日本の「リーダー」

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イラクで起こったNGOや民間人拘留で、ずいぶん過激で一方的な論調が多く、なんとも未熟というか、社会性がないというか、国だけがすべてのような戦前に戻ったような危ない感じがします。

「Wedge」2月号で、3冊の本(『名誉と順応』、『敗北を抱きしめて』、『日本の禍機』)の紹介を書きましたが、日本の問題は「リーダー」にあるのです。この数日に読んだ本も同じ趣旨でした。両方とも素晴らしい本ですのでご紹介します。

ひとつは、森嶋通夫・ロンドン大学名誉教授(高名な経済学者です)著の『なぜ日本は行き詰まったか』(岩波書店 2004年)です。経済からではなく、社会科学全体における世界の歴史と人々のエートスを観察する事からはじめ、日本の将来を、過去から、世界の歴史から探るというものです。伝統的エートスを失った国民の将来は、という問いです。歴史と資本主義社会の形成、ドイツ・イギリス・アメリカ等の違いの考察等が述べられている、優れた著書です。

もうひとつは、中西輝政・京都大学教授著の『国民の文明史』(産経新聞社 2003年)です。これは日本の課題を文明史的視点から考察しています。サミュエル・ハンチントン教授が『文明の衝突』で言うように、日本はひとつの文明である、という視点を支持していますが、この本は、その背景から、文明の動きの歴史的考察を中心に据えた、優れた著書です。

両方とも大変に読み応えがありますし、歴史観にあふれる優れた学者の書です。成功した「日本システム」の迷走と、「政・産・官の鉄のトライアングル」の「リーダー」の、歴史観や世界観、志の欠如に問題があるという点では一致しています。しかし、解釈は違います。森嶋先生は歴史的にも「右翼的動き」の可能性の危険を一応は指摘するのに対し、中西先生はどちらかといえば「その右翼的支持」を転機に考えているようでもあります。しかし、両者の文脈は分析と視点は違っても、同じ指摘が多い点で参考になります。日本の「リーダー」は本当にどうしてしまったのでしょうか。

この点でもうひとつ読んだのが「Saving the Sun」(HarperBusiness、2003)です。Financial Times日本支局長だったMs. Gillian Tettさんによる長期信用銀行問題をめぐるnon-fictionです。小野木さん、大蔵省官僚、八城さん、Collins氏等々実名で出ており、「日本株式会社」に共通する問題がきっちり書かれています。このように日本の問題は世界中で広く知られているのです。