ダボスから(2)

ダボス会議初日のことは前回少し書きましたが、“Geopolitics”のセッションについてもう少し紹介します。

参加者は、ロシア、中国、イギリス、アメリカの大学、研究所、シンクタンク等の研究者が中心でしたが、アメリカの軍事力が一人勝ちとなったこれからの動向と、中国、中東に話題が集中するのはいたし方のないところでしょう。このテーマではエネルギー問題、経済動向等の多くの側面が議論されましたが、日本についてはほんの少ししか出てこなかったところが、世界第2位の「経済大国」であるのに寂しい限りです。

会場ではHarvard University John F. Kennedy School of Government大学院学部長のJoseph Nye(Clinton政権で外交政策担当をしていました。著書もありよく知られた人物です。)が、「アメリカ軍はハードとしては世界の軍事力の40%と圧倒的ではあるのもの、イラクの国連安全保障会議Security Councilでのロシア、中国等の反対にもかかわらずイランに侵攻して、かえってアメリカのソフト力の弱さが明らかになったのでは?これが今後の方向として有効ではないか?」という質問をしました。このような発言が、こういう場所でアメリカの政策に関わり、しかも代表的な学者、オピニオンリーダーでもある人物から出るところに、アメリカの強さ、健全さがあるのではと感じました。学者は組織等から自由であるからこそ、見識のある意見を広く国内外の社会に発言ができるのであり、発表していく社会的責任があるのです。そのような社会的責任を感じて行動している「学者」が日本にはどれだけいるのでしょうか。「霞ヶ関」ばかり気にしている学者が多いようでは困るのです。同じ趣旨の意見は、明治5~8年頃すでに福沢諭吉が「学問のすすめ」に書いているところです。

来週29日に慶応義塾大学(三田校舎)で講演の予定がありますが、この点についても触れたいと考えています(興味があれば参加してください)。

今日は「Re-educating Education」、「Brain Drain」、「Ageing/Business: The New Market for Ageing Populations」に出る予定でしたが、会場がいっぱいになってしまって参加することができませんでした(会場のスペースの問題で、早く登録しないと参加できないのです。それだけ関心が高いセッションだということです)。「Blogging: Will Mainstream Media Co-opt Blogs and the Internet?」は、同じ時間に他のセッションに参加していて聞けなかったのですが、私と仲のよい伊藤穣一君(http://joi.ito.com/を見てください。世界でもトップクラスのヒット数を出している個人サイトで、物凄い情報発信量です。一種の天才ですね。まだ36歳だそうです。)が参加していました。

私はといいますと、「Leveraging Technology for the Bottom Line」というセッションに出ていました。パネリストはHelwett-PackardのCEO兼会長Carly Fiorina(49歳: Lucent Technologyから1999年にCEOとしてHPへ、Compaqとの合併を成功させました)、Gary Bloom(42歳: Veritas Software社CEO兼会長)、John Chambers(54歳: Cisco Systems社CEO兼会長)、London Business SchoolのDean Laura Tyson(56歳: Clinton経済政策担当でUC BerkleyのBusiness SchoolのDeanも務めていました)という豪華メンバーで、司会はBBC World TVのStephan Cole(49歳)でした。日本に比べると、いかに第一線のビジネスリーダーが若いかを知ってもらいたいと思って年齢を書いているのです。話の内容もすごいものでしたよ。自分ではっきりとした意見を言い、質問にも的確に、しかも説得力のある話をします。特にFiorinaさんはよかったです。「ビジネスの基本」は「Productivity is based on changes-risk taking-」、「Pro-active for changes」でなければ、勝てないという、一種の恐ろしいまでの厳しい哲学、そして消費者を強く意識した方針に大変感心しました。割り引いて聞いておく分もあるとしても、たいしたものです。そして、21世紀は国際レベルでの考えが、人事においても常識で、これを考えていない経営者は負けるとはっきり言い切るすごさを感じました。ITのパラダイムは「digital, mobile, virtual」で「simplify, standardize, modularize, integrate」であり、90年代とはまったく違うと、いっています。

このセッションの後に、「Korean Peninsula」のセッションに参加しました。ここでも日本の役割へのコメントが少ないのが気になりましたが、現在は伊藤忠の千野さん(女性: アメリカの弁護士でもあり、ダボス会議の“Global Leaders for Tomorrow”の一人です)が、拉致家族問題の日本人の感情の変化についてコメントしていました。

夜は、Canadaの大統領がホストのReception、その後で石原都知事がホスト務めた「Tokyo Night」というReceptionにいきました。どちらもなかなかの賑わいでしたが、会場が狭かったせいでしょうか。最初のReceptionでは、現在、北朝鮮問題で活躍している国連Under Secretary General、Special Advisor to the Secretary GeneralのMaurice Srongに会いました。

昨日はイラン首相のカタミ師、今日はパキスタンのムシャラク大統領が演説をされていましたが、話の中身もプレスでの対応もたいしたものでした。

明日は私が2つのパネルでしゃべります。ではまた。