臨床研修に関する記事

讀賣新聞に臨床研修に関する記事が掲載されましたので紹介します。

讀賣新聞 2004年2月10日

「臨床研修」今春から様変わり 医療現場も変わる!?

国家試験に合格した医師が受ける2年間の「臨床研修」が、この春から大きく変わる。より多くの診療科を経験して、基本的な診療能力を身につけるようにするなど、日本の医療全体の改革につながる内容だ。新制度を先取りしている病院を訪ね、臨床研修のあるべき姿を考えるとともに、従来の研修で中心的役割を担ってきた大学病院の対応を探った。(針原陽子)

◆佐久総合 8診療科以上を経験

 ■別の病気

先輩医師らのアドバイスを受ける研修医の柴田さん(写真中央)。佐久総合病院では、総合外来で数多くの症例を経験、基本的診療力が身に着くようにしている(長野県臼田町で) 昨年暮れ、長野県臼田町・佐久総合病院の総合外来診察室。研修医2年目の柴田詩子さん(27)が、「あれっ?」と声を上げた。

高熱と悪寒の症状を訴えて外来に来た男性の胸部レントゲンを撮ったところ、白い影が映っており、典型的な肺炎に見えた。だが、念のために確認した数か月前のレントゲン写真にも、同じような影が映っており、これは病巣ではない可能性が強い。

柴田さんはその場にいた先輩医師に相談したうえで、「肺炎ではなく、別の病気で入院が必要」と判断、確定診断のため検査項目を追加した。「一般的な病気と思われても、実は違うということは、よくあります」と柴田さん。それを見逃さないためには、多くの患者に接して経験を積むことが必要なのだという。

 ■過去最高

佐久総合病院の臨床研修の特長の一つは、複合的な疾患を扱う「総合診療科」が、研修医の窓口となっていることだ。研修医は、内科、外科、小児科、精神科、麻酔科など8診療科以上を数週間から3か月程度ずつ回りながら、週1日は総合外来で診察する。患者の状態を的確に判断できるように、様々な病気をみるためだ。

1年目の研修医が診察する場合は、必ず先輩医師に患者の症状と自らの診断を報告し、確認を求める。研修医の診察だけで患者を帰すようなことは許されない。「サポート体制ができているので安心できる」と、柴田さんは言う。研修医への給与も、アルバイトの必要がない程度には支払われている。

診療所の医師を目指す研修医も多いだけに、地域医療の研修プログラムも充実している。最低1か月は、本院から約10キロ離れた山村にある「小海分院」を拠点に、往診や地域内診療所での診療を経験する。分院での研修体験者を対象としたアンケートでは、「第一線の地域医療の役割が理解できた」「在宅や福祉の現場で住民を見ることができた」などの意見が多く、90%以上が研修を「有意義だった」と回答した。

同病院の西沢延宏・研修医教育委員長は、「新制度で導入される『スーパーローテート方式』は、うちでは20年以上前から採用している。ほとんど変える必要がない」。こうした点が評価され、春からの研修医を決める試験には、15人の定員に対し、過去最高の84人が受験した。

◆聖路加国際 多くの症例3年で勉強

 ■屋根瓦方式

聖路加国際病院(東京・中央区)は、「厳しいが、質の高い研修が受けられる」と、医学生たちの間で人気が高い。給与も一定額が保証されている。

特に内科は、腎センターや緩和ケア病棟なども回り、3年間かけて行う。病棟は、呼吸器や循環器、消化器など様々な疾患の人がいる「混合病棟」。1棟35床を、研修3年目の「病棟長」と、2年目の研修医が1人、1年目が2、3人で担当する。治療方針は主治医が決めるが、研修医にも相当の裁量権がある。1年目の研修医を2年目が、1、2年目を3年目が教える「屋根瓦方式」の指導体制もあり、2年目としては異例の病棟長を勤めた和田匡史さん(28)は、「後輩を教えることによって、自分も勉強になり、責任感も強くなる」と話す。

 ■連日議論

自分の担当した症例などを報告、診療の方針について議論する「カンファレンス」が毎日のように開かれるほか、末期がん患者などが対象の「ターミナルケア・カンファレンス」には、診療科や職種に関係なく参加できる。研修医の発表に対し、医師だけでなく看護師やソーシャルワーカーも質問や意見を出す。

「とにかく、担当する症例は多いし、勉強する場は山ほどある。それをこなしていければ、力はつく」。内科系研修医をとりまとめる内科チーフレジデントの小野宏さんは話す。

全国の臨床研修指定病院の研修を取材し、医学生らに情報を提供しているメディカル・プリンシプル社の市村公一医師は、「佐久総合病院は地域医療志向、聖路加は徹底した基礎作りというように、研修の特長は病院ごとに違う。自分がどういう医師を目指すのかを考えて、研修先を選ぶべきだ」と指摘する。

◆学生に大学病院離れ “雑用係”扱い見直し 育成重視の動き

新制度で、研修プログラムの規定が設けられたことは、これまで研修の中心だった大学病院に大きな変化をもたらした。新たに導入された、研修医と病院側の希望をすり合わせる「マッチング」という仕組みも、流れを後押しした。

「どういうことだ」。マッチングの結果が明らかになった昨年11月、年百数十人という国内最多の研修医が集まる慶応義塾大学病院に、衝撃が走った。新制度での研修医募集定員100人に対し、マッチングで決まったのは66人にすぎなかったからだ。

慶応大卒後臨床研修センター副センター長の吉川勉助教授は、「報酬が決まらなかったことや、研修期間のうち1年を過ごす関連病院がどこになるのかわからなかったことが、原因かもしれない」と分析する。しかし、別の病院を選んだ慶応大医学部6年生は、「診療科ごとに数か月という短い期間で、将来に役立つ内容を効率的に学ばせるノウハウは、今の大学病院にはない。学生がスーパーローテート研修の体制のしっかりしている所に行こうと考えるのは当然」と言う。

こうした事態に、同病院は、研修医が行っていた病棟患者の朝の採血や、分かりづらい検査室への患者の案内などを、臨床検査技師や看護師、事務職員などに肩代わりさせる方針を決めた。吉川助教授は、「このような仕事は本来、研修医にさせるべきものではなかった。今まで研修医を“雑用係”扱いしていた面もある。今後は研修医を育てるという姿勢を、より重視していきたい」と話す。

マッチングは、従来の卒業生ばかりが集まる大学病院の医局を中心にした研修では、研修医同士の競争や研修内容への批判がなく、質の向上につながりにくいという反省から導入された。その結果、他大学からの流入が少ない地方の国公立大学病院でもマッチング率の低さは目立ち、定員の半数に満たないケースが相次いだ。こうした研修医の大学病院離れを、「健全な選択。研修の質を上げないと、学生の流出は止まらないだろう」と解説する関係者もいる。

臨床研修制度に詳しい船橋市立医療センターの箕輪良行救命救急センター部長は、「大学病院は、医師の養成に重要な役割を果たしており、研修医をきちんと指導できる体制を整えられるかどうかは、改革全体の成否にかかわる問題だ。研修が充実すれば医療の質も上がるので、臨床研修改革は大学病院改革でもある」と指摘している。

【要語事典】臨床研修の改革
医師の国家試験に合格してから2年間、医療現場で診療を学ぶのが「臨床研修制度」で、今春から36年ぶりに改革される。
従来は努力義務だったうえ、研修プログラムの規定もなかった。特に、研修医の約8割が集中する大学付属病院では、専門分野に限って研修を行う場合が多く、幅広い基礎的な診療ができない医師を育ててしまうという問題があった。
新制度では研修が必修となるほか、内科、外科、救急部門、小児科、産婦人科、精神科、地域保健・医療の7分野を回る「スーパーローテート方式」を導入。「経験すべき診察法、検査、症状」などが、経験目標として示された。研修先は、病院側と研修医がそれぞれ希望を出して、一致した場合に決定とする「マッチング」で決める。処遇についても、アルバイトが必要なくなるように、公費負担も含めて月収30万円を目指すことになった。

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