ナイロビから ~立派なリーダーを知ること

WHOの会議の4日目に、メキシコの厚生大臣Julio Frenk氏が「医療・保健行政」について話をされました。自分で政策を実践してきた人の話は説得力があります。素晴らしい学者・研究者という背景もあり、まだ若いですが世界の厚生行政の第一人者として広く知られています。

4/2に紹介した北京での国際会議で基調講演をした一人がこのFrenk氏でした。格調高い名講演で、私も友人のDr. Jaime Sepulveda(世界的に著名な、メキシコ医学界のリーダーの一人)に頼んで、大臣の講演原稿のコピーを送ってもらいました。このような講演原稿は細微まで自分で書くのだそうです。たいしたものですね、実力が違います。

この会議では、挨拶が予定されていたWHO西太平洋事務局長の尾身茂氏が急用で来られなかったので、ビデオで挨拶をされました。素晴らしい内容でした。彼はいつも国際的視野の豊かな話をされるので、日本人として嬉しい限りです。

今回、Frenk氏と夕食も一緒になったので原稿の話しをしてみましたが、今回の講演の原稿もご自分で書いたと言っていました。実力と実践力のあるリーダーは頼もしいですね。世界で高い評価を受けるにはそれなりの理由があるのです。世界ではすぐに人間を見抜き、理解してしまいます。決して肩書きではごまかせません。

ところで今週末メキシコは総選挙で、彼の支持政党は負けそうだとのことでした。そうなると政権も変わり、政府は12月初めで交代だそうです。日本は政権党が1955年から、短期に終わった細川内閣以外は変わらないのですから、ある意味で不健康、世界でも珍しい「民主国家」ということでしょうか。

さて、このWHO Commissionには、つい先日までチリの大統領だったLagos氏も参加していました。昨年3月の第1回WHO会議が、チリのSantiagoで開催されたのはそのためですが、Lagos政権での医療政策大改革は弱者へ焦点を当てており、途上国として大変素晴らしいものでした。その会議にはFrenk氏も参加していてLagos氏の政策に共鳴し、教わりに来たのだと言っていました。今回の会議の要所要所でのLagos氏の発言は、本当によくしっかりと考えられていて、素晴らしかったです。

立派な政治家を持つことは大事です。

最後に、WHO事務局長のLeeさんも内外とも評判が高い方でしたが、先日、61歳という若さで急逝されてしまいました。本当に残念なことです。

大学の大相撲化?! -続き2

今年の4月15日、16日に、「大学の大相撲化」のテーマで大学という「知の世界」の鎖国性を指摘しました。そして、小泉総理のメールマガジンに掲載された総理のメッセージもそこで紹介しました。

このテーマについては、文部省系の学術誌「IDE 現代の高等教育」でも“新科学技術基本計画と大学”というタイトルで取り上げました。“大学の大相撲化”と“Science as A Foreign Policy”というキーワードが何度か出てきますので、是非ご覧ください。

御意見もお待ちしています。

「今、なぜ、若者の理科離れか -科学者と社会との対話に向けて」が出版されました。

「今、なぜ、若者の理科離れか -科学者と社会との対話に向けて」が出版されました。

この書名に引かれて本書をひもとくと、「すべての子どもは科学者である。」という日本学術会議黒川清会長の発刊の辞がある。多くのものに「なぜ?」を連発しながら成長する子どもにとって、「理科」は面白く、好きな学科なのに、どうしてそれが理科離れを起こすのか、それは大人の理科離れ、科学離れを反映していると同会長は続ける。

理科離れはすでに各方面で叫ばれ、文部科学省も取り上げてきた問題であるが、前期(第19期)の日本学術会議では直接これに取り組むため、「若者の理科離れ問題特別委員会」(後に「若者の科学力増進特別委員会」と改称)が設置された。本特別委員会は積極的に調査と検討を重ね、公開講演会やシンポジウムを開催し、外国の現況も調査した。

本書はその活動報告であり、4部から成る。第1部は講演会「若者の科学力を増進する」で発表された6つの講演を載録している。それぞれ含蓄があるが、白川英樹氏(筑波大名誉教授)の「社会と理科離れ」、高橋真理子氏(朝日新聞論説委員)の「科学者へ望むこと」など考えさせられる。

第2部は、パネル討論「科学への理解と共感を深めるために」での司会者と9名のパネリストの意見交換が丁寧に収録されていて面白い。川合知二氏(阪大教授)や黒田玲子氏(東大教授)が科学をわかり易く伝えることおよびインタープリターの養成の必要性を訴え、本間典子氏(東大助手)がその実践例として大学院生による小学校でのリレー授業を紹介している。

第3部は、本特別委員会の委員10名が「科学への夢を育み、科学する心を育てる」という課題でそれぞれ意見を述べており、内容も充実している。著者名を省略して題目のみ列記すると以下の通りである。「理科教育から見えてくる日本の初等・中等教育の問題点」、「ポテンシャルを探ること」、「若者の科学する心の喪失」、「国民一人一人に科学する心を育てることから全てが始まる」、「情報の時代と科学教育」、「理系・文系科学の協力基盤」、「高等学校・大学の化学実験の現状で科(化)学力は育つか」、「工学屋の見た"理科離れ"」、「若者の科学力―宮城県における小学校理科教育調査からみた課題」、「砂上に楼閣を築くのか」。この中の「国民一人一人に・・」で、本田孔士氏(大阪赤十字病院院長)はわが国の科学ジャーナリズムの貧困さを厳しく断じている。また「砂上に楼閣を築くのか」は、有名な教育学者天野郁夫氏(東大名誉教授)の取りまとめ的議論である。

最後に第4部は、海外における理解増進と科学教育の展開と題し、欧州3国との学術交流ならびにアジア諸国の初等・中等教育における理科・数学教育の現状について述べている。

書籍というよりも報告書であり、かつ理路整然とせずやや寄せ集め的な感じもしないでもないが、本学会でも理科離れに関心を持つ会員も多かろうと察し、ここに紹介することにした。

前日本学術会議会員、原子力安全システム研究所・木村逸郎
日本原子力学会誌 Vol.48(2006)No.5 53ページより転載

Book06今、なぜ、若者の理科離れか -科学者と社会との対話に向けて
黒川清、北原和夫 他著、 A5版 275p. (2005/09)
学術会議叢書10、日本学術協力財団
ISBN: 4-939091-19-8
価格: 1,890円 (税込み)

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日本学術協力財団

ケニア大統領との会見

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今日はケニアのKibaki大統領と2時間ほどの会談をしました。前大統領が統治していた4年前までは国自体かなり荒れていたようですが、今はだいぶ回復してきたようです。Kibaki大統領はその頃からの改革派。「さあ、なんでもいってください、遠慮なく」から始まって、このWHO Commissionの重要性を認められ、ケニアに委員会を作るよう指示されました。このようなWHO CSDH(Commission for Social Determinants of Health)への国内対応委員会を、国の最高責任者がじきじきに作るのはブラジルとケニアの2ヶ国だけですが、ケニアはアフリカでは比較的政情が安定しているので、アフリカへの政策としてモデルケースになりうるのではないか、それはケニアにとってもいいことだ、ということです。

スラムへ行く

午後は、厚生大臣Ngiluさんとナイロビ郊外のKiberaというスラムに行きました。50万人ほどが集まっているということですが、とんでもなくすごいところです。窓もない土とトタン屋根でできた狭い「家」に何人も住んでいるといことです。「家」にはトイレなし、調理するところもない。スラム自体には電気や水道はきていましたが、「家」にはほとんどきていません。ここに住む70%の人は貴重なお金で水を買っているということです。

クリニックもひどい状態で、エイズ患者は本当に多いです。全国的には人口の14%だったものが、今では 6%程度までに減ったということでしたが、スラムではエイズ患者が人口の30%にも上るということです。

1997年~2002年までJICAを通して関わったタイのパヤオ村では薬もなかったのですが、ここでは薬はくばらられていたので、まだましなのかなとも思いました。

ところで、このKibera村では2つの小学校を訪ねました。一つはスラムの中にあって、教会が運営しています。環境的にはひどかったのですが、ここでは子どもたちがみんなで歌を歌って歓迎してくれました。スラムのはずれにもう一つの公立の学校(1年生~8年生)があります。ここは国のモデル校になっているようで、全国でもトップクラスの生徒が集まっているそうです。教室では狭い机に3~4人が座り、子どもであふれかえっていました。

子どもたちは皆明るく、ここに未来があると思いました。“トイレの後は手を洗う”といったことも学校で実行させていました。「家」ではそんなことさえもできないです。そんな環境の中、子供たちは明るく、目をきらきら輝かせて暮らしていました。本当に心から感動しました。

先生たちもすばらしいかたばかりでした。皆が誇りにあふれているのです。「家」に帰っても電気があるわけでもないので、5時まで学校に残り、そして長い道を子供たちの手をとって帰るのです。

学校に「The most moving experience in my life, I see the future of the nation」と記帳してきました。このブログを見ている誰かが、いつか目にするかもしれませんね。

ホテルに帰ると、このホテルの女性のマネジャーが、今日見たスラムの出身で、さっき訪ねたばかりの町のはずれにある学校に通っていたと知り驚きました。アフリカには恵まれない国がまだたくさんあります。皆さんも何か少しでもできることを考えて、こういった活動に参加する機会を作ってみませんか?

Kenya1写真 ケニヤ大統領公邸で。大統領(中央)とCommssionerのNdioro Ndiayeさん

ケニアへ

ロンドンから帰国して、富山と横浜を2日でまわり、ドバイ経由でナイロビに来ました。WHOのCommissionに参加するためです。

ナイロビは標高が高いのでとても涼しく、北海道のような感じで広々としています。ケニアの大蔵大臣、文部副大臣等が3時間も時間を取ってくれて有益な議論ができました。チリの元大統領のLogos氏も参加していて、チリのワインが夕食時に話題になったり、大変楽しい時間でした。

Commissionの目標は「Social Determinants of Health」で、東京大学の橋本英樹教授にも参加してもらっています。彼は私の教え子の一人ですが、HarvardのPublic HealthでMaster’s Degree(このレベルは日本にもたくさんいますが)だけでなく、Doctorまで修了してきた珍しい俊才です。

ナイロビの街中は結構危険、ということで、街のはずれのサバンナの広がる国立公園に面したホテルに滞在していますが、とてもすばらしい光景です。

ナイロビから。