科学新聞に掲載されました。

「日本学術会議法 改正」 内閣府所管で重要性増す

日本学術会議(黒川清・会長)の“新法”がこのほど成立した。

これまでの総務省所管から内閣府所管へと格上げされ、会員選出法も欧米型にするなど大幅に変更された。これによって、わが国の科学技術政策は、総合科学技術会議、学術会議の両輪が制度的にも整ったことになる。今回の法改正に関しては、黒川会長の国会でのヒアリングにおける様子が『ネイチャー』(3月25日号)に報じられるなど、世界的にも注目を集めていた。(法案の内容については本紙2月27日号で既報) 平成13年1月に始まった行政改革の中で、日本学術会議は当面、新設の総務省に移管され、そのあり方については内閣府に新設された総合科学技術会議専門調査委員会の検討に委ねられた。そして昨年2月に最終答申が提出され、それに基づいて法案がとりまとめられ、審議されていたが、このほど衆参両院全会一致で新法が成立した。

同法の基本的フレームが学術会議が進めていた自己改革案にそったものであるのは、第十七期、第十八期と同会議が、ダイナミックに変化している国際情勢の中で、各国のアカデミーが機能強化し始めていることを調査・検討し、各国の科学アカデミーの歴史的、社会的背景を理解しながら、精力的に議論を重ね、自らあるべき姿を示してきたからである。そうしたことが、総合科学技術の報告にかなり反映されている。

科学技術政策形成は総合科学技術が直接行っているが、学術会議を同じ内閣府所管とすることで、科学政策への提言、国際社会への窓口等、わが国の科学者コミュニティを代表する機関の果たす役割は今後ますます重要になるとみられる。

【黒川清・会長の話】

今一番大事なことは、科学者コミュニティを代表する学術会議のベースを広げることであり、組織の自由度が増すのだから、それだけ社会的責任が大きいことをよく認識することだ。したがって、法律改正が実現してからも、科学者という知の集団が、自分たちの価値観だけでなく、また日本国内からだけでなく、アジア、世界の科学者コミュニティの連携の中でどういったことを社会に発信していくかが問われている。

十年後の見直しに向けて、これから数年の間に国内外の社会に信用と支援を得ながら、どのように変わったかを評価されることが重要である。社会的責任がより問われる中で、一人ひとりの科学者が、自分たちが社会に対して何ができるかを考え、その結果として学術会議のために何ができるかを考えてほしい。会員外の人達も、学術会議の活動を認識することによって、サポートしようという気持ちが自然にわいてくるような科学者コミュニティを形成する組織、存在にならなくてはいけないと思っている。

出典: 科学新聞(2004年4月16日)

日本の「リーダー」

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イラクで起こったNGOや民間人拘留で、ずいぶん過激で一方的な論調が多く、なんとも未熟というか、社会性がないというか、国だけがすべてのような戦前に戻ったような危ない感じがします。

「Wedge」2月号で、3冊の本(『名誉と順応』、『敗北を抱きしめて』、『日本の禍機』)の紹介を書きましたが、日本の問題は「リーダー」にあるのです。この数日に読んだ本も同じ趣旨でした。両方とも素晴らしい本ですのでご紹介します。

ひとつは、森嶋通夫・ロンドン大学名誉教授(高名な経済学者です)著の『なぜ日本は行き詰まったか』(岩波書店 2004年)です。経済からではなく、社会科学全体における世界の歴史と人々のエートスを観察する事からはじめ、日本の将来を、過去から、世界の歴史から探るというものです。伝統的エートスを失った国民の将来は、という問いです。歴史と資本主義社会の形成、ドイツ・イギリス・アメリカ等の違いの考察等が述べられている、優れた著書です。

もうひとつは、中西輝政・京都大学教授著の『国民の文明史』(産経新聞社 2003年)です。これは日本の課題を文明史的視点から考察しています。サミュエル・ハンチントン教授が『文明の衝突』で言うように、日本はひとつの文明である、という視点を支持していますが、この本は、その背景から、文明の動きの歴史的考察を中心に据えた、優れた著書です。

両方とも大変に読み応えがありますし、歴史観にあふれる優れた学者の書です。成功した「日本システム」の迷走と、「政・産・官の鉄のトライアングル」の「リーダー」の、歴史観や世界観、志の欠如に問題があるという点では一致しています。しかし、解釈は違います。森嶋先生は歴史的にも「右翼的動き」の可能性の危険を一応は指摘するのに対し、中西先生はどちらかといえば「その右翼的支持」を転機に考えているようでもあります。しかし、両者の文脈は分析と視点は違っても、同じ指摘が多い点で参考になります。日本の「リーダー」は本当にどうしてしまったのでしょうか。

この点でもうひとつ読んだのが「Saving the Sun」(HarperBusiness、2003)です。Financial Times日本支局長だったMs. Gillian Tettさんによる長期信用銀行問題をめぐるnon-fictionです。小野木さん、大蔵省官僚、八城さん、Collins氏等々実名で出ており、「日本株式会社」に共通する問題がきっちり書かれています。このように日本の問題は世界中で広く知られているのです。

2004年5月

日本学術会議主催シンポジウム
日程: 2004年5月21日(金)
会場: 日本学術会議講堂
演題: 「科学・技術への理解と共感を醸成するために」

第47回日本腎臓学会学術総会
日程: 2004年5月27日(木)
会場: 栃木県総合文化センター
特別講演: 「日本の挑戦:21世紀の課題」

第3回医療政策研究会
日程: 2004年5月31日(月)
会場: パレスホテル2階ダイヤモンドルーム
演題: 「創薬とグローバル戦略」

アメリカ~カナダ 世界の知識人たちと

4月22日からアメリカ、カナダと周って、本日日本に戻ってきました。ゴールデンウィークとヤンキースの試合がNYで行われた事も重なって、日本からの観光客がホテルにあふれていました。

アメリカではまずNew Orleansでアメリカ内科学会(ACP)年次総会に出席しました。4月13日にも書きましたが、アメリカ大陸以外で初めてACPの支部(Chapter)が日本に設立されました。その第1回総会が東京で開催されたこともあり、今回は日本から何人かのフェローの認証式典がありました。厳かでとてもよい式典で、みんな喜んでくれました。きっとこの人たちが将来の日本の内科医、指導医の中心になってくれるでしょう。

25日からはカナダのオタワに入り、翌日にはカナダ科学アカデミー会長のAlperさんの招待により、「Industry Canada」で21世紀科学技術政策についての講演をしました。「Industry Canada」はカナダ政府の科学技術政策決定に一番重要な委員会だそうです。ディナーの時にAlperさんに、参加者から講演を称賛する電話がたくさんあったと言われ嬉しかったです。

トロント大学では、学長(MITの理学部長を務めていたBergeneau博士)と昼食をご一緒し、多くの幹部の方とお会いできました。その後、腎臓グループで高血圧の講演を行い、理学部のレセプションでは何人かの日本からの研究者たちにも会う事ができました。

今年はカナダと日本の外交75周年で、11月には東京のカナダ大使館で記念に2~3日のカンファレンスを企画しています。今のところ「科学、技術、工学と女性科学者」に焦点をあわせようと考えています。衆議院議員の野田聖子さんもお呼びしています。

この後、ニューヨークで今年11月に開催する「社会のための科学技術国際フォーラム」の打ち合わせ会議があり、尾身大臣、MITのFreedman博士(ノーベル物理学賞を受賞されています)たちと一日過ごしました。翌日は、New York Academy of SciencesでChairmanの前Rockfeller University学長、Wiesel博士(ノーベル医学生理学賞を受賞しています)や、PresidentのEllis Rubinstein(元Science誌編集長)、そしてColumbia大学医学部循環器科のDr. Shunichi Honma先生達と、メトロポリタン美術館でディナーをとりました。皆さん素晴らしい人たちで、話も大変弾みました。

ところで、Rockefeller Universityの後任の学長には、2年前にノーベル医学・生理学賞を受賞したPaul Nurse氏がイギリスから招かれました。ここまでの人事とは言わないまでも、日本では国立大学の法人化に至っても、全員が教授会内部から互選で選ばれた学部長、そしてその学部長経験者からの内部昇格なのですから、「学」の世界でも世界の常識とかなり外れているのです。それにも気がつかない「学」も大したものですが。

明治6年に『学問の勧め』で福沢諭吉はこの点を指摘しているのですからすごいものです。