読書漫遊「リーダーよ歴史のうねりは見えているか」

読書漫遊 「リーダーよ歴史のうねりは見えているか」

 「東大議事録 文明を説く」 (堺屋太一著、講談社)
 「なぜ日本は行き詰ったか」 (森嶋通夫著、岩波書店)
 「図説世界の歴史 全10巻」 (J.M.ロバーツ J.M. Roberts著、創元社)

出展: WEDGE (2004年9月号)

「大学発」ベンチャー

7月に新聞紙上で、大阪大学発のバイオベンチャーで、大学で初めてバイオ関連で上場したという「AnGes」についていくつかの報道がされていました。公開前の株の売買で学部長が儲けたとか、株を所有している研究者と患者さんの間に利益相反がある事などについて報道されたのです。これは結構難しい問題ですが、現在の世界の状況と、最終的な成果が国際的市場を目指しているので、どうしても海外のルールの傾向と変化を知っている必要があるでしょう。国内的視点からだけの問題提起では解決できませんし、問題の認識、提起ごとに、知恵を絞って、しっかりした透明性の高いプロセスと透明性の高い「ルール」を構築していく必要があります。これは各研究者や、各大学に任せるようなことではありません。国の政策の問題です。こんな事を研究者の責任ととらえているようでは、研究者は研究に集中できません。これは上場した会社の経営者の責任でもあります。

このようにリスクの高い「大学発」ベンチャーを奨励しておきながら、所詮素人の大学の研究者の責任追及をするばかりでは、研究者はやる気をなくし、社会や患者さんから疑いの目で見られ、しかも社会の理解も支援もなく、明確なルールもないとなれば、戸惑ってしまうばかりです。いくら政府が研究費を投資し、大学発ベンチャーを奨励して、数の増えた事ばかり宣伝しても、本来、多くは失敗する可能性の高い(だから「ベンチャー」というのです)「大学発ベンチャー」は、結局は失速してしまうでしょう。

これらについては、朝日新聞の7月30日の朝刊に「私の視点: 治験と株保有、強制力ある規制が必要」としてコメントをしました。

皆さん、どう思いますか。

アウトカム研究会

9月2日、3日と軽井沢へ行ってきました。

京都大学の福原教授を中心に、臨床研究をどのように進めるのかといった本格的なブレインストーミング目的とした、アウトカム研究会というものに招待されて、講演を行ってきました。今回は腎臓病をターゲットとしたもので、若い人たち12人が参加、1週間の合宿を行っていました。以前からこのような研究の重要性は認識されていますが、誰もやってこなかったことです。例えば、なぜ New England Journal of Medicineとか、British Medical Journalなどの世界の主要な臨床学術誌が、1980年はじめから臨床研究の成績が中心になったのでしょう。EBMという言葉が出てきたのもこの後ですが、日本ではもっぱら医学博士号のための分子とか、遺伝子の研究が中心で、臨床医学の中でも重要な臨床研究は、ほとんど見向きもされませんでした。日本では臨床研究をやっている人はどこの大学でも教授になれないのですかね。しかし、会に参加していた若い人たちは本当によく勉強していました。これからもがんばってほしいです。応援しています。

今度、厚生労働省で「戦略的臨床研究アウトカム研究計画」のグループを立ち上げました。政策的に重要な臨床研究のアウトカムを予測できるように、計画、推進しようというものです。はじめに「糖尿病」と「うつ」を取り上げたいというのが行政の政策と言う事で、関係学会や専門家と意見を交換しながらも、研究のデザインはこの研究班で立案、計画するということを考えています。どれだけ理解されるか、見物です。こういったやり方が米国のNIHや英国の政策を見据えた公的資金による臨床研究のあり方なのです。

今回の軽井沢に参加した若者たちはこのような研究の立案にどっぷりと頭をひねったという事です。皆さん、初めての経験に目が輝いていました。

StockholmからSingaporeへ

お久しぶりです。

先月26日からStockholmで開催されたEuroScience Open Forumに招かれ、“The Future of European Science Policy in a Global Context”で、“Asian Perspective”という演題で話をしました。この会議では、もっぱら米国に対してのECの科学政策に話題が集中しており、よく知られていることですが、ECの中心であるBrusselの官僚的対応についてちょいちょいと話が飛び火しました。かなりの危機感と人材育成への配慮の不足が話題に挙がりました。これらについてはちょうどNatureの8月19日号に、英国科学アカデミー会長のLord Mayのコメントが載っていたので、彼に私も同感だという旨をすぐにメールで送っておきました。

StockholmではRoyal Swedish Academyを訪問しました。18世紀にかの有名なLinneらによって設立され、毎年、物理、化学のNobel受賞者が発表されるところです。ところで、Linneが私たち哺乳類の名前を“mammal”とした人であることを知っていますか?このことをちょっと前にお話しましたが、皆さんあまりご存知なかったようでしたね。

さて、Stockholmには尾身前科学技術担当大臣もいらっしゃっていて、お会いする機会がありました。それから、大塚在スウェーデン大使らとホテルで昼食をとっていた時に、偶然Nobel博物館館長のLindqvistに2年ぶりにお会いしました。お母さんの85歳の誕生日とかで一家総出でランチに来ておられたとのことです。どこにいても誰かに会いますね。

Stockholmに2泊してからSingaporeへ飛びました。Nobel医学賞受賞者のBrenner博士と沖縄大学院プロジェクトについて3時間ほど打ち合わせた後、内科医・腎臓専門医として以前から良く知っているシンガポール国立大学(NUS)のTan学長を訪問しました。まだお若い方ですが、今年4月に就任されたばかりで、それまでは厚生省に4年いらっしゃいました。

また、ここで活躍している元京都大学教授で現ウイルス研究所長の伊藤教授、そして腫瘍内科のWong教授とも夕食の席でお会いしました。Singaporeでは何事にも前向きで、決断が早く、人のつながりを介しながら国の将来の戦略を進めている事をひしひしと感じます。