ラマン、ロダン、カリエール

ラマン、ロダン、カリエールの3人を中心に添えて、“芸術と科学は同じような背景からの人間の活動だ”という趣旨のエッセイを「日経サイエンス」11月号に書きました。「光と感動、そして芸術と科学」というタイトルです。皆さんはロダンは知っているでしょう。たぶんラマンのことも。では、カリエールのことは知っていますか?

かわいい写真がはいっているので、この月刊誌「日経サイエンス」を買って、読んでくれればうれしいのですが、 ScientPortalというサイトでも読むことができます。

感動しない研究は楽しくないですよね。

とても悲しい若い研究者の死

8月のはじめに、阪大の42歳の助手が研究室で遺体として発見されました。そばにあった毒物と遺書から、自殺の可能性が高いとされていますが、この方が共著者となっていた論文が取り下げられたことに大きく関係しているようです。

いろんな方のBlogでも盛んに議論され、不正行為とのコンテクストでも話題になっています。(科学者の不正行為については、9/49/5のブログでも触れています。)

Natureも9月21日号(P.253)で「Mystery surrounds lab death」という見出しの記事を掲載しています。最後に私のコメントも引用されていて、「Kiyoshi Kurokawa, president of the Science Council of Japan, agrees. "Japanese universities and institutions may not always take the right approaches to resolving problems," he says. "But, do they realize that the science community around the world is watching?"」と締めくくられています。

この若い研究者は、とても優秀で、すばらしい研究者であったようです。

私もこんなところで言いたくもないことですが、あまりにも悲しい若者の死です。

大学のグローバル度、The World’s Most Global Universitiesでは?

Newsweek International edition (August 21/26, 2006)で「Global Universities」の特集が組まれ、日本語版が9月27日号として発売されました。International Editionの取材を受けたのですが、私のコメントは掲載されないことになりました。理由はわかりますか?

日本では早稲田の国際部(25%が外人の学生。とはいっても、早稲田大学の全体としては別扱いですから、私にいわせればむしろ「差別」でしょうか)や、秋田国際大学もありますが、まだ小さくてこの特集の題材にもなりません。去年のNewsweek日本語版(10月19日号)でも「大学の国際村化」という特集がありましたが、ここでも日本の大学では、大分の「Asia Pacific University」が取り上げられているだけです。(HP内検索で「アジア太平洋大学」、「Cassim」等のキーワードで検索してみてください。)

つまり、日本には「Global Universities」というテーマで取り上げるような大学がないということなのです。私が取材で話したコメントは、日本の大学には「Global Universities」なんて存在しないという認識に立っていたため、特集の趣旨に合わないとのことで入れられなかったということです。国際版の編集部では(日本支局ではありません)、もっとこの特集のようなトレンドや動きは日本でも当然あると思っていたらしいのですが、実は“鎖国”だということを理解したのでしょう。

この特集は33ページからなりますが、日本についてはその中で2、3箇所。全部で6~8行程度だと思います。

毎日新聞の元村さんの記事で取り上げられたこともそうですが、私の主張は外務省の「30人委員会報告」(委員として参加していました)等にも反映され、政府からも発信され始めています。「大学の大相撲化」、「Science as a Foreign Policy」などのキーワードで主張しているものですが、少しずつですが、広く理解され始めたように思います。後は当事者たちに実行させるための、国内外の圧力が必要ですかね。

ところで、このNewsweekの特集では、ランキングに日本の大学がいくつか入っています。東大16位、京大29位、阪大57位、東北大68位、名古屋大94位です。このランキングに使った指標をよく見ればわかりますが、論文引用回数の多い研究者数、Nature、Scienceの掲載論文数、とかそんな指標によるランキングです。なので、当然この程度には出てくるでしょう。しかし、これらの大学についても本文中には何のコメントもされていないところに注目すべきです。世界で見ている大学の「グローバル度」とは、何かということの認識が違う、ということでしょうね。

どう思いますか?

「枠を飛び出す」

毎日新聞社の元村有希子(科学環境部)さんは、毎日新聞の人気シリーズ「理系白書」を執筆している記者で、ご自身のblogでもたくさんの情報発信をしています。その中で、私のことを何回か引用してくれていて、また最近「大学の大相撲化」という私の主張を伝えてくれました。

●「黄金の3割」をご存知であろうか。多民族国家の米国でよく見る経験則だ。集団の活性化には多様性が重要だが、少数派が3割まで増えれば安定した勢力となり、多様化が進んでいくという。
●ためしに大相撲で活躍目覚しい外国人力士を数えてみたら、幕内力士40人(休場除く)のうち12人と、3割を占めていた。
●日本学術会議の黒川清・前会長は「大学も大相撲を見習え」と呼びかけている。日本の大学は均質すぎる。日本人、男性、しかも履歴が「A大大学院修了、A大助手、A大助教授、A大教授」の四つしかない「4行教授」が威張っている。これでは知の鎖国だ、という。
●加えて大学には「文系・理系」という枠がある。環境、知的財産、ロボットなど、先端分野は文理の協力なしには成り立たないのに、なぜか両者は仲良くできない。
●学部構成や受験も文理の枠が根強いから、高校では文理分けが常態化している。歴史を知らない科学者、技術が分からない経営者を育てても、世界では戦えまい。
●救いは、若者の目が外に向き始めていることだ。発展途上国で働く医師になりたいとカナダの高校に進んだ女子高校生は「久しぶりに帰国したら、似たような顔の人だらけで驚いた」と話していた。この夏、科学の五輪(世界大会)に出場した選手の中には、志望大学を外国に変える生徒が出始めている。
●枠の中にいる限り、その本当の窮屈さは実感できない。日本人のパスポート所持率は約25%(05年、外務省)。若年・壮年に限れば3割を超えるだろう。あとは、飛び出す勇気か。
(毎日新聞 2006年9月20日(水) 朝刊2面「発信箱」)

この趣旨については、2006/4/154/166/28のブログや、「学術月報」(“Science As A Foreign Policy 国の根幹は人つくり”)「IDE 現代の高等教育」(“新科学技術基本計画と大学”) 等の記事でも述べているところです。

また、「4行教授」は石倉洋子さんとの本「世界級キャリアーの作り方」にも出てきます。読んでください。

読書漫遊「インドの深みを知り 日本を見つめ直す」

読書漫遊 「インドの深みを知り 日本を見つめ直す」

 「中村屋のボース インド独立運動と近代日本のアジア主義」 (中村岳志著、白水社)
 「喪失の国、日本」 (M.K.シャルマ M.K. Sarma著、山田和訳、文春文庫)
 「人間の安全保障」 (アマルティア・セン Amartya Sen著、東郷えりか訳、集英社新書)

出典: WEDGE (2006年9月号)

「算数で、何を学ぶのか?」~日中子供数学オリンピックへのメッセージ

日中両国の小学生を中心とした開催された「数学、日中知的交流会」(2006年8月6日)のプログラムに、私のメッセージが掲載されました。

日中の子供数学オリンピックへのメッセージ: 「算数で、何を学ぶのか?」

算数は何をすることでしょうか?これはみんなが赤ちゃんのときから生まれつきもっている「数、空間、時間」の能力をどのように理解し、日常生活に使うかを知り、学び、お互いの考えや意見を交換できるようにすることなのです。物事を考える基本です。ほかの多くの動物にも生まれつきこの様な能力があるのです。草原のライオンを考えて見ましょう。獲物をとるとき、たくさんいる獲物の群れからどれか一匹に目標を絞り、そこへの距離を測り、そこへ達する時間を考えながら獲物を追っかけ捕まえるのです。まさに「数、空間、時間」を調べ、考えているのです。

でも、一人ひとりの人間に、動物以上の能力を与えてくれるのが教育であり、その基本に算数があるのです。ですから算数を学ぶことは、人生の大事なときにも、どのように考え、計画し、行動すればいいのかを教えてくれる勉強の基本なのです。こんなことはあまり先生も意識はしていないかもしれませんが、そこに算数の大事な役割があるのです。算数ではただ数を計算したり、お金を勘定したり、距離や時間を測ることを勉強しているのではありません。もっともっと大事なことを学んでいるのです。

算数は、文化や言葉や国を越えた人間に共通の価値があります。だから算数のオリンピックも可能なのです。どんどん世界が広がるこれからの時代に、歴史や文化に関わらず、人間共通のみんなの言葉としての算数があるのです。

この企画は、この様な考えを持って、地球での生活を楽しみ、地球の将来を担っていく若い皆さんが、手をつなぎあって、すばらしい世界を築いてくれることを期待してできているのです。「算数のオリンピック」は、このような大きな目標へ一緒に向かっていこう、というプログラムのひとつなのです。

今回は、勉強も、実験も楽しんでください。一緒に時間をともにして、友達の輪を広げることが一番大事なのです。それには算数は世界共通の言葉としてとても向いているのです。今回は、中国と日本の子どもたちだけですが、もっともっと友達の輪を広げてください。

日本学術会議会長  黒川 清

スイスから、「World Knowledge Dialogue」

京都での忙しく長い1週間を終え、翌日は東京で会議に参加。そして、World Knowledge Dialogue(WKD)に参加するため、夜の最終便でParis-Genへ向かいました。到着して車でさらに2時間移動し、Crans-Montanaに入りました。

神経科学で1972年にNobel医学生理学を受賞したGarald Edelman氏、Santa Fe研究所所長のGeffrey West氏などの講演は大変素晴らしかったです。私はこのSanta Fe研究所の研究内容にとても興味があり、昨年からWest氏と企画の相談をしているところです。

また、1975年の「Sociobiology」で大論争を巻き起こしたEdward O Wilson教授(Harvard)が、テレビ中継を使って参加しました。相変わらず素晴らしい内容のお話でした。最近では、なぜ動物も人間も近親相姦しないのかという問いについて科学的根拠になる業績等について考察しています。日本でこのような刺激的な分野の研究者と言えば長谷川真理子先生でしょうか。Wilson教授の学説等についてよく話もされています。これらの「知の巨人たち」については、是非いろいろと調べてみてください。

2日目にはランチ後のラウンドテーブルセッションの座長を引き受けました。6人が5分ずつプレゼンを行いました。東大の住明正教授も「東京大学の試み」という内容で発表をしました。このセッションの報告のタイトルは「Have we become wiser?」です。これは私の問いかけにあった“Have we become wiser now?”からきています。

16日はGenevaへ移動し、夜は在ジュネーヴ総領事の遠藤茂氏の公邸へお招きを受けました。

翌日17日は諸岡さんたちと大雨の中をドライブし、Gruyereにてfunduランチ、シオン城などを訪ね、夕方、飛行場へ。飛行機が遅れハラハラしましたが、Paris CGDでの乗り継ぎにはなんとか間に合いました。

WKDのサイトに、私が最前列で話しを聞いている写真が出ています。

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写真1 WKD会場でシンガポールの若者たちと

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写真2 WKD会場で右から、有本さん(経済社会研究所、元文部科学省科学技術政策局長)、須江さん(日本学術会議次長)、私、そしてシンガポールの方と

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写真3 ホテルの庭で、住さん(東大)、須江さん、私、西垣さん(東大)

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写真4 大使公邸のお庭で、右から林さん(大使館)、遠藤総領事、私、須江さん(日本学術会議次長)、諸岡さん(WHO)、三木さん(大使館)

笹川平和財団2005年度年報に座談会の内容が掲載されました。

笹川平和財団からの依頼で、「特集-日本のソフト・パワーの発信を考える-世界的課題の解決に向けて、日本に何ができるか」 というテーマで、産経新聞論説委員長/千野さん、デフタ・パートナーズ/原丈人さん、東京大学名誉教授/原洋之介先生と対談を行いました。

 日本のソフト・パワーの発信を考える

出典: 笹川平和財団 2005年度年報

STSフォーラム、誕生日、そして日本学術会議会長職を退任

尾身幸次前大臣主催の第3回STSフォーラム(9月10~12日)が京都の国際会議場で開催され、幹事として参加しました。 6日が札幌、そして7日から6日間、京都ということになります。1日目、尾身幸次会長、安倍晋三官房長官、諸外国の要人等、総勢20人ほどでの昼食会、その後の開会セッションは安倍官房長官の挨拶で始まりました。

小泉純一郎総理がASEM(アジア欧州)会議出席のためフィンランドへ行っていたので、安倍官房長官が“総理代理”として挨拶されました。昨年は皇太子殿下と小泉純一郎総理のご挨拶でしたが、ちょうどその日は衆議院総選挙の投票日でした。

ディナーの後に私の司会で対談が行われました。一人は英国Royal Society会長で、Cambridge大学Trinity CollegeのMaster(学長)、しかも宇宙学、天文物理学の最高峰の一人でもあるLord Martin Rees氏。(余談ですが、Cambridge大学Trinity Collegeの学長と言えばRees氏の前任は何度か紹介しているAmartya Sen氏です。彼は1998年ノーベル経済賞を受賞し、現在の世界の最高の賢人の一人だと思います。)Rees氏とは、今年初めのIAC会議、MoscowでのG8サミットへの協議、そして5月にもロンドンでお会いしています。大変立派な哲学者であり、素晴らしい著書も多く、最近出版された「Our Final Hour」などにはとても共感しています。話をしていても、本の話題で盛り上がったり、とても気の会う方です。

対談のもう一人は、米国Mississippi州知事で共和党の大物、Haley Barbour氏です。

このお二人の対談は今の国際情勢を考えると、私にはちょっと「荷が重いかな」と思いました。そこで、Rees氏とは何回かメールでやり取りをして、Barbour氏とは当日事前に少し話をしてから対談に入りました。Internetのすごいところは事前に色々なことを調べられることです。Barbour知事はなかなかの見識と実行力があり、あの財政難だったMississippi州の知事に2003年に就任して以来、雇用、経済、公教育、医療政策等へ次々と手を打ち、めざましい成果をあげています。特に昨年のハリケーンKatrinaの時の対応では目を見張る指導力を発揮しました。

このようなお二人の際立った背景を紹介して、対談の問題設定をし、Rees氏、Barbour氏、各15分ずつ話をして頂き、いくつかの質疑応答を行いました。お二人とも、すばらしいお話をされていましたので、いずれ、この内容もご紹介したいと思います。

話は変わりますが、実は“9.11”というのは私の誕生日です。「世界を変えてしまった2001年9月11 日。この日は21世紀の初めての私の誕生日なのです」と講演で時々話したこともあり、海外を含めて何人かの方からHappy Birthdayのメールを頂きました。そして、法律規定によって(これが新しい日本学術会議の骨子のひとつですが)10日の真夜中を持ちまして、日本学術会議の会長も“定年”ということになりました。気分的には少しほっとしているところです。

そして、11日の夜、京都のある料亭で、STSフォーラムの幹事会を兼ねた晩餐会がありました。食事の最後に広間が暗くなり、照明の当たっている外の竹やぶを見せる趣向かなと眺めていたら、なんと私のために蝋燭を立てたケーキを用意くださっていました。こんな世界の要人の方たちに誕生日を祝っていただき、しかもこんな場所で、素敵な思い出になりました。

皆さんありがとう。

写真 STSフォーラムでの記者会見。
右から、EgyptのAlexandria Library館長 Dr Ismail Serageldin、SingaporeのPhilip Yeo科学技術担当大臣、尾身幸次委員長、Royal Society会長 Lord Martin Rees、私。

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