「医学生のお勉強」 Chapter2:避妊、中絶、ジェンダー・イッシュー(2)

知って欲しいことはピルやバイアグラの作用や副作用はともかくとして
その背後にあるもっともっと大きないくつもの問題です
セッションのオリジナルタイトル/Aborrtion, Contraception, and Gender Issues

 

■中絶は一年間で40万人。すごい数だと思わない?

黒川:
ピルっていうのは避妊のために飲んでいるわけ。日本で contraception に一番利用しているものはなんだと思う? コンドームだな。こんなことあんまり黒板に書いとくといけないけど、実際、「避妊を目的に何を使っていますか?」って言ったら80%以上がコンドームと答える。日本はすごく高い。コンドームを使っている人が非常に多い。
そうするとピルを使った場合に何が起こるかというと、日本の場合には一つは副作用を心配する。それからタイミングからいって、エイズ、STDが増えるんじゃないかと心配していた人たちがいる。ちょうど80年代の終わりぐらいから若者のセックスに対する考えが変わってきてるから。「それはちょっとまずいんじゃないの?」っていうのがけっこう根底にあった。理由はわからないけど、日本ではさっき言ったように欧米と違う点が確かにある。しかしピルの有効性や副作用は日本でも使ってみないとわからない。では、どうするか。「臨床治験をやりましょう」といって、多くの女性にインフォームドコンセントをして、最初から「何か起こるかな?」っていうことをテストするんだと。そういうのってうまくいくと思う? むしろそうじゃなくて、「contraception としてこれはいいと思います」ということをやらないと。
さっき言ったように毎日新聞の女性記者が「ピルを飲んでみました」っていうのがあったけど、記事を書くために飲んでいる。飲んでいることのベネフィットって何? 避妊でしょ。「ピルで避妊できました。本当に良かったです」って言うためには、かなりの期間にわたって自分が飲んでいないと。「何も副作用は起こりませんでしたよ」って言っているけど、何もしなかったのかもしれない。肌がつやつやしてとか、胸が大きくなったとか、いろんなことがあるかもしれないけど。「特に副作用がありませんでした」と言うためには、あまりにもレポートするバックグラウンドが少なすぎる。低容量ピルを服用していて、イギリスで16歳の女の子が死んだんだよね。それが新聞にでた。低容量ピルでもそういう問題が起こるんだって話があって、それで起訴問題になった。
しかしもう一つ、日本ではこの countraception が失敗したときにすることって何? アボーション=中絶です。自然流産じゃないよ。今、年間どのくらい子供が生まれている? 特殊出生率1.4とかいって、年間の申請次数が120万程度と極端に少なくなった。年間の miscarriage =自然流産ってどのくらいあると思う? 大体35万ぐらい。自然流産は子供がほしいんだけど流産してしまう。じゃあ、miscarriage じゃなくて、年間どのくらいアボーションの件数があると思う? 今わかっているだけで35万ぐらい。わかっていないのも入れると40万ぐらいかな。数年前までは年間50万だった。これはすごい数だとおもわない? この被害者は女性なんだから! このリスクのほうがはるかに高いんじゃないかと僕は思うんだけど、どうでしょう? このリスクをしょっているのは女性なんだから、だからピルを選ぶか選ばないかは女性の権利なんだよ。だからピルを認可するしないということよりは、この情報を十分に社会に出しておかないといけない。数年前に僕が中央薬事審議会の委員になったときに、避妊とピルの副作用とこういう事実を書いて委員の人たちに配ったんだけどね。「自分が望まない妊娠をしないためですよ」という広報活動を十分にやるのが先であって、「副作用とかが危ない、危ない」って言っているよりは、この35万の中絶の被害のリスクのほうがよっぽど危ないんじゃないかと思う。一人ひとりのことを考えてみたら「自分がもし妊娠してしまったらどうしよう」と思っている人のリスクのほうが高いんじゃないかと思うよ。どう?
しかもコンドームは女性じゃなくて男がつける。最近は女性用コンドームもあるけれどね。日本製じゃない。アメリカ製なんだけど日本でも昨年許可されました。でも日本では誰も使っていないかもしれない。だからコンドームは男性が積極的に使わない限り、女性からつけさせるというのはなかなか難しい状況だ、一般に。今、だんだん女性から持っていって「つけて」っていう人、多くなってきたんじゃない。それはカルチャーが変わってきてる。アボーションが40万だって聞いて、どう?

――:
この前、テレビ番組を見ていたときに、女子高生に実際に中絶の現場を映像とかで見せる番組があって、本当に子宮に器具を入れて赤ちゃんの頭をつぶすところまで見せていたんですけど。

黒川:
それはエコーで見せているわけ?

――:
はい。それを見て初めてその子たちが中絶っていうことがどういうことか知ったみたいです。その番組にでていた女子高生っていうのはそれまで何回も中絶したことがあるらしいんですが、それが自分の身体に与える影響の大きさとか、何をやっているのか、現実に赤ちゃんを殺しているわけですから、そういう事実をきっちり認識していなかった。ただピルはなんとなく一般的ではないんで飲んでいなくて、あまり避妊もせずにただやりたいことをして、それで子供ができてしまう。できてしまってからはもう中絶するしか方法がなくてとにかく堕ろす。「対処するのが中絶しかなかった」というような状況だった子達がたくさんテレビにでていたんです。
先生がおっしゃったみたいなアボーションのリスクの大きさっていうものを、もうちょっとみんなにきちんと伝えていったら、そこで初めて「ピルを飲む必要がある」という認識にもつながっていくと思うし。「自分で選択しよう」という考えをまず起こさせる。ピルを飲むか飲まないかの判断以前に、中絶がどういうことなのかということを考える機会すらも与えられないと思うので、学校教育などで考える機会を与えたほうがいいと思うんですよ。

黒川:
中絶するということは自分の体を、男の人は傷つけないけど、女の人は傷つけるということですごくリスクがあるし、ピルの副作用よりはアボーションをした40万人が受けたリスクのほうがはるかに高いと思う。
それからもう一つはアボーションというのは赤ちゃんを殺しているわけだから、やっぱりビジュアルで見せられると「本当にこんなことがあるのかなあ」って。自分のこととしてとらえられる。本当に自分のこととして置き換えるかどうかはわからないけどね。

――:
私も中学のときにカソリックの私立の学校に行ってたんですけど、そこもやっぱりアボーションは反対で、家庭科の授業で「サイレントスクリーム」っていうタイトルのビデオを見せられました。それでエコーで胎児が見えますよね。吸引しようとすると胎児が逃げ回っていて、でも体が引っ張られて手とかちぎれていって、最後に頭は吸引できないから他の機材を入れて壊してこなごなにしたのをまた吸い込む、っていうのを見せられました。それは3ヵ月以前の中絶の様子なんですけど、それだけじゃなくて3ヵ月以後の堕胎された胎児たちがバケツに入って並べられている映像とか、とにかくリアルで怖いものでした。クラスに40人いたけど、2人、見終わった後に気分を悪くして、気絶しちゃった。
でも中学のうぶな時点でああいうの見せられて、すごくいろいろ考えました。セックスってそういう結果を常にもたらす可能性があるし、それが喜びの場合はいいけど・・・。中絶っていう悲しい結果の場合には母体にもよくないし、私はビデオを見て「胎児を殺す」ってことで、中絶って殺人だと思ったから、法律的には中絶は3ヵ月だったらいいとか4ヵ月になったらだめとか定められているけど、その映像にはすごくインパクトがあったから、私はどの時点で生命を切っても、それは「殺人だなあ」って認識してる。だから避妊ていう意味の中絶はやっぱだめ。

――:
さっきの先生の「中絶は保健適応外」っていうお話で、前の大学に公衆衛生の専門で来ていた先生に、親にばれるのがいやでかくれて行くっていう子供が、高校生でしょうか、優生保護法に指摘されていないお医者さんのところに行って、ぼったくりのような値段で中絶することがあるっていう話を聞いて。これはたぶん40万人の中に入っていない数だと思う。

黒川:
今、35万って言っているけど、もっとあるだろうなあ。

――:
私の理解では中絶は本当は日本では認められていなくて、母体に負担がかかったり、もしくはどうしても金銭的に困難な場合だけ中絶が認められるっていう理解なんですが、それでよかったでしょうか?

黒川:
一応、法律ではそうだと思うけど。また何かで調べておいてください。母体に危険があるってことでしょ。ほかにもあったかな?

――:
みんなすごく簡単に「中絶、中絶」って言っていて。実際にこの学校に入ってきても何人かに、「できちゃったから中絶しようかな?」っていうようなことを言われて、すごく驚いたんですけど。「なんかできちゃった。産む? 中絶?」っていう、そういう2つの答えの中に中絶が入ってきてしまうように、そんなに中絶っていうのは簡単なもの? 法律的にも簡単なものかな? って思ったんですけど。

黒川:
今40万って言ったけど、昭和30年代なんかには100万ぐらいになっていたんじゃないかな。

――:
ちょっと昔のことでうろ覚えなんですけど、大学のときにそういう勉強をすることがあって、中絶は妊娠が母体に影響があるときは医師の診断が必要でと、きちんと道筋があるんですけれども、もう一つの金銭的な理由っていうのは別に証明書を出すわけじゃないので、そこをチョイスするということを聞いたことがあります。

――:
結局、高校生とかが堕ろす理由として、金銭的に困難だっていうことがあげられると思うんですが、それが一般的な常識っていうか、「中絶できる」っていうような考えが浸透していることが、どうかなって思います。

黒川:
年間100万も中絶しているようなカルチャーだったら当たり前のことになってしまうようね。日本は本音と建前とか言うじゃない? 今だって売春禁止法なんていう法律があるけど、そんなの関係ないって状況じゃない。

 

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■仲間たちの横顔 FILE No.6

Profile
今も昔もモラトリアムな私は文系の学部を卒業後、そのまま東海大学に編入しました。大学時代は一般的な文系の学生らしく勉強はろくにせず。スポーツと読書くらいしかしていませんでした。そんなモラトリアム人間にも、突然、将来の道を決める時期は迫ってきます。根が真面目なだけに、それまでの自分に徹底的に自信をなくしたり自分の道を見つけ出そうともがきました。そのなかで決めたものが、医師になる、ということです。きっかけは、尊敬する父を形成した職業だということ。そして途上国のホスピスでのボランティア体験です。いつかは、短期間でも途上国で働いてみたいという気持ちがあります。しかし、ストレスの多い医学部生活のなかで、初心は霞がちになります。さらに価値にたいしては相対的立場をとり、理性の力の強くない平均的日本人の私は、また、毎日の意味を求めて彷徨っています。というより、立ち止まっているだけで進む努力を怠っているのかもしれません。

Message
正直、私にはあまり興味がもてませんでした。議論を交わす同輩たちに感服しながらもです。医学漬けの毎日のなかで私にはもっとほかに考えたいことがあった、というのが言い訳です。医師になる前に私は人間である訳で、それが不十分であることを感じるから私の重点ははずれてしまいました。しかしこのような機会でひとつひとつ考えていくことが大切なことなのでしょう。

 

Exposition:

  • contraception
    避妊。ピルの服用は避妊法の一つである。
  • STD(sexually transmitted diseases)
    性行為感染症。性行為に伴う感染症のこと。STDにはAIDS、梅毒、淋病、性器ヘルペス、毛虱、B型肝炎等がある。
  • 臨床治験
    製薬会社が新薬の製造認証を厚生労働省に申請するため必要な資料を収集することを目的として、病院等に依頼してヒトを対象に行われる臨床試験のこと。
  • miscarriage
    流産。妊娠の中期半ば以前に妊娠産物が自然に排出すること。日本では22周期未満のものを指す。
  • 中央薬事審議会
    薬事法に基づき薬事に関する重要事項を調査審議する厚生労働大臣の諮問機関。都道府県知事の諮問機関としては地方薬事審議会がある。
  • 公衆衛生
    組織された地域社会の努力によって疾病を予防し、生命を延長して、肉体的、精神的な健康を効率よく増進する科学ならびに技術。
  • 優生保護法
    優生上の見地から不良な子孫の出生防止と母性の生命・健康の保護を目的とする法律。1948年制定。優生手術・母性保護のための人工妊娠中絶・受胎調節の指導などについて規定する。96年6月、従来の優生保護法が一部改正され「母体保護法」と改題。
  • 売春禁止法
    1958年の「売春禁止法」の施行によって公娼制が廃止された。また99年には「児童買春禁止法」も施行され、援助交際、インターネットを通じて日本より発信されている児童ポルノ及び海外での児童買売春を禁止する。18歳未満の男女を児童と規定した同法では日本人観光客が海外で行った児童買売春行為も処罰対象となる。

 

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