意見を掲載してくれていますが、他にも“イノベーション”についてこの方面の少し「出る杭」的な方たちの意見がたくさん出ています。大体、私の考えていることと同じようにとらえていられる方が多いようです。ぜひ訪ねて、いくつかを読んでみてください。

橋本さんの第2回、第3回とか、原山さんの第13回、第17回、森下さんの第10回、少し前のものですが石黒さんの第9回「ヒトを活かす」の中で野中先生のいわれていること、などなど、みな核心を突いています。これに共通するものが、“なにがイノベーションの本質か”を示しているように思いますね。

基本に流れる共通の認識に、一番の究極として「シリコンバレー」があるともいえますが、これについても、出口さんが書いているDNDメルマガの11月8日号「~That’s the way to go~『文庫のための長いあとがき』の余韻」で紹介されている「シリコンバレー精神」(ちくま文庫)を読んでみるとちょっと感覚的に感じがわかるかもしれません。しかし、実際にはそこに身をおいて、著者の梅田さんのように日本とのしがらみも切って(長期の出張ではなく)生活しないとわからないだろうな、と思います。橋本さんの第3回に出てくる「塚本さん」も同じですね。

出口さんはここで、“梅田さんの、この感動的ですらある「文庫のための長いあとがき」”は、私からの紹介であったことに触れ、「「シリコンバレー精神」の真髄に、イノベーション25戦略会議にいくつかの秘策が潜んでいるように感じるのですが、さて皆さんは、どう感じられたでしょうか。」、と鋭く指摘していますね。

さて、自分自身で、そのような位置に自分をおいてみる気概はあるでしょうか?

「イノベーション25」、私の考えの一端ですが

日経Business Onlineにイノベーションに対する私の考え方がすこし触れられています。これは安倍総理が国会での所信表明や予算委員会の答弁にも現れているものと同じ認識です。

「内から」「新しくなる」エネルギー、「創造的破壊」ができない社会、会社、組織は必ずだめになる、これが歴史の必然です。成長を可能にするのは、絶え間ない「イノベーション」なのです。「改善」は「イノベーション」とはいえないと思います。もっと革新的なもの、こと、考え方、社会をすっかり変えてしまうようなものなのです。

イノベーションには技術革新による新製品もあるけれど、イノベーションの対象はもっと広い。今ではほとんどのヒトはスキーやゴルフバッグを持って移動しない。小倉昌男さんのイノベーション、すなわち「宅急便」を使うわけです。巨大な抵抗勢力にもかかわらず、生活者の視点から、強い意志をつら抜いた。これなのです。

10月26日のブログで紹介しましたが、私のサイトとリンクしているDNDは、この関係のリーダーによる発信量も多く楽しいサイトです。この中の「DNDメルマガ」はお勧めです。さすがは元新聞記者、出口さんの筆がさえわたりまくるので楽しめますよ。ぜひ、皆さんもこのサイトを時々、いや頻繁に訪問してみてください。